表紙素材は、
このはな様からお借りしました。
「黒執事」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
「す、済まない、僕は怪しい者じゃないんだ。」
そう言った男は、シエルに一枚の名刺を差し出した。
そこには、“私立探偵・アバーライン”と印刷されていた。
「私立探偵が、この僕に何の用だ?」
「君が、ファントムハイヴ君だね?セバスチャン=ミカエリスさんから伝言を預かりました。」
アバーラインは、そう言うと自分を睨みつけているシエルを見た。
「ここは人目があるから、中に入れ。」
「あ、ありがとう・・」
アバーラインを診療所の中へと招き入れたシエルは、彼に水が入った湯呑みを出した。
「茶を出したいが、茶が無いから水で我慢してくれ。」
「ありがとう、朝から歩き通しだったから、丁度喉が渇いていたところなんだ。」
アバーラインはそう言った後、一気に湯呑みの中の水を飲み干した。
「はぁ~、生き返るっ!」
「それで、伝言というのは何だ?」
「実は・・」
アバーラインは、数日前セバスチャンと会った事をシエルに話した。
「もうすぐ、わたしは出征する事になるでしょう。わたしが出征する時、この書類をシエルに渡して下さい。」
「必ず、この書類をあなたに渡してくれるようにと、セバスチャンさんから・・」
アバーラインから書類を受け取ったシエルは、それに目を通した。
そこには、セバスチャンの親族の住所が書かれていた。
「わざわざ書類を届けに来てくれて、ありがとう。」
「じゃぁ、僕はこれで失礼するよ。」
「あぁ・・」
アバーラインを玄関先で見送った後、シエルは下腹の鈍痛に襲われ、その場に蹲った。
(セバスチャン、助けて・・)
“シエル”
―坊ちゃん、またこんな所で寝てしまっては、風邪をひきますよ。
また、誰かの声がした。
シエルが目を開けると、そこはいつもの自分の部屋だった。
「僕は、どうして・・」
「君が玄関先で倒れているのを見て、部屋まで運んだんだよ。」
「すいません、ご迷惑をおかけしてしまって・・」
「いいんだ。」
シエルは月の障りが来ると、下腹の鈍痛とそれに伴う貧血の所為で五日も寝込んでしまう事があった。
「シエル君は、ここの生まれじゃなかったよね?」
「はい。家族と数年前まで東京で暮らしていました。」
「そうか。それにしても、ここにはセバスチャンさんと二人で暮らしていたの?」
「はい。」
「僕は向こうの部屋に居るから、何かあったら呼んでくれ。」
「わかりました・・」
アバーラインが自室から出て行ったのを確認した後、シエルは机の引き出しから通帳と印鑑が入っている袋を取り出し、それをリュックの中に入れた。
いつ出掛けられてもいいように、着替えや通帳、現金を入れたリュックを、シエルは枕元に置き、再び布団の中へと戻って寝た。
月の障りが終わり、シエルが診療所の前で掃き掃除をしていると、シエルの前に一人の男が現れた。
「失礼、貴殿がファントムハイヴ殿か?」
「はい、そうですが・・あなたは?」
「失礼、わたしはセバスチャン=ミカエリスの双子の弟の、ユリウスと申します。貴殿をお迎えに上がりました。」
「え・・」
突然、セバスチャンの双子の弟と名乗る男に腕を掴まれそうになったシエルは、慌てて男の手を乱暴に振り払った。
「僕に気安く触れるな!」
「そんなに怒らなくてもいいでしょう。出征した兄の代わりに、あなたを守りに来たのですよ。」
「お前の言葉は信用出来ない。お前がセバスチャンの弟だという証拠を見せろ!」
「そう来ると思いましたよ。」
男はそう言って深い溜息を吐くと、持っていた鞄の中から戸籍謄本の写しを取り出してそれをシエルに見せた。
「これで、納得頂けましたか?」
「あぁ。支度をしてくるから、待っていてくれ。」
「わかりました。」
シエルは診療所の中へと入ると、素早く自室に置いていたリュックと旅行鞄を持って診療所から外へと出て行った。
「では、行きましょうか。」
「何処へ?」
「東京へ、わたし達の新しい“家”へ。」
「わかった。」
ユリウスに連れられ、シエルがユリウスの自宅がある東京・深川に着いたのは、その日の夜だった。
「お帰りなさいませ。」
「今すぐ風呂と寝床の用意を。」
「はい。」
玄関先でユリウスとシエルを出迎えたのは、彼の家政婦・菊だった。
「そちらの方が・・」
「わたしの花嫁となる方ですよ。」
「まぁ、それは嬉しゅうございます。」
二人の会話を、熟睡していたシエルは聞いていなかった。
「おはようございます、シエル様。」
シエルが目を開けると、そこは全く知らない部屋の中だった。
「ここは?」
「ここは、ユリウス様のお宅ですよ。わたくしは、こちらで家政婦として働いております、菊と申します。」
「ユリウスは・・あいつは何処だ?」
「坊ちゃま・・ユリウス様なら、お仕事へ出掛けられていますよ。」
「お仕事?」
シエルが深川の家で戸惑っている頃、ユリウスは銀座にある実家に居た。
「ご無沙汰しております、義父上、お祖母様。」
「ユリウス、ここに来るなんて珍しいわね。」
そう言ったのは、セバスチャンとユリウスの祖母・文乃だった。
「お祖母様、お元気そうで何よりです。」
「全く、久し振りにこちらへあなたが顔を見せる時は、何か厄介事を持ち込むと決まっているのよ。今回はどんな厄介事を持ち込んだの?」
「厄介事とは、わたしの未来の花嫁に向かって失礼ですよ、お祖母様。」
「未来の花嫁ですって?」
文乃の眦が、ユリウスの言葉を聞いて吊り上がった。
「はい。いずれこちらへ彼女と挨拶に伺うつもりです。」
「セバスチャンならともかく、あなたにそんな相手が出来たなんてねぇ。」
文乃はジロリとユリウスを睨んでそう言った後、溜息を吐いた。
そんな彼女の反応を見ても、ユリウスは眉ひとつ動かさなかった。
彼女は昔から、兄のセバスチャンばかりを可愛がっていた。
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