占い×料理の融合 - タロットのアドバイスを料理に活かす発想が生まれる
「料理長、やってみるか……」
そう決断し、俺はついに実家を出ることになった。
住み込みの部屋は、店の上にある小さなワンルーム。最低限の家具しかないが、久しぶりの**「自分だけの空間」** というだけで、なんだか新鮮だった。
57歳にしてようやく独立。遅すぎるかもしれないが、俺にとっては大きな一歩だ。
「ここから、何かが変わるんだろうか……」
そんなことを思いながら、俺は店の厨房に立った。
初日の試練
厨房に入ると、ナオキが元気よく声をかけてきた。
「ユウスケさん! さっそくお願いします!」
「おう、任せろ」
久しぶりの厨房。だが、手は自然と動いた。やっぱり俺の中には、料理人としての血が流れている らしい。
だが、現実は甘くなかった。
「ユウスケさん、この店、ちょっとピンチなんですよ」
「ピンチ?」
「ええ……お客さん、思ったより少なくて」
ナオキの言葉に、俺は店内を見渡した。
ランチタイムだというのに、客は数組しかいない。
「こんな状態が続いたら、マジでヤバいです……」
「なるほどな……」
ただ料理を作るだけじゃダメだ。
俺は、どうにかしてこの店を立て直す方法を考えなければならなかった。
タロットを思い出す
夜、部屋に戻って一息ついた俺は、ふとタロットカードを手に取った。
「……そういえば、俺、占いもやってたんだよな」
ここ最近は、タロットなんてすっかり忘れていた。
だが、俺はかつてタロット占い師として生計を立てようとしていた。
結果的にはうまくいかず、店を畳むことになったが、それでもタロットの知識は俺の中に残っている。
「タロットで、この店をどうにかできないか?」
そんな考えがふと頭をよぎった。
俺は何気なくカードをシャッフルし、一枚引いてみた。
──「カップのエース」
「……カップのエース、か」
これは、「新たな感情の始まり」「心を満たすもの」「愛情や幸福」を意味するカードだ。
「もしかして、この店に必要なのは、ただの料理じゃなくて、“心が満たされる何か” なのか?」
俺はしばらく考え込んだ。
料理が美味しいだけでは、人は集まらない。
それだけじゃ、他の店と変わらない。
「占い×料理」
──この発想は、俺の中で少しずつ形になり始めていた。
タロットで“本日のおすすめ”を決める?
次の日、俺はナオキに提案してみた。
「ナオキ、この店、ちょっと変わったことをやってみないか?」
「変わったこと?」
「タロットで “本日のおすすめ” を決めるってのはどうだ?」
ナオキは目を丸くした。
「タロットで……? 料理を?」
「そうだ。お客さんの中には、占いが好きな人もいるだろうし、“今日はどんな料理が出てくるんだろう” って楽しみにしてくれるかもしれない」
ナオキはしばらく考え込んだあと、面白そうに笑った。
「……アリかもしれませんね!」
「だろ?」
こうして、俺の新しい試みが始まった。
占い×料理の新メニュー
俺は、タロットカードをシャッフルし、一枚ずつ引きながらメニューを考えることにした。
例えば──
「太陽」 → 明るく元気な気分になれる「スパイシーチキンカレー」
「月」 → じっくり味わう「きのこのクリームパスタ」
「星」 → 軽やかで爽やかな「レモンハーブチキン」
そんな風に、その日の「運勢」に合わせた料理を提供する。
店の入り口には**「今日のおすすめ料理は、タロットが決めました!」** という黒板を立てかけた。
「これで、お客さんの反応がどうなるかだな……」
俺はそう呟きながら、料理と占いの融合 という、新しい試みにワクワクしていた。
57歳にして、新たな挑戦。
この道が正しいのかは分からない。
でも、「運命の輪」 は、確かに回り始めている。