三国志をテーマにしていた戦略シミュレーションゲーム(※1)をしていると、三国志の世界ではありえないこと、現実味に欠けていることに遭遇し、三国志から離れているように感じる場合があります。歴史・現実感・専門性とゲーム・エンターテインメント・一般性のどちらに向かうか考えた結果、三国志をいかにシミュレートするかではなく、ゲームとして成立することを優先した結果なのかもしれません。それでもなお、やはり三国志の世界観や現実に近づけて欲しいという箇所があります。今回はそういった部分をまとめていきます。

1.歴史のifをどこまで許容するか

三国志を戦略シミュレーションゲームにする以上、クリアが不可能な人物や勢力が存在するなら、ゲームとして成立しなくなります(※2)。しかし、実際の三国時代は約100年に渡る争いの末、晋の司馬炎の時代に統一されます。司馬炎、広く解釈すれば司馬氏以外が全土を統一すると、それは歴史から外れており、いわゆる歴史のifになっています。誰もが全土統一できることは、三国志と言えるのか言えないのか、非常に難しい問題です。

夷陵の戦いでの劉備や官渡の戦いでの袁紹はほぼ勝てず、諸葛亮が何度北伐に挑んでも撤退し、曹操でさえ全土統一が果たせず次の世代に引き継がれるようだと、三国志の世界に準じているかもしれませんが、ゲームとして成立するのか疑問を感じます。逆に曹操が赤壁で孫権と劉備を倒し、関羽が樊城に籠る曹仁を破り、金旋や趙範でもクリアできることは、三国志とは異なる展開ですが、ゲームとして成立させるにはやむを得ないのかもしれません。

また、戦いの勝敗以外にも、孫策が刺客を撃退する、周瑜や郭嘉が長命である、徐庶が劉備の元に残る、龐統[ホウ統]が落鳳坡で一命を取り留める、曹操が呂布を受け入れ配下にするといった、人物視点でのifがあります。これらも三国志と異なりますが、まったく認められないのもゲームとしての楽しみが損なわれる面が出てきます。

さて、ここで歴史を題材にしたウォーゲーム(コンピューターではなくボードゲーム)になりますが、歴史に沿った展開になりやすいゲームと、プレイヤーの選択や運次第で様々な展開があり得るゲーム、どちらに傾かせるのかという議論を見たことがあります。歴史に沿った展開になりやすい、裏を返すと歴史に逆らえば勝利しにくいようなゲームだと、歴史のifに対する許容度が低くなり、何をやっても似たような状況になります。そのため、思考や戦略よりも乱数(主にサイコロ)の運任せでゲームが進み、リプレイ性に欠けるデメリットが発生します。では、様々な展開があり得るようにすると、実際の歴史から離れてしまい、歴史をシミュレートしていると感じにくくなるというものです。これはウォーゲームで表現したいことを歴史のシミュレートに寄せるなら「歴史に沿った展開」に傾かせ、遊びであれば「様々な展開があり得る」に傾かせるのでしょう。ただ、ボードゲームであれば概ね数時間で終了するため、思った結果にならなくても再プレイしやすいところは、コンピューターゲームとの違いだと思います。

話をコンピューターゲームに戻すと、戦略シミュレーションゲームは数時間から何十時間もかけてクリアするため、あまりに歴史寄りにしてクリアできる見込が薄くなったり、毎回同じような展開になったりすると、ゲーム性が損なわれるのではないでしょうか。これが「三國志英傑伝」(光栄、現コーエーテクモゲームス)のように、三国志のストーリーをなぞり、戦いごとにステージ化されたゲームであれば、歴史のifを織り交ぜながら三国志を追体験しやすいように思います。しかし多くの戦略シミュレーションゲームでは、ゲームのスタートからクリアまで時間が連続しており、どういった行動をするかもプレイヤーの自由であるため、どうしても歴史の流れから外れた展開になってしまうのでしょう。プレイする側としては三国志を追体験したい思いはありますが、戦略シミュレーションゲームは自由度の高さから相性が悪く、ストーリーと全く違う展開になるのは仕方がないのかもしれません。

それでもなお、三国志のストーリーから外れた状況になれば、フェアではありませんがコンピューターの強さや行動を調整し、歴史の必然性や歴史に抗う難しさを表現して欲しい思いはあります。

『戦略シミュレーションゲームで三国志とゲーム性のどちらを取るか(二・人物に感情がない)』に続く

(※1)
いわゆる「国盗り」タイプのシミュレーションゲームを指していますが、具体的なタイトルが対象になっているかは、拙稿『戦略シミュレーションゲームで三国志をテーマにすることとは(上)』に記載しています。

(※2)
コンピューターのレベルを強くし、金旋、厳白虎、公孫淵といった弱小勢力や、高齢の人物を選ぶとクリアが極端に困難になることは知った上で、このように表現しています。セーブとロードを繰り返せばクリアできる状況を、ゲームとして成立していると言えるかは判断しづらいですが。
 

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