
前回はフィンランドの企業で採用される際のプロセスについて書きました。
今回はそれと合わせ、退職する際のプロセスについてを書きたいと思います。
退職時にトラブルとならないよう事前に把握しておきましょう。
退職手続きをする前の確認事項
退職時に適用されるルールは状況によって変わります。
そのためまずは退職する前に自分の状況、主に以下の点を確認しておきましょう。
- 雇用期間について(有期雇用か無期雇用か)
- 雇用形態について(民間企業の従業員だったか、公務員だったか)
- 勤続年数(何年くらい働いていたのか、または試用期間中なのか)
- 勤務先がどの業界に属しているか(労働協約TESの適用があるのかどうか)
それでは解説していきます。
雇用期間について

まず日本と同じく雇用期間が有期か無期かによって大きく左右されます。
有期雇用は一時的な雇用形態を指します。「Määräaikainen työ」と呼ばれています。
就業終了日が定められているため契約終了時に自動的に離職扱いになります。
無期雇用は常用雇用と同じで就業終了日が定められていません。「Vakituinen työ」と呼ばれています。
ですので退職したい時に別途申請をする必要があります。
有期雇用時の退職手続きについて
有期雇用の契約期間内に退職手続きをしたい場合、まず雇用主の合意が必要となります。
被雇用者(労働者)の一存だけでは雇用契約を終了できません。
また同様に雇用主側の勝手な都合だけで雇用契約を終了することもできません。
もちろん双方の合意があれば期間内でも雇用契約を解除できます。
これだけ書くと契約満了まで絶対に働かないといけないのかなと感じるかもしれません。
でもそうでもないパターンもあるので安心してください。
よくあるのは「無期雇用で雇ってくれる会社を見つけた」という形で退職する場合です。
ちょっとした臨時のお手伝いポジションならば雇用主もそれで納得してくれるパターンが多いでしょう。そのためこの理由で転職する人はわりと多いです。
フィンランドでは有期雇用より無期雇用のが人気があります。
その方が次の仕事を期限を気にせず探す必要がなくていいですよね。

ただしプロジェクト単位の雇用では途中で退職されてしまうと損害がでてしまうこともあります。
雇用契約を解除したい側が責任を問われ、賠償金支払いなどが発生する可能性は0ではありません。
双方の合意を得られないかもしれないケースは注意しておきましょう。
無期雇用時の退職手続きについて

雇用期間が無期限であれば申請する必要があります。
書面またはメールにて退職したい旨を書き、上司に連絡するのが一般的です。
退職手続きは企業や組織にもよるので必ず確認するようにしましょう。
また公務職に勤めている方は退職方法は民間企業とは異なります。
書面さえ渡せば法律上問題はないのですが、もし上司に話を通さずいきなり届出だけ出したら相手を驚かせてしまうでしょう。
会話をするのに問題がない状況なら、書面で出す前に口頭で申し入れをする方が良いですね。
届出を提出したら翌日から退職するまでの期間(Irtisanomisaika)のカウントがスタートします。
退職するまでの期間が終了したら雇用契約は終了となります。
退職するまでの期間 Irtisanomisaika

退職届を提出してから退職日までの期間は日本と異なるので注意が必要です。
例えば日本は民法でこのように定められています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
(民法第627条第1項)
2週間と定められていますが就業規則や引継ぎの関係上、それ以上時間を要するケースもあるでしょう。
逆に雇用主と被雇用者、双方の合意があれば即日の退職も可能です。
一方フィンランドでは退職までの期間(Irtisanomisaika)は業界によって異なります。
なおこの退職までの期間は被雇用者の勤続年数と役職によって大きく変動します。
それでは学生やワーホリの人が働くことになりそうな飲食業界(PAM)を例にしてみましょう。
この業界では労働組合が合意した労働協約により雇用について取り決められています。

転職活動前には退職するまでの期間を予め確認しておきましょう。
調べておけば面接時に「いつから仕事が開始できるのか?」の質問にスムーズに答えられます。
補足:労働協約がない業界の取り決めについて
退職するまでの期間を始めとして、雇用条件などあらゆる取り決めには優先順位が存在します。
労働協約 > 雇用主と被雇用者間の雇用契約、または企業毎の取り決め > 法律
といった順序で上書きされていくようなイメージです。
(例)
- 労働協約が法律より悪い条件になることはありません。
- 労働協約が有効であれば、個人と雇用主間の雇用契約書にて労働協約より悪い条件を記載することはできません。
- 労働協約の記載がない事項であれば、個人と雇用主間の雇用契約書上にて新たな取り決めを作ることができます。

労働協約については自身の過去note記事にて解説しています。
少しややこしい内容ですがフィンランドで働く上で知っておくと役立つこともあるので、興味のある方は是非読んでみてください。
有効な労働協約もなく、雇用契約書に記載なし、または企業全体の取り決めにも記載されてない場合は雇用契約法が適用されます。

退職までの期間が協約や雇用契約書で定まっていないケースでは法により以下の期間が定められてます。

試用期間中の退職手続きについて Työsopimuksen purkaminen koeaikana
フィンランドでは日本同様、試用期間が設けられています。
フィンランド語では「Koeaika」といいます。
ただしフィンランドの試用期間は正当な理由がなくとも即日雇用契約を解除することができます。
また理由も開示されないこともあります。
雇用主はもちろん、被雇用者も自分に合った職場ではないと感じたらすぐに雇用契約を解除できます。
双方にとってのお試し期間です。「お互い良き雇用関係を結べるか」を見極め、決断をしやすいですね。
試用期間中の退職手続きは口頭で伝えるだけの場合もありますが、職場によるので確認しましょう。
退職前の有給消化は一般的ではないフィンランド Lomakorvaus

日本では退職前に有給を消化するのが一般的です。
しかしフィンランドでは逆に有給を消化しないパターンが多いです。
もちろん退職届を出す前、取得すると申請した有給休暇は通常通り休めます。
年次有給休暇を申請は雇用主の承認が必要、というのが第一としてあります。
そのため雇用主が承諾すれば有給を消化することはできますが、引継ぎの関係などで申請が受理されないこともあります。
申請の受理は絶対ではないため受け付けてくれない雇用主もいることを覚えておきましょう。
その際退職するまでに消化できなかった有給は買取(Lomakorvaus)で保証されます。
例えば転職後、有給休暇日数が無いので無給で夏季休暇を取得したいという人は一定数います。
その際、前職場の有給休暇分の買取額を無給期間に充てるといったテクニックが使えます。
転職活動時のおすすめ退職スケジュール
フィンランドでは次の仕事先が決まる前に退職するのはおすすめしません。
転職市場が小さいというのもあり、タイミングが悪いと次の仕事が中々決まらない事もあります。
これは実務経験が既にある人にも当てはまります。
そのため常に人手不足の業界や職種を除き、在職中に転職活動をすることを強くおすすめします。

退職した後は職歴証明書をもらおう Työtodistus

フィンランドでは「いつからいつまで、会社のこのポジションで働いた」という職歴の証明書が必要になる時があります。証明書のことをTyötodistusと言います。
会社によっては自動発行されますが、自ら申し出ないと発給されないこともあります。
退職前に上司にどのように申請する必要があるかを確認しておくとスムーズでしょう。
なお雇用契約終了日から10年以上経過すると貰えなくなってしまうこともあります。
忘れるのを防ぐためにも退職時に貰えるようササっと申請しておきましょう。
以上、被雇用者からの自己都合退職の場合について解説しました。
これからは雇用主側からの解雇予告についても少し書いていきます。
解雇について Työsopimuksen irtisanominen työnantajan toimesta
労働者の解雇は試用期間を除き、正当な理由がなければ解雇をすることができません。
現政権はこれを緩和しようと政策を進めているため今後どうなるかはわかりません。
無給の休暇 Lomautus

正当な理由の中には「経営不振」「事業の縮小」が含まれます。
その場合いきなり解雇するのではなく、給与を出さない無給休暇を従業員に言い渡す時があります。
これはLomautusと呼ばれる制度です。
一時的な措置として人件費を節約するのと同時に、今後経営状況が好転した時のために従業員を確保しておくという目的があります。
この期間中は被雇用者はKelaまたは条件が合えば失業基金から失業手当を貰えます。
コロナ時に経営が厳しい業界はLomautusとなる人が多かったです。
無給休暇中に退職について Lomautetun työntekijän työsuhteen päättyminen
無給休暇中に退職を申し出たらどうなるでしょうか。
無給休暇中では基本的に退職までの期間に従う必要がない権利が発生し、即日退職が可能です。
先の見えない状態で落ち着かないよりは他の仕事を探した方がいいかもしれませんね。
ただし無給休暇が終わる直前、終了日から遡って7日間はこの権利が適用されません。
直前となる場合は通常通り退職までの待ちの期間が発生してしまいます。
なお雇用主が解雇する場合、無給休暇とは関係無しに一定期間分の給与相当額を支払う必要があります。
警告 Varoitus
「経営不振」「事業の縮小」以外の解雇理由の場合はどうでしょうか。
例えば問題を起こした従業員に対しての解雇です。
解雇と言っても警告などの段階を踏んでから解雇になる場合もあります。
警告はフィンランド語で「Varoitus」と言い、書面上で行われる正式な警告は「Kirjallinen varoitus」と呼ばれます。

会社にもよりますが大体3回目あたりで解雇になると考えた方がいいでしょう。
サッカーに例えるならばこれはイエローカードです。
どういった時に警告が来るのかは以下のパターンが多いのではないでしょうか。
- 正当な理由のない欠勤や無断遅刻などをした
- 会社が指示している安全対策や就業規則に従って業務を行わなかった
- 他従業員に対してハラスメントや人種差別的行為を行った
もちろん警告の課程を飛ばし一発退場、つまりレッドカードとなる場合もありえます。
例を挙げるのが非常に難しいですが、あえて挙げるとしたら以下のような場合でしょうか。

- 他従業員に対して暴行や傷害行為を行った
- 横領や情報漏洩を意図的に行った(損失が小さい場合は適用されないかもしれません)
- 雇用契約書に記載してある禁止事項を実施した
- 犯罪行為を行った(職場によってはアウトだったりセーフだったりします)
いかがでしたでしょうか。
日本とフィンランドでは採用プロセスだけでなく退職も違う点が多々あります。
きちんと把握しておけばトラブル防止に繋がりますので是非確認しておきましょう。