へその緒のはなし

へその緒のはなし

「へその緒」を研究する産婦人科医のブログ。
かつては、みんながお世話になったはずである「へその緒」の神秘的なしくみと、その異常への挑戦を語る。

 
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前置血管は、怖い異常!?

 

ここ数年、アメリカの前置血管大好き先生とコラボしながらいろいろ新しい知見が得られましたのでご報告。

 

いままでのブログもご参照いただきながら読んでいただければと思います。

 

 

前置血管は、へその緒の大事な血管を守っている弾力のある膠質(電気ケーブルの周りみないなもの)が欠如していて、血管がそのままむき出しになって卵膜を走っている状態です。しかもそれが、子宮口近くを走っているのです。

 

 

 

つまり、へその緒のよわよわな血管が卵膜の上を走っているので、破水したときに、膜が破けるのにあわせて、血管も切れてしまう可能性があるということです。

 

 

 

へその緒がちぎれるのと同じなので、赤ちゃんにとっては致命的な出来事です。

 

 

私がへその緒の研究を始めた20年以上前は、破水したときの死亡率は70%以上なんていわれてました。。。。💦

 

 

ところが、わたくしたちの最新の研究では、前置血管の診断のついた胎児や新生児が亡くなってしまう確率は、なにもない正常の赤ちゃんたちとくらべて変わらないということが分かりました。

 

 

なので、診断されたらビックリ、最悪と思ってしますが、不幸中の幸、少なくとも診断してもらったのであれば、無理さえしなければ99%助かるということなのです。

 

 

前置血管といわれて、このブログにたどりついた妊婦さんがいらっしゃいましたら、ちょっと冷静になってくださいね。

 

 

 

また、妊娠10か月に近づくにつれて、自然破水する可能性も上がります。しかし、破水は誰にも予測できません。前置血管がある場合、赤ちゃんに危険が及ぶということで妊娠34-35週には帝王切開をするというのが予防策として考えられていたのです。

 

 

 

しかし、ほとんどは問題ないのですが、妊娠34週では赤ちゃんにしてみればちょっと早いし、ちょっと小さいし、本当にもうちょい待てないのか?

 これについても、子宮収縮(おなかのはり)や胎児心拍数異常などの症状がなければ、妊娠36週の帝王切開もありだよねという結論になりました。もちろん、ケースバイケースですから、本当に待って大丈夫かどうかは、主治医の先生と検討していく必要があります。

 

 

また、それに関連して、管理入院は必要か?

なにも症状がなくても安静目的の入院の効果はあるかというと、あまり変わらないだろうということです。ただし、子宮収縮や子宮口の開大傾向、胎児心拍数の異常などがある場合は入院が勧められます。一律入院は必要ないですが、しっかりと外来で定期的に見極めが必要ということです。

 

 

最後に、大事なことは、きちんとみつけることです。

こればっかりは、施設によるスクリーニング(みつけるための検査)の徹底度、技術の差などがあるので、一概になんとも言えませんが、日本ではわりときちんと見つけられていると思います。わたくしは、そろそろ日本のガイドラインにも前置血管のスクリーニングを記載するように意見をだしています。

 

 

これらの結果は、世界の前置血管マニアの先生方ときめた一つのガイドラインです。多くの赤ちゃんが救われることを願っています。

 

Am J Obstet Gynecol. 2024;230(1):58-65.

doi: 10.1016/j.ajog.2023.06.015.

Incidence and causes of perinatal death in prenatally diagnosed vasa previa: a systematic review and meta-analysis
Steffany Conyers, Yinka Oyelese, Ali Javinani, Marzieh Jamali, Nikan Zargarzadeh, Ranjit Akolekar, Junichi Hasegawa, Yaakov Melcer, Ron Maymon, Richard Bronsteen, Ashley Roman, Alireza A Shamshirsaz


Am J Obstet Gynecol. 2024;15:S0002-9378(24)00442-3.
doi: 10.1016/j.ajog.2024.03.013.
Vasa previa in singleton pregnancies: diagnosis and clinical management based on an international expert consensus
Yinka Oyelese, Ali Javinani, Brittany Gudanowski, Eyal Krispin, Andrei Rebarber, Ranjit Akolekar, Val Catanzarite, Rohan D'Souza, Richard Bronsteen, Anthony Odibo, Matthias A Scheier, Junichi Hasegawa, Eric Jauniaux, Christoph Lees, Deepa Srinivasan, Elizabeth Daly-Jones, Gregory Duncombe, Yaakov Melcer, Ron Maymon, Robert Silver, Federico Prefumo, Daisuke Tachibana, Wolfgang Henrich, Robert Cincotta, Scott A Shainker, Angela C Ranzini, Ashley S Roman, Ramen Chmait, Edgar A Hernandez-Andrade, Daniel L Rolnik, Waldo Sepulveda, Alireza A Shamshirsaz