町に行こうか?

日曜日の午前中、急に父が言った。

「町に行こうか?」

今まで、父と妹と私の三人だけで

出掛けたことなどなかったので、

聞き間違いかと思った。

 

私が答えるより早く、妹が答えた。

「これから、でも行きたい」

私は頭の中で、なぜ?どうしたの? が、渦巻いていた。

二人の動きは早かった。 電車の時刻表を見て、出掛ける用意を すると、妹が

「後、二十分と告げた。」

 

祖母と母は出掛けていた。 きっと、宗教の関係だろう。 兄は、祖父と出掛けたようだ。

 

私も、鍵を閉めて追いかけた。 家は駅の近くにあったので、余裕で 間に合った。 電車の中で、父は席に座らず 私たちの

前の、つり革を持って 立っていた。

昼前になっていたので、少しお腹も

空いていたが、黙っていた。

 

駅に着いて、路面電車に乗って 降りたときに、父が聞いてきた。

「チャンポンでも良いか?」

私は黙ったまま、頷きながら

そうか、お昼ご飯を食べるために、

連れてきてくれたんだ。と思った。

 

私は、父が怖かった。 用事をするぶん、余計、目に ついたのか、よく怒られた。 自分の出来の悪さが、イヤになり

堤防から落ちて、死のうかと思い 堤防に座っていた。(五年生の頃)

そのとき、私の側に妹が来た。

「何してるの?」

「ここから落ちたら、死ねる?」

「落ちるの、死んじゃう?」

「落ちたらお父さんを、呼ぶよ。」

妹は、笑い顔で言った。

 

所詮、他人事か、私が死んでも 周りはかわらないんだよね。

もう、死ぬのはやめた。

どうせ、いつか死ぬんだから。

その日から、生き方が変わった。

 

父は中華屋さんに入っ行った。。

店内はお客さんで、満員だったが、

一組が、出ていったので入れた。

父は、チャンポンを頼んでくれた。

妹が、肉団子も欲しいと言うと、 肉団子も追加してくれた。

妹は、父が怖くないのか?

そういえば、彼女はいつも私の 影にいるんだった。

 

父は、手をあげたりはしなかった。

声が大きかったから、怒られたら

怖かったが、間違ったことは言って

なかった。

だけど、ちゃんとしないと本当に 学校を辞めさせられると思っていた。

 

チャンポンと肉団子は、とっても

美味しかったので、とっても丁寧に、

ご馳走さまと言った。

店を出た父は、天満屋に向かって

歩きだした。

「服を買おうか?」

「買って、買って!」と、妹が 言ったので、子供服を買うことに なった。

 

妹は、可愛いリンゴの編み込みが 入ったセーターを選んだ。

とても高そうだったが、父は なにも言わずに、カゴにいれた。

 

私も、可愛いのが欲しかったが、 無理をさせてはいけないと思って

バーゲンセールのワゴンに入って いた、薄いグレーのセーターを 選んで、

カゴに入れた。

「これで良いのか?」と聞かれ、

「暖かそうだから。」と答えた。

 

服を買ってもらえたし、美味しい

ご飯も食べたけど、疲れた。

でも、父は優しいみたいだ。

たぶん・・・。