泌尿器科医のやりがいと将来性|多岐にわたる専門性とワークライフバランスの魅力

泌尿器科医

近年の高齢化で泌尿器疾患の患者数は増え続けており、年々泌尿器科医の需要が高まっています。そして今後も泌尿器科医のニーズはより高まることが予想されています。

泌尿器科は「手術ばかりで忙しそう」「年収が他の診療科と比べて低いのではないか」というイメージがありますが、働き方によっては年収を引き上げることも可能です。また、外科領域だからといって、必ずしも朝早くから夜遅くまでの勤務があたりまえという訳ではありません。

ほとんどの手術は予定手術で行なうことができるなど、ワークライフバランス重視できる診療科でもあり、泌尿器科は外科領域の中でも最先端のテクノロジーを用いた手術も多く、スキルアップ・キャリアアップを目指す医師にとっても魅力的な科であると言えます。

そこでこの記事では、泌尿器科医の仕事内容や年収、専門医取得後のキャリアパスまで、まとめて紹介していきますので、最後までご一読ください。

1.泌尿器科医とは?

泌尿器科医は、腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿路に関連する臓器と、男性生殖器の疾患を専門的に扱う医師です。また、左右の腎臓の上にあり、様々なホルモンを作っている副腎も泌尿器科の対象になります。

ここでは、具体的な疾患や患者の年齢層、治療方法などを見ていきましょう。

1−1.どのような疾患を扱うのか

泌尿器科医は、それぞれの部位での感染症や腫瘍、炎症疾患、結石疾患など幅広い疾患を扱います

具体的には、尿路系疾患(頻尿、排尿障害、尿漏れ、尿路結石、腎結石など)、男性生殖器疾患(前立腺肥大症、前立腺がん、男性更年期、男性不妊症など)、女性泌尿器科疾患(骨盤臓器脱、腹圧性尿失禁、間質性膀胱炎など)といった性別による特有の疾患も担当します。

1-2.どのような患者を診るのか

泌尿器科は、小児から高齢者まで、幅広い年齢層の患者を診療します。

特に高齢化社会の日本では、前立腺肥大症や尿路結石、がんといった加齢リスクが大きい疾患を抱える高齢の患者が増えているのが特徴です。

1-3.どのような治療を行うのか

泌尿器科では、疾患の種類や重症度に応じて、内科的治療(薬物療法をはじめ食事療法、生活習慣指導など)と外科的治療(腹腔鏡手術、内視鏡手術などの手術)の両方を行います。

泌尿器科領域でも低侵襲な腹腔鏡手術やロボット支援手術が普及しており、患者の身体的負担を軽減しながら、より精密な治療が可能になってきました。

このように、泌尿器科は内科と外科の両方からアプローチを行い、幅広い疾患に対応できる総合的な診療科であると共に、小児泌尿器科、泌尿器腫瘍、腎移植、尿路結石、女性泌尿器科など、さまざまな専門分野を持つ専門性の高い科でもあります。

参照:泌尿器科・泌尿器科医とは _ 順天堂大学・順天堂医院泌尿器科

2.泌尿器科医の仕事内容

泌尿器科医の仕事は、外来診療、手術、病棟管理、研究など様々です。

下記で主な業務内容を紹介します。

外来診療
外来では、問診、視診、触診、超音波検査などの診察を通して、患者の症状や病歴を把握し、診断を行います。尿路系疾患、男性生殖器疾患、女性泌尿器科疾患など、幅広い疾患に対応し、個々の患者の症状や既往歴、生活習慣などに合わせた治療方針を決定します。

手術
泌尿器科では、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、尿路結石などの手術を行います。特に腹腔鏡やロボットなど低侵襲性の高い技術を活用した最新手術スキルの習得を通じ、患者の負担軽減に努めます。

病棟管理
入院中の患者の治療、経過観察、術後管理を行います。画像データや検査の情報から患者の状態を総合的に判断し、点滴など次の指示を出していきます。一通りの指示を終えたら、回診などに向かい、実際に患者の状態確認を行います。

研究
泌尿器科医は、新しい治療法や薬剤の開発、診断技術の向上など、泌尿器科領域の研究にも積極的な取り組みが期待されています。研究成果は学会発表や論文投稿を通じて発信し、泌尿器科医療の発展に貢献します。

参照:『泌 尿 器 科』|国立病院機構

3.泌尿器科医の魅力

泌尿器科医は、専門性の高さ、最先端医療への貢献、ワークライフバランスなど、さまざまな魅力を持つ診療科です。具体的にどのような点が魅力なのかご紹介します。

3.1 広範囲な手術経験とキャリア形成が実現

泌尿器科では、腎臓移植のような大がかりな手術から、内視鏡を用いた低侵襲な手術まで、多岐にわたる手術を経験できます。 幅広い術式を習得することで、外科医としての専門性を高め、自分自身のキャリアパスの選択肢を増やせるということが大きな魅力です。
また、泌尿器科手術は術前の画像診断の精度が高く、術前評価や手術計画を綿密に行えるため、外科医として大きなやりがいを感じることができます。

3.2 最先端医療と研究に邁進できる

泌尿器科は、ロボット支援手術や再生医療など、最先端医療の導入が積極的に行われている分野の一つです。 新しい技術や治療法に触れ医療の進歩に貢献できる経験は、泌尿器科医としての大きなやりがいとなるでしょう。 また、画像研究、医工連携、新薬開発など研究テーマも豊富にあり、研究志向の医師にとっても魅力的な環境と言えます。

3.3 ワークライフバランスを実現しやすい働き方が可能

泌尿器科は、他の外科系診療科と比較して救急疾患が少なく予定手術が中心となるため、比較的時間に余裕を持ちやすいのがメリットです。 そのため、ワークライフバランスを重視したい医師にとって、働きやすい環境と言えるでしょう。

3.4 患者との長い付き合いを通じQOLに貢献できる

泌尿器科で扱う疾患の中には腎不全や前立腺肥大症など慢性疾患やQOL(生活の質)に大きく影響する疾患も多く、患者と長期的な信頼関係を築きながらQOLの維持・向上に貢献できます。
特に、排尿障害や性機能障害などデリケートな問題を抱える患者の悩みや不安に寄り添い、治療だけでなく生活習慣の改善や心のケアといった包括的なサポートを通じ、患者の人生に深く関わるやりがいを感じる診療科です。

4.泌尿器科医の年収

泌尿器科医の年収を見ていきましょう。

4.1 平均年収

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によると、泌尿器科医の平均年収は1,078万7,000円で他の診療科と比べ低い水準に留まっています。 ただし、この調査では、眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科と時短勤務の女性医師が多い診療科を合算して算出されていることもあり、平均年収が低く出ている可能性がある点に注意が必要です。

実際、大手医師転職サイトに掲載されている求人情報(2024年5月時点)では、年収1,500万円〜1,900万円程度のものが多く、2012年の調査時よりも高額になっている傾向が見られます。(※)

※調査方法:大手医師転職サイト3社に掲載された求人より算出(2024年5月時点)

4.2 泌尿器科の年収は低い?高い?

2012年の調査における平均年収が低めである理由としては、眼科・耳鼻咽喉科・皮膚科と合算されているほか、参考資料である2012年の調査に、クリニック勤務医や開業医が含まれていないことが挙げられます。この調査では、調査方法に病院の勤務医というスクリーニングがされており、回答者の所属先が国立・公立・公的の病院で約50%を占めていることなどから、全体的に年収が低く出ていると考えられます。

一方、泌尿器科医は自由診療である包茎手術やED(勃起不全)治療など男性器の診療を行う美容外科クリニックで高収入を得ている医師もいます。また、勤務医や開業医といった常勤医としてではなく、高日給のアルバイト勤務を選ぶ医師もいるため、収入が低いと一概には言えません。

5.泌尿器科医の需要と将来性

超高齢社会を迎えた日本では、泌尿器科医の需要はますます高まっています。ここでは、需要が高まっている理由をいくつかご紹介します。

高齢化に伴い、前立腺がん、前立腺肥大症、腎臓病(人工透析など)、尿失禁といった泌尿器疾患を抱える患者が増加しています。厚生労働省「令和2年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)」では、前立腺がんに関しては、直近30年ほどで患者数は約5倍となり、前立腺肥大症は約2倍になっており、今後もこの傾向は続く見込みです。 

また、泌尿器科では男性不妊症の原因の中でも頻度の高い精索静脈瘤の有無や男性ホルモンや性腺刺激ホルモンなどの内分泌検査、染色体や遺伝子検査などを行います。男性不妊症の患者も増加傾向にあり、専門性の高い治療を提供できる泌尿器科医のニーズはますます高まっています。

さらに、泌尿器科領域において難易度の高い手術がロボット支援手術を導入することにより、3次元で目視確認しながら、医師の手では不可能であった繊細な動きを確実に行えるようになっています。結果、手術件数が増加し、手術スキルを持つ泌尿器科医の需要も高まっています。

このように、泌尿器科医は現在の医療現場において必要不可欠な存在であり、将来性も高いと言えるでしょう。

参照:高齢化で急増する泌尿器疾患~専門医に期待される役割は~|「医」の最前線|時事メディカル|

6.専門医の取得とその後のキャリア

泌尿器科専門医の取得方法と取得後のキャリアについて紹介します。

6.1 専門医になるには

泌尿器科専門医になるには、2年間の初期研修終了後、泌尿器科領域の定められた研修プログラムに基づき、4年間の後期研修を行う必要があります。資格試験に合格することで泌尿器科専門医の資格を取得できます。

参照:専門医取得の流れ _ 日本泌尿器科学会 (The Japanese Urological Association)【医療関係者のみなさま】

6.2 専門医取得後のキャリアパス

泌尿器科専門医を取得した後は、下記のような多彩なキャリアパス選びが可能です。

〇大学院
大学院に進むことで、疾患の原因究明や新しい治療法の開発のための基礎研究を行うことも可能です。
大学院では、研究を行いながら診療も従事するため、臨床経験を積みながら専門分野の知識を深めることができます。

〇サブスペシャリティ領域を深める
泌尿器科の臨床経験を基に専門医を取得し、各領域の指導医や専門医、認定医を目指すことができます。泌尿器科の専門領域は多く、泌尿器腫瘍(オンコロジー)、腎移植、内分泌・生殖機能・性機能など様々です。

サブスペシャルティの一例を下記に列記します。

日本透析医学会 「専門医・指導医」
日本がん治療認定医機構 「癌治療認定医」
日本臨床腎移植学会 「腎移植認定医」
日本性機能学会 「専門医」
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医 など

〇指導医
泌尿器科専門医を取得後、さらに5年以上の経験を積み、指導医講習会を受講・修了することで、後進の指導にあたることができます。

指導医は、若手医師の育成に貢献するだけでなく、自身の診療技術や知識を再確認し、ブラッシュアップする機会にもなります。

〇開業医
専門医としての経験を活かし、自分のクリニックを開業することもできます。地域医療に貢献したい、自分のペースで働きたいという医師に向いているキャリアパスです。

〇その他
泌尿器科医のキャリアパスには、製薬会社や医療機器メーカーなどで新薬開発や臨床試験、製品開発などに携わる「メディカルドクター」や医療政策の立案や実行に携わることも「医系技官」などもあります。 また、海外の大学や病院で研究や臨床経験を積むこともできます。国際的な視野を広げ、最先端の医療技術を学ぶことで、自身のスキルアップに繋がります。

7.よくある質問

ここからは、泌尿器科についてのよくある質問を紹介します。

Q.泌尿器科医に向いているのはどんな医師ですか?

泌尿器科医は、専門性を追求したい医師に向いていると言えるでしょう。腎尿路系や男性生殖器系といった各分野の中でも腎臓がんや前立腺がん、腎不全などそれぞれで高度な専門性が求められます。内科医が診察した患者に泌尿器の症状を抱える方が居た場合、ほぼ全ての患者を泌尿器科に送ると言われています。それほど、泌尿器科医は、高度な知識を兼ね備えた泌尿器科の専門家とされています。しかし、泌尿器科の専門領域以外の知識や経験が少なくなる傾向にあります。そのため、自身の専門分野を磨き、追求していきたい人に向いている診療科と言えます。

Q.外科領域の先端技術を身に着けることは可能ですか?

泌尿器科は、先端技術を学ぶのに最適な診療科です。腹腔鏡手術やロボット支援手術など、最先端の技術が積極的に導入されており、関連技術の習得により医療の進歩に貢献したいという医師にとって、非常に魅力的な環境が整っています。

Q.泌尿器科医は体力的にも精神的にも大変ですか?

泌尿器科は、他の外科系診療科と比較して救急疾患が少なく、予定手術が中心です。体力的な負担は比較的少なく、ワークライフバランスを保ちやすいというメリットもあります。

精神的な負担については、排尿や性器など患者のデリケートな問題に触れる機会が多いため、共感力やコミュニケーション能力が求められます。一方で、患者のQOL向上に直接役立てるやりがいは大きく、多くの泌尿器科医が日々やりがいを持って診療にあたっています。

参照:順天堂大学医学部付属順天堂医院「泌尿器科の特色~Q&A~」 

8.まとめ

泌尿器科は、小児泌尿器科や女性泌尿器科など年齢や性別を超えて幅広い患者層が抱える腎臓、尿管、膀胱、男性生殖器などの疾患を扱う専門性の高い診療科です。また、内科的治療から外科的治療まで幅広く対応し、近年では低侵襲な腹腔鏡手術やロボット支援手術も積極的に導入されています。

そのため、専門性を追求できるだけでなく、最先端医療の実践や研究、ワークライフバランスの実現なども泌尿器科の魅力です。特に、専門医取得後は、勤務医としてサブスペシャルティ領域でスキルアップを図ったり、開業医、メディカルドクター、厚生労働省医系技官、留学・海外勤務など、多様なキャリアパスが選択可能です。

このように、泌尿器科は専門性を追求したい医師、最先端医療に携わりたい医師、ワークライフバランスを重視したい医師など、さまざまな価値観を持つ医師が活躍できる診療科と言えるでしょう。