田中史郎論文 続き
軍事先行技術発展論のバリエーションとして,デュアルユースという思考とそれを具現化する制度が進みつつある。デュアルユースは,アメリカでは既に広がっており,日本でも「安全保障技術研究推進制度」として,2015年に防衛装備庁によって設立された。
アメリカでは,民間研究費が25.8兆円,防衛研究費が7.9兆円(民間研究費対軍事研究費≒3対1)であるのに対して,日本では,民間研究費が13.7兆円,防衛研究費が0.13兆円(民間研究費対軍事研究費≒100対1)であるとされている。
アメリカでは,デュアルユース研究も多くスピンオフが大きく,日本ではそれが僅かだといわれる。
アメリカ国防総省で先端的な研究を担う国防高等研究計画局(DARPA)の研究開発予算だけでも約0.3兆円である。この予算が企業や大学,研究機関などに配分され,それによって大学や企業の先端技術開発を政府が支える構造になっているという。
そうしたアメリカの状況を背景に,デュアルユースの推進論者からは,以下のような提起がなされている。すなわち,従来は,軍事技術の民生応用というスピンオフが語られたが,民生技術が高度化した現在では,逆に「民生技術を軍事用途へのスピンオンが避けられなくなっている」ことが強調される
日本では,先端技術開発力が国際的にみて低下している事実が強調される。ここ数年は論文数が伸び悩み,投資を拡大している中国などからも大きな差をつけられ,相対的な研究開発力は低下しているという現状認識が示されるのである。そして,その原因の1つに,大学や企業の研究開発費が低下していることがあげられる。しかし,「政府から研究開発で企業に流れるお金が日本はアメリカと比べて少ない」,そこで,「デュアルユース政策として,官民が連携して進めていくべきだ」と結論づけられる。
草莽崛起 (The Rising Multitude)