先行するP波が有ってタイミング的にもPAC(上室性期外収縮)のように見えてるけど、QRSの形と幅が脚ブロックのように変化して広くなってる波形で、あれって思ったことありませんか?
なんだかPVC(心室性期外収縮)のようにも見えるし脚ブロックのようにも見えるし・・・・? はて、なんなんだろうか
それは、「心室内変行伝導(IntraVentricular Aberrant Conduction)」(=変行伝導)と呼ばれるものかもしれません
心室内変行伝導とは、「刺激伝導系の生理的不応期に上室性の興奮が伝達されることによって引き起こされる一過性の脚ブロック」と定義されてるようです
たまたま起こった??
なので、「変行」というぐらいなので、「異常」ではないんですね
心室内の刺激伝導系で「異常」をきたしている場合は、「心室内伝導異常(=心室内伝導障害 IntraVentricular Conduction Disturbance:IVCD)」といいます
刺激伝導系が異常で、心室筋の興奮が通常と異なる場合、脚ブロックや分枝ブロック、非特異的伝導障害などが有るようです
が、それはまたの機会にということで
いいかえれば、変行伝導は機能的現象で、伝導障害は器質的現象ということになりますかね
変行伝導の出方には何種類かのパターンがあって、PVCなどとの区別が難しいことも多々あります
今回はそのパターンと異常波形との区別について整理してみたいと思います
変行伝導が出る場面は大よそ次の3つに大別できます
1. 上室性期外収縮(PAC)
①右脚ブロック(RBB)型
②左脚ブロック(LBB)型
③左右混合型(交代性)
④その他
2. 心房細動(AF)
3. 上室性頻拍(PAT )
そして、
4. 変行伝導と区別しにくいwideQRS波形としては、
1)PVC(心室性期外収縮)
2)脚ブロック(BBB)
3)非持続性心室頻脈(NSVT)
がありますが、その区別するポイントは何か? を見てみたいと思います
先ず変行伝導の出る場面を見ていきましょう
1. PACに伴って出る変行伝導
①右脚ブロック型
下図を見てください
5拍目のwide QRSに注目です
タイミング的には、洞調律のP波(P)があって、早期のP波(P’)に連結したwideQRSの期外収縮が出てます
P’と次のPの間隔、リターンサイクルは洞調律によるもの(Return Cycle=2SA間隔+PP間隔)になっているのこの期外収縮はPACと考えられますね
通常のPACと違うのは、R波の形状ですね
右脚ブロック型になっているということ
これが、PACで機能的に引き起こされた変行伝導といえます
その発生メカニズムを考えてみましょう
期外収縮のP’のP’Q間隔はちょっと短いので、この刺激は接合部上部又は心房下部から出ているかもしれません
この刺激は洞結節に向かって逆行伝導すると同時に、心室へと順行伝導も同時にします
逆行性刺激は、洞結節が刺激発生する前に到達するので洞結節をリセット(放電)してその後にリターンサイクルを作ります
順行性刺激は順調に房室結節を通り、脚枝を伝導して、心室を刺激しR波を発生させます
が、この時、何故か波形が右脚ブロック様になるのですね
右脚ブロックは、どんな時に起こるかと復習すると、刺激経路で左脚の方が先に伝導し右脚の方は伝導がブロックされるため左室から心筋を通って右脚へと向かうのでしたね
当にこのような状況が起きたのですね
ただ、右脚の伝導がされなかった原因が「右脚ブロック」とは異なります
変行伝導の場合は、右脚が伝導できなかったのは「右脚の不応期」が原因なのです
「不応期」というのは、心筋が興奮(脱分極)し再分極した後のある期間は次の刺激がきても反応しない、その期間のことをいうのでしたね
その長さは一律ではなくて、生理的原因などで変化するようです
心室筋の不応期は、大よそT波終了点辺り(相対的不応期)で、右脚の不応期は心室筋より長いと言われています
図のP’からR波の立ち上がりの位置を見ると右脚の不応期間の内側にありますね
つまり右脚では刺激伝導ができない状態なのです
一方左脚は、右脚より不応期が短いため刺激伝導が可能だったのですね
このようなことで、右脚ブロック様のQRSとなったのです
ただ、右脚が伝導しなかったのは器質的な障害のためではなく、機能的な原因でそれが起きたということです
②左脚ブロック型
左脚ブロック型も同様に、不応期で説明できます
何らかの状況で左脚が右脚より不応期が長くなった場合に起きると考えられますね
上室からの刺激が脚枝を伝導する時、右脚の不応期は既に終わっていて、左脚がまだ不応期にある場合には、刺激伝導は右脚から右室へ伝わり、その後心筋を通じて左室へと伝わります
所謂、左脚ブロックが起こります
これも、左脚が伝導しなかったのは器質的な障害のためではなく、不応期という機能的な原因でそれが起きたということです
この場合でも出方はPACなので、そのリターンサイクルを有しています
左右の発生比率は、変行伝導の約80%が右脚ブロック型で、左脚ブロックは少ないという報告が有るようです
③左右脚ブロック混合型(交代性)
同一時間或いは異なった時間に、変行伝導で左脚ブロックや右脚ブロックが出てくる場合があります
下図は、同一時間帯に夫々交互に出てくる例です
1番目のPACは心房から出た刺激が通常伝導してでた、洞調律と同じQRSです
2番目のPACはRBB型の変行伝導、3番目のPACはLBB型の変行伝導です
ここで、それぞれの連結期に注目してみます
RR’ > RR’’’ > RR'' となっていますね
ここで1番長い連結期RR'は、そのQRS波が不応期の影響を受けてないので心室の不応期より長くなってます
2番目に長い連結期RR’’’は、そのQRS波がLBB型になってるので、左脚の不応期に架かっています
加えて、ここでは右脚の方が左脚より不応期が短くなってること言えますね
3番目の連結期RR’’は、そのQRS波がRBB型なので、右脚の不応期に架かっています
加えて、ここでは左脚の方が右脚より不応期が短くなってること言えますね
そういうことも起こるんですね
通常、不応期の間隔は右脚>左脚と言われているので、連結期間隔の長さの順番で言えば、
1番目に長い連結期は通常QRS波、2番目に長い連結期はRBB型、3番目にはLBB型 となるはずですが、ここではそうはならず2番目と3番目が逆になっています
なぜそうなってるのか?
そして、RBB型とLBB型が交互に出てくるのはどのようにしてか?
この2つについて、その機序を考えるのは結構ややこしそうなので別の機会に整理することにしましょう
ここでは、変行伝導ではこういうことが起こるんだという程度にしておきます
④その他
脚ブロック型とは違った形状で出てくる変行伝を稀に見かけますが、これは不応期の長さとは違う原因、心室の刺激伝導系の異常があることが考えられます
例えば、左脚前/後 束枝ブロックなど
これには、心電図のR波ベクトルを書いてみるのが簡単かなと思います
2. 心房細動 (AF)
心房細動の時も、変行伝導をよく見かけますね
心房細動の時に幅の広いQRSがあった場合これが心室性なのか変行伝導によるものなのか判然としない場合がおいですよね
なぜなら、P波は無いし、RR間隔がイレギュラーで変化するし、QRST波形状が変化するしなどの悪条件が重なって、心電図だけで決定的にこれだったて言うことができない場合が多いのではないでしょうか
それでも、その鑑別法はいろいろと研究されてるようで、そのような知見を活用するしかありません
言ってみれば、心房細動での変行伝導と心室性の鑑別は、経験と推論による場合がほとんどではないでしょうか
鑑別方法の詳細は4.項で考えてみることにして、ここではざっと見ておきましょう
下図の変行伝導(Aberrant)と心室性(PVC)と見られるwideQRSのそれぞれの形状と連結期、休止期に注目します
まず変行伝導のR波では、QRS幅0.1sとR波立上がり極性が上室性起源のようで、連結期(R1R1’)と休止期間隔が先行R波のものとほぼ同じ、加えてその連結期がR波ごとに少しづつ変化(R1R1’,R2R2’)してるので、変行伝導したことが分かりますね
QRS波形状はRBB型ですね
次にPVCのR波では、QRS幅0.12sとR波立上がり極性が上行性でT波が反対極性、2つの夫々の連結期R3R3’とR4R4’は同じ間隔、そしてその休止期間隔が長めと考えられるため先行R波とは異なり心室性であろうことが分かります
3. 心房頻拍(PAT)
PACで変行伝導が出やすいのだから心房頻拍でも起こるでしょう
下図のリズムは上室性期外収縮の連発です
PP間隔(P’P’)がちょっとばらついてますがそれほど変化せず、PQ間隔(P’Q)が一定のP波で、
連発最後のPP間隔(P’P)は期外収縮のリターンサイクルとなっていて、その後は通常のリズムに戻っていますね
なので心房性頻拍と思われます
ここでは、連発最初の3拍に注目です
P’による期外収縮でR’の連結期が短くなって、先行R波による右脚の不応期に掛ってるためRBB型の変行伝導が発生したようです
その後の2拍も連結期が同じように短いため変行伝導となっています
そして、QRS波形状も少しずつ変化しています
その後の1拍は変行伝導の連結期より少し長く、不応期を脱していたので通常の伝導となってるようです
変行伝導が出現するパターンを色々と見てきましたが、最後に、変行伝導によるwideQRSと心室性によるwideQRSを区別するには何がポイントか?考えてみましょう
4.変行伝導と区別しにくい代表的なものとしては、
1)PVC(心室性期外収縮)
2)脚ブロック(BBB)
3)非持続性心室頻脈(NSVT)
が有りますね
発生するパターンでそれぞれ異なるポイントがあるけども、変行伝導に共通しているのは次のようなポイントでしょう
①刺激が上室から心室へ伝導するので次のことが言えますね
・QRS幅が心室性ほど広くない(0.12S以下で脚ブロック程度かな)
・R波の立上がりは心室性ほど緩やかではない
・R波の極性(ベクトル)は先行R波と同じ
・T波の極性は先行R波のと同じ(心室筋が伝導した場合は反対になることもある)
②不応期に関しては、
・長いRR間隔の後の短い連結期に出やすい(下図のAshman法則参照)
これは長いRR間隔の直後は心室の不応期が長くなっているので、次に短い連結期が来ると不応期の最中に伝導するので変行伝導になりやすい
*Ashman法則
③連結期
・連結期は一定ではない(変動することが多い)
・先行するRR間隔と変行伝導の連結期はほぼ比例しやすい
(先行RR間隔が短いと変行伝導の連結期も短くなり、長い場合はその逆となる)
次に、それぞれの出現パターンに固有で特徴的な点を見ていきましょう
1)変行伝導とPVCの区別
①PACの場合の変行伝導
・右脚ブロック型が多い
・上室性期外収縮のリターンサイクルを有してる
②AFの場合の変行伝導
・連結期 < 休止期 ではないことが多い
(AFの時のR波の変化程度)
・休止期が長くない
③PATの場合の変行伝導
・PQ間隔とPP間隔は多少変動することがある
・PATの最後の1拍のP波(P’)と次に来る洞性のP波の間隔は、リターンサイクルとなっている
・変行伝導の連発は、その不応期が少しずつ違ってくる場合には、QRS形状も暫時変化することがある
PVCとの区別は、刺激伝導が上室性なのか心室性なのかを考えると分かり易いと思います
2)変行伝導と脚ブロック(BBB)の区別
・BBBは脚枝の器質的異常により伝導系も障害(伝導途絶)がおこるので、その発生は連続性があり持続すると思われます
・変行伝導は、主に不応期による脚枝の伝導途絶なので機能的であり、その発生は単発から数発程度であると考えられます
・また不応期の長さによってはQRS幅と形状が異なってきます
3)変行伝導と非連続性心室頻脈(NSVT)の区別
・NSVTとの区別は、上記のPVCとの区別がポイントですが、更にこれを裏付けるために、「VT」鑑別の条件を否定的に採用すればいいでしょう
・VTの鑑別は次のような特徴がありましたね
ー房室解離:P波が伝導することなく心室性QRSが出る
ー融合収縮:洞性R波と心室性R波が同時に出て融合波形となる
下図(「JECCS Database」より転載)を見てください
wide QRSが突然連続してNSVTのように見えませんか?
ではよく観察してみましょう
まず、「VT」の要件をこの波形に当て嵌めてみると、
「房室解離」はそれ以前のP波はAFの様ですが、連発中にはP波のようなものは見つけられません
そして、「融合収縮」と「心室補足」も見当たりませんね
ここで、変行伝導と心室性起源を区別する共通事項とPVCとの区別に特徴的な事項の観点でこれを見てみましょう
・先行する長いRR間隔の後に短い連結期があって発生 ⇒ Ashman現象
・RR間隔(連結期)が少し変動
・連発の最後の2拍のRR間隔が少し延びて、上室性R波に戻る
・R波ベクトルが先行する上室性R波上向きと同じ
以上の点から、このwide QRSの連続はNSVTではなくて、上室性R波の変行伝導のPSVTと推測できますね
これまで書いてきたように、
変行伝導の出方には何種類かのパターンがあって、それがPVCなどとの区別が難しいことも多々あることが分かりました
出現パターンと他の波形との区別を明確に行うことはそう簡単でない場合が多く、判断に困ることが多々あります
やはり、数をこなして経験を積むしかないのでしょうかね
(判断の可否が妥当かどうか検証できないのが悩みです!)