続・近代の日本人の「精神の歴史」を読み解く

 

 


『日本精神史  近代篇 下』長谷川 宏著を読む。


下巻は、軍国ファシズム下から敗戦後、高度経済成長下を経ての「日本の美術・思想・文学を、人々の精神の歴史として描く」。感じたことなどをとりとめもなく、引用多めで。


〇『細雪』が「陸軍報道部の圧力で連載中止」となった。しかし、谷崎潤一郎は「ひそかに書きつづって」いた。「戦争の影をほとんどとどめない」ことは、作家として「戦争の時代に抗する」姿勢だと。

 

〇旧制中学時代に聴力を失った画家・松本俊介。そのため戦時下、招集されることもなかった。「負い目」を越えて「清澄かつ静謐な街の佇まい」の風景画を描く。「空襲が激しくなった」東京に単身居残って絵を描き続けた。好きな一枚を画像で。

 

〇敗戦後、詩人・中野重治河上徹太郎の「配給された自由」という新聞記事に噛みつく。「「配給された自由」という言い方は、気がきいているようにみえる、いまの日本の自由と民主主義とが、全国的に国民の手でもたらされたものでないという事実から、
この気のきいてみえることがいっそうそういうものとして通用しそうな外観をもっている。しかし、それだからといってそれが正しい言いあらわしであるかどうか」。評論『冬に入る』を刊行する。題名に込められた真意は。大本営発表で軍部に忖度したマスコミの手のひら返し。どの口が言う気分だったのだろうか。


田村隆一の「立棺」という連作詩の一文。
「地上にはわれわれの国がない
 地上にはわれわれの死に値する国がない」
「それは死者の声であるとともに、敗戦後の荒野に立つ田村隆一の声でもあった」
「荒野」を「荒地」にすればいいのに。田村は、滋賀海軍航空隊で敗戦を迎えたそうだ。

 

〇「花森安治と「暮しの手帖」」

大政翼賛会で国策広告を手がけた花森。1971年週刊誌編集者のインタビュー記事より。
「ボクは、たしかに戦争犯罪をおかした。言い訳をさせてもらうなら、当時は何も知らなかった。だまされた。しかしそんなことで免罪されるとは思わない。これからは絶対だまされない。だまされない人たちをふやしていく。その決意と使命感に免じて、過去の罪はせめて執行猶予にしてもらっている、と思っている」
暮しの手帖」の巻頭メッセージを久々に読んだが、まったく色褪せていない、


大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』を題材に。
「ゆとりや優しさのもてはやされる(高度経済成長)時代に、その背後に横たわる冷酷で非人間的な監視体制や差別意識を見ないではいられなかった大江は、絶望のなかでの抵抗と、抵抗のなかで主体に見えてくる絶望とを形象化することによって、現実社会を生きるとはどういうことかを読者に厳しく問いかけようとしたのだ」 


うまくまとめられそうにもないので最後に目次をまんま引用。

 

「【目次】
第十一章 軍国ファシズム下における表現の可能性
1谷崎潤一郎/2松本竣介
第十二章 中野重治――持続する抵抗と思索
1戦前の作品/2戦時下の作品/3戦後の作品
第十三章 敗戦後の精神――貧困と混乱のなかで
1戦後の詩/2戦後の小説/3戦後の美術
第十四章 戦後の大衆文化
1日本映画の隆盛/2生活文化の向上をめざして/3子どもを愛し、子どもに学ぶ
第十五章 高度経済成長下の反戦・平和の運動と表現
1原水爆禁止運動、米軍基地反対闘争、反安保闘争/2戦争の文学(一)/3戦争の文学(二)/4戦争の絵画(一)/5戦争の絵画(二)
第十六章 時代に抗する種々の表現
1堀田善衛日高六郎/2大江健三郎石牟礼道子中上健次/3木下順二唐十郎別役実/4つげ義春高畑勲宮崎駿

 

 

松本竣介 Y市の橋

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