現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

後頸痛に対する針灸治療の総括 ver.1.4

2024-05-06 | 頸腕症状

シンプルに私の行っている後頸痛の針灸治療を整理してみた。

2018.9.7で「本稿での後頸部の経穴位置と刺激目標」ブログ(以下)を発表した。今回はそれから6年経た現在の進捗状況である。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/813c479992742718841d4e2777582ff0

 

1.胸椎・腰椎部筋の構造と針灸治療方法のおさらい
     まずは背腰部固有背筋を整理し、頸部の固有背筋と比較する。

起始・停止とも背部にある筋を固有背筋とよび、脊髄神経後枝支配である。胸椎と腰椎における固有背筋の構造は、浅層には起立筋があり、棘筋・最長筋、腸肋筋に細分化される。深層には横突棘筋があり、半棘筋・多裂筋・回旋筋(長短)に細分化される。
   

頸椎では頭・頸半棘筋が、胸椎は長・短回旋筋が、腰仙椎では多裂筋が発達している。横突棘筋の機能は、上下椎体間の静的安定を保つ役割と、脊柱運動(前後屈や左右回旋)の際、生理的範囲を越えた動きをないよう捻挫しないよう制限をかける役割がある。脊柱を動かす筋は、棘筋・最長筋、腸肋筋といった浅層筋であるが、これらは背腰痛を起こすような障害はあまり起こさないので、針灸治療上は考慮する意義は薄い。つまり腰痛の治療穴として代表的とされる腎兪や大腸兪は、実際には治療穴として使う機会はあまりない。
   

背腰痛の針灸臨床の場合、症状部の撮痛の発見→脊髄神経後枝興奮エリアの把握→後枝が脊椎傍から出る部への刺針→症状改善という一本道の考え方で成功することが多いので、これは針灸治療定理の一つとなる。背部部一行からの深刺が効く訳は、背腰痛の大部分は、横突棘筋の過緊張が真因だからだろう。

2.頸椎の筋の構造

※上図は以前に筆者が創案したものだが、長らく「脳戸」を「脳空」と誤って記載していた。ここにお詫びとともに訂正させていただきます。
脳戸の外方1.3寸に玉枕、脳戸の外方2寸に脳空がある。
脳戸(督)-玉枕(膀)-脳空(胆)と横並びになる。語呂は、脳(脳戸)のマクラ(玉枕)はからっぽ(脳空)。

頸椎では起立筋に代わり後頭下筋と板状筋が存在している。横突棘筋は胸椎~腰椎と同じように頸椎でも存在している。

1)後頭下筋の機能と刺激点

①後頭下筋は、後頭骨-C2間にある。その主作用は頭の前後屈運動の際、頸椎アラインメントからの逸脱防止がその役割になるが、うがいをする際は、後頭下筋の最大屈曲(25°)、顎をひく際は最大伸展(10°)が必要となり、これは後頭下筋の仕事になる。

②下頭斜筋を除く後頭下筋3種は、後頭骨下項線に停止がある。その代表刺激点は上天柱穴である。天柱刺針では大後頭直筋の下方に入ってしまうので、後頭下筋群に対する治療穴としては 適切な治療穴とはいえない。
C1C2棘突起間の外方1.3寸に天柱穴をとり、その上1寸で後頭骨-C1間に上天柱をとる。上天柱から直刺すると、僧帽筋→頭半棘筋→大後頭直筋と入る。なお僧帽筋は肩甲上部を挙上(肩をすくめる動作)する機能なので、頸部筋としての作用はない。

2)頭半棘筋と刺激点

①頭の前後屈運動の主体となるのは後頭下筋の浅層にある頭半棘筋で、頭半棘筋は頭の重量支持の大黒柱なので太く発達している。

②頭半棘筋の停止は、後頭骨上項線にあるので、治療点としては上天柱のさらに上方の下玉枕になる。ちなみに上項線中央にある外後頭隆起の直上に脳戸穴があり、脳戸の外方1.3寸に玉枕穴がある。脳戸の外方2寸には脳空穴がある。

③後頭下筋は、C1後枝(=後頭下神経)により運動支配を受ける、後頭下神経は知覚成分をもたないので、筋痛を生ずることはない。しかし後頭下筋と頭半棘筋の間をC2後枝(=大後頭神経)が通過して後頭に向かう部なので、後頭下筋の筋コリは大後頭神経痛のワレーの圧痛点になる。

大後頭神経痛の原因の大部分は、頭半棘筋の神経絞扼が原因となる。治療穴は下玉枕または上天柱になる。

 


3)頭半棘筋への効果的な刺針体位


腹臥位で大後頭直筋に刺入するよりも、この筋を伸張させた肢位で刺針すると奏功しやすい。

通常は下図の方法で行うが、この時患者の頭は術者の心窩部に当てる。

下玉枕ともなると、頭半棘筋の直下に頭蓋骨があるだけなので、直刺ではなく斜刺がよい。たとえば左下玉枕を刺入点とすれば、右下玉枕方向に斜刺する。

術者が女性で患者の頭が胸に当たることが気になる場合、下図の方法を使うこともできる。ただし下図では運動針を併用できなくなる。

 

4)頭の左右回旋運動と筋

①頭蓋骨を左右に回旋する主動作筋は、頭板状筋である。頭板状筋は、中部頸椎棘突起と乳様突起を結ぶ筋で、後頸部において頭部回旋の主役である。k頸椎全体での回旋ROMは左右それぞれ60°であるが、うち45°はC1-C2間で行われる。この左右回旋の主動作筋は、おそらく頭板状筋ではないだろうか?

②頭板状筋を刺激するベストポイントは下風池穴になる。風池穴でもよいが、頭板状筋筋腹を刺激するには下風池の方が適している。
ちなみに風池から深刺しても上頭斜筋に刺入できない。なぜなら上頭斜筋はあまりに深い位置にあるため。

 

※下風池はあまり聞きなれない穴名かもしれないが、芹沢勝助は耳鳴時に圧痛がみられるポイントとして本穴を紹介していた。ただし芹沢は、天柱と風池を一辺とした正三角形の頂点と記していた。一側の頭板状筋の緊張も後頭下筋と同じように一側の内耳機能を亢進させる。この左右差のコリの程度の違いが内耳症状を生ずるらしい。


5)頭半棘筋への効果的な刺針体位

頭半棘筋は頭部回旋の主役なので、過緊張している頭半棘筋を伸張させるような動きで痛みを生ずる。治療は、本筋を伸張肢位にして下風池に実施するとよい。


3.頚部横突棘筋の機能と頸椎一行刺針

深層にある固有背筋の役割は、頸椎重量の静的状態を維持する。また頸椎回旋運動での頸椎に加わる衝撃を緩和させることにある。この役割は、胸椎・腰椎にある横突棘筋と同じものである。もしも横突棘筋がないとすれば、脊椎捻挫が多発することになるだろう。

 

1)頭半棘筋への刺針

頸椎一行線の圧痛の好発部位は、頭蓋骨-C1間では下玉枕で、C7-Th1間では大椎一行(別称は定喘・治喘)が代表である。これらの穴は、頭蓋骨-頸椎、そして頸椎-胸椎といった異なった構造物のつなぎ目になるので構造的に脆弱である。
棘突起傍にあるにある横突棘筋のコリ→脊髄神経後枝興奮→腰殿痛症状という病理変化となる。

①下玉枕:上天柱と玉枕の中点。直下に頭半棘筋がある。
②定喘(教科書):C7棘突起下に大椎をとり、その外方5分
③治喘:大椎の外方1寸

頭半棘筋の下方には頸半棘筋と胸半棘筋があり、これら3筋が協力して頭蓋骨の引き上げ、顔を正面に向かせている。いわゆる寝違え時、後頸部だけでなく、Th3~Th7の高さの頸・胸半棘筋に刺入して、頸を動かす運動針を行うことが効果的なのは、この理由によるものだろう。

 


2)C3~Th7一行刺針

この高さにある横突棘筋に刺針する。これは脊髄神経後枝刺激になる。C1後枝とC2後枝は上行性に分布するが、C3以下の脊髄神経後枝は、すべて神経根から外下方45°方向に伸びる。なおこの反応は撮痛点としても把握できる。症状部から内上方45°方向の棘突起との交点にある背部一行線が取穴部位となり、そこから横突棘筋まで深刺する。

 

C3以下の後枝は、神経根から下外方に走行している。とくに後枝皮膚知覚枝は、症状部から脊髄神経後枝走行を斜め上方45°を下行しているので、後頸部~肩背部に、圧痛硬結もしくは撮痛部を発見できたら、その部位から逆に斜上方45°方向と背部一行(棘突起外方5分)上の交点が治療点となる。頸椎一行の圧痛点に深刺すると症状を緩和できることが多い。

施術の際は、側臥位で顔を下に向かせるように指示すると、頸椎の前弯が減少して頸椎一行の圧痛を触知しやすくなる。

     

3)頸板状筋

頸椎回旋は、その3/4が頭板状筋の収縮により左右回旋45°がC1-C2間で行われる。C2-C7間で、それぞれ上下の頸椎間で少しずつ回旋し、それが積み重ねた結果、15°の回旋運動になり、頸椎全体のしての左右回旋はそれぞれ60°が正常ROMである。C2-C7の回旋主動作筋は、頸板状筋になる。
ただし頸板状筋の障害で頸痛を起こすのではなく、回旋し過ぎぬようブレーキをかけているのが横突棘筋で、本筋が過伸張されて頸痛を起こしている。症状部は頸半棘筋にあったとしても、それは頸神経後枝の神経痛によるものであって、神経痛をもたらしているのは頸部一行深部筋であり、頸部一行への深刺が効果的になる。

 

 


中髎穴刺針の適応症(北小路博司氏の研究)ver.1.2

2024-05-02 | 泌尿・生殖器症状

※令和6年4月11日付けで、カマタ様から当院に11000円のお振込がありました。おそらくCDテキスト代金だと思いますが、カマタ様の住所・電話が分からず、CDをお送りすることができない状況となっています。恐れ入りますが、Eメールにて住所・電話をお知らせください。早急に商品をお送りします。

1.八髎穴の適応

針灸治療において、八髎穴では、次髎穴と中髎穴の使用頻度が高い。一般的に仙骨神経叢の構成はL4~S4脊髄神経前枝からなるので、この代表刺激点としてはS2後仙骨孔部に位置する次髎を使うことが多い。また骨盤神経(副交感神経)と陰部神経(体性神経)は、ともにS2~S4を起始としているので、代表刺激点としてS3後仙骨孔部にある中髎を使うことが多い。
ざっくりいうならば、整形外科疾患である坐骨神経痛には次髎を用い、泌尿生殖器科や婦人科疾患には中髎を使うことが多いといえる。

※ただし木下晴都著「坐骨神経痛と針灸」には、多数の座骨神経痛で来院した患者に対し、腰殿仙骨部で座骨神経痛治療に使用することの多いと思える経穴を10穴程度選穴して治療効果を検討した。その結果、①浅刺よりも深刺が効果あったこと、②どの穴も大なり小なり効果があったが、次髎だけは悪化した、との結果だった。次髎に深刺置針をすると、かえって坐骨神経痛が悪化することがあると記されているが、その機序についての考察までは記していない。  

ところで中髎に刺針して、骨盤神経や陰部神経を刺激するとしても、実際にはどのような疾患に対し、どの程度の効果が期待できるのか、という疑問は以前からあったのだが、どれも自分の臨床経験で語られてきたに過ぎなかった。

この問に対して、北小路博司氏(明治鍼灸大学)は、一連の精力的な研究を継続して行い、かなりの回答を与えてくれた。この内容を総括的にみるには、「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版刊の、<泌尿・生殖器系障害に対する鍼灸治療>が適していると思う。その結果をかいつまんで紹介し、若干の解説を加える。

 

2.中髎の解剖学的特徴

仙髄排尿中枢(S2~S4)に位置する。これらは骨盤神経(副交感神経)、陰部神経(体性神経、自律神経系)の起始する部位で、膀胱、尿道(外尿道括約筋)、および性機能に深く関係している。

 

3.中髎の刺針と刺激方法

第3後仙骨孔に入れるのではなく、第3仙骨孔付近の仙骨後面の骨膜を刺激する。

※上記の刺針を北小路博司氏が提示したヘリカルCTで見ると、確かに仙骨前面に沿うように刺入されている。内臓にまで刺入されていないことも確認できるが、沿うように刺入することは意外に難しく、できるだけ仙骨骨膜をこするように刺激することでもよいだろう。


4.中髎刺針の臨床成績  

1)切迫性尿失禁

神経因性の過活動性膀胱患者の
最大尿期時膀胱容量が増加傾向。切迫性尿失禁患者の60%が、尿失禁の消失ないし改善した。中髎刺針は膀胱容量を増加させる傾向がある。 無抑制収縮を抑制させる傾向がある。

2)前立腺肥大症(第Ⅰ期)

前立腺肥大症第Ⅰ期に対して、週1回の中髎刺針を行い、平均6回あまり施術した。夜間の排尿回数減少、および昼間排尿間隔の延長がみられた。ただし治療終了後は元に戻る傾向があった。

3)排尿筋、外尿道括約筋協調不全 

神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能正常、尿道機能は過活動)で、主訴は排尿困難。6例中、4例で排尿困難が消失、1例は改善した。初発尿意、最大尿意および膀胱コンプライアンスは不変。残尿量の減少も5例でみられた。

4)低緊張性膀胱による排尿困難

神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能が低活動、尿道機能正常)で、主訴は排尿困難。
の者。7例中、1例に排尿困難の軽減がみられた。中髎の鍼治療によって、排尿筋の収縮力を高めることはできなかった。

5)勃起障害

心因性9例、内分泌性8例、静脈性3例、糖尿病性2例、神経因性1例、前立腺症1例の計26例。早朝勃起は全症例に対して改善。性交時の状態は65%が改善(心因性33%、内分泌性88%、静脈性100%、糖尿病性50%、それぞれ改善したが、神経因性その他は不変)。心因性インポテンツが、他の原因によるインポテンツと比べ、予想外に有効率が低い。
註:これはバイアグラと同様の傾向である。


6)Ⅰ型夜尿症(膀胱内圧上昇時にも、浅い睡眠に移行するも覚醒に至らないタイプ)

※Ⅱa型は脳波上、覚醒反応が生ぜず、深い睡眠のまま夜尿する。Ⅱb型は膀胱に生じる無抑制収縮を原因とした膀胱機能障害であり、深い睡眠のまま夜尿する。
薬物療法無効の8例。週1回施術で平均5回強治療。夜尿出現率が10%以上改善した者は4例、10%以下の無効例は4例だった。有効例はすべて初発尿意(膀胱にどの程度の尿が溜まったら尿意として自覚するか)が改善した。機能性膀胱容量の増大と初発尿意の延長が、夜尿症の改善に関係あるらしい。

※最新の知見では、夜尿と睡眠の浅深は無関係であることが分かった。つまり上記成績は、Ⅰ型夜尿症に限定する必要はないであろう。 

 

5.中髎刺針の総括

中髎穴刺針には、つぎのような作用がある。

1)膀胱括約筋緊張を緩める →膀胱容量を増加するので、尿意を減らし排尿回数を減らす。
2)膀胱容量が拡大するので、夜尿が発生する時刻を遅らせる。
3)尿道外括約筋の緊張を緩める →外尿道括約筋の過緊張を緩めることで排尿困難を改善。
4)勃起障害を改善。だたし心因性の勃起には有効率が低い。

※このブログを発表したのは、2006年11月のことだった。あれから約15年経過した。この間、泌尿器疾患患者を扱う機会も百症例以上あったとは思う。これらの患者に対して中国鍼で中髎から斜刺をしてみたのだが、残念ながら、あまり有効だったとの感触は得られなかった。現在、中髎刺針しながらハコ灸を追加したり、陰部神経刺針パルスをしたり、手を変え品をかえつつ、有効性を高める努力を継続中である。以前、迷走神経は口から胃にかけての領域に副交感神経作用をもたすとされていたが、最近になった迷走神経の枝は大腸まで達していることが明らかになった。骨盤内蔵を副交感神経支配するのはS2~S4の骨盤神経である。


6.中髎深刺

勉強会の席上、中髎深刺が有効だったとの報告があった。筆者はこれまで中髎から直刺深刺することはあったが、しっかりした企図をもった治療でなかったので、馬尾性間欠性跛行患者に対して、従来からの陰部神経刺針に加え、新たに3寸#8針を使って、中髎から深刺8㎝ほど行ってみた。すると深い処で響くという訴えが得られた。これも陰部神経刺激となるが、同時に骨盤神経叢を刺激している。深部には直腸があるので、便秘や肛門痛にも効果あるかもしれないと考えている。しばらくの間、追試してみたい。

 


令和6年、玉川東洋医学交友会集会 ver.1.1

2024-04-25 | 講習会・勉強会・懇親会

今回の玉川東洋医学交友会開催時から、山田先生に代わり、私がOB会会長となったことをご報告申し上げます。交友会開催に先立ち、玉川病院東洋医学科OB住所録を整備し、すでに当該の方々にはネットまたは郵送にて住所録をお送りしました。しかしながら移転先不明方も何件がでてきました。お名前、ご住所、電話番号、メールアドレスを当方にお知らせ頂ければ、改訂版住所録を送付いたします。何卒ご協力をお願い致します。令和6年4月25日 似田敦 


令和6年4月20日、9年ぶりで新宿にて玉川病院東洋医学交友会を実施しました。玉川病院研修生はのべ百名ほどいたのですが、研修生制度がなくなってすでに22年が経過し、住む場所も置かれた立場も異なり、集まる機会も減りました。7年前、代田文誌・文彦両先生の墓参りを兼ね、中央線の高尾駅に集まったのは30名を越えたのに、今回は12名と半減以下となり、淋しさを感じます。とはいえ、ある意味で立派なものだといえるかもしれません。集合写真を撮ったので、記録として当ブログに残すことにしました。

2015.5.12  代田文彦先生十三回忌法要

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/89915d838cfae4e1a7b547a7cb86db57

 

 

玉川交友会開催の翌日、パソコン内のデータを検索していたら、1982年頃の玉川東洋医学科の集合写真が出てきました。まだデジカメが普及していなかった頃。
代田文彦先生も現役、本田徹先生も写っています。代田先生と本田先生の間で赤いポロシャツを着ているのが29才の私。それにしても皆、若い。人生これから。


元写真


AIで鮮明化

心霊写真?

左下段にいるのは山田先生。その上にいる黒い服が菊池先生、その右隣で首を出しているのが佐藤先生です。ところで菊池先生の両肩に置かれた手は、いったい誰のものでしょうか? 写真を鮮明化して推理しました。佐藤先生の右にいる盛山先生(白ワイシャツ姿)の右腕が佐藤先生の右肩にかかり、佐藤先生の右腕が菊池先生の右肩にかかっているのではないかと。盛山先生も佐藤先生も右手首に腕時計をしているようです。 


代田文彦先生と日産玉川病院研修2年目の私 

2024-04-23 | 人物像

昔を懐かしがる年令になったのかもしれない。代田先生は63才にて生涯を終えられたが、それから14年経ち、奇しくも私もその年令になってしまった。私はここで日産玉川病院勤務時代のことを記録に残そうと思う。私が玉川病院東洋医学に入りたいと思ったきっかけは、以下のような「医道の日本」の記事を読んだことが強い動機となった。その頃私は早稲田針灸専門学校を間もなく卒業するという頃だった。当時私は午後からできたばかりの医道の日本社新宿支店でアルバイトをしていて、卒後は医道の日本社の社員とになる予定だったのだ。医道の日本社そのものは居心地がよく、待遇面を含めても待遇に満足してたのだが、結局代田文彦先生への憧れが強く、大きな人生の決断をした。医道の日本社専務からは「どうしても日産玉川東洋医学の採用試験を受けるというのならば、医道の日本社を辞めてからにしてくれといわれた。

 

 

 

 

1.日産玉川病院の針灸研修制度があった頃

日産玉川病院とは、東京都世田谷区で東急田園都市線の二子玉川駅から徒歩20分ほどにある中規模病院である。元々は日産グループ関連社員の結核療養所として誕生した。今日でも日産という名称はあるが、普通の総合病院になっている。30年も昔のこと、日産玉川病院には針灸研修制度が存在した。当時、玉川病院には東洋医学に情熱を燃やしている代田文彦・光藤英彦という二人の医師が在籍していた。というのも当時は今以上に相当な医師不足だったので、医師を招聘するには多少の医師のわがままを受け入れざるを得なかったという事情があったという。二人の医師の要望は、「病院で針灸治療をやりたい」という明快なもので、その真意は現代医療の現場に、医療システムの一つとして針灸が参入できれば、新しい方向性が生まれるだろう」とするものだった。

当初、現代医療の場を提供すれば、訓練生各人がすでにもっている東洋医学的な知識と融合するだろうと期待したが、実際にはそうならなかった。入局した新人鍼灸師のもつ東洋医学的知識でさえ低いことに驚いたと代田先生は漏らしていた。そこで研修1年目は先輩鍼灸師の助手として働き、研修2年目から代田先生担当の入院患者を診させてもらう。3年目は自分で針灸外来患者を治療する傍ら、2年目同様に代田先生担当の入院患者を診るという研修3年計画が誕生したのだった。なお私が入ったのとすれ違いで、光藤英彦先生は、玉川病院を辞めて愛媛県立病院東洋医学研究所所長として赴任していった。光藤先生は代田先生より一年年令が上だったが丸顔であり、代田先生はおでこに頭髪がなかったので、一人一緒に講習会などに参加すると、光藤先生が鞄持ちに間違えられたという。 

日産玉川病院は永久就職先とはいえなかった。東洋医学科として、毎年新人を募集するためには、スタッフが増えすぎないよう、自主的に辞めることも求められたからだ。
このように書くと、暗く厳しいイメージをもつかもしれない。しかし、みな若く体力があり、部活のように明るかった。誰もが明るい将来像を描いていた。

 

2.代田文彦先生の超多忙な日常

代田先生は入院患者を常時二十名近くかかえていた。それだけでなく他に週に2回半日の外来を担当し、また週に2回数時間の道路公団の保険医として出張でクリニックに出かけ、また週1日は東京女子医大耳鼻科で外来担当と研究をしていた。入院院患者に対しては日中に個別の診察の他に、朝と夕の回診を毎日していた。入院患者は1日3回顔を見せるというのを信条にしていた。このような超人的な活動を行うために朝8時から回診を始めるというスタイルをとっていた。さらに常勤医師の義務として月に3回の夜間当直があった。
研修制度2年目というのは、代田先生の入院患者を診させてもらうこと(診察と患者との心情的なコミュニケーション)とカルテ書きが主な業務だった。必要に応じて針灸治療も行った。実際に針灸を併用したのは代田先生の入院患者の3割程度だった。
日常的に代田先生も、東洋医学科の鍼灸師も自分のペースで動いたが、週に2回の病棟館カンファレンスや終業後にある勉強会ではじっくりと相談できる時間帯が用意されたいた。

文彦先生が残した資料(スライドや写真)整理していた際に、出てきた二十代の文彦先生のお写真。おそらく自撮り。
奥様も初めて見たとのこと。モノクロなのは致し方ないとしても、ピントとコントラストが甘いことが惜しまれる。

 

モノクロ写真をPCで簡易カラー化してもピントはシャープにならなかった。
しかしさらにAIで高精度化すると、見事によみがえった。
これならば奥様の瑛子先生も喜んでくださるだろう。

 

3.代田文彦先生の乱暴な言葉遣いの裏にある心遣い

私が2年目になって初めて経験する代田先生の当直で、夜間病棟回診ということで午後8時頃、あるナースステーションにいた時、あるの肺性心患者が腰が痛いと言っているとの報告を受けた。私も知っている人で、灸治療も普段から受けていた。代田先生は鎮痛剤であるインダシン座薬をオーダーし、看護士が肛門に座薬を入れた。すると数分後、患者は苦しいと叫び出した。あわてて患者のベッドサイドに駆けつけるも、呼吸できない状況に対して打つ手がない。この患者の病気は安定していると思われていたので、8人大部屋にいたのだが、同室患者他の7名は、夜の8時頃だというのにカーテンを閉め、息を殺してどうなることかと耳をそばたてていたのだろう。物音一つたてていなかった。

間もなく大便が漏れると叫び出した。その直後から意識消失しチアノーゼとなった。私にとって死ぬ間際の人を見たのは初体験でもあり衝撃だった。結局インダシン座薬による副作用のせいだった。インダシン座薬のような当たり前の薬であっても、このような結果になり得ることを知った。
 私が「まさか死ぬとは思わなかった」と言うと、代田先生は「俺は死ぬと思ったよ」と言った。その後は死後の処置が行われるが、それをするのは看護士の役割。プロとして粛々と自分の仕事をこなすのだった。ナースステーションの雰囲気は、慌ただしさはあっても悲壮感とは無縁だった。

最近、私は救急外科である渡辺祐一著「救急センターからの手紙」という本を読んだ。救急センターにおける医師の苦悩を書いたものだが、よくあるテレビのドキュメンタリー番組の内容とまるで違った。この医師も非常に言葉使いが悪いので、思わず代田先生のことを想い出してしまった。病棟内や東洋医学科内で内輪中では、代田先生の言葉使いは結構乱暴だったのだ。救急病院では日常的に人が死んでいる。すると普通であればやりきれない想いがして、厳粛な気持ちになるものだろうと考えたいところだが、ナースステーションでは医師とナースが結構冗談を言い合っている。「今晩飲みに行くか?」「行く行く!」などというやりとりのある雰囲気。それを見ていた新人ナースが、「人が死んだというのに、死に慣れるというのも恐ろしいことだ」と思って憤慨したりする。
実はそうではないのだ。医師もナースも死に衝撃を受けた。しかし自分らはプロだから死には慣れている。そう無理矢理自分をだまそうとしていて、その結果、あえて明るく振る舞っているというのが本当のところだと著者は記していた。


4.病棟カンファレンスにて

おもに2年目と3年目の鍼灸師が、分担して代田先生の患者を診させてもらってたが、週に一回、代田先生担当患者の病棟カンファれンスのまねごとをしてもらった。 2年目は4名、3年目は2人程度の入院患者を担当した。その時、この一週間の病状を報告するのだが、そのときカルテを見ることは禁止された。自分の担当患者くらい、重要点は記憶しているのは当然だろうとする立場からであった。研修生は自分の担当分だけ理解していればいいのに対し、元々は代田先生の入院患者であって、その数は二十名程度にもなったが、現在の処置、検査値を本当に記憶していることに仰天した。こんな頭の良い人はいるのかと思った。このようなカンファレンスは三井記念病院のレジデントで行われているというが、それはエリート医師の方法であって、つくづく自分の頭の悪さを思い知った。


5.代田先生の当直の夜の楽しみ

夜の病棟回診は午後8時頃から始まる。玉川病院には7つの病棟があって、当直医と婦長はこれを順番に回り、看護士から急変しそうな患者に対する状況の報告を受ける。その時、東洋医学科2年目の鍼灸師数名も金魚のフンのようについていく。こうした機会は月に3回程度あった。夜、救急患者が来た時は、守衛さんに東洋医学科にも知らせてほしい旨を伝えておく。
代田先生に時間的余裕がある時、夜の回診終了後、医局に行って酒をごちそうになりながら色々な雑談ができたのは楽しい思い出であった。代田先生は信州大学医学部在籍時、2年生から空手部の主将をしていた。対外試合では相手の打撃がモロに自分の命中しても、痛い顔を見せなかったとのこと。フルートも学習したが、上前歯に隙間があって息がもれて具合悪いので、前歯の隙間を埋めるよう金歯をつくったといって、実際に金歯をみせてもらいもした。学友の前で、本邦初公開などといって得意になったいたという。
そばにいるだけで、こちらが楽しくなるような雰囲気だった。

 


代田文誌のご家族集合写真(1962年)

2024-04-23 | 人物像

長野市のご自宅居間にて(1962年) 元のモノクロ写真

 

疑似カラーに変換、さらにAIで高精度化


代田泰彦氏(文誌先生の次男)から、暑中見舞いのハガキが届いた。コロナのため巣籠もり状態で、昔の写真を整理していたら、今まで忘れていた代田文誌一家の家族写真が出てきたとのこと。それをわざわざ送って下さった。

この代田家の御家族集合写真は1962年、文誌が長野市に住んでいた頃で、文彦先生が二十二歳の誕生日記念ということで座敷で撮影された。文彦先生も松本にある信州大学が夏休みということもあって帰郷し、全員が集まれたのだろう。みなくつろいだ表情をしているのが印象的。
この5年後、文誌は東京の井の頭公園傍に転居し、67才にして新たに治療院「延寿堂」を開くことになる。そのバイタリティに驚かされる。

向かって写真左側から、代田文誌(62才)、泰彦(次男20才)、文彦(長男22才)、千恵子(次女)、やゑ(夫人)、宏子(長女)。文誌先生はこの当時、長野県鍼灸師会会長をしていた。泰彦氏は早稲田大学政経学生、文彦氏は信大医学部学生。

モノクロ写真を手軽に疑似カラー化できることを知った。これまで20代の代田文彦先生のモノクロ写真を載せていたが、これも疑似カラー+AIにて高精度化したのでご覧下さい。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/dd61c3e0d3149c068ee7a941120cfc8f

 


第9期針灸奮起の会「整形外科の現代針灸」実技講習会、只今開催期間中です。ver.1.2

2024-04-23 | 講習会・勉強会・懇親会

先回の令和5年春には、第7期針灸奮起の会「五官科の現代針灸」を、同年秋には「内科症状の現代針灸」の針灸実技講座を実施しました。今回は一周回って元に戻り令和6年「整形外科の現代針灸」の実技講座を行います。講習会の内容も次第に洗練されてきました。以前、参加されたことのある先生方でも満足されることと信じています。
今回の整形外科実技では、これまでの整形の現代針灸内容を取捨選択する一方、新規内容を取り入れています。きちんと病態生理と病態把握に立脚した現代針灸治療をご披露し、この技術をお伝えすることが目標です。初学者対象の講習会が多い中にあって、奮起の会は臨床に勤しむ中堅の先生方を受講対象にしています。これまで奮起の会に参加された先生方の平均治療経験は、約十年です。
実技助手として小野寺文人氏、岡本雅典氏のベテラン勢も配置しました。受講生12名に対してスタッフ3名。受講生は2人がペアとなって実技練習をすることになるので、2ペアに1人が指導するという万全の教育体制です。

参加者の声(M.I先生):
針灸奮起の会!このような勉強会は学校でも一般の講習会でも無いです。遠方からご指導を受けられるのも納得します。
皆さん迷走している中、似田先生のご指導が暗闇のなかの光に感じられていると思います。こんなにご指導頂いている私ですが、まだちょっと闇の中でオロオロしております。患者情報とご指導頂いた内容がすぐ結びつくようにしなければと解っていても、後から『さっきのはこうだった~』と後悔してみたり。こうならないように先生のご指導を叩き込みます。

 


奮起の会マスコット「放心状態で考える君」

1.スケジュール開催時間:午後5時30分~8時頃
各回の定員:12名(定員になり次第〆切) 残席数は4月22日時点です

 第1回 令和6年3月3日(日曜)  午後5時30分~午後8時 背腰痛 終了しました。 
 第2回 3月17日(日曜)  午後5時30分~午後8時 下肢痛 終了しました。


 

    第3回 4月 7日(日曜)  午後5時30分~午後8時 膝痛 終了しました。
 第4回 5月19日(日曜)  午後5時30分~午後8時 頸痛  満席  

 第5回 7月21日(日曜)  午後5時30分~午後8時 肩関節痛 残席1名
 4/8 以下の2講座を追加しました。
 第6回  月  1日(日曜) 午後5時30分~午後8時 上肢症状 残席4

 第7回  9月15日(日曜) 午後5時30分~午後8時 下肢症状 残席5名

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

2.講習会会場::国立市中1丁目集会所
    東京都国立市中1丁目10-34       
  JR中央線国立駅、南口下車徒歩3分
     

3.持参品:筆記用具程度。各回オリジナルカラーテキストを配布し、針灸実技用の道具類は支給します。

4.会費:針灸有資格者7,000円、針灸学生6,000円 

5.懇親会:講習会後、駅前の居酒屋にて。飲食費は実費で3000~3500円程度(当日受付)

6.受講お申し込み方法

参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話 ⑤eメールアドレスを、eメールまたは電話でお伝えください。 折り返しご連絡を差し上げます。参加費は当日現金でお支払いください。領収書発行します。 お申し込み〆切り日は各回とも開催前日午後3時頃までです。ただし参加者12名に達した場合、その時点で受付は終了します。

あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 電話042(576)4418 
メールアドレスnitadakai825@jcom.zaq.ne.jp


講習会内容 

A.腰背痛
A4版,9ページ

A1基礎:撮診法の臨床応用
①撮診と浅層ファッシアの関係
②脊髄神経後枝走行と撮診法の関係
③撮診法に対応した背部一行刺針で、高い治療効果を生む理由

A2症状:膈兪~肝兪付近(胸椎部で肋骨がある部)に感じる痛み
  <胸椎後枝症候群>
①腰背筋痛は、浅層にある起立筋ではなく、深層の横突棘筋(半棘・多裂・回旋筋)に原 因がある。
②治療は、背部一行刺針(棘突起外方5分)から深刺する。刺針体位は、腹臥位よりも側腹位で行う方が効果的。

A3症状:脾兪~腎兪付近に感じる痛み 
 <メイン症候群(胸腰椎接合部後枝症候群)>
①胸椎は回旋可動性に富むが腰椎は回旋できないので、第12胸椎の回旋させる力は第1 腰椎椎体に受け流すことができず、力学的ストレスが生じやすい。これをMaigne 症候群(胸腰椎接合部後枝症候群)とよぶ、
②本症候群には側腹位。Th/ L1棘突起間直側への刺針が効果的である。
③上殿部痛は、メイン症候群ではなく、上殿皮神経痛の場合もある。後者では、腸骨陵を縦走する上殿皮神経のワレーの圧痛点を発見し、この部から水平刺して筋膜癒着を剥すことを考える。

A4症状:上体前屈時にL5~S1椎体間に感じる痛み
<腰椎-仙椎移行部多裂筋過緊張症>
①腰椎は前後屈の可動性に富むが、仙椎椎体は可動性は全くない。
に加わった前後屈の力学的ストレスは、仙椎に受け流すことができず、L5/S1椎間関節は強い力学的ストレスが生じやすい。
②この結果、L5/S1椎間関節と多裂筋がダメージをうけやすく。L5/S1一行刺針が効果的になる。

A5症例:志室あたりの起立筋外縁の鈍痛
<胸腰筋膜癒着または大腰筋筋膜症>
①脊柱起立筋(後枝支配)の外縁には腰方形筋(前枝支配)があり、両筋間には強大な腰仙筋膜(=胸腰筋膜)が発達している。この部の筋膜が緊張すると、腰部深部に広範な鈍痛を起こす。志室から腰仙筋膜に深刺入するとよい。
②腰仙筋膜深部には、腰神経叢があるので、ここから出る神経枝症状に対しても志室深刺が効果がある。大腿外側、陰部鼠径部、大腿前面、体内内側痛に対しても腰神経叢刺針を行う適応がある。
 
A6症状:下背部で起立筋外縁の鈍痛
<外縫線部の筋膜癒着>
①胃倉あたりは外縫線とよばれ、脊髄神経前枝支配筋と後枝支配筋の境界領域である。このあたりは筋構造が複雑であり、筋膜癒着が起こしやすい。
②側臥位で、胃倉から横突起方向に深刺すると、中~下背部に広範に針響を与えることができる。広範囲におよぶ背痛に適応がある。慢性背痛の他に胆石症の鎮痛にも効果がある。

A7補講:八髎穴への刺入技法と治療点の選択
①次髎穴の後仙骨孔から針を入れて貫通させるコツを紹介。
②仙骨神経叢はL4~S3の高さから起こるので、代表治療点としてはS2(次髎)を選穴する。陰部神経はS2~S4から出る体性神経なので、代表治療穴としてはS3(中髎)を選択する。端的にいえば、整形疾患では次髎を使い、泌尿婦人科疾患では中髎。
②ただし実際には、神経枝は後仙後仙骨孔から仙骨骨膜に沿うように広範に分布しているので、後仙骨孔内に入れる必要はなく、むしろ仙骨骨膜刺激を目的とする水平刺を行った方が効果的である。


B.腰下肢痛
A4版,10ページ

1症状:片側の殿部~大腿後側~下腿(前面・外側・後面)が痛む。知覚低下部はない。
<梨状筋症候群>
①梨状筋症候群の真因は、坐骨神経痛ではなく、坐骨神経周囲の梨状筋ファッシア興奮による筋膜痛である。坐骨神経ブロック刺針(中国流環跳)刺針が効果的になる。
②腰椎椎間板ヘルニアは、腰部神経根症状ではなく、腰部椎間関節部の筋膜重積症状である。腰椎椎間関節部~横突棘筋への刺針が効果的である。

B2症状:上外殿部から大腿外側が動かすと痛む。
<中・小殿筋緊張症>
①臀部筋すべては知覚支配はないが、運動成分はあり、トリガーポイントが発生。
②とくに中・小殿筋の筋緊張は臨床で頻回に遭遇するので、側臥位で日本流環跳から深刺すると効果的である。難治性の中殿筋緊張では、横座り位で施術すると効果絶大になる。
③上殿部の強い痛みは、中・小殿筋の痛みではなく、上殿皮神経痛の場合があり、この時トリガーポイントは腸骨陵の腰宜穴あたりに出現する。

B3症状:上殿部外側の痛み・鼠径部痛。歩行時の鼠径部に感じる違和感
<変形性股関節症>
①変形性股関節初期は、 筋緊張で股関節変形に起因した筋膜痛によるものなので、日本流環跳から深刺により速効で鎮痛できるが、変形が進行すると効果は持続しない。短い場合はせいぜい1~2日間にとどまる。自発痛があるような進行期であれば、針灸無効である。
②初期~中期の変形性股関節症では、筆者考案の徒手矯正手技が有効だ。

B4症状:同じ姿勢を続けている時に生ずる腰部の鈍重感と下肢不定症状
<仙腸関節機能障害>
①大多数の腰殿痛は、運動時痛だが、仙腸関節機能障害は静的腰殿痛、すなわち同じ姿勢を続けていると痛くなる。筋膜や靱帯の持続的負荷による痛みの悪循環が正体。
②仙腸関節の関節裂孔底まで刺針し、股関節の屈曲外転自動の運動針が効果的。

B5症状:5分間ほど歩行すると足が前に出にくくなる。 腰をかがめて数分間座っていると、再び歩けるようになる。
<馬尾性間欠性跛行症>
①間欠性跛行は、動脈性と神経性があり、前者は下肢閉塞性動脈硬化症、後者は馬尾性間欠性跛行症でともに難治である。しかし中には陰部神経を圧迫が、間欠性跛行をもたらす場合もあり、針灸適応になる。   
②陰部神経が仙棘靱帯の狭隘部分で圧迫されている場合、この局所への深刺が効果的である。
③内閉鎖筋中をアルコック管が通過する部位での陰部神経絞扼が症状をもたらしていることもあり、アルコック管刺針が適応となる。(ただしアルコック管部の陰部神経絞扼の場合、肛門症状は生ずるが間欠性跛行症状はない)

 

C.膝関節痛
A4版,11ページ

C1症状:慢性的な膝関節前面が痛む。鶴頂穴圧痛(+)。
<大腿直筋過収縮>
①膝関節痛は、大腿四頭筋力低下ではなく、四頭筋の膝蓋骨停止部の過緊張で、痛みを生じていると仮説。
②仰臥位膝関節屈曲位で鶴頂穴を刺激すると効果的。この治効はⅠb抑制理論で説明できる。

C2症状:膝蓋骨外縁(外膝蓋)または内縁(内膝蓋)の痛み。
<外側広筋または内側広筋の過収縮>
①前述C1症例と同様に、外膝蓋や内膝蓋の痛みは大腿膝蓋関節の関節痛によるものではなく、外側広筋、内側広筋の停止部痛である。
②仰臥位膝屈曲位にて外膝蓋や内膝蓋を刺激すると痛みが軽減する。外膝蓋穴や内膝蓋穴から膝蓋大腿関節裂隙に刺入する意味はない。
③膝蓋関節圧迫テスト(+)は、関節痛ではなく四頭筋伸張痛の結果である。

C3症状:膝関節前面の痛みで、内・外膝眼圧痛(+)
<膝関節包緊張症>
①内・外膝眼穴の圧痛は、膝関節包の過敏状態を示す。膝痛で膝を動かさない→関節周囲の筋力が低下→膝関節の動作不安定→関節包が牽引→さらに関節の痛みと炎症を生じる。
膝下脂肪体の増殖は、外的刺激から膝関節を保護する目的がある。
②内膝眼、外膝眼への刺針は、仰臥位で行うより立位で四頭筋に力を入れさせて行うと治療効果が増す。すなわち膝関節包緊張状態にさせての関節包刺針が効果的。
   
C4症状:膝関節内側の鵞足部の痛み
<鵞足炎>
①大腿内転筋群が集合腱となって脛骨内縁部に停止する部を鵞足とよび、伏在神経が皮膚知覚支配している。浅層ファッシアの癒着により伏在神経が興奮した状態。
②鵞足部撮痛(+)は、伏在神経痛によるものでり、圧痛点の皮膚刺激(皮内針など)が有効になる。
③鵞足炎ではハンター管症候群は合併しやすく、ハンター管症候群には陰包刺針が有効。
④鵞足部から下行する伏在神経内側下腿皮枝は、三陰交や地機の皮膚知覚を支配するので、
婦人科症状に多用するこれらの穴は、伏在神経痛軽減意義があるのだろう。

C5症状:膝窩が鈍く痛む
<膝窩筋腱炎>
①大腿四頭筋筋力低下すると膝折れを生じやすくなる。これを防止するため腿四頭筋は瞬時に緊張するが、この結果は脚が棒のように伸びて滑らかな歩行ができなくなる。
②棒のようになった脚を元に戻して膝ロックを外し、歩行可能にするが膝窩筋の役割だろう。
④膝窩筋が過収縮すると、歩行時の膝窩鈍痛を感じることがある。この時の膝窩筋のコリは膝90°屈曲の膝立ち位にさせ、膝窩筋の緊張を触診し、コリ中に刺針すると効果的。
                                           
C6症状:中学生。脛骨粗面部の痛み    
<オスグッド病>
①成長期(10~15才頃)の運動ストレスが膝蓋腱付着部の脛骨粗面部に集中し、膝蓋腱が脛骨粗面部の脛骨靱帯を引っ張ることで生ずる骨軟骨炎で、疼痛は伏在神経膝蓋下枝神経痛による。
②局所治療:筋腱付着部症と捉え、膝蓋靱帯の脛骨粗面付着部のピンポイントとして出現する圧痛点を刺入点とし、浅刺斜刺。Ⅰb抑制として働く。
③膝蓋靱帯と脛骨間に、これを開けるような気持ちで術者の両手母指先を差し入れる。これがⅠb抑制として働き、四頭筋の緊張が緩む。
④仰臥位で膝屈曲にしても脛骨粗面の膝③大腿四頭筋を緩める目的で、拮抗筋であるハムストリングの緊張を高める。(Ⅰa抑制)

 

D.頸腕痛

A4版,11ページ

D1基礎:後頸部の筋構造
①頸は頸椎自体の前屈伸展・左右回旋の動き、および頭蓋骨の前屈伸展・左右回旋動きをする部でもある。
②頭蓋骨を可動させる筋は、後頭骨-C2間にある後頭下筋で、後頭骨-C1は前屈10°伸展25°ROMをもつ。C1-C2は左右回旋45°ずつのROMをもっている。
③頸椎と頭蓋骨を併せたROMは、前屈60°、左右回旋60°後屈50°  語呂:ハイとイイエは60°
④胸腰部浅層には棘筋・最長筋・腸肋筋という固有背筋があるが、頸椎はこれらとは異なり、浅層には板状筋(頭板状筋、頸板状筋)が回旋運動の主動力となっている。頸椎は左右回旋ROMが大きいので、板状筋という回旋専門の筋が発達したのだろう。
⑤胸腰椎浅層筋にある固有背筋は、上半身の重力を支持する抗重力筋としての役割をもつので、強い筋力を必要とする。頸椎における抗重力筋は頭半棘筋で、胸腰椎における抗重力筋と比べて、重力支持するものは頭蓋骨だけなので、強い筋力は不要なのだろうが頭半棘筋一つが大黒柱としての重積を担うこととなった。頭半棘筋がゆるむほどの泥酔状態では、電車のシートに座っていられず、倒れ込んでしまう。

D2症状:顔を下に向けづらい(顎を引けない)。 項部に痛みはないが凝りが強い。
<後頭下筋(とくに大後頭直筋)緊張症>
①後頭下筋は後頭下神経(脊髄神経C1後枝)が運動支配するのでコリを生ずるが、痛むことはない。後頭下筋が収縮不足では、顔を天井にむける動作(うがいなど)ができなくなる。
②大後頭神経と三叉神経(とくに第1枝)はC1~C3脊髄部で連絡している。ゆえに項部が凝る と眼精疲労が生じやすい。(大後頭三叉神経症候群)
③大後頭直筋への刺激は、上天柱から深刺する。大後頭直筋に達する手前で、針は頭半棘筋に入る。頭半棘筋は大後頭神経(C2後枝)を貫いており、C2後枝興奮では大後頭神経痛が生ずる。頭半棘筋自体は知覚支配がないので、痛むことはない。
④大後直筋への効果的な刺針技法は、座位で下を向かせた肢位で上天柱から深刺する。

D3症状:頭を左右に回すと痛む。
<頭板状筋緊張症>
①頭蓋骨の左右回旋は主にC1-C2の間の動きによる。この動きは主に頭板状筋の収縮による。本筋の代表刺針点は下風池が適切になる。
②下風池から刺入すると浅層にある頭板状筋を刺激できる。座位で患側の頭回旋筋を伸張状態にさせた肢位で、同筋に刺針すると効果的である。

症状D4症状:顔を下に傾けたデスクワーク姿勢を続けていると後頸~上背部が疲れる。
<頭半棘筋緊張症>
①頭半棘筋とは頸胸腰部の深層にある固有背筋(半棘筋、他裂筋、長短回旋筋)の一つである。頭半棘筋は、頭蓋骨の重量を支持する大黒柱の役割があり、また頸椎の前後屈の動きの主動作筋である。
②頭半棘筋の下には頸半棘筋があり、その下には胸半棘筋がある。これらの半棘筋は頭や頸は前方に垂れ下がるのを防止している。
③要するに、頸を前後方向に動かしにくい場合、後頭部~Th7の一行刺針が有効である。この一行刺針の高さは、脊髄神経後枝の撮痛帯を調べることで治療点を決定できる。
                                                                                    
症状D5:1週間前の交通事故後、その翌日からいわゆるムチウチ状態になった。痛むので頸を動 かすことが非常につらい。
<外傷性頸部症候群(頸部捻挫、むちうち症)>
①車に乗っていて後から追突された場合、胸鎖乳突筋の過剰伸展による筋微小断裂が生ずる自分の車が前の車に衝突した場合、後頸部の横突棘筋の微小断裂が生ずる。
②胸鎖乳突筋が瞬間的に伸張された直後から、二次的に短縮状態となる。短縮した筋を伸張させる動作で、痛みを生ずる。筋短縮には安静を守るといった合目的性があるので、受傷後1週間程度は安静が重要である。1週間経過後からは、胸鎖乳突筋を伸張させた肢位で刺針する。
③突然加わった外力に対しては、横突棘筋などの力を受け流す遊びがない短い筋ほどダメージをうけやすい。頸部一行刺針を行う。頸部一行の位置ぎめは、撮診法で行う。

D6症状:頸部が痛く、片側の上肢の感覚が鈍い。前中斜角筋に圧痛(+)
<(前)斜角筋症候群>
①胸郭出口部において、椀神経叢と鎖骨下動脈が圧迫されて生ずる上肢の痛みや痺れを胸郭出口症候群とよび、圧迫部位により、頚肋症候群、肋鎖症候群、(前)斜角筋症候群、過外転(=小胸筋)症候群の4つに分類されている。
②近年、MPS(筋筋膜性疼痛症候群)の考え方が発展しており、胸郭出口症候群に限らず頚部神経根症も、筋膜症のことが多いのではないかと認識されるようになった(筋の萎縮がみられれば、これまでの認識による神経根圧迫と考えてよい)。
③さらには椎体の横突起部(関節包)に刺激を与えることが、従来の神経刺激よりも有効だとする見解もみられるようになった。横突起付近は種々の筋が密になっている部なので、癒着が起こりやすいというのがその解釈である。
④針灸治療は、C5~Th1椎体の横突起付近の筋膜癒着部に刺入し、針響を症状部へ与えることになる。代表刺針点は、中国式天鼎(=腕神経叢ブロック点)および大椎一行になる。

症状D7症状:頸部が痛く片側の上肢がピリピリとしびれる。烏口突起内側の圧痛(+)
<小胸筋症候群(=過外転症候群)>
①胸郭出口症候群の一つに小胸筋症候群があり、小胸筋が緊張して、小胸筋と肋骨間を走行する椀神経叢と鎖骨下動脈圧迫されて起こる症状の痛みや痺れをいう。
②小胸筋の緊張を緩める目的で、中府あたりからの直刺を行い、上肢症状部へ響きを与える。

 

.肩関節痛
A4版,13
ページ

症状E1:肩関節の外転90°を超えると、肩関節~上腕・肩甲骨周囲に痛みが出現し、それ以上の外転できない。(他動外転では肩関節ROM制限はない)
<肩腱板炎とくに棘上筋腱炎(または棘上筋腱部分断裂)> 
①筋腱の障害があるとROM制限がおこる。たとえば肩腱板炎では自動 ROMは低下する。凍結肩では他動ROM制限が起こる。
②上腕外転作用があるのは、三角筋と棘上筋で、棘上筋腱の方が構造的に脆弱で、健付着部症を起こす。健付着部を刺激するとが治療になる。巨骨または肩髃から棘上筋腱部に刺入する。

症状E2:中華料理人。鍋を振る時、左上腕外側に痛みが出て力が入らない。    
<三角筋停止部症>
①上腕挙上しての継続作業は、三角筋粗面の健付着部症を起こす。局所である臂臑運動針が有効である。その時の刺針肢位は、上腕外転90°位にする。

症状E3:結髪動作をすると肩痛が生ずる。(他動的には可能)
<肩腱板障害(結髪動作制限)>
①運動制限の原因は主動作筋の筋力低下ではなく、その拮抗筋の過緊張(=短縮)にあり、それを伸張させようとする運動により筋の伸張痛が生ずる。
②結髪動作は、肩関節の屈曲(前方挙上)+外転+外旋の複合運動であるが、屈曲と外転は結帯動作をするための一連の動きなので必ずしも障害されている訳ではない。結帯動作制限の中核となるのは内旋筋で、この過収縮が症状を形成している。それに該当するのは肩甲下筋と大円筋なので、それぞれ肓水平刺(肩甲骨-肋骨間に入れる)や肩貞の運動針が有効となる。
③外転制限に対しては、症例1と同じように考え、棘上筋腱への刺針を併用する。

症状E4:肩関節前面~外側の動作時痛。結帯動作で痛み出現。結髪運動は可能。
<肩腱板障害(結帯動作制限)>
①運動制限の原因は主動作筋の筋力低下ではなく、その拮抗筋の過緊張(=短縮)にあり、それを伸張させようとする運動により筋の伸張痛が生ずる。
②結帯制限は、肩関節の伸展(後方挙上)+外転+内旋の複合運動であるが、伸展と外転は結髪動作をするための一連の運動なので必ずしもROM制限がある訳ではない。結帯動作制限の中核は、外旋筋の過収縮であろう。外旋筋過収縮しているのは、棘下筋と小円筋肩甲下筋なので、それぞれ天宗や臑兪の運動針が有効となる。
③外転制限に対しては、症例1と同じように考え、棘上筋腱刺針を併用する。

症状E5:五十代男性。肩の動きが悪く、結帯動作、結髪動作ができない。自動・他動とも外転70°制限。肩関節の痛みはほとんどない。
<凍結肩(癒着性関節包炎)>
①凍結肩は、急性期、慢性期、回復期という3期に分けられる。急性期は肩関節痛が主訴で関節可動域はあまり制限を受けていない。慢性期は疼痛みに代わり拘縮症状が中心で、肩関節可動域制限が現れる。回復期は、肩関節可動域制限が緩み自然治癒に向かう時期である。一連の経過には6ヶ月~2年を要する。
②凍結肩の急性期初期の段階では、凍結肩に移行するか否かは不明だが、五十才台が最も炎症が拡大しやすく凍結肩に移行しやすい。移行を食い止めるため積極的な運動療法が必要となる。
③五十肩の中心となるのは凍結肩期で肩関節包が癒着した状態(癒着性滑液包炎)である。
この段階になると、有効な治療法は乏しくなるが、少しでも肩関節拘縮を緩めるため、治療院内でも適切な運動療法が行われる。ここでは現在当院が行っている2つの方法を紹介する。
a.仰臥位にさせ、術者は患側上腕を引っぱりつつ、他動的な外転動作を繰り返すことで
癒着を緩める。術者の足は、患者の側胸部にあてるようにする。
b.患者は立位で、術者は患者の患側に移動。柔道の一本背負いの要領で、患者の腋窩を術者の肩甲上部にあて、患者の肘は軽く屈曲させ、上腕を術者がつかみ、腰を曲げる。すると患者の肩関節が引っ張られるとともに、足が浮き上がる。

 

F.上肢症状
A4版,13ページ

 症状F-1   テニスで、右バックハンドでボールを打ち返す際、右肘付近が痛む。
<診断>バックハンドテニス肘(上腕骨外側上顆炎)
  
症状F-2 ゴルフクラブでボールを叩く時、利き手の肘内側が痛む。
<診断>ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎) 

症状F-3 重いものを右手に持つと右側母指の橈側基部が痛む
<ド・ケルバン病(狭窄性腱鞘炎)>

症状F-4 右IP関節を屈曲した母指を伸展しようとしてもスムーズにできない。無理に伸ばそうとするとバネのように弾けて伸びる
<母指バネ指(弾撥指)>
  
症状F-5 右手の母指と示指でモノをつまむ時、右側合谷深部に痛みを感じる。
<母指内転筋症>
  
症状F-6 手掌全体とくに手掌側の母指・示指・中指にピリピリ感疼痛がある。
<手根管症候群>

症状F-7 50才女性。2~3ヶ月前から右示指のIP関節部が腫れて痛む。     
<ヘバーデン結節>


G.下肢症状
A4版,11ページ

症状G-1 歩行中に左足首をひねり、歩くと足外果の直下が痛む。痛みを我慢すれば、何とか歩くことができる。
<急性足関節外側捻挫>
  
症状G-2 両側の足母指基部が「く」の字型に曲がり、腫れて痛む。
<外反母趾>                          、

症状G-3 ランニングをしていると土踏まずあたりが痛み、運動を続けられない。
<足底筋膜炎>
  
症状G-4 歩行時に、足の第3~第4指がビリビリと痛みが走る。
<モートン病>   

 症状G-5 陸上競技選手。短距離走直後に、下腿の脛骨後内側が痛む。     
<シンスプリント>

 

 

 


凍結肩の針灸治療

2024-04-21 | 肩関節痛

凍結肩の臨床症状は、関節症状(癒着性関節包炎や癒着性滑液包炎)と、これに付随した保護スパズムによる伸張時痛の混合したものになる。
ROM制限があり、かつ結髪・結帯動作で痛むタイプで、とくに夜間痛のある者は、非常に苦痛を感じる。このようなタイプが針灸治療を求める。一方、ROM制限があるも痛み少ない凍結肩完成期では、患者は生活に不便を感じるが、あまり痛まないので日常生活を何とか過ごすことはできる。
自覚痛の強い凍結肩の場合、針灸治療はどのように行うべきかのかを考えてみる。

 

2)結髪制限
過緊張状態にある棘下筋(天宗)と小円筋(臑兪)が伸張された際に痛みに対処。

3)結帯制限
過緊張状態にある肩甲下筋(膏肓から肩甲骨-肋骨間へ刺入)と、大円筋(肩貞)が伸張された際に痛みに対処。

上記の過緊張の筋肉が逆ではないでしょうか?私の理解が間違っていたらすみません。

1.ADL制限を生じている過緊張筋に対する治療

凍結肩による肩関節の運動制限の本態は、肩関節の関節包の癒着なので、どうにも対処することができないが、運動痛であれば筋緊張と結びつけて考えることが可能である。凍結肩での主要症状は、次の3つに要約できると思う。

1)外転制限
棘上筋に続く肩腱板のエンテソパチー enthesopathy(腱付着部症)針灸治療は、肩髃深刺で肩腱板を刺激、また巨骨斜刺深刺で肩腱板刺激。

2)結髪制限
結髪制限に関わるのは肩関節の屈曲・外転・外旋であるが、その中核となるのは外旋にあると考えている。肩関節癒着が本態。過緊張状態にある肩甲下筋(膏肓から肩甲骨-肋骨間へ刺入)と、大円筋(肩貞)が伸張された際に痛みに対処。

3)結帯制限
結帯制限に関わるのは肩関節の伸展・外転・内旋であるが、その中核となるのは内旋にあると考えている。肩関節癒着が本態。過緊張状態にある結帯をしようとする肢位にて施術。棘下筋(天宗)と小円筋(臑兪)が伸張された際に痛みに対処。

 ※肩貞と臑兪の位置についての私見
標準的には肩貞は腋窩横紋の後端から上1寸にとり、臑兪は肩甲棘外端の下際陥凹部にとっている。しかし本稿では肩貞を腋窩横紋の下で大円筋上にとり、臑兪を腋窩横紋下で小円筋上にとる。このようにすると臑兪=小円筋では結帯動作の治療穴、肩貞=大円筋で結髪動作の治療穴になるので整理しやすいと思う。


2.結髪動作制限と結帯動作制限制限の運動療法

結髪制限は、肩関節外旋筋の過収縮、結帯制限が肩関節内旋筋の過収縮がROM制限の主役である。これらの伸張がリハ訓練になる。

                 内旋運動→大円筋緊張訓練。結髪動作制限時に。
                 外旋運動→小円筋伸張訓練。結帯動作制限時に。

上図で右凍結肩の場合、両手を右に動かせば、右肩は外旋動作で小円筋伸張訓練になり、左に動かせば内旋動作で大円筋伸張訓練になる。実際の凍結肩では、結髪動作と結帯動作が同時に制限を受けているケースが多いので、本訓練は合理的だろう。

 

3.浅層ファッシアと「次どこ」方式
   
凍結肩であれば、結髪制限に対して膏肓から肩甲下筋刺針および肩貞から大円筋に刺針、結帯制限に対して棘下筋から天宗に刺針および臑兪から小円筋に刺針しても、大した効果のみられないことは非常に多いのが現実である。動作分析による障害筋の推定という方針は、痛みが頸部・肩甲上部・大胸筋部・上肢といった広範に及ぶ場合、治療ポイントが絞りきれない。圧痛点に施術するにしても治療点が多すぎるのである。
 
個々の筋膜の問題、すなわち深層ファッシアではなく、皮下組織に広範に拡がる浅層ファッシアの症状と理解したらどうだろうか。
浅層ファッシアにあって、とくに動作時痛と関係している部位を探りあてるには、「次どこ」方式による治療点の決定が便利である。古くから知られている治療方法だが、このユーモラスな名前は三島泰之氏(著著「今日から使える身近な疾患35の治療法」医道の日本社,2001年刊)で発見した。患者に痛む部位を指差させて刺針し、今度はどこが痛むかを再び指差させて刺針し....といった局所を繰り返す。痛む部が不明瞭になるまで5~10回繰り返す。刺針すると痛む場所が移動するタイプに適する治療法といえる。もし刺針しても圧痛点が無くならなう部位があるから、その上位治療法として局所集中刺絡をすることも考える。
 

4.条山穴透刺
 
1)歴史と術式
 
下腿胃経のほぼ中央にある条口から深刺して下腿後側の承山まで貫くように刺入する。本刺針法は中国の清代以降に発見されたらしいが、わが国には1970年以降に中国から伝わった情報として知られるようになった。原法に忠実に行うには、6寸もの針が必要となるので、実際の臨床では条口と承山からそれぞれ1寸程度刺入する。原著では条山穴刺針は健側を使うとしている。実際には健側患側どちらを使っても効果に大差ない。

 

2)治療効果
 
座位にて刺針したまま何回か患側肩関節の運動をさせると、ROM拡大が得られることもあるが、効果ない場合も少なくない。筋腱性の肩関節痛には有効であっても、凍結肩になると治療効果が落ちるのはやむを得えない。ただし凍結肩だと診断して局所を中心とした治療をして満足のゆく治療効果が出せず、窮余の策として条山穴透刺をしてみると、肩関節可動域が大幅に拡大したこともある。本当に肩関節関節包が癒着していれば効く筈もないから、過度な保護スパズムにより、凍結肩だと見誤った結果であろう。要するに、やってみる価値があるということだ。


3)治療機序
 
条山穴透刺は肩関節痛全般に効果あるとされるが、凍結肩に対する治効性は高くはない。台湾の陳潮宗(元、中国中医臨床医学会理事長)は、条山穴刺針は肩甲上腕関節の動きよりも肩甲胸郭関節の動きが増加することで、肩甲骨上方回旋の可動性も増す作用があることを発表した。これは結髪動作改善に効果のあることを示唆している。肩腱板炎や腱板部分断裂に適応があるのかもしれない。
      
条山穴がなぜ五十肩に有効となる場合があるのだろうか。条口と肩関節の関係はうまく説明できない。しかし承山は陽蹻脈上にあるツボで、陽蹻脈は肩関節にまで流注しているということで、ある程度説明ができそうだ。


シンスプリントの針灸治療   ver.2.1

2024-04-12 | 下肢症状

1.シンスプリント  Shin splints の概念

Shinは向こう脛(すね)、Splintsは(骨折時に使う)副木の意味。まぎわらしいことに短距離走者は英語で sprinter であり、シンスプリントは短~中距離走者に多いこともあって紛らわしい。ランナーの発症率は20~50%と非常に多い。シンスプリントは症候群なので、いくつかの病態が含まれるが、その中心となるのが筋腱膜癒着による滑走障害である。ただ筋の骨膜起始部の牽引痛のこともあり骨膜痛になる。この時の診断名は脛骨過労生骨膜炎である。痛みが限局性で非常に強ければ疲労骨折を考慮する必要もある。
シンスプリントの大部分は後内側シンスプリントで、下腿内方下半分あたりが痛む。少数ながら前外側シンスプリントもあり、下腿前面の上半分の痛みを訴える。



2.重症度分類(Walsh)


ステージ1:運動後に“ジーンとする鈍痛(すねの内側に痛みが多い)
ステージ2:運動中も痛みを感じるようになる。
ステージ3:パフォーマンスに影響(タイムが落ちたり、足をひきずったり)
ステージ4:慢性的で安静時にも持続する痛み。次第に歩行困難となる。


3.後内側型シンスプリント

1)病態 

下腿後側深部筋には、後脛骨筋・長拇趾屈筋・長趾屈筋があり、これらの腱はどれも足内果の下方を通って足指に停止し、足関節底屈作用(つまさき立ち運動)と内反作用がある。足を底屈したり内反すると痛みは増強する。

踵を上げて(足関節底屈)走行するこのと多いランニングやジャンプでは、癒着した筋膜間が滑走障害を起こし、強い痛みを感ずることがある。

後内側シンスプリントは、園部俊晴氏(運動と医学の出版社代表)によれば基本的には長趾屈筋と後脛骨筋の滑走障害により、脛の内側下1/3周辺に痛みが現れるという。ただし長指屈筋とヒラメ筋の滑走障害もあり、ヒラメ筋障害が関与する場合では下腿内側中央あたりに痛みが現れるという。

2)後内側型シンスプリントの針灸治療

①長趾屈筋と後脛骨筋の滑走障害

2寸針を使用。仰臥位で下腿屈筋の長趾屈筋・後脛骨筋に対して三陰交あたりから刺針し、置針した状態で足関節屈伸、そして足の回内回外の自動運動を行わせる。下腿内側の脛骨内縁の下付近の圧痛点を刺入点とする。腓骨下縁に向けて直刺深刺。 


②長指屈筋とヒラメ筋の滑走障害

脛骨内縁中央あたりの痛み。本症状では、ヒラメ筋と長拇趾屈筋間のの滑走障害を考える。仰臥位で脛骨内縁の地機あたりの圧痛点を刺入点とする。2~3寸針を使って、腓骨下端方向に向けて直刺深刺し、足関節屈伸、そして足の回内回外の自動運動を行わせる。

 

③運動療法

踏み台の上に立たせる。その際、踵を踏み台に置き、足の前半分は踏み板の外に置いた姿勢にする。膝を伸ばした状態で、足関節の底屈・背屈運動を大きな動きで30秒間にできるだけ速い動作で行わせる。30秒間休んだ後、両膝45度屈曲位で上記同様30秒間実施。この組合わせを1セットとして3セット実施する。セット間の休みは1~2分間とする。
この運動は、素早く足関節底屈運動を繰り返すことで、筋膜癒着を解消するねらいがある。膝関節を屈曲すると腓腹筋よりもヒラメ筋の運動になる。




3.前外側型のシムスプリント

1)病態
前面外側が痛むタイプ。園部俊晴氏(理学療法士、運動と医学の出版社代表)によれば前脛骨筋と長母伸筋間の癒着による滑走障害だという。足関節が背屈(足指を足背側に向ける)すると痛みが増強する。


 

2)針灸治療 
足三里~下巨虚のやや外方で、前脛骨筋と長趾伸筋間の圧痛を探し、2筋間へ刺針する。そのままゆっくりと足関節の底背屈・内外反の自動運動を行わせる。


4.シンスプリントの針灸治療効果


運動制限を厳守すれば2週間程度で症状が消失する。運動制限ができない場合、早い者だと1ヵ月程度、長くかかる者では1~3ヵ月程度かかる。スポーツ選手は練習できないことにストレスを感じるので、治癒までの見通しを示すようにする。
片山憲史らの針治療集積報告では、14名20肢(平均罹病期間4.6週)に針灸を行い、平均治療期間28日、平均治療回数 4.4回を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 


打膿灸について ver.2.3

2024-04-09 | 灸療法

1.序にかえて

打膿灸をしている処は直接は見たことはないが、焼きゴテ治療は見たことがある。今から約30年前頃のこと、小田原市間中病院の間中喜雄先生の治療見学の時だった。

まず皮下へ局所麻酔注射を行ったかと思ったら、引き続き先端一円玉程度の平たく丸い金属性のコテを火で十分熱し、コテ先端を先ほど局麻注射した部分に2~3秒ほど押し当てた。ジューという音がして白い煙が上がった。間中先生は、いつもながらの治療といった感じで特別の感慨もないようだったが、患者も全く熱がっている様子は見せなかったことにはも驚いた。局麻注射の効果は大したものだと感心もした。 

今日、実際に打膿灸を治療に取り入れている治療院は皆無に近くなった、そうした中にあって、東京では葛飾区の「四つ木の灸」は打膿灸を行う治療院として希有な存在である。打膿灸をした後、吸い出しの軟膏(無二膏のようなもの。詳細後述)を塗ったガーゼ布を渡され、膿が出る頃に貼るよう指示される。下写真は、吸い出しの軟膏布を入れた配布用の袋。関西では東京より盛んで、大阪の無量寿、無量寺、京都のおぐりす灸で打膿灸が行われている。る。


2.打膿灸の方法


①小指から母指頭大の艾炷を直接皮膚上で数壮行い、火傷をつくる

②その上に膏薬や発疱剤を貼布することで、故意に化膿を誘発させる。
※膏薬等を貼っている間、ブドウ球菌や連鎖球菌などの細菌感染が発生すると、黄色不透明の膿を排出する。
③4~6週間頻繁に膏薬類を張り替えることで、持続的に排膿させる。
④膏薬類の使用中止により、施灸局所は透明~淡白の薄い膜のようなものががはった状態になり、間もなく乾燥して痂皮形成する。
⑤痂皮の脱落とともに瘢痕組織となり治癒する。焼け痕は残る。



3.打膿灸に用いる薬剤の意義


打膿灸で火傷をつくった後には、火傷部に薬剤を塗布した布を貼るのが普通である。もし貼らないと、短期間のうちに火傷は自然治癒する。その間、なかなか化膿に至らず、したがって膿も出ない。膿を出すのが打膿灸の治効を生む要素であるから、薬剤の作用はわざと治癒を遅らせ、化膿させて排膿を促すことにある。 


化膿とは、化膿を引き起こす細菌が起こした炎症のことをいう。創傷面にあるわずかの細菌の存在よりも、むしろ異物や壊死組織の存在の方が問題になる。たとえば、傷口内に木片や小石が残っていると、なかなか治癒しない。ゆえに膏薬や発泡薬を貼り付けることは合目的性がある。

 


4.打膿灸に用いる吸い出しの「無二膏」

使用薬剤としては無二(むに)膏が知られる。膏薬とは、薬物成分をあぶら・ろうで煮詰めて固めた外用剤のことで。「軟膏」は異なり、かなり硬いので、火であぶって軟らかくしたものを布に塗り、患部に貼り付けて使用する。


無二膏は江戸時代初期から京都の雨森敬太郎薬房で販売していたが、平成29年に販売中止となった。<その効き目は他になし>という意味から無二膏薬と名付けられた。お灸の後の膿出しのほか、疔、ねぶと、乳腫、切り傷などに使用する。膿は体内に生じた毒素を外に出すという役割があると考えられていた。ゆえに傷口にカサブタができるということきうがわとは、毒の出口にフタをしてしまう悪い現象だと考えられていた。ゆえに「膿の吸い出し」といった効能を謳った。現代では、膿の吸い出し薬を使わなくても、異物接触で同様の作用は引き出せるということになろう。

 

 

※参考:浅井(あさぎ)万金膏

江戸時代~平成に愛知県一宮市浅井町で製造・販売された膏薬。平成9年製造中止。浅井森医院の七代目森林平は、いわゆるタニマチで、大相撲力士には無料で治療した。引退した濱碇(はまいかり)という力士がその薬の行商をしたこともあって、相撲膏との別名がつけられた。

現在の湿布に近いが、硬いので温めてから皮膚に貼り付ける。打ち身、捻挫、肩こり、神経痛、腰痛、リウマチに効能がある。古い広告には、「いたむところによし」とうたわれている。

 


 

 

5.打膿灸の意義と適応症
 
打膿灸は非常に熱い刺激で、火傷も残るので、現在ではほとんど行われなくなった。しかし昭和二十年代頃までは、どこに行っても治らないという症状に対して、起死回生の方法としての需要は残っていた。江戸時代のお灸はもともと大きなもので、打膿灸をして膿を出させることは一つの治療法として確立していた。効率よく膿を吸い出せることが重要だった。

ある一定以上の皮膚にできた創傷は、腫れて熱をもち、その後に膿が外部に流れ、その後に治癒するという順序のあることが知られていた。ところが膿瘍や癰がいつまでも出ない場合、病気の治癒を妨げる要因となっていると考えるようになり、身体内部の膿を出すことが病気の治癒に役立ついという考えに発展し、さらに一歩進んで、人為的に膿を出させることも病気の治癒に役立つという考えに至ったのだろう。
打膿灸の「打」という漢字には、打開という熟語の意味するように、開ける、切り開くの意味もある。

すでに皮下まで出てきた膿は、切り傷をつけることで外に出してやろうとした。この目的で用いたのが古代九鍼の鋒鍼や鈹鍼だったのだろう。

当初は体内の毒を吸い出すという考だったが、打膿灸が効果的に効くような病態は自ずと解明されてきて、結局は腰痛や神経痛など様々な症状に用いられるようになった。

打膿灸の意義を現代医学的な観点からみると、化膿することにより白血球数を増加させて免疫力を高める灸法だといえるので、安保徹氏の免疫理論に通じるところがあるといえる。近年では熱ショック蛋白(ヒートププロテイン)の理論が知られるようになった。しなびた野菜を50℃の熱水に1~2分晒すことで、新鮮さを取り戻すことができる。

近年、湯船の温度は42℃以上にしないことが皮膚に火傷をさせず健康に良いというのが常識となったが、これは本当だろうか。かつて銭湯は非常に熱かった。そこをこらえて湯船に入るのが醍醐味だった。最初のうちは必死に耐えるのだが、次第に痛快に代わり身体の芯から温まった。寒い時期など湯船から上がっても身体がポカポカして気持ちが良く、健康に良いことをしたのだという実感があった。ストレス発散にもなった。草津の湯も48℃程度はあったので、木板で湯揉みして温度を下げてやっと湯舟に浸かれたのだ。いずれば打膿灸の治療理論にも、ヒートプロテインの理論が適用される時代がくるのかもしれない。

 


奇経理論の再考察

2024-04-05 | 古典概念の現代的解釈

1.はじめに

筆者が針灸免許を取得する前から奇経には非常に興味があった。というのも当時の医道の日本誌では、奇経治療がブームとなっていて誌面を賑わせていた。何よりも最初に針灸治療の指導を受けた先生が奇経治療の臨床をやっていたからでもあった。しかし奇経治療のルールに従って治療して効いたという報告が多く、いくら調べても本質的な疑問に対する解答は得られなかった。ルールに従うのではなく、なぜそうしたルールになったのかを知りたかった。
奇経でペアとなる経絡は次のように定まっているが、どうしてペアとするのかにも謎が多い。下記ペアの左側にある陽蹻脈の宗穴を申脈、陰蹻脈の宗穴を照海とするのは納得できるが、それ以外の奇経と宗穴は自経上にないことも納得がいかない。
     

ペアで用いると定められた奇経 の組合せ                                         
陽蹻脈(申脈)---督脈(後渓)                            
陰蹻脈(照海)---任脈(列缺)                             
陽維脈(外関)---帯脈(足臨泣)                           
陰維脈(内関)---衝脈(公孫)             
                             
各経の走行を検討すると、以下の組み合わせの方が自然だと思う。ただし帯脈の宗穴、衝脈の宗穴は定まらない。そもそも帯脈、衝脈に宗穴は不要なのかもしれない。

合理的に考えてみた奇経の組合せ
陽蹻脈(申脈) --- 上肢尺側(後渓)                          
陰蹻脈(照海) --- 上肢橈側(列缺)                           
陽維脈(足臨泣)--- 上肢背側(外関)                         
陰維脈(公孫)  --- 上肢前側(内関)                         
帯脈(?)------ 衝脈(?)   

                        
奇経に似ていて、手根と足根に所定の治療穴を定めておき、その組み合わせで治療するという内容は、奇経治療以外では「腕顆針法」がある。腕顆針は、奇経の宗穴に相当する部を治療点とするが、手首部に6カ所、足首部に6カ所設定していて、十二正経に応じている。下写真がその書籍で、表紙に描かれた6本の帯の図がこれを象徴している。なぜそんなことまで知っているのか。それは表紙デザインは私にやらせてもらったからだ。
奇経は手首部に4カ所、足首部に4カ所の宗穴なので、奇経治療の方が単純化されているという基本的違いがある。腕顆針法は中国の張心曙により考案された。1980年代にわが国には手根足根針と改題され、杉光胤の訳により医道の日本社から出版された。

 

奇経治療については、筆者ブログ2019年12月8日「奇経八脈の宗穴の意味と身体流注区分の考察 ver.2.0」としてすでに説明したが、説明不足の点が多々あった。今回は、わかりやすさに留意して書き改めた。


2.奇経全体の走行  

上図は、私の考えた奇経走行の全体図で、すでに紹介した。ただしこの図の見方について説明をしてこなかった。今回はペアの経ごとに走行を説明する。


3.陽蹻脈と督脈

陽蹻脈は、自経内に宗穴として申脈をもつ。なお「蹻」とは足くるぶしのことをいう。陽蹻脈とは、足の外果を起点とする流注であることを示している。

陽蹻脈のペアとなる督脈は、自経内に宗穴はなく、上肢の後渓を宗穴と定めている。ただ奇経治療はペアとなる二つの奇経の手根と足根にある穴を治療点とするのが奇経治療の原則なので、体幹背面の脊柱を上行する流れから分岐して後渓へと走行するルートを模索すると以下の図のようになるだろう。
Th3棘突起くらいのの高さから肩甲棘を内端から外端までを通過し、上腕尺側を流れて後渓に達する。Th3棘突起と肩甲棘は離れているので、流注が途切れているかのようだが、左右の肩甲骨を内転(肩甲骨内縁を接触させる運動)させるならば肩甲棘内縁はTh3に接触できるだろう。
このように考えることで、後渓-申脈は、手首・足首ペア治療が適用できるものになる。 

4.陽維脈と帯脈

陽維脈は、自経内に宗穴はなく、手根にある外関を宗穴と定めている。
ペアとなる帯脈も、自経内に宗穴はなく、足の臨泣を宗穴と定める。陽維脈の宗穴は外関のほかに、本来は帯脈の宗穴なのだが、陽維脈経内の要穴として足臨泣を定めることにすと、手根には外関、足根には足臨泣となり、外関-足臨泣がペア治療として治療点となり、すっきりした解釈ができるだろう。帯脈については別枠で考察する。

身体の背面で、陽蹻脈と督脈の領域以外の部分が、陽維脈-帯脈の担当領域になる。「維」にはつなぐという意味がある。何をつなぐのかといえば、陽蹻脈と督脈の領域と、後述する陰蹻脈-任脈を領域をつなぐ範囲というのが私の理解である。上図では、肩甲骨が点線で描いている。これは陽維脈は肩甲骨と肋骨間を走行することを表現している。

 

5.陰蹻脈と任脈

陰蹻脈は、自経内に宗穴として照海をもつ。

陰蹻脈のペアとなる任脈は、自経内に宗穴を持たず、手根部にある列訣を宗穴と定めている。奇経治療はペアとなる二つの経絡の手首・足首にある穴を治療するという規則があるから、体幹前正中を任脈・陰?脈が上行して、手首へと流れるルートを考察すると、鎖骨内端から外端へと直角に流れを変え、そこから上肢橈側を手首に向けて列欠へと流れるというルートが想定できる。

6.陰維脈と衝脈

陰維脈は、自経内に宗穴はなく、手根部にある内関を宗穴と定めている。

ペアとなる衝脈も、自経内に宗穴はなく、公孫を宗穴と定めている。内関と公孫に施術することで陰維脈・衝脈の証の治療にあたる。
下肢前面→胸腹部の中央以外の前面と上行し、鎖骨にぶつかると直角に折れて上肢の前尺側を内関に向けて上行する。なお衝脈については別枠で考察する。

7.帯脈と衝脈

帯脈と衝脈は、他の奇経と同列に論じられない。この二経は子宮から始まり、初潮から閉経の期間に機能し、婦人病に関与するという共通性がある。他の奇経が自分自身の生命維持を目的としているのに対し、衝脈と帯脈は、新しい生命を誕生させるための機能に関係している。
帯脈は子宮内の血液を留めていく機能で、衝脈は子宮内の血を月経血として下す機能だろうと思われた。互いに相反する作用になる。帯脈の作用は弱まって衝脈の作用が強くなると月経が始まる。

1)帯脈とは
腰の帯をしっかりと留めておかないと、ズボンが下に落ちてしまう。同様に帯脈の機能が低下すると、子宮から血が漏れ出てしまう。これを帯下とよぶ。帯下とは現代でも使われる言葉で、月経以外の膣からの分泌物、オリモノのことをいう。この意味を広義に解釈し、不正出血や月経異常も帯脈の病証に含める。
 
2)衝脈とは
衝脈の「衝」とはぶつかるような、つきあげるような勢いのことをいう。「衝」のつく経穴には、衝門穴、太衝穴など脈拍を触知する部位であることも多いが、気衝穴のように胃経の走行が直角に折れ、上行した気が勢いよくぶつかる処という意味でも用いられる。衝脈の衝は、後者の意味である。
 
妊娠可能な女性は、生理的に月に一回月経を迎える。その時は帯脈の力が弱くなり月経血を留める力が減る一方、衝脈の勢いが増して月経血を強く下に押し出すことで月経が始まる。妊娠時は月経が停止して、妊娠初期にはツワリが生じるから、悪心嘔吐も衝脈の病証と解釈されたのだろう。


手根管症候群の針灸治療 ver.2.2

2024-03-22 | 上肢症状

1.手根管症候群の概要   

手根管とは、手根骨と屈筋支帯(旧称は横手根靱帯)の間隙をいう。ここを縦走する正中神経が圧迫刺激され、圧迫部から末梢の正中神経麻痺が生じた状態。透析患者、閉経前後と妊娠・出産を機に多発する。

正中神経麻痺は、高位麻痺と低位麻痺(肘から遠位での神経絞扼障害)があり低位麻痺がほとんどである。低位麻痺の代表疾患が手根管症候群になる。円回内筋症候群も正中神経低位麻痺になるがマレな疾患。

※透析アミロイドーシス:透析中、手がしびれると訴える。ある種の線維状のタンパク質が屈筋支帯に沈着して太くなり、正中神経を圧迫。

 

2.手根管症候群の症状・理学検査

1)ファーレンテスト Phalen test     
手首を強く屈曲(掌屈)させる際の痛み。

 

2)正中神経低位麻痺症状

走行部(小指以外の指端)の痛みと異常知覚(ピリピリ、ジンジン)。母指対立筋の筋力低下、短母指外転筋の筋力低下、母指球萎縮。     

 

3.手根管症候群の治療  

1)局所治療点である労宮穴

手掌中央で、第3第4指屈筋腱の間に労宮穴をとる。労宮と手関節掌側横紋の中央 (=大陵穴)を三等分し、大陵に近い側の 1/3を「労宮移動穴」と定める。労宮移動穴から直刺すると、手掌腱膜→手根管(内部に正中神経と長・短手根屈筋腱)→虫様筋に入る。


この治療の直後は手のしびれは若干改善するのが普通だが、症状は間もなく元に戻りやすい。 局所治療に併せて腕神経叢や斜角筋を刺激することも行われるが、針灸が有効か否かは不明。手根管症候群の病理は屈筋支帯による手根管の圧迫にあり、筋々膜刺激ではどうにもならないのかもしれない。

 

2)手の腱に対するグライディングエクササイズ Gliding Exercise(滑走訓練)

手指には、長指屈筋と深指屈筋という 2つの屈筋腱がある。これらの腱は鞘内でまとめられ、その下の骨の近くに押さえつけられている。関節の動きを生み出すため  に、腱はこの鞘内だけでなく個別に滑る必要がある。この訓練は、前腕屈筋側にある浅指屈筋・深指屈筋を強圧した状態で行うと、腱がより伸張されるので治療効果が増す。この治療原理は、バネ指の運動療法、ヘバーデン結節の運動療法と治療と同種のものである。

 

 

 


へバーデン結節の治療 ver.1.3

2024-03-22 | 上肢症状

1.病態
 
1)手指のDIP関節にみる変形性関節症。DIP関節基底部背側中央の伸筋腱付着部を挟んで、2つのコブ(結節性隆起)があるように見える。これは関節の炎症により関節包がゆるみ、摩耗した骨が周囲に骨棘を増生させて骨性の膨隆が生じる結果である。屈曲方向に曲がりはじめる。

 


2)ヘバーデン結節の症状は主に運動時痛だが、初期にはDIP関節が左右対称性に赤く腫脹し、自発痛を伴うことがある。 一方、3ヶ月が経過し、ある程度変形が進んで関節の動きが悪くなると、痛みがなくなる者が多いとされる。しかしいつまでも痛みが去らない者もおり、通院しても痛み止めや湿布を処方するばかりで、医者は頼りにならず、針灸で何とかならないかと来院する。

 

2.腱付着部症としてのヘバーデン結節

ヘバーデン結節部の圧痛点を探ると、DIP関節の2つのコブの間にあることが最も多く、他に左右側面に、そして時にはDIP関節掌側面中央にみることもある。時計の文字盤でいうと12時、3時、6時、9時以外の圧痛点は、あまりない。すなわち圧痛点は、いずれも腱や靱帯部分になる。

2つのコブの意味は、背側側腱付着部組織は隆起し、腱の骨付着部症がある。これは腱付着部  に微細な損傷をうけ、その修復機転としての軟骨化生、瘢痕性肥厚、石灰沈着、骨棘形成などが  発生している状態だとされるが、コブそのものに圧痛はないことが興味深い。痛みの正体は、変形に由来する関節包からくるのではなく、腱付着部症なのではないかとのの見方もできる。(辻田祐二良ほか:いわゆる「指曲がり症」(ヘバーデン結節)発症メカニズム、産業医学、1988)

腱付着部痛は次の機序で進展する。
指のDIP関節の変形
→関節包痛および関節変形にともなう腱痛(指背側にある指伸筋腱、指腹側にある浅・深指屈筋腱、 関節側面にある側副靱帯)付着部痛
→指の屈伸で痛む 
→痛むので指の屈伸運動をしなくなる。
→たまに屈伸運動する際には、以前よりも強い痛みを感ずる。


3.局所針灸治療

へバーデン結節の痛みは、筋腱付着部症と関節包の痛みの2種類あるが、腱付着部症の痛みが 主体になると考えられる。一般に施術直後は減痛できるが、持続作用は一両日なので自宅施灸を毎日行わせる。

1)DIP関節基部背面の左右に、2つのこぶ(へバーデン結節)が出現する。その中点に指伸筋腱が走行しており、鍉針でさぐって圧痛がある部に糸状灸。指伸筋腱の末節骨停止部に圧痛あれば、この部にも糸状灸。施術は、DIPとPIPとも屈曲させた状態で行うと、指伸筋腱が緊張するので、効果増大が期待できる。  
2)DIP関節側面の側副靱帯停止部に細針にて浅く刺針。その状態でDIP屈伸運動実施。
3)DIP関節側面の側副靱帯部に圧痛あれば糸状灸を行う。

   

4.遠隔針灸治療
  
指の背面にある指伸筋腱、および指腹側にある浅・深指屈筋腱に続く筋収縮をゆるめる目的で行う。これはⅠb抑制に相当する。すなわち腱を刺激すると腱の続く筋緊張が緩むと言う生理的現象を利用する。余分な筋収縮がなくなると、腱をひっぱる力も弱くなるので関が屈曲しやすくなる。
浅指屈筋腱(第2~第5指のPIP屈曲)と深指屈筋腱(第2~第5指のDIP屈曲)に続く浅指屈筋と深指屈筋は、下図の位置にある。浅指屈筋と深指屈筋に対する刺針は、手根管症状群と同様になる。ヘバーデン結節のPIP関節掌側面中央の痛みに対しては、浅指屈筋に対する刺針になり、郄門あたりから深刺する。

 

指伸筋腱の延長上にある指指筋に対する施術は、三焦経の四瀆(前腕中央)および三陽絡(四瀆の下方1寸)になる。手関節を背屈させた肢位で行うとよい。

 

 

5.手技療法   

1)指コロ指圧ローラー 

指伸筋腱、指屈筋腱、指でつまんでこするように上下にすべらせるような、商品名「指コロ指圧ローラー」(富永喜代医師考案)で刺激する。本製品はアマゾンで千数百円で入手できる。

2)指元圧迫しつつ指屈伸運動(Flexor Tendon Gliging Exercise)

代田文誌は、バネ指に対し、手首を締めつけるように押圧しつつ、指を屈伸運動させることがバネ指に効果あると発表した。これを追試してみると、ある程度の効果は認めるも、驚くほどの効き目はなかった。それでも患者が自宅で行わせるには適したものだった。筆者は文誌のやり方にヒントを得て、結節ができている腱の延長上にある前腕筋に刺入し、指の屈伸運動を行わせることを考案した。この効果は優秀で、現在でも筆者の得意とする治療方法となっている。

バネ指の針灸治療 ver3.3(2022.6/10)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e5b5616ff27ed725e4841034d9eee012

これと同じような考え方をヘバーデン結節の治療に応用できないかと考えた。
ヘバーデン結節のある指腹と指背の根元を、もう片方の母指と示指ではさむよう強圧しつつ、指の屈伸運動を行わせる。
これは昨夜、寝ている最中に思いついたばかりである。

上記原稿を書いた6日後に、ヘバーデン結節で来院中の患者が来院した。

症例 (50才、女性)
主訴:右小指ヘバーデン結節による痛み、左示指にもヘバーデン結節あり。
現病歴:当院初診(令和5年8月下旬)2~3ヶ月前に上記ヘバーデン結節による痛みを訴えて来院。
右小指ヘバーデン結節の圧痛点は、PIP関節背面中央(指伸筋腱上)、PIP関節掌側中央(指屈筋腱上)、左右の側副靱帯中央の4カ所にあり。左示指の圧痛点は背面、左右側面の3カ所にあるが、掌面にはない。ヘバーデン結節自体は存在するが、目立った隆起にはなっていない。

当初、本患者のPIP関節圧痛点に対して、ゴマ灸それぞれ2壮を行い、関連症状と思えるテニス様症状に対して、短橈側手根屈筋(手三里のやや尺側)に運動針を行った。自宅施灸を行わせ1~2週間に1度施術を行い、6ヶ月ほど経過した。
本日(令和6年2月24日)、次の方法で治療を試みた。治療直後効果は不明だが、③を自宅にて1回20回指の屈伸を1日2回以上をやってもらうことにした。
 ①局所へこゴマ灸、それぞれ1壮
 ②浅指伸筋(郄門の内方で心経上)へ運動針
 ③基節骨圧迫による患指屈伸運動


この原稿を書いている時点で、このエクササイズは私が考案したつもりでいたが、実際はすでにリハ分野では知られている方法で、Flexor Tendon Gliging Exercise (屈筋腱滑走訓練)という。腱の滑走は、現代のリハ訓練で重要視されている。指の屈筋腱には、浅指屈筋腱と深指屈筋腱の2つがあり、これらは腱内でまとめられ、その下の骨あたり押さえつけられている。関節の動きを生み出すには、腱は腱鞘内で個別に滑る必要がある(差動滑走)。腱の滑りが抑制されると、関節の可動域、筋力の低下、協調性の低下、手を使う能力の低下に影響を与えるようになる。適応症は手根管症候群だが、バネ指やヘバーデン結節にも有効だと思えた。


 


腰背部刺針、四つの狙い処 総集編 ver.1.2

2024-03-09 | 腰背痛

 

背部一行刺針(棘突起肺胞5分)刺針と、棘突起外方1寸刺針、さらに棘突起外方3寸からの刺針の相違について整理した。断片的には、これまでも当ブログ内で部分的に説明したものだが、それぞれの違いについても比較検討してみた。私見も多く入っているので、初学者向とはいえないが、本質的な内容を問うものとなっている。

1.固有背筋の種類
     起始・停止とも腰背部にある筋を固有背筋とよぶ。固有背筋は次のように分類されている。


             
     

2.浅層筋
 
固有背筋は浅層筋は起立筋で、起立筋は抗重力筋として作用する。起立筋は棘筋・最長筋・腸肋筋の3種類あるが、これら3筋間はしっかりとした筋膜(ファッシア)で隔離しているわけではないので、筋膜癒着による痛みは起こらない。たとえば最長筋と腸肋筋の筋間はファッシアがないので、ファッシア癒着による痛みは起こりようがない。

起立筋浅層は胸腰筋膜浅葉に覆われるが、腰痛症で腎兪や大腸兪に圧痛はあまり出ないことから、起立筋筋膜は腰痛との関連は薄いと私は理解するようになった。
起立筋を覆う浅層ファッシアや皮下筋膜をターゲットとして1㎝程度の多数浅刺置針をすることはある。背中全般のコリ、体調不良、あるいは不眠症というような、交感神経緊張症に対するリラクセーション目的の治療に使うのが自分流である。


3.深層筋(棘突起外方5分)
棘突起外方5分は、昔から背部一行あるいは夾脊(ないし華佗夾脊)と名づけられた。

第1胸椎棘突起から第5腰椎棘突起までの、棘突起から外方5分(あるいは棘突起直側)から直刺深刺すると、針は浅層で棘筋を貫通して深層で半棘筋・多裂筋・長短の回旋筋それぞれの起始部に入る(腰椎部に棘筋はなく、その代わりに多裂筋が発達しており、多裂筋刺針になる)。支配神経は、脊髄神経後枝内側枝。

専門医の間でも急性腰痛の原因筋として多裂筋が問題だとする見解がみられるようだが、腰椎の棘突起傍の圧痛を調べると、Th12/L1間とL5/S1間を除き、他の腰椎棘突起傍5分には圧痛がみられることはめったにないという事実があるので、私としては多裂筋を急性腰痛の主因と考えることはできないと考えている。

背部一行で圧痛が多発するのは胸椎部で、ここは長・短回旋筋である。胸椎は左右の回旋可動域が大きいので、過剰な回旋のストッパーとしての機能が長・短回旋筋に与えられている。

胸椎の正常可動域を越えた回旋では、長・短回旋筋に伸張ストレスが加わり、これが痛みの原因となるだろう。半棘筋は頸椎~胸椎に分布しているが、頭や頚の重量を支持する意味があるので、胸椎運動との関わりは、長・短回旋筋ほど密接ではない。
 

脊椎一行に圧痛は多発するが、椎体棘突起の側面を母指腹でこすりつけるように押圧した際、圧痛を伴うグリグリした肥厚を触知する部が治療点となる。健常部はこのような肥厚はみられない。正常であれば皮下組織の上層と下層は身体の動きによって滑走するのだが、この間のファッシアの癒着があると、上層のみつまみあげることができず、上層と下層ともにつまむので分厚くしかも撮痛を感ずる。これは撮診法による撮痛部であることを示し、浅層ファッシアの癒着部であることを示している。胸椎背部一行の皮膚知覚支配は、脊髄神経後枝内側枝であり、深部の半棘・多裂・長短の回旋筋も同様に後枝内側枝が運動支配している。


胸椎の棘突起外方5分から深刺して長短回旋筋に刺入すると、後枝外側枝興奮による背痛だけでなく、前枝症状である側胸腹部~前腹部の痛みまで改善できることは、解剖学的に考えにくいことだが、私はこの現象を数十年観察してきた。たとえば本態性肋間神経痛による側~前胸部痛が、多裂筋刺針で改善できるケースが非常に多いことを確認した。

この数十年、慢性虫垂炎と診断された右下腹に限局した痛みも、Th12/L1レベルの夾脊刺針で改善できたりする。 横突棘筋の圧痛と、症状部の位置関係は、脊髄神経の後枝皮枝の走行に従うことを発見した。撮痛帯を調べると、結果として背部一行上の圧痛点を始点として外下方60°(あるいは45°)方向に出現する。

このような反応パターンで最も臨床で遭遇するのが、メイン症候群(Th12/L1間椎間関節症を原因とした腸骨陵上部の放散痛)といえる。実際の針灸臨床では、症状部を確認したら、その内上方60°の棘突起傍の反応を調べ、その圧痛点に刺針するという逆の手順で行う。

 

4.深層筋(棘突起外方1寸)

腰背部の深層筋は椎体の棘突起~横突起間にあるのが特徴で、その起始停止より横突棘筋と総称される。横突棘筋は、浅層から深層の順に、半棘筋・多裂筋・長短回旋筋となる。
 棘突起の外方1寸から深刺すると、まさしく横突棘筋を刺激できる。横突棘筋を刺激するなら、前述の棘突起外方5分からの深刺と大差ないと思うだろうが、外方1寸からの深刺には、体幹前前に回り込むように響くという性質がある。この機序については、後述の「本態性肋間神経痛の針ちりょうについて」を参照のこと。一方、棘突起外方5分からの深刺では遠くまで響くような針響はまず起こらない。

 

1)本態性肋間神経痛の針治療につて

本態性肋間神経は、肋間神経走行部周囲筋(内・外肋間筋)が緊張し、神経を絞扼した結果、
その部より末梢を走行する神経痛だとされていた。しかし改めて基本に立ちかえると、知覚神経は上行性である。たとえば足関節捻挫の痛みは上行性の知覚神経を通って中枢に伝わって、脳が「痛い」と認識される。これと同様に考えると、肋間神経痛は実は筋のトリガーポイント活性の結果として出現した筋の放散痛だろうとする認識がある。これがMPS(筋々膜性疼痛症候群)の考え方になる。肋間神経痛様症状は、横突棘筋のトリガー活性が主因で、その放散痛がたまたま肋間領域に現れたと理解する。

このあたりの詳細については以下のブログを参照のこと。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/2e5b7fa2601d28e0eab6ad97849b80ed

2)咳嗽、喘息に対する針治療について

成書をみると、咳嗽や喘息といった副交感亢進状態となった胸部症状に対して、座位でTh1~Th5棘突起の外方1寸から深刺(または多壮灸)するという治療法が数多く書かれていて、定番治療となっているかのようである。座位で施術するのは、交感神経優位に誘導するための方法。そこに上部胸椎の背部一行に強刺激を与える。肺や気管支の内臓体壁反射中心帯はTh1~Th5なのでこれ体壁内臓反射をねらった施術であると同時に、強刺激することで交感神経優位にするねらいがある。

ところでTh1~Th5棘突起の外方1寸からの深刺は、横突棘筋への刺激を目的としているのだが、このような刺針をすると、脊柱に沿って下方に響いたり前胸壁に響いたりする。これも横突棘筋を刺激した放散痛といえる。


3)柳谷素霊の五臓六腑の針について


膈兪~脾兪付近の高さの横突棘筋に刺入すると、肋間に沿って回り込むような響きが得られるが、肋間神経支配である横隔膜辺縁部を刺激できることが重要である。Th7~
Th12の高さの胸郭深部には、横隔膜停止部が付着している。横隔膜の閾値は低いので、横隔膜に響かせることができる。
横隔膜への針響は、被験者にとっては未経験なことが多く、胸に響いた、胃に響いた、みぞおちにに響いたなどと表現する。柳谷素霊が「秘法一本針伝書」で示した五臓六腑の針(膈兪、脾兪、腎兪)は、この横隔膜神経に響かせたものであると説明できる。腎兪は横隔膜辺縁部ではなく、横隔膜脚を刺激するという意味がある。


                     

             

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/4def4967b4651eb11221c8cf63c3a6ee

 

5.背部3行線(棘突起の外方3寸)
  
背部3行線とは膀胱経背部2行線のことで、志室・胃倉などが並ぶラインである。
志室の取穴は、解剖学的には腸肋筋と腰方形筋の筋間を取穴する。腸肋筋は脊髄神経後枝支配、腰方形筋は分類適には腹筋の一部で腹筋は脊髄神経前枝支配。両者の筋間には胸腰筋膜深葉という強靱な筋膜が発達していて、深部に腰神経叢もあるので、この2筋間を刺入点として針を横突起に向けて刺入すると、広範な針響を与えることができる。
主な適応は慢性腰痛の他に、下腹部・鼠径部・陰部・大腿前面・大腿内側症状に適応があり、尿路結石疝痛の鎮痛にも有効である。

 

胃倉は下中背部でTh12/L1棘突起間の外方3寸にある。このあたりは筋構造が複雑な外縫線部(側腹筋と背筋の接合部で筋が複雑に入り組んでいる)部なので筋膜癒着が起きやすい。胃倉は慢性背痛の他に胆石症の鎮痛に効果がある。

6.まとめ

1)背腰痛は脊髄神経後枝興奮症状なので、背部一行(棘突起外方5分)刺針を用いる。後枝内側枝興奮の原因は、横突棘筋ファッシアの癒着による滑走不良の結果である。
この部の圧痛があると、腰背部の脊髄神経後枝皮枝走行部の撮痛帯もでてくる。このことは、背部一行(棘突起外方5分)刺針は浅層ファッシアの興奮性を軽減する作用があるといえるだろう。

2)体幹前面が痛むのは脊髄神経前枝興奮症状されるが、これは横突棘筋のトリガー活性した筋放散 痛だろうと考えている。針治療としては棘突起外1寸から深刺して横突棘筋に刺入する。
この好例として、本態性肋間神経痛に対する横突棘筋への刺針があげられる。これは横突棘筋の深層ファッシアの興奮性を軽減する作用といえるだろう。

3)Th7~Th12の高さの横突棘筋刺針は、横隔膜辺縁部を支配する肋間神経支配なので、この範囲の棘突起外方1寸からの深刺は、横隔神経を刺激し、横隔膜に響く。これを被験者は胃に響く、あるいはみぞおちに響くなどと表現することが多い。 この刺法を柳谷素霊は、五臓六腑の針と称したのであろう。

4)棘突起外方3寸の流れは、中背部では外縫線、腰部では胸腰筋膜深葉の存在により筋膜癒着の好発部位である。筋膜を刺激して滑走性を回復させる目的で、胃倉や志室から刺針する。胃倉も志室も脊髄神経後枝支配筋と前枝支配筋をしっかりと分離するような強靱な深層ファッシアが存在している。この癒着を改善する効果があると思われた。

 


立位前屈時痛と立位背屈時痛の浅層ファッシアの状態

2024-03-05 | 腰背痛

私の背腰殿痛に対する治療は、背腰殿部の反応を診るため側腹位にして、背部一行線や背部三行腺の反応点を探して刺針することを先行させる。その後、ベッド傍に立たせ、痛む動作をさせる。多くは上体を前屈・回旋させて痛みの程度を自己チェックさせる。これで症状が消失したら好都合なのだが、実際には症状半減する程度のことが多い。追加で治療を続けることになるが、”二の矢”としての治療は立位で行う。
一般的に腰痛は立位で感ずるものである。痛む姿勢にして、痛む処に治療点を求めるのが治療の原則だからである。

1.立位前屈時の痛み
 
1)最大前屈姿勢にての圧痛点施術

立位でできるたけ深く前屈させることで、背腰筋を伸張すなわち浅層ファッシアを伸張させる。この時、椅子やベッドなどに手を添えて上体を支えないようにする。添  え手を置くと、背腰筋への伸張負担が減るので正確な圧痛点を調べることができなくなる。

手は下肢に添えるようにする。そして術者は患者に、「もっと深く腰を曲げて...」と促し、「どこが痛いのかを指さして...」と誘導する。指で示した部に刺針して軽く手技針をする。さらに「今はどこが痛みますか。指で示して下さい」と質問する。すると先ほどの痛む部位とは別部位を示すので、そこにも刺針して軽く手技を行う。3~5回、このような応答を繰り返すうちに、患者は痛む場所を示せなくなる。これで治療終了である。
  
2)腸骨陵での腰方形筋付着部症
   
腸骨陵で、腰方形筋が起始している部が、筋付着部症となっている場合がある。この病態は、立位前屈位で、腸骨陵上縁の圧痛点を調べることで判定する。代表的な圧痛点には、腰宜(ようぎ)や力針(りきしん)がある。立位前屈位で、圧痛点に刺針、雀啄する。ここは筋が強靱なので、寸6#2のような細い針よりも、寸6#4以上の太い針を使うのが適している。腰神経叢や胸腰筋膜を狙っている訳ではないので、深刺する必要はない。
筋付着部を刺激することで、1b抑制は働き、腰方形筋の筋緊張が緩む。

①腰宜:  立位で上体を強く前屈し、腰方形筋伸張肢位。L4棘突起下の外方3寸。即ち大腸兪の外方1.5寸。
腰宜穴から直刺すると下行結腸を刺激できる。木下晴都は、左腰宣を便通穴とよび、習慣性便秘の治療穴としていた。

②力針:立位で上体を強く前屈。L4棘突起下の外方4寸。2寸#4腸骨稜上縁から刺針。


2.立位伸展時痛の治療

腰痛患者の中には、中腰になって治療室に入ってくる者もいる。背中を反らすと痛むという。要するに立位背屈時痛である。このような場合、足指と壁の距離が10㎝程度離して壁に向かって立たせる。顔はどちらか一方を向かせ、胸と頬を壁に密着させるようにする。術者は背腰の起立筋を押圧し、何カ所か圧痛を探す。そして圧痛点に刺針する。その状態で、壁から離れて、上体の屈伸動作を行わせ、治療効果を確認する。効果不足なら、再び壁に向かって立たせ、再度圧痛点と探して刺針する。


3.浅層ファッシアの病理

筋の伸張時痛はファッシアが癒着して伸張時に滑走性の悪いことが筋膜症の原因とさ れている。一方、上体を反らす際の痛みの理由はこれまでうまく説明できなかったが、運動と医学の出版社編「筋膜はなぜ痛い?皮膚のシワ、突っ張りのメカニズム」YouTube動画 をみると、興味深い内容が示されていた。下写真のように分厚い本を縮めるような運動の際、ファッシアを引っ張り上げて剥がされる時のような機序で痛むのではなかとの見方である。
背中を屈曲する時の痛みは、癒着している浅層ファッシアが伸張する際の痛みであり。背中を伸展する時の痛みは、浅層ファッシアが剥がれる際の痛みという見解である。
どちらにしても、深層より浅層のファッシアの方が力学的ストレスが大きいので、深刺する必要はないだろう。

 

 


睡眠のトリビア ver.1.2

2024-03-02 | 精神・自律神経症状

1.睡眠の目的

睡眠の目的は疲労回復にあることに異論はないが、最終回答とはいえない。というのは「疲労とは何か」についての疑問にとって変わることになるだけだからだ。より本質的な回答として、眠りの目的は脳の深部温を下げるためとされている。
体温や脳の深部温は、心身の活動に比例しており、起床時に低く就寝時に高い。前頭葉が過熱すると能力が低下し眠気を生ずる。最初に起こる睡眠は、ノンレム睡眠 (詳細後述)で、脳深部の血流が減少して加熱を防ぎ、また深部体温を強く下げる作用がある。疲労は睡眠中に回復するが、その主役は成長ホルモンによる。

2.レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類ある。起きている間は目は素早く動いているが、眠ると目は動かなくなる。しかしながら90分もすると眠っているにも関わらず、あたかも起きている時のように目が素早く動く現象の起こることに気づき、睡眠の質に違いのあることを発見した。


1)ノンレム睡眠(徐波睡眠)  non-rapid eye movement sleep

ノンレム睡眠は、睡眠の前半に多く現れる。大脳皮質休息の意義があるので、夢をみない。一方、寝返りなど身体はよく動く。睡眠は、まずノンレム睡眠(徐波睡眠)から始まる。このノンレム睡眠には4段階ある。
段階1→段階2→段階3→段階4の順番に深くなる。眠りが浅くなる時は、段階4→段階2となり段階3と段階1はない。これら段階の区別は、脳波に占めるθ波δ波の比率による。

①座って眠った場合、第3段階には移行しない。非常に疲れた状態で第3~4段階に移行した場合、ソファに横に寝込むか、転げ落ちてしまう。

②自然に目覚める時は、1度のノンレム睡眠から覚醒状態になるので気分がよい。急に叩き起こされるなど、4度のノンレム睡眠から覚醒すれば非常に気分が悪い。 
③ノンレム睡眠がとれないと眠りは浅く、病気にもかかりやすい。カゼをひきやすく、ガン細胞の発生を抑制できなくなる。これは免疫細胞であるNK細胞がノンレム睡眠のときに最も活動が活発になるため。


2)レム睡眠 rapid eye movement sleep
    
レム睡眠時の脳波はθ波(ノンレム睡眠の第1段階と同じ)だが、瞼の下で眼が動くので、REM(Rapid Eye Movement 急速眼球運動)睡眠とよぶ。レム睡眠の役割は身体休息にあり、この間骨格筋は弛緩して、その間あまり寝返りなどの動きはないが、精神は活動して夢をみる。夢は見るが、筋はゆるんで動けないのでおもわぬ事故は防げている。生理的な日中活動時は、基本的に交感神経優位状態であるが、このレム睡眠は、きつく巻かれたゼンマイを緩めるように、副交感神経優位状態にする役割がある。
    
入眠後約90分でレム睡眠に移行。約90分周期でレム睡眠が起こり、1回平均20分間持続する。一晩にこの周期を3~4回繰返すが、レム睡眠は明け方に近づくほど時間は長くなる。睡眠の25%がレム睡眠。レム睡眠の比率は、新生児に長く、加齢とともに割合は減少する。

①レム睡眠時、成人男性は生理的に一晩に3~5回勃起する。これは性的刺激とは無関係。「朝立ち」は、最後のレム睡眠のタイミングで目ざめた場合に生じている。
②早朝覚醒や短時間睡眠では、レム睡眠は不足してくる。脳の疲労回復はできても、身体の疲労回復は充分ではないので、自律神経失調をきたしやすい。仮に1回90分未満の睡眠を計8時間分とっても、レム睡眠時間は不十分である。
③筋肉が弛緩して動けない状態「金縛り」は、レム睡眠から急に覚醒した場合に生ずる。

       

 

3.天然の睡眠薬メラトニンと松果体
 
①生物には中枢に体内時計がある。この機能をつかさどっているのが松果体で、松果体から分泌されるメラトニンは、強い光では分泌が減り、暗くなると分泌を増やすことで、天然の睡眠薬として作用する。しかしながら現在主流のベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ、メラトニン薬は、依存性はないものの睡眠誘導作用は弱いという欠点がある。
  
②松果体は、脳の深部中央にあり、松果(=松ぼっくり)の形をした、直径8ミリほどの内分泌器官だが、大脳が進化発達して巨大化した結果、押しやられて脳の中心部に位置し、視覚機能は退化していった。しかし脳の中心にあることで、第六感としての機能だとする見解が生まれた。開眼(かいげん)という言葉は、この第三の眼の能力が身についた、すなわち悟ったという意味になる。

手塚治虫の漫画「三つ目が通る」では、主人公の少年には左右の目の他に額にも目があるが、普段は絆創膏で隠している。無邪気な性格だが、絆創膏をはがすと古代人の力を受け継いだ超能力者と変貌するのだった。


③17世紀のフランスの哲学者デカルトは精神と身体とは完全に交流がないとする人間観を主張する一方、精神と肉体の相互作用を松果体の役割だと考えた。大脳半球は左右に分かれているが、当時の解剖から松果体は中央に一つしかない(現在は、松果体も左右2つあることが判明)ことで、精神と肉体の統合に関係していると推察したのだった。

興味深いことに、バチカン市国のサンピエトロ大聖堂の中庭には、松ぼっくりのモニュメントが鎮座している。

下写真は、地元にある一ツ橋大学図書館の外壁で、ここにも松ぼっくりの装飾を発見した。



③仏像の白毫(びゃくごう。間のやや上に生えているとされる白く長い毛。光を放ち世界を照らす)やヒンズー教のシバ神の額にある第三の目などの神性と松果体との関連は不明。インドの既婚女性ヒンズー教徒がする、ビンディー(前額部への赤く小さな丸模様をつける)は、元来は貞操を守る風習からのものであるが、今日では一種のオシャレとして既婚未婚を問わず行われている。

  

 

 


④眉間は、中国医学では「闕」ともよばれ、古人は肺病の診察点として用いた。「闕」には要塞や都市を守る城壁の大きな門、そして門の間の通路という意味がある。闕はヒンズー教やヨガではチャクラの発する場所の一つとして知られている。チャクラとは体のエネルギーを補給、コントロールするポイントとされている。経穴でいえば、巨闕穴は左右肋骨に挟まれた場所であり、神闕は腹壁が壁のようにそそり立っている体内への入口という意味。

 

ちなみに「厥」は、体内における陰陽の不均衡をさしている。外界から導入されるべき気が滞って体内深部に入らない状況であって、行き場を失った気は体の上部や表に向かって発作を起こすことになる。欮(ケツ)はのぼせのこと。

一方、人相占いは、流派によって呼び名は種々あるが、眉間を印堂と称しているグループがいる。印鑑を押す部位との意味で、これはヒンズー教のビンディーと通じるものがある。なお印堂は鍼灸学ではツボの名称にもなっていることで鍼灸家ではお馴染みになっている。
  
4.不眠の分類


1)神経症性不眠と脳幹網様体興奮

延髄・橋・中脳内部にある脳神経核(白色)と神経線維(灰白色)がネットワークを形成している部分を脳幹網様体と称し、白質中に灰白質が散在する外見をしている。
大脳皮質が興奮して、下行性に網様体賦活系を刺激することで、不眠状態になったもの。その一方で、末梢からの知覚情報は、脳幹網様体を経由し、大脳皮質に伝達され認識される。末梢からの知覚情報には、体内刺激として痛みやかゆみ、体外刺激として身体運動などがあるが、これらはすべて網様体を通過する知覚情報インパルスとして捉えられ、このインパルス数が多いほど意識は明瞭になり、少ないと意識は不鮮明になる。
したがって睡眠誘導には、網様体を通過するインパルスの数を減らすことを考える。具体的には暑さ寒さ、明るさ、雑音を遮断する睡眠環境にすることや、思い悩まないことである。逆に眠気をさますためには、身体運動を行う。とくに歩行(大腿四頭筋)やアクビ(咬筋)は効果的である。 

2)老人性不眠と視床下部機能衰退

老人性不眠は、視床下部の機能衰退が関係している。視床下部の主な役割は、①哺乳類共通の自律神経中枢(体温調節、水分調節、食欲調節、睡眠調節)と、②生体時計(意識に応じた内分泌の活動調整)である。老人の生体時計は、24時間という覚醒と睡眠のリズムを刻むことは難しくなり、分断睡眠や昼寝、早朝覚醒が起きやすくなる。

 

5.不眠の日常的対処法
 
1)寝付きをよくするメラトニン分泌増大
   
眠る予定時刻の2時間前からは、明るすぎない照明にして、睡眠物質メラトニンの分泌を促す。(2時間ほどで充分な量にまで増え、眠くなる)。逆に寝覚めの悪い者は、起床時に眼に強い光を十分浴びる。
 
2)熟眠するACTH分泌増大
       
熟眠感を得るには、眠った後の最初のノンレム睡眠を深くすることが重要である。疲労回復、細胞修復してくれる成長ホルモンは、ほとんどが一回目のノンレム睡眠中に分泌される。
ノンレム睡眠を深くするためには、ストレスホルモン(副腎皮質刺激ホルモンACTH)が必要である。ストレス物質そのものは、眠りを妨げるが、ストレスのない状態に変化すると、ストレス物質は分解されて睡眠薬様物質に変わる。このことは多忙な仕事後や、深い悲しみの後にはぐっすりと眠れるという常識に科学的根拠を与えている。精神的なストレスを除けない場合は、運動ストレスを与えることで、精神的ストレスを軽減させることができる。これを眠る2時間前に行う。