
本書の核心的なメッセージは、
「どこに身を置くか」で人生は大きく変わる。
ということ。
いくら能力を高めても、そもそも衰退産業やスキルのコモディティ化が進んでいる業界にずっといると、長期的なリターンは得にくい。
むしろ、しっかり伸びている業界で、かつ自分が最も強みを発揮できるポジショニングを探すことが重要だと説きます。
私はこれまで、就職・転職の選択をするときは常に「自分の好き嫌い」や「その時の気分」に左右されがちでした。
けれども山口さんの本書を読んで、「もしかしたら“どの会社・大学に属するか”よりも、『どの産業領域に身を置くか』を基点に考えることが大事だったんだ」と、目からウロコでした。
ポイント1:「人生はプロジェクト」×「4つの資本」
本書では、人生を一つの「プロジェクト」(あるいは「ゲーム」) としてとらえ、時間資本・人的資本・社会資本・金融資本の4つの資本をどう活用していくかが重要だと述べられます。
- 時間資本
1日は24時間で全員に等しく与えられている、いわば自分の“持ち時間”。これをいかに活かすか。 - 人的資本
スキルや知識、経験値の蓄積。20代~30代のうちはとにかく大胆に“学び”と“チャレンジ”に投資したほうが、長期的には高リターンになる。 - 社会資本
ネットワークや評判、信用。コツコツ築いておくと、後々“思いがけない仕事”や“新しい機会”がどんどんやってくる。 - 金融資本
いわゆるお金や株・不動産などの資産。若い頃はリターンを最大化するために「自分」へ投資するほうがよい場面が多い。
ただし、いつかは経済的安定性も幸福度には不可欠なので、「長期ゴール」を意識しながら戦略を立てる。
これら4つの資本を常に「どう増やすか」「どれを伸ばすべきか」を考えるという視点は、私にとってまさに新鮮でした。
大学を出てすぐ社会人として働くと、多くの場合“時間資本を切り売りして”金融資本を得る、つまり「とにかく時間をかけて労働収入を得る」形に陥りがちです。
少なくとも私の場合、「忙しく働けばスキルも上がるだろう」と単純に思っていました。
しかし実際は、同じ時間を投下しても「人的資本」や「社会資本」を育てない仕事ばかりしていると、長期的に見て自分の市場価値は上がりません。
山口さんいわく、
「アルバイト的な働き方や、単なる作業の延長だけでは、人的資本や社会資本が積み上がらない。結果、金融資本にも長い目ではつながりづらい。」
と強調されています。
だからこそ「じゃあ今目の前の仕事は、自分のどの資本を伸ばしてくれるのか」を常に考えながら仕事を選ぶ。
そして場合によっては「報酬がほぼゼロでも、ここで得られる人脈や経験値は絶対大きい」と判断して引き受ける――そんな戦略的な割り切りが大事なのだ、と。
ポイント2:「アリストテレス的人生」と「マキャベリ的人生」の両立
山口さんは従来のキャリア論を二つに大きく分類しています。
- マキャベリ的な人生観
経済的・社会的な成功を追い求める。とにかく成り上がりを狙うタイプ。 - ルソー的な人生観
「自分らしさこそが全て」という内面重視タイプ。
どちらか一方だけを極端に追い求めると、幸せになれるとは限らない。
そこで山口さんは、「アリストテレス的な人生観をめざすのがよい」と提案します。
要するに、
- 現実的な条件(=蛇のように賢く)を踏まえて
- 自分の理想や倫理観(=鳩のように素直)を同時に守る
という両軸を見据えながら、自分の戦略を組むこと。
これは新約聖書に出てくるイエスの言葉「蛇のように賢く、鳩のように素直でありなさい」にも通じる姿勢だそうです。
私も学生の頃、「やりがいのあることがしたい」「自分らしさを生かしたい」と思いつつも、目先の課題に追われ、気がつけば理想ばかり空回りしていました。
「蛇のような賢さ」=現実を見て、自分に確かな付加価値をつける努力をもっとすべきだった、と今ではよくわかります。
ポイント3:「人生のイニシアチブ・ポートフォリオ」を考える
本書ではマッキンゼーがかつて提唱した「イニシアチブ・ポートフォリオ」というフレームも紹介されています。
簡単に言えば、
- 自分にとって馴染みのある領域/未知の領域
- いつお金になるか(短期か長期か)
この2つの軸で仕事やプロジェクトをいくつか並べてみて、自分の時間資本(1日24時間)をどう割り振るか考えようというものです。
若いときはどうしても「メインの仕事一筋」になりがちですが、収益にはつながらなくても「未知の領域に挑戦して人的・社会的資本を伸ばす」プロジェクトをパラレルで持つと、結果的に中長期で「仕事の幅が広がる」「お金を生む機会が増える」そうです。
隙間時間の副業ブログが!
私は半年前、趣味で始めたブログがきっかけで、人脈が広がりました。
最初は完全に「お金にならない長期の自己投資」だったのですが、のちに運よく収益が発生したり、新しい副業の道が開けたり……と、思わぬ形で社会資本や金融資本につながったのです。
「あのとき、ちょっと無理してでも未知の取り組みに時間を使ってよかった」と本気で思えています。
まとめ
山口さんの『人生の経営戦略』は、シンプルに要約すると
- 「どこに身を置くか」が大きな成果を左右する。
- 人生を「4つの資本」で考え、時間をどう投下するか常に意識する。
- 短期的には不合理に見えても、長期で「人的資本・社会資本」を伸ばす選択を大切に。
- 何のために生きるのか? 最終的にはウェルビーイング(幸福度)が到達点。
- そのためには「蛇の賢さ」と「鳩の素直さ」の両立が欠かせない。
私もこれまで「本当にこの選択でよかったのか…?」と悩むことが何度もありましたが、人生は短期ではなく「長期のゲーム」。
短期的に失敗や寄り道をしても、自分の“人的資本”や“社会資本”が確実に成長しているならば、将来振り返ったときに大きなリターンが返ってくるはずです。
キャリア論・幸福論・経営学が一体となったような本で、読んでいて「なるほど!」が止まりませんでした。
キャリアに迷いがある方、次の一歩に踏み出す勇気がほしい方には、ぜひおすすめしたい一冊です。
参考:
- 山口周『人生の経営戦略』(PHPビジネス新書)
- 著書内の主なキーワード:
- アリストテレス的人生
- 人的資本/社会資本/金融資本/時間資本
- イニシアチブ・ポートフォリオ
- ウェルビーイング

あなたの人生のゴールは何ですか?
いま、どの資本に自分の時間を投下すべきですか?
この本を読むと、自分の「立ち位置」や「これから身を置く場所」をもう一度見直すきっかけになるはずです。
ぜひご一読をおすすめします。