IR資料を英文開示すべき理由とは?英語資料を公開する際のポイントも解説

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2025年3月にプライム市場のIR資料の英文開示が義務化される方針が定められました。

その流れを汲み、年々IR資料を英文開示する会社が増えてきています。

また、日本取引所グループはプライム市場だけでなく、スタンダード市場やグロース市場の企業に対しても、任意ではありながら英文開示を促進しています。

しかし、海外投資家はまだまだ日本企業のIR資料に不満を感じているのが現状です。

そこで今回は、なぜIR資料の英文開示が必要なのか、また英文開示や翻訳をする場合のポイントを解説していきます。

目次

プライム市場の英文開示状況と海外投資家のニーズ

日本の上場企業の英文開示状況はどのようになっているのでしょうか?

まずは、2024年1月現在のプライム市場のIR資料英文開示状況と、海外投資家からのニーズについて解説していきます。

プライム上場企業のIR資料英文開示状況

日本取引所グループの調査によると、プライム市場に上場している会社は、2023年8月時点で英文開示をしている会社は97.2%まで増えていることが分かります。

引用元:日本取引所グループ「プライム市場 英文開示義務化に向けた実態調査集計レポート

プライム市場では英文開示が義務化されることもあり、多くの会社が対応してきている状況です。

しかし、さらに深ぼって見ていくとIR資料別の英文開示範囲は以下のようになっています。

引用元:日本取引所グループ「プライム市場 英文開示義務化に向けた実態調査集計レポート

こちらを見るとIR資料の英文開示は、まだまだ余地があると言えますね。

プライム市場の上場企業で上記のような状態ですので、スタンダード市場やグロース市場はより低いことが伺えます。

続いて、IR資料の翻訳、英文開示はなぜ必要なのかを見ていきましょう。

IR資料を英文開示する必要性

IR資料の翻訳は、主に海外投資家からの投資を促進するために必要になります。

海外投資家からの投資を促進できる理由は以下の4点。

IR資料の翻訳・英文開示が必要な理由
  • 海外投資家は英文開示されたIR資料を投資判断の参考にしている
  • IR資料英文開示している企業の方が海外投資家保有比率が高い
  • 海外投資家はアクティブ運用の割合が多い
  • 不満のないIR資料を作ることが新たな投資家を呼び込むことにつながる

それぞれ解説していきます。

海外投資家は英文開示されたIR資料を投資判断の参考にしている

まず、IR資料を翻訳し、英文開示すべき第一の理由としては、やはり海外投資家の投資判断の参考情報として使われることが挙げられます。

日本取引所グループが海外投資家に向けて行ったアンケートの中で「投資判断を行う際の主な情報ソースとして上場会社の開示資料(英語)を利用している」と答えたのは過半数である58%。

さらに「新たに投資を⾏う場合、⽇本の上場会社が開示する英文資料を利用していますか。」という質問に対しては以下のような回答結果になっています。

引用元:日本取引所グループ「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果(2023年8月)

利用していると答えたのが全体の90%であり、ほとんどの投資家が見ていることが分かります。

このように海外投資家は日本企業の英文開示資料を投資判断の参考にしているのです。

IR資料を英語翻訳していないと、投資判断ができず海外投資家の投資ユニバース(投資候補)から外れてしまうと言えるでしょう。

そうならないためにも、IR資料はしっかり英語翻訳をして開示するべきです。

IR資料を英文開示している企業の方が海外投資家保有比率が高い

日本取引所グループの調査によると、海外投資家の保有比率が高い企業ほどIR資料を英文開示している割合が高くなっています。

下記グラフの横軸が海外投資家の保有比率です。

保有比率が30%以上の会社では、94.4%の会社が英文開示を実施。一方で保有比率が10%未満の会社では英文開示実施率は48%に留まっています。

逆説的ではありますが、英文開示をしている方が海外投資家の保有比率が高まるとも言える結果です。

海外投資家はアクティブ運用の割合が多い

機関投資家の運用方法には大きく分けるとパッシブ運用とアクティブ運用に分類されます。

パッシブ運用は、株価指数など市場全体の値動きと同様の投資成果を目指す運用方法。

アクティブ運用は、個別の企業に投資をして株価指数を上回る投資成果を目指す運用方法です。

IR戦略としては、パッシブ運用の投資家ではなく、アクティブ運用の投資家にアピールをするべき。

そして日本ではパッシブ運用の割合が多く、以下のようになっています。

投資顧問69%
投資信託80%以上
引用元:日本投資顧問業協会投資信託協会

一方で海外のファンドを見てみると、パッシブ運用の割合は以下の通り。

米国海外株式運用ファンド41%
欧州籍海外株式運用ファンド20%強
引用元:Bloomberg

アクティブ運用の投資家に自社をアピールするためには、海外投資家は避けて通れません。

このような理由からもIR資料は英文開示するべきと言えるでしょう。

不満のないIR資料を作ることが新たな投資家を呼び込むことにつながる

日本取引所グループが2023年8月に実施した海外投資家へのアンケートの「⽇本の上場会社の英文開示に満⾜していますか。」という質問の回答では「不満、やや不満」と答えた割合が72%という結果でした。

引用元:日本取引所グループ「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果(2023年8月)

このように海外投資家が日本企業のIR資料に対して不満を抱えている状況は、逆にチャンスと捉えることもできます。

他社が海外投資家にとっては不満な資料しか準備できていない中で、満足させられる内容のものを用意できれば投資対象になる可能性があるためです。

以上の理由から、IR資料は積極的に英文開示するべきと言えるでしょう。

IR資料を英文開示する時のポイント

それでは、実際にIR資料を英文開示する際にどのような点に気をつければいいのでしょうか。

こちらで4つのポイントを紹介していきます。

日本語資料と開示タイミングを合わせる

まず英文開示の重要なポイントとして挙げられるのは、英語資料の開示タイミングです。

英文開示は、日本語資料と同じタイミングでやるのがベスト。

実際に、日本取引所グループの調査結果を見ると、海外投資家の不満として「日本語版に対して遅れて開示されることが多い。」という意見が多数挙がっています。

日本語資料が開示されてから、遅れて英語資料が開示されることで、海外投資家は不利な投資タイミングでエントリーするしかなくなります。

海外投資家からすると、投資機会の損失になっているということです。

しかし、この問題は日本語資料と英語資料を同じタイミングで開示するだけで解消されます。

その一手間で海外投資家からあなたの会社の印象が良くなるため、英語資料と日本語資料の開示を同時に行うことはポイントと言えるでしょう。

日本語資料と同等の詳細さで出す

日本企業の英語資料は、日本語資料と比較して情報が不足しているケースが多くなっています。

以下は海外投資家へのアンケート結果の抜粋です。

英語で開示されていない情報を⽇本語で開示している会社はまだ多い。

改善されたとはいえ、すべての資料を翻訳する会社は非常に少ない。

情報が少なすぎる。一般的すぎる。

日本語と英語では開示レベルが異なる。

海外投資家は、英文開示のクオリティにもかなり不満を持っています。

英文開示はただ行えば良いのではありません。海外投資家に会社の良いところを知ってもらうために行うのです。

そのため、英語資料は日本語資料と同等の詳細さで開示をするべきです。

より多くのIR資料を英文開示する

海外投資家からはこのような意見も出ています。

英語で様々な報告書を提出する会社も増えてきているが、例えば短信の抜粋のみを英語で開示するだけの会社には不満がある。

IR資料の英文開示は、できるだけ多くの資料で行うべきです。

理想は日本語で開示しているすべての資料の英語版を用意すること。

それができないにしても、決算短信の一部のみを英文開示するだけでは、海外投資家が投資判断をするには至りません。

また、下記のような意見もあります。

特に中堅・中小会社の多くは、投資家向けプレゼンテーションなどの英文IR情報を等しく詳細に提供していない。

少なくとも、決算説明会資料や投資家向け説明会資料は英文開示をするべきと言えるでしょう。

WEBサイト上で英語資料がどこにあるかわかるようにする

日本企業が英語版のWEBサイトを作っていないことにも海外投資家は不満を抱いています。

海外投資家からすると、日本語のWEBサイトを見てもIR資料がどこに格納されているのか分からないためです。

したがって、理想は英語版のWEBサイトを作成してIR資料の所在を明確にすることですが、それができない場合でも海外投資家が見たときにすぐにIR資料を見つけられるようにしておくべきでしょう。

そうしなければ、せっかく英文開示をしても海外投資家に資料を見てもらうことができないので、こちらもポイントと言えるでしょう。

英文開示資料の注意点

英語資料をより分かりやすくするためには、翻訳にルールを作ることが重要です。

こちらでは、どのようなルールを、なぜ作る必要があるのかを解説していきます。

過去の英文開示資料との一貫性を保つ

英語版のIR資料を用意する時に重要なのは過去の資料との一貫性を保つこと。

具体的にやることは以下の2つです。

  • 過去資料と同じ英訳をする
  • 変更箇所のみを新しく翻訳する

この翻訳方法を「差分翻訳」と言います。

差分翻訳では、基本的に前回の資料の英訳を踏襲しますが、内容の類似性により前年同期の資料を参照する場合もあります。

ただし、その場合でも表現方法は直近の資料から優先して使うのが基本です。

表記を統一する

日本語資料の中でも表記の統一はしていると思いますが、これは英語資料でも必要です。

具体例として、以下のような情報は表記の統一をするべきです。

  • 数値
  • プラス/マイナス表記
  • 単位表記
  • 期間表記
  • 数字の増減表記

このような表記の統一をまとめたものを「スタイルガイド」と呼びます。

IR資料を翻訳する際にもスタイルガイドを作っておくと良いでしょう。

また、上記以外にも特定の単語の英訳をまとめた「用語集」を作るのも一般的です。

同じ資料内で表記揺れが起きてしまうと、読みづらくなったりスマートではないイメージがついてしまいます。

スタイルガイドと共に用語集も作っておくと良いでしょう。

IR資料の翻訳を外部委託する際に気を付けること

続いて、IR資料の翻訳を自社ではなく外部に委託する際に注意すべき点を解説していきます。

スタイルガイドや用語集を用意する、または合わせて委託する

前述の通り、統一性がある高品質の英語版IR資料を作成するためにはスタイルガイドや用語集が必要になります。

外部に委託する際にスタイルガイドや用語集がなく、委託先にノウハウがない場合、統一性のない資料になってしまいます。

そもそもIR資料の翻訳をするのが初めてという場合は、スタイルガイドと用語集の作成を一緒に委託してしまっても良いでしょう。

また、外部に委託する際に重要になるのが、社内のレビュアーと委託先が同じスタイルガイド・用語集を使うことです。

社内のレビュアーと委託先で別のものを使ってしまうと不統一が生じてしまうため、必ず案件に関わる全ての作業者が同じスタイルガイドと用語集を使うように気をつけましょう。

納期と社内スケジュール

IR資料の翻訳は、四半期ごとに発生するため、委託先も複数の案件を抱えています。

資料の社内確認期間や完成希望時期をあらかじめ決めた上で、委託先に伝えておかないと間に合わなくなってしまうこともあります。

特にIR資料は日本語資料と英語資料を同時に開示することが求められるため、遅れることがないようにスケジュールの調整はしっかり行いましょう。

日本語原稿が翻訳しやすい文章か

英語翻訳を委託する際には、日本語原稿の時点で明確な文章になっているかどうかが重要になります。

日本語の時点でわかりづらい文章だと、翻訳後の文章で意味が変わってしまうことが起きるためです。

特に注意すべきは以下の3点。

  • 主語の省略や欠落
  • 係り受けや文章のねじれ
  • 日本語特有の表現
  • 論理的でない文章

主語の省略や欠落

日本語はしばしば主語が省略されることがあります。基本的には、日本人であれば文脈を読むことで何について述べているのかは分かるでしょう。

しかし、翻訳作業では正確性を重視するため、主語が明確でないと申し送りされてしまいます。

申し送りとは、翻訳者が不明確な点や気になる点をレビュアーに伝えるためにコメントを残したりすることです。

申し送りのチェックも工数がかかるため、あらかじめ主語がしっかり入っているか確認しておきましょう。

係り受けや文章のねじれ

係り受けとは、解釈のしかたよって意味が異なってしまう文章のことを指します。

極端な例ですが、「とても楽しい東京の観光地があります。」という文章は以下の2つに解釈が可能です。

  • 「とても楽しい東京」「の観光地」
  • 「とても楽しい」「東京の観光地」

このように受け手によって意味が異なってしまうことを係り受けねじれと言います。

このような曖昧な文章があると翻訳が間違ってしまったり、申し送りのコメントが添えられる原因になってしまうためあらかじめチェックしておきましょう。

日本語特有の表現・訳しづらい日本語

日本語特有の表現にも注意が必要です。

例えば「ものづくり」、「よろしくお願いします」、「担当者」、「確認する」など。

日本語にしかない言葉や、使うシーンによって意味が多様に分かれている日本語などが挙げられます。

このような日本語は避けるか、文脈を明確にしておくことが重要です。

論理的でない文章

日本語→英語の翻訳は、日本語の内容を理解した上で言語を英語に変換していきます。

そのため、日本語の時点で論理的でなく意味が通らない文章は英語への翻訳が難しくなります。

こちらも翻訳を委託する前に確認しておくと良いでしょう。

以上が、IR資料の翻訳を外部委託する際に気を付けることです。

そもそも外部に委託する際には、IR資料の翻訳に精通している業者に依頼することをおすすめします。

当社でも、IR資料の英語翻訳サービスを提供しておりますので、最後にサービスの紹介をさせていただきます。

マテダス翻訳とは

マテダス翻訳とは、当社株式会社ワークデルで提供しているIR資料専門の翻訳をサービスです。

IR資料専門の翻訳会社として、高精度の翻訳を行なっております。

日頃から英文開示されているIR資料や米国の決算資料等を読み込むことで、頻出の単語や海外投資家に伝わりやすい表現方法をノウハウとして蓄積。

溜め込んだ知見を駆使してクライアント様のIR資料翻訳を支援いたします。

翻訳はスライド1枚から受け付けておりますが、あらゆるIR資料の翻訳に対応可能です。

また、IR資料の翻訳を作成するのが初めての場合には、スタイルガイドや用語集の作成も承ります。

マテダス翻訳のサービスについて詳しくは下記のページをご覧ください。

まとめ

今回はIR資料の英文開示や翻訳について解説してきました。

IR資料の英文開示は海外投資家からの投資を促すためには、非常に重要です。

さらに英文開示をするだけではなく、開示範囲や開示タイミングを考えて行うとより効果が得られる可能性が高いでしょう。

また、自社にIR資料翻訳のノウハウがなく他社に依頼する際には、注意点もあるため慎重に業者選定する必要があります。

IR資料の翻訳サービスは当社でも提供しているため、ぜひ検討してみてください。

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コンテンツ制作

IR資料やパワーポイント資料の制作、デザインを手掛ける株式会社ワークデル。MATERIAL TIMESでは、ワークデルが培ってきたIR資料や資料作成の知識を惜しみなく提供していきます。

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