あまり聴ける機会の無さそうな曲がプログラムにのぼった演奏会には、ついついぴくりと食指が動き…というわけで、東京交響楽団の演奏会@ミューザ川崎に出かけてきたのでありますよ。「そりすべり」やら「タイプライター」やら、はたまた「トランペット吹きの休日」やらの小品で知られるルロイ・アンダーソンが作った「ピアノ協奏曲」が取り上げられておりましたのでね。

 

 

数々の小品に人気が出て、1953年当時、「全米でもっとも作品が演奏される作曲家」(本公演プログラム解説)になっていたというアンダーソン、そうですけれど、いわゆるアカデミックな音楽教育を経ていないことにいくらか臆するところがあったかどうか、その人気の頂点にある同じ年に敢えて書いたのが唯一の協奏曲となる「ピアノ協奏曲」であったとか。

 

そも協奏曲というフォーマットや、そこで使われるソナタ形式といった様式は20世紀半ばの当時でさえ、はっきり言って「古典的」なものと捉えられていたものと思いますが、これに挑んでこそ「作曲家」てな思いが多少なりともあったのかもしれませんですなあ。思えば、それより何十年か前にガーシュウィンがクラシック音楽を学び直すため、ラヴェルに弟子入りンを試みた(結果は良く知られるように「一流のガーシュウィンが二流のラヴェルになることはない」てなふうに諭されたのでしたな)りもしてましたっけ。

 

ともあれ、相当な意気込みで臨んでアンダーソンですけれど、作品の評価はどうも芳しくない。忸怩たる思いを抱きつつも自ら作品を封印してしまったようで。遺族の意向によって再演され、楽譜が出版されたのは1989年と言いますから、ずいぶんと長い眠りからようやく覚まされたということになりますか。

 

で、このレアな曲の印象は…となりますと、よくも悪くも?ルロイ・アンダーソンであるなあと。さまざまなアンダーソン作品を彷彿するライトなメロディーがたくさん顔を出すのですけれど、それを協奏曲という型の中に押し込め、モーツァルトやベートーヴェンに並ぶ古典的な、つまり立派な?作品にしなくてはならないというところに窮屈さがあるような。ま、ガーシュウィンの方も、もっともよく知られ、かつ演奏頻度も高い「ラプソディ・イン・ブルー」も、ピアノ協奏曲を意識しつつも要するにピアノと管弦楽が交互に出てくるだけと言われてしまったりもするわけで、なかなかに難しいところがありましょうねえ。

 

そうはいってもルロイ・アンダーソン、「アメリカ軽音楽の巨匠」としてボストン・ポップス・オーケストラのみならず数々のオーケストラで作品がちょこちょこ取り上げられ、それだけ魅力を失わない作曲家であるわけですけれど、今回の演奏会の後半ではアンダーソンを「アメリカ軽音楽の巨匠」と評した本人、ジョン・ウィリアムズの作品でありましたよ。おそらく来場者の多くは、こちらをこそ聴きに来られていたのでしょうなあ。

 

取り上げられたのは映画『スターウォーズ』の音楽、「エピソード1からエピソード6までの抜粋を物語順に演奏」するという、オリジナル構成による10曲でありました。これに冒頭、20世紀フォックスの映画が始まるときのファンファーレが前奏として演奏されるあたり、凝った企画とも言えましょうかね。

 

ファンファーレに続いては「スターウォーズ」といえばこれ!という「メイン・タイトル」が始まり、あとは映画の順にというわけながら、あいにくと「スターウォーズ」シリーズは第1作から第3作(9作完結してからはエピソード4~6)だけでほぼ満足し、長らく時を隔ててできた4作目(すなわち『エピソード1/ファントム・メナス』)は見たもののほとんど覚えていない…という者には、その後に続く音楽はむしろ映画音楽という縛りの外で聴いていたような感じです。

 

さりながら、むしろ映画の印象の無さが幸いしたものか、「アナキンのテーマ」、「運命の闘い」、「アクロス・ザ・スターズ」、「英雄たちの闘い」と、全体の中核をなしていた部分は純音楽(?)的に聴いて、その響きの壮大さに「おお!」と沸き立つことに。映画音楽と言えば、これらに続いて演奏された「ヒア・ゼイ・カム」(エピソード4の宇宙船戦闘シーンで流れる)がいかにもな劇伴(劇付随音楽)であることを思えば、後年に公開された「スターウォーズ」シリーズが映像的に進化を遂げたというばかりでなしに、ジョン・ウィリアムズの音楽もまた映画音楽のイメージを凌駕するように深化を遂げたのではなかろうかと思ったりしたものです。

 

演奏会のプログラム紹介に曰く、ジョージ・ルーカスは「スターウォーズ」の音楽には壮大なオーケストラ曲を付けたいと考えて、スピルバーグに相談したところ、ジョン・ウィリアムズではどうかということになったそうな。1977年の第1作(くどいですがエピソード4)の製作当時、スピルバーグは『続・激突!カージャック』(1974年)と、それにもまして『ジョーズ』(1975年)とでジョン・ウィリアムズと組んでいましたから、高く評価するところがあったのでしょう。ただ、この時点で「スターウォーズ」やその後の「スーパーマン」、「インディージョーンズ」などで思い浮かぶ壮大なオーケストラ曲を、ジョン・ウィリアムズが手掛けていたのであったかどうか。

 

年代的には『ポセイドン・アドベンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』といったパニック映画大作の音楽に携わっていますけれど、いずれもモーリン・マクガヴァンが歌った主題歌しか記憶に残っておらず、どんな音楽が流れていたものか…といった印象だけに、スピルバーグのウィリアムズ起用提案は先見の明があったというべきなのかもです。

 

とまれ、今回の演奏の凝ったところはたった2曲(?)のために合唱を入れた点にもありますですね。そのおかげで「運命の闘い」と「英雄たちの闘い」は肌が粟立つようなゾワゾワ感があったものです(擬えるならばオルフの『カルミナ・ブラーナ』か)。

 

ということで、ルロイ・アンダーソンの珍しいピアノ協奏曲を聴くつもりで出かけた演奏会で、すっかりジョン・ウィリアムズの音楽に感心して帰ってくということになったのでありました。ただひとつ、蛇足を覚悟で言うならば「スターウォーズ」の最後に「エンド・タイトル」が演奏されたのは宜なるかななるも、これは「王座の間とエンド・タイトル」の形で聴きたかったですなあ。ま、1970~80年代公開の最初期三部作にばかりこだわっているからかもしれませんけれどね。