これまで見て来たところで、桜島の大正噴火は西の方へ向かった溶岩流が烏島を飲み込んだと同時に、南東方向でも大隅半島と地続きになってしまうほどの噴出があったことが分かりましたけれど、それはそれでダイナミックな変動であったものの、もそっとヒトのサイズからして生々しい被害を想起させる場所へと移動してきました。それは黒神中学校という学校の片隅にありましたですよ。惜しげもなくご覧いただくとすると、このように。

 

 

ともすると「いったい、これは何?」ともなりましょうけれど、「黒神埋没鳥居」として知られるものとなれば「おお!」とも思うところではなかろうかと。要するに、ここにあった神社の鳥居が大正噴火の火山灰や軽石などで一日のうちに埋まってしまったのであるというのですねえ。元々の高さは3mと見上げる高さで立っていた鳥居が、今や地上に出ている部分は1mほど、見下ろされる鳥居になってしまったというわけでして。

 

 

ちなみに公共駐車場の傍らには、まさに当地、黒神中学校の生徒会が作成したという解説板「桜島の誕生物語~現在の桜島に至るまで~」が建てられておりました。学校でよくやる、模造紙を使った研究発表を思い出せますけれど、とてもきれいに設えてありますな。ここでは最後のところ、「4.桜島の自然と人との繋がり(現在)」の部分を見ておくといたしましょう。

数々の噴火を繰り返してきた桜島。それでも現在、多くの人々が暮らしている。その理由は、効能豊かな温泉や世界一小さな桜島小みかん、世界一大きな桜島大根を作ることができる土壌など、火山がもたらす自然の恵みがあるからだと考える。さらに、桜島に住む人々のつながりの強さも理由の1つと考える。

ある種、活火山という自然の脅威を間近にしながらもそこに生きる人たちならではの決意表明感が漂って、地元らしさを感じるところですけれど、そうは言っても県下最大の鹿児島市街が24時間運航のフェリーで目と鼻の先にあるという条件は、おそらく無視できないところではなかろうかと思ったりします。何せ、桜島小みかんや桜島大根はまさしく特産品であるとしても、鹿児島県内各所それぞれに特産物はあったりするところながら、廃校になった小学校や中学校がずいぶんあるなあということを旅の道すがらで(特に大隅半島で)見てきたものですから。

 

それに比べると桜島にはいくつも学校があって…と、書きかけたところで「果たしていくつあるのか」と検索してみますと、「桜島にあるから…その名も「桜島学校」 26年春開校の義務教育学校、校名案決まる」という見出しの記事(2023年10月2日付南日本新聞)に行き当たりました。少子化の折から、島内にある8つの小中学校を統合し、9年制の義務教育学校を新設することが決まったことを報じる内容…となると、やはり市街に近いとはいえ、だったら鹿児島市街に住む(もしくは他の大都市圏に出てしまう)という選択をするのかもしれませんですなあ…。

 

 

とはいえ、桜島島内に依然住まう方々はたくさんいるのですし、その人たちの安全のためにも写真のような噴火避けの「退避壕」がそこここに設けられているのが火山と共にある暮らしを想像させるところでもありますね。でもって、一朝、桜島がご機嫌斜めに噴火をしようものなら、先ほどみた埋没鳥居のような事態にもなりかねないわけですが、ここでの火山灰の積もる深さとはまた別に溶岩流の広がりを目の当たりにできる場所、島の南側に位置する「有村溶岩展望所」にも立ち寄ってみたのでありました。

 

 

流れ出た溶岩が余りに多いためですかね、展望がきく場所へはこんなふうに長い階段を登り詰めなくてはなりません。高みにあがってみれば、島の南側だけに活動中の南岳がより間近で、噴煙の立ち昇るようすがよおく見てとれるのですな。

 

 

この山裾に広がるのは全て溶岩ということになりまして、解説板に曰く、噴火時期の異なる溶岩の堆積具合が見られることから「有村溶岩展望所」と言われるようでありますよ。

 

 

解説パネルの写真は分かりやすく色分けしているにせよ、よくよく見れば時期による溶岩帯の色合いの違いが分かるように思えますですね。ま、溶岩の色合いというよりはその後の時間経過に伴う植生の違いが色に見えるということかもですが。当然に「火山ガスの影響を受けるエリア」では植物は生育しにくいこともあるわけで。

 

 

と、展望所入り口にある休憩施設には、少々ゆるぅい感覚の「桜島暮らしのススメ」なる展示がありましたですよ。

 

 

火山灰対策としては、上空の風向きを読むこと、降灰速報メールをチェックすることが大事であると。万一火山灰をかぶってしまった場合、髪に着いた火山灰はなかなか取れずごわごわしているので、シャンプーに2回にわけてやさしく流すべしと。これもまた生活の知恵なのですなあ。

 

というところで、桜島の外周1周約36kmを巡るドライブは南側から西側へと戻っていきまして、次の立ち寄り箇所へ。桜島最後のポイントは「桜島国際火山砂防センター」の展示施設…ですけれど、その辺は次回ということに。