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発達障害があっても働ける環境づくりを

  • 文 保坂展人
  • 2015年4月7日
     

写真:     

  

 世田谷区の砧公園と環状8号線をはさんだ上用賀アートホールの2階に、「発達障害者就労支援センター/ゆに(UNI)」の新しい場がオープンしました。先立って行われた内覧会には、100人もが訪れました。世田谷区からの委託を受けて事業を担うのは、社会福祉法人トポスの会。足立区ですでに「ウィズユー」という発達障害者を対象とした通所施設を運営しています。

 その5日後の3月29日付朝日新聞の東京版に「発達障害の若者に仕事を 世田谷区、専門家連携し支援」という見出しで、世田谷区の取り組みを紹介するかなり大きな記事が載りました。

<男性は専門学校を卒業した2001年から引きこもりの状況だった。学習能力には問題はなかったが、初対面の人とのコミュニケーション能力が低く、突発的な出来事への対応が苦手だったことなどから、就職活動はうまくいかなかった。
 周囲が男性の発達障害に気づいたのは卒業から10年以上たった12年。正式に診断を受け、障害者手帳を得たのは昨年のことだ。
  発達障害が学校や社会で認識されていないことが原因とされる。過度な物事へのこだわり、対人交渉や状況判断能力の欠如など、障害の内容や程度は幅広い。「変な人だな、程度の認識で見過ごされている」(世田谷区障害者地域生活課)という>

 この男性は「せたがや若者サポートステーション」で発達障害の疑いを指摘され、その後、発達障害就労支援事業の「ゆに(UNI)」に通うようになり、短期アルバイトから始めて、いまではフルタイムの契約社員として郵便物の仕分けにあたっています。

 世田谷区では、09年に子どもの発達障害支援として、相談や療育を行う「げんき」を国立成育医療センターの中に開設したものの、成人期の発達障害に関しては具体的な支援の事例も乏しい状態でした。そこで、12年から新たな取り組みをはじめることになりました。その開始時に開いたシンポジウムには、当事者がパネリストとして登壇して、こう発言しています。

 「計算は苦手だけれど、陳列されている商品の説明はすぐに覚えることができるので 、その特性を理解してもらって商品の説明係をやっていて重宝されています。ただ、以前は『なんだ計算もできないのか』と言われて辛い思いをしてきました」
「仕事が長続きしないので悩んでいます。集中して物事をやるのは得意ですが、同時に話しかけられたりするとパニックになることもあり、予定外のことをやるように言われると行き詰まります」

 30代、あるいは40代になって、発達障害の特性に気づいた人たちの発言でした。

 池尻にある「世田谷ものづくり学校」内にある「せたがや若者サポートステーション」に集う若者の中には、なかなか仕事が見つからなかったり、社会になじめなかったりするなど、発達障害の特性が認められるケースもあり、「みつけば」という会を月2回始めることになりました。自分の特性を理解して、その特性を抱えながら社会に向き合っていくための方法を「みつけ」、モチベーションを高めるための場です。自ら発達障害を持つ若者が何人か入るピアサポートのかたちで、ワークショップを続けてきました。

 一方、区の施設の一角では前述した「ゆに(UNI)」(トポスの会)には、この3月までに28人(男性19人・女性9人)が利用していました。「みつけば」やハローワーク、さらには区内の支援機関などから紹介されてきた人もいます。その8割が広汎(こうはん)性発達障害や自閉症と診断されたり、疑いのあったりする方たちでした。最終学歴(中退を含む)は短大・専門学校7人、大学15人と、8割が高等教育機関に進学しながらも就労経験者は2割と低いのが特徴でした。

 「ゆに(UNI)」が約300平方メートルの広さの専用スペースでスタートしてからの2週間の間に、電話相談は67本、面接は13件(予約32件)、通所利用者は25人を数えました。「こんな場ができるのを待っていた」という声もあり、就労の場を求めながら、きっかけが得られなかった当事者や親からの相談が多いとのことです。

 全国でもまだあまり例のない取り組みです。一人ひとりの個性を大切にして、その特性を職場の人たちにも理解してもらって働くことのできるような環境づくりをこれからも支援していくとのことです。

「発達障害があっても働ける環境づくりを」(「太陽のまちから」2015年4月7日)



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