思わぬメディアの取材 - 「ちょっと変わった店」として地元メディアに紹介される
タロット占いを取り入れた「本日のおすすめメニュー」
これは、ただの思いつきだった。
でも、これが意外なほどお客さんの反応を呼んだ。
「へぇ、今日の運勢で料理が決まるんですか?」
「面白いですね! じゃあ、今日は“太陽”だからスパイシーチキンカレーなんですね!」
「占いもしてもらえるんですか?」
最初は興味本位だったお客さんが、どんどんリピーターになっていった。
ランチタイムに並ぶ人が増え、店の売上も少しずつ上がってきた。
「ユウスケさん、これヤバくないですか?」
ナオキが厨房で興奮気味に言った。
「正直、ここまで反応があるとは思わなかったな……」
「占い好きな人って、こんなにいるんですね!」
“食事”と“運勢”を結びつける発想 が、意外なニーズを引き出していた。
「今日は何を食べよう?」 という日常の選択に、ちょっとした占いの要素が加わるだけで、食事の時間が楽しくなる。
これは、俺自身がタロットをやっていたからこそ生まれた発想だった。
ある日、突然の取材依頼
そんなある日、店に一本の電話がかかってきた。
「はい、○○レストランです」
ナオキが電話を取ると、しばらく沈黙した後、俺のほうを見て驚いた顔をした。
「えっ……!? 取材ですか?」
俺は思わず包丁を持った手を止めた。
取材?
「はい、ちょっと確認してみます……」
ナオキは電話を切ると、俺のほうを向いた。
「ユウスケさん、地元のテレビ局から取材の申し込みが来てます!」
「……マジか?」
「なんでも、“ちょっと変わったお店”を特集するコーナーらしくて。ウチの“占いで決まるおすすめメニュー”が話題になってるみたいです!」
俺は耳を疑った。
テレビの取材なんて、全く想定していなかった。
「いつの間に、そんなに話題になったんだ?」
「たぶん、SNSですね。最近、お客さんが『このお店、タロットでメニューが決まるの面白い!』って投稿してたみたいです」
ナオキがスマホを取り出し、SNSの投稿を見せてくれた。
「“占いと料理の融合” って珍しいし、なんかエンタメ性があるんでしょうね」
確かに、俺ももし客の立場なら、「そんな変わった店があるのか?」と興味を持つかもしれない。
「……それで、取材、受けるのか?」
「もちろんですよ! こんなチャンス、滅多にないです!」
ナオキは興奮気味に言った。
「ユウスケさん、タロットもちゃんとやりましょうよ!」
「……俺が?」
「だって、ユウスケさんがこの発想を作ったんだから、そこをしっかり伝えたほうがいいですよ!」
確かに、俺がタロットをやっていたことが、この店のユニークさに繋がっている。
もしかすると、俺の人生の中で“占い”と“料理”が交わることは、最初から決まっていたのかもしれない。
俺は一度深呼吸して、ゆっくりと言った。
「……わかった。取材、受けよう」
取材当日
数日後、カメラを持った取材クルーが店にやってきた。
レポーターの女性は明るい笑顔で、さっそく店の雰囲気を撮影し始めた。
「こんにちは! 今日は、“ちょっと変わったレストラン”をご紹介します!」
カメラが回り始め、俺たちはインタビューを受けることになった。
「このお店では、タロットカードを使って“本日のおすすめメニュー”が決まるそうですが、一体どういう仕組みなんですか?」
俺は、タロットカードを手に取りながら説明した。
「タロットは、人生の流れを示すものです。食事も同じで、“今日はこんな気分”という直感を大切にすると、より美味しく感じられるんです」
「へぇ〜! では、今日のメニューは何ですか?」
俺はカメラの前で、タロットカードを一枚引いた。
「お、これは“星”のカードですね」
「星、ですか?」
「ええ。希望や夢を象徴するカードです。なので、今日は“爽やかなハーブチキン”をおすすめします」
「面白いですね! まるで運勢を味わうみたい!」
俺は少し照れくさかったが、カメラの前で堂々と説明する自分に驚いていた。
57歳、もう人生は下り坂だと思っていた。
でも、今こうして、俺の考えたアイデアが注目され、取材まで受けている。
これは、タフティメソッドの影響なのか? それとも、「運命の輪」 が俺をこの道へ導いているのか?
どちらにせよ、俺は今、新しい未来を歩んでいる。
「これからも、このスタイルでお店を続けていきますか?」
レポーターが最後にそう聞いてきた。
俺は笑って、はっきりと答えた。
「もちろんです。これは、私の新しい人生の一歩ですから」
カメラが止まり、スタッフが「ありがとうございました!」と言って去っていった後、ナオキが俺の肩を叩いた。
「ユウスケさん、めっちゃカッコよかったっすよ!」
「……そうか?」
「はい! これ、絶対店の人気が上がりますよ!」
俺はふっと笑った。
俺の人生、まだまだ面白くなりそうだ。