奇跡のような仕事のオファー - 友人の紹介で思わぬ仕事が舞い込む
「……話、聞かせてくれるか?」
俺は、目の前に座るナオキの顔をじっと見つめながら言った。
タフティメソッドを実践し、「成功した未来」をスクリーンに映し続けて数日。まさか、こうして具体的な仕事のオファーが舞い込むとは思っていなかった。
俺は、57歳、無職、実家暮らし。
世間的に見れば「終わった人間」と言われてもおかしくない。
でも今、目の前にいるナオキは、そんな俺を「必要な人材」として見てくれている。
「本当に、俺でいいのか?」
「もちろんです! ユウスケさんの料理の腕、知ってますから。俺、昔からユウスケさんに憧れてたんですよ!」
「……そんな大層なもんじゃないさ」
俺は照れ臭そうに言いながらも、心の中でじわじわと嬉しさが広がっていくのを感じていた。
「具体的に、どんな店なんだ?」
「カジュアルなレストランなんですけど、料理長が突然辞めることになっちゃって、今、新しい人を探してるんです。でも、急だからなかなか良い人が見つからなくて……」
「料理長?」
「ええ、料理の総責任者ですね。メニュー開発とか仕入れの管理とか、キッチン全体のまとめ役です」
「……俺が、料理長?」
俺は思わず苦笑した。
「ナオキ、俺はもう57歳だぞ? しかも、しばらく飲食業から離れてたんだ。そんな俺が、いきなり料理長なんて……」
「ユウスケさんならできますよ!」
ナオキは食い気味に言った。
「昔、一緒に働いてたとき、ユウスケさんの料理のセンス、マジですごかったじゃないですか。俺、ずっと覚えてますよ。あの時、ユウスケさんが考えた新メニュー、めちゃくちゃ評判良かったですよね?」
「……そんなこともあったな」
確かに、20代の頃は料理に全力を注いでいた。
メニューの開発も好きだったし、お客様に喜んでもらえるのが何より嬉しかった。
だが、現実は厳しかった。
飲食業界の過酷な労働環境、安月給、長時間労働……。それが嫌になって、俺はこの世界から離れた。
それなのに、今になってまた戻るのか?
「運命の輪は回り続ける」
ふと、タロットカードのことを思い出した。
俺は「塔」ではなく、「運命の輪」のカードを引いた。
つまり、これは「新しい流れが生まれる」ことを示していた。
「……どうする?」
心の中の俺が問いかけてくる。
再び飲食の道に戻るのか? それとも、また別の未来を模索するのか?
俺は、静かに目を閉じた。
「自分の人生を再編集しろ」
あの老人の言葉が、頭の中でこだました。
料理人としての道を諦めたのは、過去の俺の選択だ。
でも今、目の前には新しい可能性がある。
「……給料はどれくらいだ?」
俺がそう聞くと、ナオキはパッと顔を明るくした。
「やってくれるんですか?」
「話だけ聞かせてくれ」
「ありがとうございます! 具体的には、月給◯◯万円で……(※詳細省略)」
ナオキは熱心に条件を説明してくれた。
正直、めちゃくちゃ良い待遇とは言えないが、57歳の無職に舞い込んだ話としては、悪くない。
何より、俺の腕を信じてくれる人間がいる。
「……よし、やってみるか」
俺はそう呟いた。
ナオキの顔が、子供みたいに嬉しそうに輝いた。
「お前の未来は、まだ何も決まっていない」
あの老人の言葉が、俺の胸の中で確信へと変わった瞬間だった。