実家を出るべきか? - 新たな道を進むための決断
「料理長、やってみるか……」
そう口にした瞬間、俺の中で何かが確かに動き出した。
57歳、無職、実家暮らし。
そんな俺が、また飲食の世界に戻る。それも、ただの調理スタッフではなく料理長として。
これは、まさに「運命の輪」が動き出した証なのかもしれない。
俺はもう一度、ナオキからもらった店の詳細を見直した。
──レストランの場所は、電車で約1時間半。
──週6勤務、昼と夜のシフト。
──給与は決して高くはないが、生活には十分。
──住み込みも可能。
住み込みも可能。
その言葉に、俺は目を止めた。
「住み込み……か」
ナオキは「通いでも全然OKですよ!」と言っていたが、店の上に住めるスペースがあり、そこに入れば家賃はかからないという話だった。
つまり──俺は実家を出ることができる。
だが、そう簡単に決断できることじゃない。
実家を出るということは、両親を置いていくということだ。
母は最近、狭心症と診断されたばかり。父も足腰が悪くなってきている。兄貴は遠方に住んでいて、あてにならない。
俺が家を出たら、両親はどうなる?
「……でも、このままずっと実家暮らしのままでいいのか?」
57歳になっても、俺はずっと「実家の息子」でしかない。
確かに、家にいれば生活には困らない。でも、それはただ「現状維持」を選んでいるだけだ。
タフティメソッドの本には、こんなことが書かれていた。
「望む未来をスクリーンに映し、それを信じて行動すれば、現実はその通りになる」
俺が今「実家で両親の面倒を見続ける未来」をスクリーンに映せば、それが現実になる。
でも、「新しい道に進み、独立して生きる未来」を映せば、そっちの方向に進む。
つまり──俺がどちらの未来を選ぶかで、すべてが決まるのだ。
「……実家を出るべきか?」
決断の時が来た。
父と母の反応
その夜、俺は両親に「仕事が決まった」ことを報告した。
「料理長? お前が?」
父は目を丸くした。
「まあ、昔の仲間に誘われてな」
「そうか……まあ、お前がやりたいならいいんじゃないか」
珍しく、父は素直に受け入れた。
母も「よかったじゃない」と喜んでくれたが、俺が「住み込みもできる」と言うと、表情が曇った。
「……つまり、家を出るってこと?」
「ああ、そうなるな」
母はしばらく黙り込んだ。
「……でも、お父さんと私は? これからどうするの?」
「それは……」
言葉が詰まる。
母の心配は当然だった。
俺が出てしまえば、父と二人で生活することになる。
でも、父も年々体が弱っている。
「兄貴にも相談してみるよ。介護サービスとか、使えるものは使ったほうがいいと思うし」
「でも、私たちだけで大丈夫かしら……」
母の不安げな声が胸に刺さる。
「……それでも、俺は仕事をしたいんだ」
母は目を伏せた。
「お前の人生だ。好きにしろ」
珍しく父が口を開いた。
「だけどな……お前が家を出たら、もう戻ってくるなよ」
「……え?」
「いい歳して、またフラフラ帰ってこられても困る。やるなら、覚悟を決めろ」
俺は父の顔を見た。
厳しい言葉だが、父なりのエールなのかもしれない。
「わかったよ」
俺は静かに答えた。
決断
翌日、俺はナオキに連絡を入れた。
「住み込み、お願いできるか?」
「もちろんです! ユウスケさん、ほんとにやってくれるんですね!」
「……ああ、決めたよ」
57歳にして、俺はようやく新しい道を踏み出す。
実家を出るというのは、不安がないわけじゃない。
でも、これ以上、何もしないまま歳を取るのはもっと怖い。
タフティメソッドの本には、こうも書かれていた。
「人生を変えるのに、遅すぎることはない」
俺の人生は、ここから変わるのかもしれない。
いや、俺が変えるんだ。
タフティ・ザ・プリーステス 世界が変わる現実創造のメソッド