やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

ちょっとした興味から手を出した「ときメモGS」にどっぷりハマりました。

初めましての方は、「最初に。 」をご覧ください。

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※注意

・ずいぶん久しぶりなため色々アヤシイ
・GS1初書きキャラのため、色々アヤシイ
・Girl's Side DAYS 2014 White Dateイベ経過設定
・無駄に長い

以上、それでも読んでやるよな心優しい主人公様方はどうぞ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 あいつはいつも俺の先を歩いてく。まっすぐに背筋を伸ばし、明るい道を。いつでも俺は、それを少し眩しい思いと少しの焦りを抱えて見ている――。

 あいつと知り合ったのは偶然みたいなもので。あいつの好きそうな言葉を選べば、たぶんそれは運命的な出会いってやつだったんだと思う。同じ年に生まれ、同じ街で育ったのに、まるで正反対の世界の住人だった俺とあいつ。本来なら、きっとお互い知り合うこともなく過ごしてたはずなんだ。
 出会えた偶然は奇跡みたいなもんで、それをあいつが運命だと言うならきっとそうなんだろう。けど…。


 出会って間もなかった頃は、ただ会えただけで良かった。このままじゃいけないと思いながら荒れた生活を抜け出せずにいた俺に、新しい目標を与えてくれた。あいつと同じ大学に通って、あいつと並んで授業を受けて。そんな普通の奴らなら当たり前のことを、俺にだって出来るかもしれない。そんな期待と希望で、頑張れた。
 浪人時代はがむしゃらだった。今までばかやってきたツケが回ってきたんだと、自業自得なんだと思えた。それでもあいつが待ってると言ってくれたから。一緒に頑張ろうって言ってくれたから。一歩先を行くあいつの背中を、一生懸命追いかけてた。
 大学に入ったばかりの頃は、とにかく楽しかった。ただキャンパスを並んで歩く、そんなことが嬉しくて。新しい自分になったつもりで、イチからあいつとやり直そう。そう思ってた。だけど…。
 一年がたち、二年が終わる頃には、だんだんと焦りみたいなのを感じ始めた。一歩前を歩くあいつと俺の距離は、縮まったようで変わっていなくて。一年間の差が、こんなに重いものだなんて思ってもみなかった。
 そして今。大学四年。俺は卒論や就職活動に追われる日々。あいつはあいつで、社会人になって一年目。不慣れな環境で多忙な日々を過ごしている。一緒に過ごす時間も少なくなった。かろうじて電話やメールで毎日互いに連絡を取り合っているけど、時々不安になる。
 ――このまま、ずっと俺はあいつに追いつけないんじゃないか。少しは縮まったと思っていた距離も、本当は少しずつ開いて行ってるんじゃないか。


 ため息交じりで家路を歩いていると、背後から聞き覚えのある声に呼び止められた。振り返ってみると、はばたき市では知らない者はいないとまで言われてる有名人が立っていた。
「天童。今、帰りか?」
「…葉月!久しぶりだな!こんなところで何してんだ?」
 高校生のころからモデルとして仕事をしていた葉月は、まあ、ちょっとしたいきさつがあって知り合った。はば学出身の人気モデルで、最近じゃ時々ドラマなんかにも出ている、らしい。雑誌やテレビで見てると、無口でクールでちょっとお高く留まってる印象もあったけど、実際に喋ってみるとちょっとボーっとした気の良い奴で。あいつと同級生ってのもあって、なんだかんだで仲がいい。
「俺は撮影の帰りで…お前は?」
「俺?俺は大学の帰り。なあ、せっかくだからどっかで飯でも食っていかね?」
「ああ…いいな、それ」
 そうして俺たちは葉月おススメのサテンに移動した。




 はぁ…。今日も何とか一日が終わった。四月から社会人になって働き始めて、自分でお金を稼ぐと言う事の厳しさを改めて感じる。ホント、学生時代のアルバイトなんて気楽なものだったんだ。新しい環境に新しい人間関係、覚えなくちゃいけないことは山積みで、毎日があっという間。
(声、聴きたいなぁ…)
 そういえば、しばらく彼とまともに会ってないような気がする。彼は彼で、今は忙しい時期。卒論に就職活動に、と大学四年の忙しさは去年私も身をもって経験しているからよく分かる。互いに忙しくなって、予定がなかなか合わなくて。少し前まではすぐそばにいるのが当たり前だったのに、今は何だか少し遠い。
 家に着いたら、とりあえず少し何かお腹に入れて…それから、電話してみようかな。…してもいいかな。
 そんなことを考えていたら、背後から良く知る声が聞こえてきた。
「そこの綺麗なお姉さーん。ちょっとそこいらでお茶でもして行かへん?」
「姫条くん!」
「よっ、お久しぶり。元気にしとったか?」
 それは高校時代の同級生。高校卒業後は社会勉強するとか言ってフリーターになっていたけど、起業を目指しているとかまことしやかな噂が流れていたっけ。
「うん、姫条くんも元気だった?今は何してるの?」
「せやなぁ。積もる話もいっぱいあるし、時間あるんやったらそこらの店でゆっくり、どうや?ちょっとナンパみたいやけどな」
 相変わらずの口ぶりに思わず笑いながら私は頷いた。

 久しぶりに会う同級生との会話は、まずは互いの近況報告から始まり、それから同期の近況とかなんとか…。あの子がどうなったとか、この子はどうしてるとか。そんなことを話していると、ちょっとあの頃に戻れたみたいですごく楽しい。
「そういえば自分、あいつとはうまい事いってんのか?」
「え…」
「あいつやあいつ。ほら、天童壬。羽学におった。付き合っとるんやろ?」
「う、うん…」
 返答が歯切れ悪くなったのは、きっと姫条くんが急に壬くんの名前を出したからだけじゃない。自分でもその歯切れの悪い返事に少し驚いたけれど、目の前にいた姫条くんの方が驚いたらしく怪訝な顔をされた。
「なんやなんや~?えらい歯切れの悪い返事やん。何か俺、悪いこと聞いた?」
 茶化すような言葉は彼なりの気遣いだったんだろう。私は少し笑って首を振った。
「ううん。姫条くん、壬くんの事知ってたの?」
「知ってたっちゅーか、ちょっと前に色々あって知り合いになってん。んで、付き合ってるんやろ…?」
「うん…」
「なんや、えらい浮かん顔になってるで?なんかあったんか?」
 つい、話してみようと思ったのはきっと姫条くんが気心の知れた旧友だったからだ。私はそれまで自分の心の奥に抑え込んでいた不安をポツリポツリと語り始めた。

 出会ったのは高2の頃。休日の買い物帰りに声を掛けられた。最初は怖い人かと思った。あと、ちょっと変な人に絡まれた感も否めなかった。だって急に声を掛けてきて、その辺にあったショップに強引に連れ込まれて。挙句「ほら、ナンパ?」だもん。誰だって不審に思う。…まあ、それが事情のあってのことだったと知るのは付き合いだしてからなんだけど。
 声を掛けてくるのはいつも向こうからで。会うたびに、見た目とは裏腹の真面目で実直な性格に惹かれた。ホントは素直で優しくて努力家で。…いつの間にか、街へ出るたびに彼の姿を探すようになっていた。
 一緒の大学に行こうって約束して、一緒に頑張ろうって誓い合って。「中学の頃は勉強ができた」というその言葉に嘘はなく、本気になった彼の成績はみるみる上がっていって。気を抜けば、きっとすぐに追い抜かれちゃう。そう思って、私も頑張れた。
 受験の日、敵対グループに捕まった友達を助けるために去って行った彼の背中を、何とも言えない気持ちで見つめてた。あんなに頑張ってたのに、とか、それでも友達を助けるためだから仕方がない、とか。「ツケは支払わなきゃいけなかったんだ」と後日語った彼、それでもあの時友達を見捨てて受験を取っていたら、私の気持ちは彼の傍から離れていたかもしれない。そういう仲間想いのところも含めて、彼なんだから。

 あの日、高校卒業の日。教会に来てくれた彼を、本当に好きだと思った。この人がいれば何でも頑張れる、そう思った。
 なのに、どうしてだろう。どうして今、私はこんなに寂しいんだろう。お互い忙しいのは分かる。分かってる。なかなか一緒の時間が取れない。それだけじゃない気がして。このまま気持ちが離れて行ってしまったら…。そんな不安が拭えない。




 口数の多くない葉月と一緒にいると、自然と沈黙が多くなる。けど、それが居心地良く感じるから不思議だ。主に俺が喋ってるけど、それにポツリポツリと返してくれる葉月の言葉が、少ないからこそちゃんと沁み込んでいく。そんな感じがするからかな。
 だからかな、ついつい余計なことまで喋っちまう。自分の胸の内に置いていた、ちょっとした不安ってやつを。互いに忙しくて一緒にいられない。一歩先行くあいつの背中がどんどん遠くなっていく。このまま追いつけないんじゃないか。そんな不安。
「…やっぱり、はば学のお嬢さんと羽学の俺じゃ、無理があったのかな」
 ふと呟いた言葉に、葉月が珍しく眉間にしわを寄せた。
「…おまえ、それ」
「え、何?」
「今の…『はば学のお嬢さんと羽学の俺』てやつ。あいつがそんな風に言ったのか?」
 珍しく不機嫌そうな顔に若干怯みながら首を振る。すると葉月は、何か考え込むように口を閉ざした。
「…何だよ?」
「いや…。何か俺、うまく言えないけど…」
 葉月は少し困ったように目を伏せて、それからまっすぐに俺を見据えた。なまじ顔が良いだけに、真剣なまなざしで見据えられると少し威圧感がある。
「あいつは…そんなこと、気にしてないと思う」
「そんなこと?」
「はば学とか、羽学とか…そういう事」
 ゆっくりと語る葉月の言葉に、思わず俺は口をつぐんだ。慎重に選びながら紡がれる葉月の言葉は、だからこそじんわりと沁みる。痛いところにまで。
「あいつはお前だから…一緒にいるんだと思う。だってあいつ…お前の横にいるとき、すごく良い顔してる。俺、びっくりした。初めてお前たちを見たとき。あいつのあんな顔、初めてだったから」
 それは、以前に俺たちがデート中に偶然葉月と出会った時のことを指しているのだろう。あの日のあいつの笑顔を思い出して、何故だか胸がチクリと痛んだ。そうだ、あいつはいつでもああして笑ってくれてた。
「あいつがお前を選んだのは…お前が羽学生だったからとか、そんなんじゃないだろう…?あいつはお前の事が好きだから、お前を選んだ。お前だって…おんなじじゃないのか?」
 そうだ。なんで忘れてたんだろう。あの時、あの教会に向かおうと決めたときの気持ち。そして今まで経験のないくらいに緊張して伝えた想いに、あいつが応えてくれた時のことを。
 あいつと一緒なら、なんだって頑張れる。何だって乗り越えられる。あいつがただ一言、俺を信じてるって言ってくれた、あの日から。
「葉月、俺…」
 言いかけて、上手く言葉にならなくて。深く息を吐き出すと、何かが吹っ切れたみたいに気持ちが明るくなった。目の前の霧が晴れた、そんな感じ。
 葉月は何か察したのか、ふっとやわらかい笑みを浮かべる。
「はぁ…、やっぱ俺ってバカだよな。一番大事なこと、すぐ見失っちまう」
「でも、ちゃんと思い出した。…違うか?」
 うん、と頷いて、そしていてもたってもいられない気分になる。ソワソワとする俺に、葉月が小さく笑った。
「いいよ、行けよ。あいつに会いに」
 見抜かれたように言われて、何だか照れ臭くなる。
「悪ぃな、葉月。サンキュ!」


 慌ただしく店を出ていく壬の背中を見送りながら、葉月珪はゆっくりとほほ笑んだ。
(俺も…)
 自分の感情を表に出すことが苦手な彼は、壬の素直な性格が少しうらやましい。自分もあんな風に素直に感情を表現できれば、そうすればもっと気持ちを伝えられるのに。
 と、ふと思いついたように携帯電話を取り出す。そして液晶画面を見なくても呼び出せるくらい慣れた番号を呼び出した。数回のコール音の後に聞こえてきたのは、耳に心地いいあの声。
「…ああ。俺。…うん。…なあ、今から会いに行ってもいいか?」
 今なら、と彼は思う。壬の素直さに触れた今なら、自分ももう少し素直に感情を表現できるような気がして。




 ため込んでいた思いは、押さえつけていた分話し始めると止まらなくなってしまったみたいで。気が付くと私一人で延々と喋っていたみたい。その間、姫条くんは時々相槌を打ちながら黙って聞いていてくれていたけれど。
「…そりゃあまあ、しゃーないんちゃうか?」
「え?」
 空になったグラスの中で氷をコロコロと玩びながら姫条くんが言った。
「考えてみ?天童はまだ大学生、あんたは社会人や。働き出して1年目言うても、どう考えてもあんたの方が確実な収入がある。かたや自分は、まだ就職先も決まってない、先がどうなるかも分からん不安定な状態や」
 姫条くんの言っている意味が分からなくて、私は首をかしげた。
「どういう事?」
「せやから、焦ってるねん。あんたの方が常に先を行っとる。何せ自分ははば学主席やろ?かたや天童は羽学のやんちゃ坊主や。引け目を感じてないはずがない」
 そしてニヤリと笑って身を乗り出してきた。
「なあ、そんな男止めて、俺に乗りかえへん?実は俺、高校の時から自分の事ええなー思っててん」
「ちょ、姫条くん?」
「俺の方が将来有望株やし?な、どうや?」
 にこにこと笑う姫条くんに、思わずため息がこぼれた。
「冗談やめてよ。大体姫条くん、可愛い彼女さんがいるじゃん」
「あ、バレてもた?」
 軽く睨むと、彼はごめんごめんと笑いながら座り直す。そして、ふと笑みを浮かべる。それまで浮かべていたからかうような笑みではなく、優しくて柔らかい笑み。
「男っちゅーのはなぁ、しょうもない生き物やねん。女から見たらしょうもないような事を気にしとる」
 でもな、とグラスの氷をコロリと転がして彼は言う。
「そんな1年ちょっとの差なんて、ホンマは大したことない差やねん。だって考えてみ?60や70の爺さん婆さんになったら、1年や2年なんて、ホンマ大したことない差や」
「うん…」
「でもな、あいつはそれを今、気にしとる。そんなずっと先の事が見えんようになってるからや」
 ちょっとの辛抱やで、と姫条くんは笑った。
「あいつが社会に出て、ちょっと落ち着いたら見えてくるはずや。だからほんのちょーっとの間、辛抱して待ったってや。自分がそのずーっと先まで、あいつと一緒におりたいと思うんやったらな」
「…うん」
 優しく諭されるように言われ、何だかそれまで抱えていた不安が姫条くんの言うとおりに思えてきて、素直にうなずくことができた。
「あーあ、なんか俺、あてられてしもた気分や」
「そ、そういう姫条くんはどうなの?その、彼女さんとは」
「俺?俺のとこはそりゃあもう順風満帆……ヤバ、噂したらメールきたわ」
 タイミングよく鳴り出した携帯電話を取り出すと、姫条くんの表情がみるみる間に曇っていく。
「あっちゃー…ごめん、タイムリミットや」
「ん?彼女さん?」
「色々と口うるさぁてなぁ…。自分も焼きもちやきはほどほどにしとかんと、彼氏は大変やで?」
 冗談めかした口調に思わず笑いながら、私たちは店を出ることにした。

「姫条くん、色々ありがとね」
「なんのなんの。これくらいお安い御用や」
 駅に向かいながら話していると、今度は私の携帯電話が鳴り出した。液晶に浮かび上がった名前を見て口元が緩む。
「…何や、天童からか?」
「…うん」
「ほな俺はここで。天童によろしゅうな」
 ひらひらと手を振りながら立ち去る姫条くんの背中に改めてありがとうと声を掛けて通話ボタンを押す。聞こえてきたのは、今日一日ずっと聞きたかった声。



『もしもし?俺。――なあ、今から会いに行ってもいいか?』




 俺はバカだから、きっとまた大切なことを見失って迷走することもあると思う。けど、あいつと一緒に歩いて行こうと決めたから。迷ってもいい、何度壁にぶつかってもいい。いつか必ず、お前に見合う男になる。そんで、ちゃんと肩を並べて歩くんだ。
 若王子先生、遅いなぁ…。
 人のいない化学室はやけに広く感じられる。窓際の席に教科書とノートを広げて陣取っていた私は、手を止めてぼんやりと窓の外を見る。天高く…と言うけれど、秋の空は本当に高く感じられる。青い空にうっすらと浮かぶ白い雲。グラウンドから聞こえる野球部の声が、かえってこの部屋の静けさを感じさせるから不思議だ。
 入学したての頃は本当に勉強が苦手で、最初の中間テストの成績は散々なものだった。でも…、と思わず口元に笑みが浮かぶ。
 きっかけは、たぶんあの補習。他の子たちは部活があるからとか、用事があるからとか言っていつの間にか姿を消してしまっていたけれど。あの補習があったから、きっと私は少しだけ勉強が好きになれた。そう、こうして自主的に放課後質問に来るようになるほどに。

 今日の授業で分からないところがあったから、担任である若王子先生に質問に来たのだけれど。先生は職員室からの呼び出しで行ってしまったきり戻ってこない
「遅くなるといけないから、明日にしましょう」
 だから待たなくていいよ、と先生は言い残していったけれど。何となくこのまま帰ってしまうのも惜しい気がして、ここで宿題をしながら先生を待つことにしたんだっけ。外を見ると、空は日暮れが近いのか少しずつ色を変えていっている。もう少し待とうか、そろそろ帰ろうか。ぼんやりと考えていると、窓からは行って来た風に少し金木犀の香りが混じっていて。ああ、すっかり秋だなぁなんて思う。
 それにしても、先生遅いなぁ。若王子先生は人気者だから、もしかしたら他の生徒たちに捕まっているのかもしれない。ふとそんな事を思い、同時に何だか面白くない気分になって私は小さく頭を振った。先生、早く戻ってこないかなぁ…。



 やや、すっかり遅くなってしまった。時計を見ながら廊下を早足で歩く。さすがにもう帰っているだろうけれど、万が一まだ待っていたらいけない。
 放課後、時折化学室まで質問に来る生徒の顔を思い浮かべながら小さく笑みを浮かべる。入学したての頃はあんなに苦手にしていたのに。だからこの年頃の子供たちは面白い。ほんのわずかな期間で、劇的な変化を見せてくれるのだから。
 僕のクラスのある生徒は、1年生の頃は本当に勉強が苦手で。でも、努力家で、それを何とかしたいと頑張ってくれた。今では自ら僕のところまで質問をしに来てくれる。本当に、面白い。
 今日もノートを片手に来ていたのだけれど、彼女の勉強を見出して数分後に校内放送で呼び出されて。そして今に至る訳だけれど。あまり遅くなるようだったら先に帰るように言い残してきたから、もう帰っているとは思うけれど。こんな時間まで待っていたら、そう思うと自然と足が早まった。

 ガラリと開けた化学室、その窓辺には机に手をついてうつらうつらと眠る少女の姿。
「先に帰る様にって、そう言ったのに」
 小さく呟きながら、自然と頬が緩む。少女の手元にあるノートを覗き込むと、どうやら今日の質問事項は僕を待っている間に解けてしまったようだ。気持ちよさそうに居眠りをしているところを起こすのは申し訳ない気もするけど、このままここで寝かせておくわけにもいかないし、と手を伸ばしかけてあることを思いつく。
「コーヒー一杯分の時間くらいは、大丈夫でしょう」
 すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる君が風邪をひかないように、と着ていた白衣をそっとその肩にかけて。僕は化学準備室の奥へと足を向けた。



 あれ、いつの間に寝ちゃったんだろう。気が付くと、肩には先生がいつも来ている白衣。そしてどこからともなく漂ってくるコーヒーの匂い。先生、戻ってきたのかな。化学準備室の方から聞こえるのは…歌?
 物音を立てないように気を付けながら準備室を覗くと、慣れた手つきでいつものビーカーコーヒーを淹れる若王子先生の姿。先生はとっても機嫌がいいのか、珍しく歌を口ずさんでいて。その歌はどこかで聞いたことがあるような気がしたけれど。そういえば、いつだったか先生のおうちにはラジオしかないから、聞きたい音楽があるときは自分で歌うって言っていたっけ。そんなことを思い出した。
「やや、目が覚めましたか?」
 私の気配に気が付いたのか、先生は歌うのをやめてしまった。
「ちょうどよかった。一緒にコーヒー、飲みますか?」
「はい」
 先生の歌をもう少し聞いていたかった気もしたけれど、先生のニッコリ笑う顔を見たら何だかそれだけでうれしくなって。先生の差し出したビーカーを受け取った。


 薄暗くなった帰り道、先生と一緒に歩きながらふと思い出す。
「そういえば先生?」
「はい、なんですか?」
「さっき、先生が歌っていた歌はなんていう歌ですか?」
「やや!聞いていたんですか?」
 と、先生は足を止めて何故か少し恥ずかしそうに私を見た。そして少し考えて。
「もう少し、君が大人になったら教えてあげます」
 きょとんと首をかしげる私に、先生はそう言って子供のように笑った。




 
 ~Love me tender, love me true, all my dreams fulfill,
  For my darling, I love you, and I always will~
 
大変ご無沙汰しております、主です。

GSな妄想も書きたいなーと思いつつ、時間と集中力の無さになかなか手が付けられておりません。
書きたいと思ってるネタはあるのに…(´・ω・`)

さて、最近の主は久々にゲーム熱が訪れていて、GS以外の乙女ゲをちょこちょこプレイしてます。
やっぱり現実逃避には二次元が一番。

「緋色の欠片4」やったり、「死神稼業~怪談ロマンス~」やったりしましたが久々にはまり込んだのはコレ。
「夏空のモノローグ portable」

ハマりすぎて夢にまで出てきましたよ、沢野井部長!
'`ァ,、ァ(*´Д`*)'`ァ,、ァ

そんな訳で、この場を借りてちょっと部長さんへの愛をここで語らせていただこうかと思います。
え、聞きたくない?そんな方はサクッとスルーしてくださいな♪
ネタバレ含んでてもいいよ、聞いてやるよな方だけどうぞm(__)m



さて、この「夏空のモノローグ」。
購入のきっかけは、アマゾンで『あなたへのお勧め』で見かけて気になっていたんですが、友人から面白いと推されまして。
で、たまたまブラブラしに行ったジョー○ンで見つけたから買っちゃいました。
電気屋さんをブラブラするのが好きなんですw

物語の舞台は、海沿いの小さな町、土岐島市。坂道が多い、何の変哲もないその田舎町が他の街と違うところは、「ツリー」と呼ばれる謎の建造物があること。
30年ほど前に、一夜にしてその姿を現した「ツリー」。誰が、何のために、どうやって作ったか。数多の科学者たちが調べたけれど何も分からずじまい。やがて世の関心も薄れ、今やただの寂れた観光資源に過ぎない。

主人公は、そんな街に住む高校2年生・小川葵(名前変更可能)。
一年前に原因不明の記憶喪失になり、それ以前の記憶をすべて失ってしまった少女。他人との交流を恐れ、孤立していた彼女は保健室登校をしていたころに全教科を見てくれていた非常勤講師・朝浪皓に導かれ科学部に入部。
そこで過ごした時間をとても大切に思い、唯一の居所だと思っていた科学部は7月30日をもって廃部することが決まっていて…。

科学部廃部の前日、7月29日。科学部長・沢野井宗介の提案で夜の「ツリー」観測に出かけた科学部員たち。その瞬間、「ツリー」は不思議な旋律を奏で出し、世界は7月29日を繰り返す――。

というようなお話。

7月29日のループに巻き込まれてしまった科学部員たちは、それからループの謎解明と脱出方法を探るため(?)、色んな実験を始めます。
実験とは言っても、自称天才である沢野井部長の無茶な研究に振り回される訳ですがw

ここで、7月29日の1日ループ現象について少し。
ループは7月29日の深夜0時になると、7月29日の起床時間に巻き戻ります。
このループ現象に気が付いているのは、科学部のメンバーのみ。
すべての事象は7月29日の朝に巻き戻るため、ループを超えて持ち越せるのは科学部員たちの記憶のみ。
紙やメディア等に記録を残しても、深夜0時を超えると29日の朝の状態に戻ってしまいます。

そのループ現象を利用して、色んな実験を行います。
ツリーの発光とループ現象には関連性があり、なおかつそのループに巻き込まれた科学部員たちはツリーとループ現象に何らかの影響を与えている、と仮説を立てた部長さんによるさまざまな実験ですw

ある時は、「落下中にループが起きたらどうなるか」を検証するために1年生科学部員カガハルくんをそそのかし、深夜0時間近に屋上から飛び降りてもらったりとか。

ある時は、「本当に何の記憶媒体もループを持ち越せないのか」を検証するために何故かポエム大会をすることになったりとか。

ある時は、「ループに巻き込まれた科学部員たちの心理状況がツリーにどのような影響を与えるか」を検証するために肝試し大会をすることになったりとか。

ある時は、「科学部唯一の女性部員である主人公の心理状況がツリーにどのような影響を与えるか」を検証するために、ちょっと恋でもすることになったりとか。

…というような、結局何の成果も得られないような実験を数多く行います。
そんな面白おかしい日々を過ごすうちに、それぞれの部員が抱える問題が少しずつ明らかになって行きます。

主人公と同学年で科学部副部長の木野瀬一樹君は、実は主人公とは彼女が記憶喪失になる以前からの知り合い…というか、付き合う一歩手前くらいの関係で。
中学時代、主人公に一目ぼれした木野瀬一樹君は、告白するも振られて、お友達からの関係になります。受験勉強を一緒にするうちに二人は心を通わすようになり、晴れて二人そろって同じ高校に入学。そして、もう一度ちゃんと告白しようと決めた木野瀬くんは主人公をツリー広場に呼び出します。待ち合わせ場所に急ぐ木野瀬くん、しかし突然、ツリーが謎の発光を始め、木野瀬くんが駆け付けたときには主人公はツリー広場で倒れていて…それ以前の記憶を、全て失ってしまったのです。
葵の記憶喪失の原因は自分、そう思いあの日あの場所に葵を呼び出してしまったことを悔やみ、彼女が再び笑って暮らせるように、自分の気持ちは押し殺して傍で見守り続けると彼は心に決めて…。

科学部1年の加賀陽。通称カガハルくんは、幼いころに絵心に目覚め、自分を表現できるものは絵だと信じて努力をしてきた人。けれど、中学時代に事故に遭い、以前のように絵を描けなくなってしまいます。それまでチヤホヤしてくれていた人たちは離れていき、彼は絶望して…それまで描いた絵をすべて燃やしてしまおうとします。その時、たまたま通りかかった主人公に、事故後初めて描いた拙い絵を一番いいと褒められ、再び絵を描くことを決意。
そして、その時主人公が着ていた制服から主人公と同じ高校に入学。科学部で彼女と再会。けれどその時には、葵はすでに記憶を失った後で。それでも彼女が言ってくれた言葉は自分の運命を変えた、葵は運命の人だ、と。会うたびに「先輩、好きです。結婚してください」みたいに告白を繰り広げるようになります。(毎回あっさり振られる訳ですがw)
毎回冗談めかした告白をするのには、葵が本気に受け取らないようにという理由があり。彼は、この夏が終わったら、絵の勉強をするために海外へ留学することが決まっていたのです。

カガハルくんと同じ1年生の篠原涼太君は、明るくムードメーカー的なカガハルくんとは対照的に物静かでいつも本を読んでいる読書家。口数は少ないけれど、口を開けば痛烈な皮肉を言いあまり人を寄せ付けようとはしません。
篠原君は、思い出を保持できないという先天性の病を抱えていたのです。少しずつ進行して、いずれは人と生活できなくなってしまうだろうと医師から告げられていた彼は、いつかは一人になってしまうのなら、その前に楽しい思い出をたくさん作っておきたい、と高校に進学。そして科学部に入部することに。常に手帳を携帯し、細かにメモを取ることで失った思い出を補っていた彼は、ループに巻き込まれることでその手段すら奪われて…。

科学部顧問の浅浪皓。よれよれの白衣とぼさぼさの髪がトレードマークの、非常勤講師。
暇を見つけては部室でプラモを作っているような、だめな大人を絵にかいたような先生です。面倒事が嫌いで、お金にも細かく、あまりいい噂の無い先生ですが、記憶を失って教室に通えなくなった主人公の専任講師をしていたこともあり、主人公からは絶大な信頼をされています。
浅浪顧問には年の離れた弟がいて、その弟は長い間入院をしています。たった一人の大切な家族、その入院費用を稼ぐために、他校に転任することが決まっていて、それが科学部廃部の理由とされています。

そして、科学部部長の沢野井宗介。
黙っていれば完璧なビジュアルの持ち主ですが、非常にパワフルな行動力と洞察力、そして無駄なまでに色んな才能を持ち合わせた人です。
謎の発明品を作っては部員たちで試運転→爆発、「いいことを思いついた」と言っては部員たちを巻き込んで実験→爆発、そして爆発。と言ったように何だかよく分からない騒動を起こしては爆発を繰り返しているようなはた迷惑な人w
そんな部長さん、ツリーには格別な思い入れがあるようで。ループの最初の日、7月29日に夜のツリー観測に出かけようと言い出したのは他ならぬ沢野井部長で、その日「ツリーが歌う」と断言していたのもこの人。
部長さんのお父さんはかつてツリー研究の第一人者で、部長さん曰く「最もツリーの真実に近づいた研究者」。他の研究者たちが早々に手を引いて行ったツリー研究を、私財を投げ打って続け、ツリー=タイムマシンであるという説を唱えた人。その現実離れした説を世間の人は笑い、失意のうちに10年前交通事故でお父さんは亡くなりました。
そのお父さんの研究が正しかったことを証明したい、そしてそのタイムマシンでお父さんの交通事故をなかった事にして、世界を『あるべき姿』に戻したい。それだけを糧に部長さんは一人で研究を続けてきていたのです。
研究に没頭するあまり世間から孤立し、孤独感から逃げるように研究にのめり込む。幼いころからそんな生活を送っていた部長さんはどうしようもないほどの孤独感から仲間を欲し、入学した県立土岐島高校で科学部を立ち上げます。
そして、そこで出会った浅浪先生、そして部員たち。自分が何をしても笑って許してくれる、心優しい仲間たちと共にループする日々を送りながら、部長さんはツリー=タイムマシンであるという説が真実であったと確信。そして、自分の望みをかなえる方法を突き止めます。
けれど…お父さんを救い、自分が望む結果を得られれば、科学部は存在しなかったことになる。何よりも大切に思っていた仲間たちとの記憶も、きずなも。すべて最初からなかった事に…。
迷いを抱えたまま過去に飛び、お父さんと再会した部長さんが出した答えは…。

この部長さん。本当に科学部のメンバーを大切に思ってるんだなぁということが他キャラ攻略時にチラホラ見えて相当悶えましたw
主人公が迷い先に進めなくなってしまいそうになった時、そっと告げられた助言が、もう…!!
'`ァ,、ァ(*´Д`*)'`ァ,、ァ
普段はみんなを振り回して傍若無人に立ち回っているように見えるのに、しっかり部員全員をよく見てくれていて、なおかつ本人が悩み隠しているようなことも見通していて。それを踏まえたうえで主人公が取るべき道をそっと教えてくれているような…。

例えば、葵の記憶喪失の原因を作ってしまったと思っている木野瀬くん攻略時。かつて付き合っていた二人に、「恋愛感情がツリーにどのような影響を与えるか」を調べるために付き合えと指令を出して。徐々に互いを想う気持ちが膨らんできたころに、【互いをよく知るために互いの過去の話をするように】との指示を出します。
もちろん、木野瀬くんと葵が、葵の記憶喪失になるまでの関係を知っていて、なおかつ木野瀬くんがそれを負い目に思っていることも知った上で。
葵との過去を引きずっている限り、木野瀬くんが明日に向かえないから。

例えば、病気で余命が少ない弟を不憫に思い、永遠にループが続けばいいと望む浅浪先生攻略時。ループが続く限り、弟の病が進行することは無く、いつまでも笑って暮らしていける。そう望み明日を望めなくなりつつあった先生と葵。
部長さんの手によって先生の弟も記憶を持ち越せるようになり、たくさん楽しい思い出を作って思い残すことがないようにしよう。そう決めたのに。もう少し、もう少しだけ、ループを止めるのを待って欲しいと望んだ葵に部長さんが問います。
本当に、あと1週間ループを伸ばすだけで満足ができるのか。1週間後、1か月後、1年後。そのたびに同じことを望むのではないか。
一見冷たいようだけども、問題を先延ばしにして逃げるだけでは何の解決にもならないことを分かっているからこその助言ではないかと。。

まあ、要するに普段は常に訳の分からない装置を使って実験を繰り広げ、爆発したり爆発したり爆発したりと騒動の中心にいる困った人なのですが、ホントは仲間の事を大切に思い、仲間が哀しい思いをしてたりすると素早く感知して間違った方向に進まないようにそっと背中を押したりしてくれる優しい人な訳です。

で、このツリーとループの関連性をループ現象が起きる前から知っていて、なぜループが起こったのかも原因を知っていて、その上でみんなが明日を迎えられるようにバカ騒ぎを繰り広げている訳です。

しかし…この人、あの日ツリーが歌い出してこのループ現象が起きると予測した上で、最初の7月29日の夜にツリー観測を提案しているんですよね。。
しかも、ループが起きたらそれをうまく利用して時間を最大限に使えるよう、徹夜で29日を迎えて自分の秘密基地に研究資材をたんまり用意しておいて。
つー事は、ループが起こることは確信していて、部員たちを誘っている訳です。大事な仲間をループに巻き込むことが分かっていたのに、何でだろう…とか主は気になりまして。。
まあ、意外に寂しん坊な部長さんの事だから、単に一人でループをするのが嫌だったんじゃないかとか、ただ単に幼い日に聞いたツリーの歌がすごく綺麗だったから仲間にも聞かせてあげたいとか思ったんじゃないかなー…みたいな…。

主の悪い癖で、ゲーム内では語られないキャラの心理とかその時の感情を一人妄想してはニヨニヨしてしまう訳ですね!(。-∀-)ニヒッ

そして、科学部全員攻略後にルートが開く、最後のキャラクター・綿森楓。
ツリーの、そしてループ現象の謎をすべて知る人物です。時折主人公の前に姿を現しては、謎の言葉を残して消えていたその人は、30年前に一夜にして巨大建造物ツリーを創った人。
無限に広がる未来の可能性の中から、自分の望む可能性を実現させることができる能力者で、かつて研究者たちからは『観測者』と呼ばれていた人物。
世界は7月29日を繰り返していただけではなく、7月29日の1日ループを抜けると1年前に巻き戻るという1年ループをもう何千回と繰り返していたのです。そして、1日ループの記憶持越しが出来ていた科学部員たちも1年ループでは記憶のリセットが行われる。1年ループで記憶を持ち越せるのは綿森楓のみ。
何千年という時間の中、葵と科学部員たちの動向を見守り続け、そして誰より明日を待ち望んでいた人です。

綿森楓ルートでは、全ての謎が明らかになり、本当にループを終わらせることができます。
ループ最後の日、部員たちは綿森楓も加えて部室でお別れ会を開きます。その時の部長さんの演説がたまらなくしびれましたよ!!'`ァ,、ァ(*´Д`*)'`ァ,、ァ


「最後のループが終わり、我々は全員もう一度1年前から人生をやり直す。我々全員が再びここに集まる確率は10分の1」

「だが僕は確信している」

「統計学などクソ喰らえだ!これはお別れ会などではない!我々科学部の新しい門出を祝う祝賀会である!」

「土岐島高校科学部はメンバー全員、一人残らずまたここに集められるであろう!!」


1年前に巻き戻されれば、培ってきた記憶も絆もすべて1年前に巻き戻る。再び全員が科学部に集まる確率はたった10分の1。それを一番理解した上で、そう断言した部長さん!!
好きです!!'`ァ,、ァ(*´Д`*)'`ァ,、ァ