ラブラドールの子犬・クイールの盲導犬としての一生です。犬が嫌いな人以外は、ぜったいオススメです。

正直、動物と障害者と死が揃ったら、どうせ”いいこちゃん”的なものなのだろうと思っていました。命を大切にしようとか、差別をなくしてバリアフリーにして、みんな仲良い社会を目指そうとか、良くも悪くも小学校の道徳のビデオみたいな。それが悪いとは言いませんが、情報の洪水世代の私はその程度の刺激には勃ちません。…いや、感じません。

なので、この映画も駅で3時間ほどヒマができたので、”良くも悪くもない”ものなら見てもいいかなぁ~、とヒマつぶしに観たものでした。しかし予想以上のあまりの良さに号泣し、映画の後、人と会う予定だったのに化粧がドロドロに落ちて大変でした。

確かに、”いいこちゃん”と言えばそうなのですが、まず冒頭の子犬の映像でそんな斜めなスタイルは放棄せざるを得ません。カワイイんだもの!文句を言う隙もありません。メロメロです。骨抜きです。腰砕けです。

映画が観客の心をつかむための最初の関門は、役者がいかに共感を得るかであると思います。この映画では、まず主役のクイールが可愛すぎます。そして、全ての俳優が魅力的なので、つかみは完璧です。

子犬時代だけ育てるパピーウォーカーの夫妻が寺島しのぶと香川照之です。どうでもいいけど、寺島しのぶのオノロケ会見はイタイと思ったのは私だけですか。エブリタイムキッスとかシングリッシュとか、寺島さんが後で我にかえったら絶対恥ずかしさのあまり御主人の国に逃亡すると思います。ジュテーム。パピーウォーカーの後は盲導犬の訓練所で椎名キッペイに特訓されます。その後、犬嫌いの盲目の小林薫のもとで盲導犬として一緒に生きることになります。

以上の異常に豪華でとても素敵なキャスト、これこそがこの映画の決定打です。うまいというか、魅力的というか。そして、もちろん脚本も演出もよかったです。ほのぼのとクスクス笑えるエピソードを交えつつ、障害者の現実をゆっくり見せてくれます。現実は、だいたい楽しいことと悲しいことが半分だとよく言いますが、毎日の生活で何気なくある幸せと、いつものことだと諦めの混じった悲しさが、とてもリアルです。自動販売機に点字がないなんて、この映画がなければ誰も知らないと思います。信じられません。

確かに、話としては犬が生まれて盲導犬になって死ぬ話です。派手なアクションもオッパオもシャロン・ストーンも出てきません。ただの犬の話なのに、ちゃんと映画にするとこんなに面白い。号泣注意報ですが、イヤな涙ではありません。映画が終わった後、映画館のトイレで知らないオバサンと思わず「良かったわね~!感動しちゃった!」と話してしまいました。こんなこと初めてでした。人格が優しくなれる、とても素敵な映画です。

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