そう。
それは形ある愛のシルシ。
それは今も、当然あたくしの左薬指に輝いている。
(や、恐ろしく傷だらけだけど。)
あたくしの父もとりあえずあたくしの知る限りでは
ずっとつけている人だった。
だから当然、夫もつけるもんだと信じて疑わなかったわ。
当初、彼は言った。
「指輪つけてると、仕事上傷がつくんだよな~。」
あらヤダそんなこと!
いいじゃない!つけてるかつけてないか、それが大事なのよ!
彼はしばらくずっとつけていたわ。
あたしはそれだけでも幸せだったのよ。
ところが。
「かゆい。」
突然彼はこう切り出して、指輪をはずした。
指輪をつけていると、かゆくなるというのだ。
いままでゴッツイ指輪をじゃらじゃらつけていたクセに!!
「せめて、ペンダントにして持っていよう。」
しばらく鎖に指輪をつけて、毎日つけて行ったわ。
ところがまた。
「き、傷に当たってイタイ…・。」
彼は過去にバイクで事故った時に鎖骨を骨折、
手術痕がなまなましく残っているの。
そこに鎖が当たって痛いと言いだした。
おまえ、
ほんとは指輪つけるのイヤなんだろ。
何か、あぁ!?
独身男でも気取りたいのか!?
ボクはまだフリーなんだよんナンチャッテー
とでもとぼける気かコノヤロウ!!
第一土木の仕事で香水つけていく必要があんのかボケッ!!
なんて思ったことは言うまでもなく
全部口に出して言いましたが。
あれから5年…。
思い出したように、彼は指輪をまたつけていくと言い出した。
指につけるのはかゆいのでペンダントで。
でもやっぱり。
「イタイ…やっぱり当たって痛い。」
鼻輪にでもしてやろうか。
ヘソピアスとか。
もちろん、指輪を切るなんざもってのほかなので
切るのは夫の体の方なんだけどな!!!!!!!!!
と言ったら痛いのでヤメて下さいと丁重に断られた。
結局、夫の指輪は使われないサイフの中でずっと眠っているのでした。