大学入学共通テスト「国語」第4問の「古文」。
まさかの『源氏物語』がテキストとして出題されました!



NHK大河ドラマ「光る君へ」の影響かもしれませんね。
例年、センター試験・共通テストで『源氏物語』が出ると、平均点が下がるものですが、今回は拍子抜けするほどカンタンだったという受験生も多かったようです。
大学入学共通テストの近年の傾向は、
「国語力」というよりも、どちらかといえば「情報処理能力」。
いかに速読で内容把握できるか、がポイントになります。
ではさっそく、内容と解き方を見ていきましょう!
【文章Ⅰ:有明の別れ】
右大臣の娘である大君は、夫である左大臣の子を妊娠している。一方、右大臣の妹である女君は、かつて契りを交わした左大臣との関係が途絶え、苦悩を深めていた。そのころ、大君が病になり命が危うくなったため、僧が呼ばれて祈祷をすることになった。
まず、冒頭部分はきっちり押さえましょう。
リード文と照らし合わせて、登場人物の置かれた状況を把握しましょう。
【古文】
山の座主、慌て参りたまへり。
【訳】
比叡山の僧侶が、慌てて参上しなさった。

要するに、リード文の「僧が呼ばれて」という部分に対応しますね。
【古文】
御枕上に呼び入れきこえて、右の大臣、手をすりて、仏にもの申すやうに、「ただ、いまひとたび、目を合はせたまへ。あまたはべる中に、何の契りにか、㋐いはけなくよりたぐひなく、思ひそめはべりにし闇を、さらに晴るけはべらぬ」と、泣きまどひたまふに、
【訳】
(大君の)枕もとに呼び入れ申し上げて、右大臣は手をすり合わせて、仏に何か申し上げるように、「ただもう一度、私と目を合わせてください。たくさん(子どもが)います中に、どのような因縁であろうか、㋐幼い頃から(あなたのことを)比類なく(大切に)思い始めてきました親心の苦悩を、全く晴らしようがありません」と泣いて戸惑いなさると、

問1㋐「いはけなし」は、一発選択の重要古語でしたね。
ここは、右大臣(大君の父)の娘に対する思いということで
読み飛ばしてもらったらと思います。
※注釈にある「子の闇」という表現は、源氏物語でもしょっちゅう出て来ています。(詳しくはこちら⇒)
【古文】
いと静かに数珠押し揉みたまひて、「令百由旬内、無諸衰患」と読み⒜たまへる御声、はるかに澄みのぼる心地するに、変はりゆく御けしき、いささか直りて、目をわづかに見開けたまへり。
【訳】
(山の座主は)とても静かに数珠を押し揉みなさって、「令百由旬内、無諸衰患」と読経なさっているお声は、澄みわたる感じがすると、変わっていく(大君の)ご様子は、少し持ち直り、目をわずかに開けなさった。

問2は、入試必須の敬語表現、敬意の方向を問う問題です。
「たまへる」となった時は、絶対に尊敬語でしたよね。
(※詳しくはこちら⇒)
尊敬語と分かれば、あとは主語を押さえたらOKです。
述語部分に着目したら、読経する僧が主語なのは明らかですよね。
【古文】
あるかぎり、㋑なかなか手まどひをして、「誦経よ、何よ」とまどひたまふに、なほ心ある人とも見えず、御かたちも変はりたるやうにて、その人とも見えたまはず。いとにほひやかにけ近きものから、妬げなるまみのけしき、左の大臣はさやうにも分きたまはず、父殿ぞ、いとあやしう、「思ひかけぬ人にも似たまへるかな」と心得ず思さるるに、
【訳】
お付きの者は皆、㋑かえって慌てふためいて、「誦経や、何や」と混乱しなさるが、やはりもとの人とも見えず、ご容貌も変わっているようで、大君その人とも見えなさらない。とても美しく親しげな感じがするものの、嫌な感じの目元の様子を、左大臣はそのようにも見分けなさらず、右大臣だけが、とても不思議に思い、「思いがけない人に似ていらっしゃるなぁ」と納得できず思いなさらずにいられないのだが、

【古文】
うちみじろきて、
《さまざまに朝夕こがす胸のうちをいづれのかたにしばし晴るけむ》
とのたまふけはひ、いささかその人にもあらず、違ふべくもあらぬを、父大臣のみぞ、かへすがへす「あやし」と傾かれたまふ。
【訳】
(女君が乗り移った大君が)少し動いて、
《様々に朝晩身を焦がす心の苦悩を、どこにしばし晴らそうか、いや晴らせない》
とおっしゃる気配は、少しも大君その人ではなく、また違うはずもないのを、右大臣だけが、返す返す「妙だな」と首をかしげなさる。

問3 (ii) (文章Ⅰのもののけの和歌)
生徒C:和歌の表現から考えてみませんか。「朝夕こがす胸の
うち」や「いづれのかたにしばし晴るけむ」とありますよ。
だから、これは【 Y 】と考えられます。
☆ 文章Ⅱも大いなヒントになるので、この時点で判断がつかなければ、保留にして読み進めていきましょう。

【答え】2.もののけの和歌で、激しい嫉妬によるつらさを詠んでいて、
それをぶつける先を求めている。
【古文】
さて、わが心おはせねば、また消え入りつつ、さらにとまるべくもおはせぬを、「今はけしう⒝おはせじ」とおし鎮めつつ、いたく嗄れたる御声やめて、薬師の呪をかへすがへす読みたまふに、御もののけ現れ出でて、小さき童に駆り移されぬ。
【訳】
そうして、大君の意識がおありでないので、また気を失って、全くこの世にとどまることもできそうにないのだが、(山の座主は)「今は悪くは⒝おありでないだろう」と冷静になりながら、とても嗄れた読経をやめて、薬師仏の呪文を繰り返し読みなさると、御物の怪が姿を現して、小さい子供に乗り移らされた。

問2 ⒝「おはす」は「あり」の尊敬語。
ちなみに「けしうはあらず」で、「悪くはない」の重要イディオムです。

山の座主のセリフなので「山の座主」からの敬意。
尊敬語は主語に対する敬意表現ですが、
「悪くない」のは「大君」なので、「大君」に対する敬意です。
【古文】
㋒呼ばひののしる声に、今ぞ御心出でくるにや、人々のまもり⒞きこゆるを、「はしたなし」とおぼして、御衣を引きふたぎたまふ。
【訳】
山の座主が㋒大声を出して叫び続ける声に、ちょうど今(大君の)意識が出てくるのだろうか、人々が見まもり⒞申し上げると、「気恥ずかしい」と思いなさって、大君はお気持ちで(顔を)隠しなさる。

問1㋒「ののしる」は「大声で騒ぐ」の重要古語。
今回の問1は、一発選択の重要古語ばかりでしたね。
問2⒞「きこゆ」は謙譲語なので客体(目的語)への敬意です。
「人々が大君を見まもり申し上げ」ているのですが、
地の文なので、「作者」から「大君」に対する敬意表現です。
問3 (iii) (文章Ⅰの趣旨)
生徒D:和歌の前後も考え合わせると、文章Ⅰでは【 Z 】。
☆ 逆接対比やラストの状況をきちんと読解していれば解けますね。

【答え】4.大君の顔つきがまるで別人のようになって、
左大臣は気づいていないけれど、右大臣はその
様子がまさしく女君のものだと気づいていますね。
大君はもののけから解放された後、正気を取り戻して
気恥ずかしそうにしています。
【文章Ⅱ】は源氏物語「若菜」です。
源氏物語の内容が入っている人は、「ああ、あの六条御息所の物の怪だね!」とわかり、そのイメージで【文章Ⅰ】の解釈もところてん式に引っ張られていくことになります。

【文章Ⅱ:源氏物語「若菜」】
光源氏は、病気になり生死の境を彷徨う妻を救おうとしている。その病には、かつて光源氏の恋人であり、今は亡き女性が関わっていた。
【古文】
院も、「ただ、今ひとたび、目を見合はせたまへ。いとあへなく、限りなりつらむほどをだに、え見ずなりにけることの、悔しく悲しきを」と思しまどへるさま、とまりたまふべきにもあらぬを、
【訳】
光源氏も、「ただ、もう一度、私と目を合わせてください。とても張り合いなく、臨終になってしまっているような時さえも、あなたの目を見られなくなってしまったことが、無念で悲しいよぉ」と取り乱しなさっている様子は、この世にとどまりなさることができそうにもないのだが、

【古文】
見たてまつる心地ども、ただ推しはかるべし。いみじき御心のうちを、仏も見たてまつりたまふにや、月ごろ、さらに現はれ出で来ぬもののけが、小さき童女に移りて、呼ばひののしるほどに、
【訳】
拝見する者たちの心持ちは、推して知るべしである。光源氏のひどいご心痛を、仏様も拝見しなさるのであろうか、数ヶ月来、まったく姿を見せずにいる物の怪が小さい女の子に乗り移って、大声でわめくうちに、

【古文】
やうやう生き出でたまふに、うれしくもゆゆしくも思し騒がる。
いみじく調ぜられて、
「人は皆去りね。院一ところの御耳に聞こえむ。
【訳】
紫上がだんだん息を吹き返しなさるので、光源氏は嬉しくもおそれ多くもお気持ちが騒がずにはいられない。
ひどくお祓いをされて、六条御息所の物の怪は、
「お付きの人々は皆去ってしまえ。光源氏様ただお一人のお耳に申し上げよう。

【古文】
「…おのれを月ごろ、調じわびさせたまふが、情けなく、つらければ、同じくは思し知らせむと思ひつれど、さすがに命も堪ふまじく、身をくだきて思しまどふを見たてまつれば、今こそ、かくいみじき身を受けたれ、いにしへの心の残りてこそ、かくまでも参り来たるなれば、ものの心苦しさをえ見過ぐさで、つひに現はれぬること。さらに知られじと思ひつるものを」とて、髪を振りかけて泣くけはひ、ただ昔見たまひしもののけのさまと見えたり。
【訳】
「…自分を、数ヶ月間、お祓いし苦しませなさることが、思いやりなく、薄情なので、同じことなら思い知らせようと思ったけれど、そうは言ってもやはり、光源氏様が命が耐えられそうにないほど、身を砕いて混乱なさるのを拝見すると、今はこのようにひどい姿になっているが、昔のあなたへの愛情が残って、このように(死霊になって)まで参上したので、あなたの苦悩を見過ごすことができないで、とうとう現れ出てしまったこと。(私が紫上に取り憑いたのを)まったく知られまいと思っていたのに…」と言って、髪を振り見だして泣く様子は、ちょうど、光源氏が昔見なさった物の怪の様子と見えた。

問3 (i) 生徒D:「文章Ⅱでは、童に移されたもののけが
【 X 】 と言っています。」
☆ 物の怪が言った上記の内容を要約すればいいわけですね。
特に、ラストの【逆接的詠嘆用法】に着目しましょう!

【答】4.自分がもののけとなって取りついていることは知られたく
なかったのに、光源氏のいたわしい姿を見過ごすことが
できずに姿を現してしまった。
いかがでしたか?
【第3問】のグラフ&資料読み取りと同様、一語一語丁寧に逐語訳(直訳)していくという従来の古文の解き方とは異なり、【テクスト】として内容理解できる部分を情報収集していくという解き方の方が効率的なようですね。
【第4問・古文:解答】
問1 ㋐ 2 ㋑ 1 ㋒ 3
問2 2
問3 (ⅰ) 4 (ⅱ) 2 (ⅲ) 4
ただし、国公立二次や難関私立大学では、
一語一語の逐語訳を重視する問題傾向がほとんどです。
まあこれはこれ、ということで、文系の人は
大学入学共通テストはちょっと視点を変えて
学習するといいかもしれませんんね。
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
