学校教育を変えていこう!

学校教育はおかしいぞ。中学校の教員として働く30代の男です。日々の業務に追われながらも学校教育の中で抱いた違和感を書き記していこうと思っています。

学力とは

全国学力・学習状況調査」(以下、全国学力テスト)が2007年に再開され、すでに10年を超える月日が流れました。毎年8月頃になると都道府県別の平均点が公表され、その順位が報道されるので、教育にそれほど関心がなくても全国学力テストの存在は知っている方が多いと思います。

 

 文部科学省によれば、全国学力テストは大きく二つの目標を持っています。

1つは国の教育政策に活かすという側面です。全国の児童生徒の学習状況を国がモニターし、教育政策に活かすための基礎資料とするというものです。EBPM(Evidence Based Policy Making: 証拠に基づく政策立案)の重要性が叫ばれる昨今、教育分野でも、こうした「政策のためのテスト」が必要だということは、多くの人が納得すると思います。

もう一つは、個々の学校の指導に役立てるという側面です。そこには、せっかく数十億円もの予算をかけて学力テストをするのだから、その成果を調査に参加した一人一人の子どもに還元できる「指導のためのテスト」として役立ててほしいという思いがあるようです。

 

 この二つの目標を同時に達成するために選択された調査法が、毎年度、すべての小学六年生と中学三年生を対象に、学力テストを実施するという方法です。そこにはおよそ次のような発想があります。

まず、子どもたちの学習成果を知るためには、その総まとめである小学六年生、中学三年生の学力を把握すれば十分である。一人一人の子どもの点数がわかれば、テストを指導のために活かすことができる。そして、子どもの点数を学校ごと、あるいは自治体ごとに平均していけば、個々の学校・自治体の課題もわかるだろう。現行の全国学力テストの背後には、このようなある意味でシンプルな発想があります。

 

 こうした一人一人の子どもの点数を学校(あるいは自治体)ごとに平均すれば、その学校(自治体)の課題がわかるに違いないという考え方は、全国学力テストに関わる議論でも、しばしば目にします。各自治体(学校)がわずかでも平均点を上げようと必死になって努力しているのも、自治体(学校)の平均点が、その自治体(学校)の学校・教員の質を示しているに違いないと思われているからです。全国学力テストの点数が振るわないことを問題視し学校ごとの点数を公表すべきだという意見や、点数の低い学校の教員にペナルティを与えるべきだという見解の背後にも、こうした考えが潜んでいます。

 

 学校(自治体)の平均点が、学校や教員の質の表れだと考える人は少なくありません。まず、この発想が完全に誤っています。

 学校や教員の質というよりも地域の特性が大きいと思います。また、後で触れることになりますが、子どもたちや保護者が学校で望んでいる学力と、教員側が望んでいる学力、政府が図ろうとしている学力に考え方の違いが見られます。

国語で考えると非常にわかりやすいのですが、受験で「作文」が課されることはまずほとんどありません。「話す」こともありません。もちろん特殊な受験や推薦入試等で「面接」がある場合は別です。ただ、多くの場合はその受験を迎えるときだけ急に意欲的に学習を始めます。そう考えると塾で作文や話す力を高めることはありません。

 

 全国学力テストは、一人一人の子どもの指導に活かすという「指導のためのテスト」のロジックを前面に出すことで、どの子どもも同一のテストを受ける悉皆実施を正当化しています。

ところが、現実的には、時間の制約から出題できる設問の数はどうしても限られます。そのため、現行の全国学力テストでは、さまざまな領域を持つ国語・算数(数学)のごく一部しか測定することができません。せっかくすべての子どもが受験するのに、日本の子どもの国語・算数(数学)の全体像はよくわからないという状況になっているのです。これは「政策のためのテスト」という視点から見て問題があると言わざるをえません。

 

 ちなみにこの問題を回避するために、PISA(OECD経済協力開発機構〕の実施する国際学習到達度調査)などの大規模な学力調査では重複分冊法という手法が利用されています。これは、用意した数百問の問題を複数の冊子に分割し、個々の子どもには、それぞれ異なる一冊の冊子の設問を解かせるという方法です。一人一人の子どもは異なる冊子に回答していますので、単純にその成績を比べることはできません。その一方で、国全体で見れば、幅広い領域を調査でき、全体の学力実態を適切に把握できます。

 

 全国学力テストには、他にもさまざまな設計上の問題があります。学力の水準以外の「付加価値」という発想が導入されていないこともその一つです(本シリーズ第一回の中室牧子氏の記事を参照)。学校・教員の努力の成果を知るためには、ほんらい複数時点の学力調査を行い、「成績の伸び」を測らなければなりません。しかし、全国学力テストは悉皆実施に予算を使い切ってしまい、「政策のためのテスト」に必要な複数時点の調査ができなくなっています。

 文章が長くなったのでここらで終わりにしようと思います。とにかく、あまり価値のない「全国学力調査」に大金を使っていることに異議を唱える人が多くなることを期待しています。

 

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