先日、ミステリー作家であり、怪異体験の蒐集家でもいらっしゃる青柳碧人さんに、私の怪異体験をお話しさせていただきました。
茶々吉24時(2025年3月21日)
これは私が番組内で紹介するために青柳さんの『怪談青柳屋敷』を読み、このブログでもご紹介したご縁からの流れです。ご本人とお話しさせていただき、ぜひ本来のミステリ作品も拝読したくなりました。
それで選んだのが『むかしむかしあるところに、死体がありました。』。
この作品にはもう一つ、青柳さんと私を繋ぐご縁があるのです。
私がパーソナリティを務めているみのおエフエムは大阪府箕面市のラジオ局です。
箕面市では毎年「箕面・世界子どもの本アカデミー賞」が開催されています。
この賞は、子どもの読書意欲を高め読書活動をさらに推進することを目的として、平成22年に創設されました。
普通の文学賞はおとなが選びますが、この賞は「子どもが本当に支持する本を子ども自身が選ぶ」という趣旨に基づいていて、一般的な子どもの本の賞とは異なる、全国でも珍しい取り組みです。
例年、4月から学校図書館・市立図書館でノミネート作品(約20作品)を紹介し、8月頃に子どもたちの投票によって各部門の受賞作が決定されます。
そして11月には、子どもたちが主体となって運営する授賞式が行われ、授賞式後には、受賞作家やノミネート本の作者が市内小・中学校を訪問する「オーサービジット」を開催し、子どもたちが作家と交流する機会となっています。
13回目となる2024年度のヤングアダルト賞(中学生部門の大賞)に選ばれたのが青柳碧人さんの『むかしむかしあるところに、死体がありました。」だったのです。
青柳さんは昨年11月の授賞式に出席されるために箕面市にお越しになりました。そして授賞式では生徒たちからトロフィーを受け取ってくださいました。
また、この3月には箕面第二中学校と第五中学校にオーサービジットにいらして、生徒からの質問に答えたり、一緒に給食を食べたりしてくださったのです。
つまり、箕面市で今一番中学生に人気がある作家さんは青柳碧人さんということになります。
(もちろん他の世代にも人気があります)
その受賞作を見過ごすわけにはいかないと、拝読したのでした。
前置きが長くなりましたね。
青柳碧人さん『むかしむかしあるところに、死体がありました。』
タイトルからおおよその推測はつくかもしれません。
この作品には、日本では誰もが一度は聞いたことが(読んだことが)あるであろう昔話をもとにしたミステリが詰まっているのです。
目次をご紹介しますね。
・一寸法師の不在証明
・花咲か死者伝言
・つるの倒叙がえし
・密室竜宮城
・絶海の鬼ヶ島
(青柳碧人さん『むかしむかしあるところに、死体がありました。』の目次より転記)
それぞれの元ネタは「一寸法師」「花咲かじいさん」「鶴の恩返し」「浦島太郎」「桃太郎」であることはお分かりかと思います。
みなさん、それぞれの物語の主役や登場人物になんらかのイメージを抱いておられることでしょう。
私ももちろん、それぞれのキャラクターにイメージがありました。
ところがですね、この本を読んでしまうと、たいていのイメージが崩れてしまうのです。
仲の良い夫婦だと思っていたあの人が実は?!
気の優しい、どちらかというと頼りなげだと思っていたあの人がDV気質だったなんて。
などなど。
文体の優しさが多少のクッションにはなっているものの、それぞれの人物たちのイメージダウンはかなりのものです。実在の人物だったら名誉毀損の訴訟もあり得るかも。(笑)
そもそもお伽話で「死体がありました」という状況が多発することが変ですよ。
しかもその殺人事件のからくりが、さすがミステリー作家さんだけあって、本格的なのです。
もちろん、作中にはきちんとヒントというか、あとの事象の原因となるものが散りばめられています。
論理的な謎解きなので、読者も自分の推理がただしいのか検証しながら読めます。つまり本格的なミステリーとして読み応えがあるのです。
太宰治が『御伽草子』で、昔話の中に今と変わらない人の心の動きを描いてみせたように、青柳さんは昔話の中にミステリーが起こりあることを証明してしまったんですね。
箕面・世界子どもの本アカデミー賞では、中学生を対象としたヤングアダルト賞を受賞したこの作品は、中学生だけでなく年配のかたまで幅広い年代が楽しめると思います。
何より助かるのは、ミステリーではややこしくなりがちな「え?この人誰だっけ?」が少ないこと。
よく覚えていなかったとしても、一寸法師と言われればどんなビジュアルの人なのか、鶴の恩返しの鶴はどんな代償を払って機を織っているのかわかります。
余計なところに神経を使わずに物語の流れ、推理を楽しめるということです。
私が最も うなったのは「つるの倒叙がえし」でした。
倒叙かえしとは、推理小説などにおいて犯人・犯行を冒頭で明かすこと。
昭和世代の方なら「刑事コロンボ」形式と言えばすぐお分かりでしょう。
「つるの倒叙返し」は、読んでいる途中でアレ?と違和感を覚える部分があります。でも、それはかすかな感覚だったので、私はそのまま結末に向かって読み進めました。
そして最後の一行にビックリ。
え?そうだったの?!
と、最初から読み直すことになりましたよ。
最後の「絶海の鬼ヶ島」を読んでいると、この本に収められた昔話がどこかで繋がっていることに気が付きます。収められた順番にも意味があると。
そして鬼ヶ島の物語は第一話の「一寸法師の不在証明」に戻る形になっているのです。
いやーお見事!
ただ一つ「花咲か死者伝言」が私には悲し過ぎましたワン。
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