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隣の声に触発された妻

いつまでも若く純愛
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 結婚して十年が過ぎた頃から、なんとなくそういう雰囲気がなくなっていた。きっかけは思い出せない。ただ、気づけば俺と奈央の間には、そういう時間がほとんどなくなっていた。夫婦仲が悪いわけじゃない。奈央は相変わらず俺に優しいし、家のこともちゃんとしてくれる。でも、俺がそういう気分になったとき、なんとなく奈央が避けているような気がして、それで俺も深く踏み込めなくなった。

 最初の頃は「まあ、またそのうち……」なんて楽観的に考えていたが、もう何年も経ってしまった。俺たち、このままでいいんだろうか?そんなことをぼんやり考えていたある日、同僚の孝雄と飲みに行った。

「お前さ、最近どうなん?」唐突にそう聞かれた。俺は焼き鳥をつつきながら、「どうって?」と聞き返す。

「子どもだよ。まだ作らないの??」あまりにストレートな問いかけに、思わず咳き込んだ。

「な、何だよいきなり……」

「いや、そろそろそういう年頃だろ?早く産まないと大変だよ」孝雄が真剣に語る。

「……まあ、正直言うと、もうずっとご無沙汰だな」俺がそう呟くと、孝雄は「マジかよ」と目を丸くした。

「何やってんだよ、お前、まだ若いのに!」

「……いや、そう言われてもな……」

「よし、キャンプ行くぞ」孝雄は勢いよくジョッキを置きながら言った。

「……は?」

「キャンプだよ、キャンプ! うちの嫁も連れてくから、夫婦で参加しろ」

「なんでキャンプ?」

「いいから黙って来いって。行けばわかるから!」酔った勢いで勢いよく約束させられた俺は、翌日奈央に「今度の休みにキャンプ行かないか?」と聞いてみた。

「えぇ?」奈央は驚いたような顔をする。

「いきなりどうしたの?」

「孝雄に誘われてさ。奥さんも一緒に行くって言うし……どうかなって」

「キャンプって……虫とか大丈夫なの?」

「温泉もあるし、綺麗なトイレもあるってさ。寝るときと食事するくらいしかテント使わないみたいだし」

「うーん……」奈央はしばらく考えてから、小さくため息をついた。

「まあ、たまにはいいか……」渋々ながらも、参加してくれることになった。

 キャンプ当日。キャンプ場に到着してすぐ、奈央の表情が少しずつ変わっていくのがわかった。

 目の前に広がる緑。透き通った空気。鳥のさえずり。

「……いいじゃん、ここ」最初は不安そうだった奈央が、徐々に楽しそうに見えてきた。

「そうだろ?」孝雄がニヤリと笑う。テントを設営し、火を起こし、夕食の準備をする。普段の生活では絶対にやらないようなことを、みんなで協力しながらやるのは、思った以上に楽しかった。奈央も、楽しそうに孝雄の奥さんと談笑しながら、キャンプ飯を作っている。ふと、俺は奈央の横顔を見た。こんな笑顔、久しぶりに見た気がする。

「おーい、飲めよ!」孝雄が酒を持ってきた。焚き火を囲みながらのビールは、普段の飲み会よりも数倍美味く感じた。

 すっかりいい気分になった俺は、夜も更けたころ、テントの中に入り、そのまま眠りに落ちた。夜中。何かの物音で目が覚めた。

「……ん?」テントの外から、何かが聞こえてくる。よく耳を澄ませてみると、それは…息遣い。

 聞き覚えのある、あの感じの。寝ぼけた頭が、一瞬で覚醒する。

「……おいおい、マジか」隣を見ると、奈央も目を覚ましていた。目が合う。二人とも、言葉は発さなかったが、考えていることは同じだった。まさか、あいつら?俺はそっとテントのファスナーを開け、音のする方向を覗いた。

 暗闇の中、月明かりに照らされた先に見えたのは、孝雄たちのテント。

「……やっぱりな」小さくため息をつき、俺はファスナーを閉める。隣の奈央も、妙に落ち着かない様子で寝袋の中で小さく身じろぎしている。俺は何とか寝ようと目を閉じたが、どうにも落ち着かない。そして、そのときだった。

「ねえ……お願い」奈央の小さな声が、俺の耳元に響いた。次の瞬間、奈央がそっと寝袋の中に入ってきた。

 奈央の体温が、じわりと伝わってくる。暗がりの中で、彼女の吐息が微かに震えていた。

「……久しぶり」小さく呟く奈央の声が、耳元に響く。俺はドキリとした。

 こんなこと、何年ぶりだろうか。いや、何年じゃない。下手をすれば、もっと長い間、俺たちはこうして触れ合っていなかったかもしれない。寝袋の中、奈央はぎこちなく俺にしがみついた。俺の中で、何かが弾ける音がした。

「……奈央」久しぶりの出来事に、俺は正直抑えがきかなかった。

 夜の静寂の中、俺たちは互いの存在を確かめ合うように、ゆっくりと求め合った。奈央の指が俺の腕にすがる。

 暗闇の中で見えなくても、彼女の頬が赤く染まっているのがわかる気がした。まるで、あの頃に戻ったみたいだった。しばらくして、俺たちは静かに寝袋に横たわった。キャンプ場の夜はひんやりしているのに、俺の心も体も、今まで感じたことがないほど熱を帯びていた。奈央が、小さく息をつく。

「……久しぶりだったね」俺は笑いながら頷く。

「うん、めちゃくちゃ久しぶり」奈央は恥ずかしそうに俯いたまま、ぽつりと言った。

「……だって、前にお腹出てきたねって言われたから……」

「え?」思わず聞き返した。

「そんなこと……俺、言った?」

「言った!」奈央が少し拗ねたように言う。

「いつだったか忘れたけど、お風呂上がりに『ちょっとぽっちゃりしてきたな』って……」

「マジかよ……全然覚えてねえ……」

「私は気にしてたんだから!」

「ていうか、俺そんなこと思ってないし、むしろちょっとふっくらしてるくらいが好きなんだけど」俺が正直にそう言うと、奈央は驚いた顔をした。

「……え?」

「マジで」

「……一生懸命ダイエットしたのに!」ぷくっと頬を膨らませる奈央が、ちょっと可愛かった。

「ごめんごめん。でも、ダイエット頑張った奈央もすごいけど、そんなの関係なく、俺はお前のこと好きだぞ?」奈央の耳まで赤くなった。

「……ばか」そのまま、奈央は俺の胸に顔をうずめた。俺はそんな奈央を、優しく抱きしめた。

 翌朝。テントから出ると、孝雄がニヤニヤしながら近づいてきた。

「おはよーさん。どうだった?」

「……何が」

「いやいや、お前なぁ……」孝雄が肩を叩いてくる。

「まさか聞こえてたのか?」そう思った瞬間、俺は一気に顔が熱くなった。ふと奈央を見ると、彼女は俯いたまま、耳まで真っ赤に染めていた。

「おいおい、そんなに分かりやすいリアクションしなくてもいいだろ?」孝雄が大笑いする。奈央は俺の袖をぎゅっと掴み、小声で「恥ずかしい……」と呟いた。俺は苦笑しながら、そんな奈央の肩をそっと抱いた。キャンプに来て、よかったのかもしれない。帰りの車の中。助手席で奈央は静かに外を眺めていた。さっきまでの恥ずかしがる様子は少し落ち着き、どこか穏やかで優しい表情をしている。

「……ありがとうね」突然、奈央がそう言った。

「ん?」

「キャンプ、連れてきてくれて」俺は一瞬戸惑ったが、すぐに笑った。

「こっちこそ、付き合ってくれてありがとう」

「また……来てもいい?」その言葉に、俺は少し驚いた。

「キャンプ?」「うん。でも……」奈央は俺の方をちらりと見て、いたずらっぽく笑った。

「今度はテントじゃなくて、ちゃんとしたベッドで……ね?」その瞬間、俺は一気に顔が熱くなった。

「お、おう……」奈央はくすくすと笑いながら、外の景色に視線を戻した。まだまだ、俺たちは終わってなんかいない。

 そんな確信が、静かに胸の奥に芽生えていた。

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