温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

とうとう「川俣温泉間欠泉」も止まった!

川俣温泉間欠泉

栃木県の鬼怒川温泉川治温泉を越えてさらに鬼怒川(川の名前)を上流方向に向かうと、山深い川沿いに突如として大きな鉄筋コンクリートの旅館の建物群が現れます。川俣温泉です。

栃木県奥鬼怒川俣温泉

鬼怒川にかかる橋の下には「川俣温泉間欠泉」があり、観覧するための立派な展望台もつくられています。この間欠泉は人工掘削によって得られたもので、往時は約1時間間隔で天に向かって高く噴出していました。これが人工掘削でなく天然湧出であったら間違いなく国の天然記念物に指定されていたと思われます。

往時の川俣温泉間欠泉のようす(半田実氏提供)

川俣温泉間欠泉展望台

わが国の主な間欠泉の状況

下の表は、わが国の「天に向かって(垂直方向に)高く吹き上げる間欠泉」について私がまとめてみたものです。そういった間欠泉自体が極めて少なく、いずれも貴重な温泉現象と言えます。

わが国の主な間欠泉(古田作成)

間欠泉は特に地震などによる水位の変化の影響を受けたり、洪水や斜面災害などで埋没したりし易く、長い年月を安定して活動し続けるということが極めて困難な、デリケートな温泉現象です。表に示した間欠泉の中で、自然湧出による天然の間欠泉は、宮城県特別天然記念物「雌釜・雄釜間欠泉」と、静岡県熱海温泉の「大湯間欠泉」のみです。「雌釜・雄釜間欠泉」については、私が行った調査(古田2023)によって、特別天然記念物に指定されているにもかかわらず、実際には土砂に埋没してしまい消失していることが明らかになりました。

特別天然記念物「雌釜・雄釜間欠泉」の現状(2022年現在)

「大湯間欠泉」については、既に大正14年頃に枯渇したという記録があります。現在ではボタンを押すと湯が吹き上げる仕組みのモニュメントとして残されているにすぎません。

熱海「大湯間欠泉跡」のモニュメント

活動を停止した川俣温泉間欠泉

今回久しぶりに訪れた川俣温泉間欠泉についても「活動が弱まってきた」とか「停止している」などのネット上の「風の噂」は聞いていたものの、現地に行って活動が完全に停止していることがわかりました。大変ショックを受けました。

停止している川俣温泉間歇泉の噴出口(四角いコンクリートの上部)

現地の展望台(閉鎖されていた)入り口付近には次の写真のような張り紙がありました。これによると、「2018年の台風24号の影響を受けて以来、間欠泉の噴出量が減少し、吹上げる高さも低下した。2022年の4月頃までは少量ながら噴出を確認できた。2022年6月頃から噴出が止まった。」ということでした。以前来た時と比較して間欠泉の湧出孔付近もかなり手が加えられていて、活動を取り戻そうという努力があったことがうかがえました。

間欠泉停止を説明する現地の張り紙

活動を停止した間欠泉の噴出口を観察していると、すぐ横(写真の四角い噴出孔のすぐ上)の岩の割れ目から、間欠的にお湯が湯気を上げながら噴出しているのに気が付きました。全く何も噴き出していない状態から、数秒から十数秒経つとすぐに斜め上方に向かってお湯が斜め3方向に数十センチずつ噴き出すではありませんか。感激です。噴き出すと白い湯けむりが上がるのでよくわかります。「間欠泉ジュニア」の存在に今後も注目したいと思います。

間欠泉を未来に残したい

川俣温泉間欠泉も停止した」ということで、わが国の「高く吹き上げる間欠泉」という温泉現象について、ますます危惧をせざるを得ない状況になってきました。たとえ人工掘削による間欠泉であっても、「間歇泉という自然科学現象を目の当たりにできる」ことの重要性、さらには「間欠泉としての機能・現象が未来に担保できるという点」の重要性を、行政をはじめ多くの人々に理解していただき、「活用と保護」の対象としての認識を広めていくことが不可欠であることを痛感しました。

島根県の木部谷間欠泉など、元気に活動中の間欠泉があります。今こそ「注目し、重要性を認識し、将来に向けて記録し、未来へのビジョンをつくりあげていく」必要があります。

元気に活動中の島根県木部谷間欠泉