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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

5.観音様

2023年10月15日 | 物語
 毎日毎日、残業である。14連勤は当たり前、過労死寸前で、疲れていても眠れない。
 上司からは罵られ、殺したくなる。
 不眠症になってどれくらいたっただろうか。
 1年、いやこの会社に入ってからだから3年くらいだろうか。鏡を見ると死んだ親父にそっくりで、頬はこけて、目の下にくまが死相の様に出来ている。
 フラフラと会社を後にして、帰る。
 深夜1時、この時間だと電車もバスもないだろう。
 家まで、二駅なので、歩いて帰れないこともない。疲れて、目もかすんでいる。
 このまま近くのビルの屋上から、飛び降りてもいいかもなと思って歩いていると、見慣れない看板が立っている。
 「よく眠れる場所あります。ここから100メートル先」と書いてあって、矢印が山の奥の方をさしていた。
 寝ていなく、この辺にホテルでも出来たのか。家まで歩けそうもないなと思い、矢印の方を歩いた。
 山と山の間に細いあぜ道を通っていく。電灯もなく暗い。携帯のライトを照らした。
 こんな山奥にホテルなんてあるのかと思っていると、石段が見えた。看板の矢印はこの上を指している。
 死にそうなくらいに疲れ果てているが、階段をゆっくりと上がる。
 急な階段で、足が一段一段重い。
 真っ暗で足元がよく見えない。
 横の木の間から変な動物の鳴き声が聞こえている。
 一時上がっていると、また矢印が見えた。この先と書いてある。
 鳥居を抜け、神社の中に入っていく。
 月の光で、後光がさしている小屋があった。
 扉を開けると、穏やかな観音様が温かく大きな手を広げて、座っていた。
 私は吸い込まれるように、観音様の膝の上で横になった。
 疲れ果て、何日間寝てないだろうか。重力がかかったみたいに体が重い。
 目を閉じると、子どもの頃、母親におんぶされ、でんでん太鼓を聞きながら、スヤスヤと眠っていたような記憶が思い出される。
 ここならよく寝れそうだと思った。
 夢と現実の間で、深い眠りに入ると、観音様の目から涙が溢れていた。

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