「はい!ニコニコ



当日の朝、ソファーに座ってカプチーノを飲む杼得に軽く包装したそれを渡した。


杼得には「日曜日は空けておいてね!」とだけしか伝えておらず、前夜には、「明日はちょっと早いけど7時半起床ね。ニコニコ」とだけ・・・。

「何、何?どこ行くの?」
教えてもらえないのを分かっていても聞いてきた杼得だったが、その問いは本当に「知りたい」と言うよりも、ウキウキニコニコの気持ちの表現のようだった。



杼得は手に持っていたカプチーノをさっとテーブルに置き、まるでクリスマスプレゼントの包みを開ける子供のように目をキラキラさせて夢中で包装を開けた。


「杼得のバースデーウィーケンド」と彼の写真も入ったしおりの表紙から何が出るのかと好奇心に満ち溢れた目で丁寧にページを捲っていった。


イントロの後に続くページのクルーズ船の絵に彼の目が釘付けになり、


「貴方のお誕生日をお祝いするにあたって何か思い出に残る素敵なことを考えました・・・。 私が知っている少しの貴方の事と、貴方の生まれたこの季節、そして日本人の季節を生活に取り入れる文化を取り入れた物を考えていて・・・この広告を目にした時、『これだ!』と直感で思ったわ。気に入ってくれると嬉しいです。」




二人共、遠足に向かう小学生のようにウキウキした軽い足取りで船着場へ向かった。
一番後ろの席も取れ、ゆったりとハドソン川両岸の紅葉を満喫した。もう既に風は冷たく感じるが、恋愛モード全開の私はそれぐらいでヘコタレない。グー

ハドソン川を北上して行き、ブロンクスも過ぎてしばらくすると、マンハッタンの摩天楼とはかけ離れた、木々に囲まれる穏やかな景色が広がっている。

ベアーマウンテンに着いた時には日も高くポカポカで、思い出のお誕生日サプライズ紅葉ツアーにはもってこいの雲ひとつない晴天。

船着場から少し上がっていった湖のほとりにビアガーデンがあり、小さいながらもオクトーバーフェストが催されていて、ドイツソーセージとビールで乾杯した。

湖畔をぐるりと回り、少し岡の上まで行ってなんとなくゆっくり過ごすのかな~と思っていた矢先に杼得が言った。




「山の頂上まで上ろうよ!」



手を繋ぎ、ぐんぐん登り始めた!


約1時間のハイキング、最後の方は暑いし、膝にも負担がかかってきていたが、頂上から見下ろすベアーマウンテンの裾の紅葉はまるで絨毯のように広がっていた。

人は「共感」することで心のつながりを感じるというから、こうして美しい風景を黙って一緒に眺めるたびに・・・私達の絆は深まっているに違いない。


ジャーマンソーセージにハイキングだったので、さすがに帰りの船ではお疲れモードだったが、船から見る夕暮れのマンハッタン、自由の女神の背景でみるみる内に沈んでいく燃えるような夕日が印象的だった。


杼得の握る手の力が一瞬強くなり、言った。

「Arigato」



たぶん、たぶん、たぶんだけどっ、

このサプライズ誕生日プレゼント大成功!



また杼得と私の思い出の一ページに加わった




絨毯のようなに包まれて、
私達の愛も温まりました~。