南郷京助著「人工美女ジャクリーン」は「サスペンス・マガジン」に1968年4月号~9月号に連載されたSM小説です。
1969年には路書房の「S・M双書 第3集 海底王国の女囚」の中の「地獄の人工美女」として所収されています。
南郷京助氏の書かれたSM小説は常にダークエンドですが、ここではそれが相応しく感じられます。
というのも、ほとんどのM男にとって、或いは、M嗜好で女装趣味の方(女装子)にとっては、<性奴隷美女に肉体改造され、奴隷市場で売られて、その屈辱と恥辱の中で、性玩具として調教されて生きる>ことが憧れであり、夢のような話であるからです。
尚、この小説に現在のようなSEX描写や陵辱場面がないのは、この時代が<性描写=猥褻>に対して、大変厳しかったからです。
SM趣味は変質者・犯罪者扱いされてはいたものの、緊縛趣味は文化芸術の一端として見逃されていたとも言えます。
それはジョン・ウィリーのボンデージを基調とする「BIZARRE」も<性>の臭いがないので受け入れられ、SMクラブが現在も風俗店とは別扱いされているのと同様です。
しかし、「奇譚倶楽部」から続いた「裏窓」というSM雑誌が廃刊になったのも、女性の緊縛姿の後ろに布団が敷いてあって、それがSEXを感じさせるという理由だったように、油断は禁物だったのでしょうね。
【あらすじ】
孤児院・感化院で育った主人公は、感化院の年上の男性によって、男であるのに<女>に目覚めていく。
彼はその男の紹介による女性下着の通信販売会社で働くことになったが、その仕事を続けていくために必要な条件を言い渡される。
それは仕事をこなしていくためには性転換手術には大金がかかり借金をすることになるが、その借金を返済するための仕事も世話してくれるという話だった。
世の中は酷い就職難で徴兵令も待っている事情から、彼は生きるためにも、女性となることを決心するのだった。
奇妙な誓約書に署名して手術を承諾した彼だったが、手術の直前で拘束されることを知った時に不安と恐怖で逃げ出そうとした。
それでも、彼は捕えられ、手術は強制的に行われた。
目覚めた彼はすでに自分が女性になったことを知った。が、同時に、彼が署名したのに逃亡しようとした理由により、会社では<C級>として扱われることになった。多額の借金がありながら逃亡されないために、常に拘束具を身に着けて生活しなければならないのだった。また、彼は「ジャクリーン」と名づけられ、かつらや華麗な衣装が与えられた。命令は絶対で、後ろ手に皮枷を受け、生ゴムのパンティを履かされた。
不安もあり、恐ろしくもあったが、同時に、それらを身に着け、女上司に「美しいわ」と褒められ、鏡を見ている内に、ふと彼は自らも認める美しさと女性になった喜びに陶酔さえし始めるのだった。
しばらくして、彼、いや彼女は、手術後の経過を見る肉体検査を受けてから、鍵の掛かる銀の首輪を「美しく見せるための装身具」として装着された。
その内に、彼女は枷も外され、<B級>として扱われるようになるが、そこでの仕事は扇情的な衣装を身に纏って踊ったり、局部に穴のあいた恥辱的な下着を身に着けて男性客の相手をすることだった。
あまりの恥ずかしさに客に抵抗した彼女は罰を受けるが、それでも数年間、会社の地下で懸命に働いて、借金のほとんどを払い終えるようになった。
そうして、恋人もでき、地下の暮らしも裕福になってきた頃に、大きな罠が待っていた。多額の借金を背負わされ、犯罪者の汚名まで着せられたのである。
彼女は四肢に鉄の枷を嵌められ、深い地下の懲罰室で鞭打たれた。そして、抗う気力もなくなった彼女(彼)は、性奴隷として一生を会社に捧げる誓約書に署名してしまうのだった。