ホルター心電図に紛れ込む厭らしいほどのアーチファクトに、よく見る「VT/Vf*擬き(もどき)」がありますね
*VT/Vfとは
ここで言うVT、Vfはその種類や発生起序に分類される厳密な定義ではなくて、「3連続以上する心室性収縮」程度の意味
で使っています
アーチファクトと始めからわかるなら無視しますけど、VT/Vf 擬きですからちょっと怪しかったり判然としない時にはほうってはおけず落ち着きませんよね
で、結構よく出てくるんですよね、そんな「擬き」は・・・
下図を見てください
今回はそんなアーチファクトを見てみたいと思います
(まだ分かりやすい方ですね)
さて、心電図に出てくる「擬き」を「擬き」と判断するには、臨床上のVTやVf(その定義には諸説あるとは思いますが)がどいうものか知ってないといけませんね
でも、VTやVfはほとんどお目に架かれないですよね
病棟のモニター心電図でも、安静心電図だってそう簡単に記録できるものではないし、況してやホルター心電図ではまず無理でしょうから
なので、実際のVT/Vfは既に披露されてる図を借用し使わせていただきました
■心室頻拍(VT)
HR高、QRS幅広、連結期一定、Ⅱ誘導で房室解離(所々にP波)、左軸偏位
というところで、VTと見てるようです
■多形性心室頻拍(TdP)
次は、形状が時間とともに変化してゆく(起源が移動するからでしょうか?)VTですね
こちらも、HR高、QRS幅広、連結期一定、房室解離(所々にP波)、QRS形状と大きさが経時的に変化(うねり?)
というところで、TdP
次に、VfのECGです
アーチファクトじゃあないのかな?という点からみていくと、だんだんそれらしくなってきましたね
■心室細動(Vf)
大きさも形状も周期もばらばらに心室が興奮してますね
12誘導の安静心電図で全誘導同様な波形が記録されてるのノイズではないということが分かりますが、1/2チャンネルしかなかったらどうでしょうか??
さて、下図が実際に記録された心電図です
どうでしょうか、この波形は?
ホルター心電図の誘導については、カテゴリー「ホルター心電図装置のこと」で書いた「ホルター心電図の誘導法」を見て下さい
誘導は、3誘導で CH1:CM5 CH2:NASA CH3:CH1とCH2の差分ベクトル(CC5の左半分)で、心電図電極はCH1とCH2のマイナス側、
先ず、基本調律を探すと、赤矢印で示すところに、一定リズムで同一形状のQRSがあるので、P波はっきり見えないけど、これですね
それ以外の所の波形、青い矢印は、一見PVCとも見える波形ですね
(殆ど、アーチファクトに近いと思うけど? どういうことで否定できるかな?)
この波形の連発に着目すると、HR 120bpm以上、QRS幅(ちょっと怪しい?)、R波高、連結期ほぼ一定、の3連続以上の心室性リズムのように見えるものがあります
PVCやVT??
そうではないですよね・・・・
なぜそう判断できるのか?
先ず、単発や2連発の波形(青い矢印)を見てみましょう
基本調律以外の波形は、同相、同極性、相似波形ですね
異所性の心室性興奮であれば誘導によって形状が多少は違ってるはずです
それと、基本調律に対してその前または後ろにランダムに出現していますね
異所性とは違う、何か違和感*を感じませんか?
*違和感
はっきりとは断言できませんが、この「違和感」を感じることが、心電図判読上とっても大切ではないかなぁと思ってます
そんなことから、これらは異所性刺激によるR波ではなくて、ノイズ、それもアーチファクトではないかと推測できます
そういう目で、連発する波形を見てゆくとそれがVTではないように見えてきます
その理由は上記に加えて、
①VTの3特徴(同形状心室性R波で連結期一定、房室解離、心室把捉)に該当しない
②中央にある正方向の波形と連発中の波形の中に、R波とは思えない急峻な立ち上がりの棘波がある(それも同相、同極性)
③QRS幅がまちまちで同一起源のR波とは考えにくい
④連発のレートが最速300bpm位
ということで、これらの棘波は、アーチファクトと判断しました
では、何が原因のアーチファクトなのか?
波形の立ち上がり立下りが比較的緩やかで波高も大きくないので生体由来の信号かとも思えるけど、単発や5Hzの連発がランダムに発生しているところで信号の連続性もないから、そうでもなさそう・・・
誘導ノイズの周期性もないし低周期の変動でもないようで・・・
時間的には単発、不連続、瞬間的だったり、波高値はそれほど大きくない1~5mⅤほどの波形
接触不良ノイズや静電気ノイズのような断続的に早い周期のノイズでもないし・・・
残るは、電極ー皮膚間の距離変動によるインピーダンス変動、分極電位の変化などが考えられますね
例えば、電極リード線が引っ張られたり、電極が浮いたり、電極に圧力が加わったり、皮膚表面形状が変化したりと、電極と皮膚間の距離が変化する状態により、そのインピーダンスや分極電位が変化しアーチファクトになります
CH1,CH2誘導とも同相、同極性なので共通の所、マイナス側電極で、その大きさが誘導で異なるような*アーチファクトの原因が発生したと思われます
*同相で同波高値のノイズが両誘導に同時に入力すれば、差動増幅器からはその出力はほぼ0となりますが、
波高値がそれぞれ異なるとその差分が増幅され出力されます
考えられるのは、時間的に瞬間的あるいは断続的に、両誘導のマイナス側の電極リード線が引っ張られる、或い電極が圧迫される、又は皮膚上で電極の浮きが発生するなどです
次に、ノイズ波形が持続的に出現するアーチファクトの例です
2つの心電図は、同一被検者で異なった時間での記録です
誘導は、CH1:CM5 CH2:NASA で、4段に分けて書いた連続した心電図です
まず一つ目の心電図を見てみましょう
4段目のCH2だけ見れば、もう「Vf」確定の「Vf擬き」ですね
最初の段では、CH1は電極が皮膚から離れてるようで、電位が上下に振り切れて出力が飽和してる状態です
CH2は、電極がかなり浮いた状態でゲルが着いたままでまだ電極パッドも着いてるようで、リード線の揺れに同期したアーチファクトでR波が埋もれてます
2段目では(感度は自動的に1/4に変更されてます)、CH1は片側極性に振り切れたままになりましたが、(多分オートシフト機能で基線が戻ってる)CH2ではそのままの状態が続いてますね
3段目(感度は自動的に1/2に変更されてます)まで来ると、CH1は電極が着いたままとなったので基線に戻ってR波が見え始めますが、CH2は揺れの頻度は変わらないけど、揺れの大きさがやや小さくなったようです
4段目では、CH2はかろうじてゲルで皮膚と接触してるものの、基線の揺ればかりでR波は見えません
この状態が「Vf擬き」となります
アーチファクトは、波高値は変化しますが3~6hzぐらいの周期の波形で規則性があるようなので、電極周辺に起因するアーチファクトというより外部からの誘導ノイズと見た方がいいような感じですね
CH1が基線状態だったり、R波が見える状態だったりしたので、CH2がアーチファクトだと判断できますが、そうでなかったら断定的なことが言えない場合もありますね
さて次の下図も、「Vf擬き」、「TdP」のような波形の心電図です
波形を詳しく見てみると、これも、CH1は約3.6㎐の周期性のある、波高値がほぼ同じ波形が12秒ほど続いて基線化の後にR波がかろうじて見えるほどにぎりぎり繋がってる電極のようです
1、2段目のCH1は、実際は過大入力があって出力が片側(正側)に振り切れるほど飽和してオートゲイン機能が働き、中央にシフトしてるようですね
CH2にも、小さいながら同じ周期の波形が基線上に乗って来てますね
ただし、2つの波形の位相は同相、同極性ではなくー80°の位相差があるようです
(ちょっと細かく言うと)これは、両チャンネルの⊕電極間に、コンデンサ:Cと抵抗:Rのインピーダンス*回路が形成されて、そこに外部からのノイズが誘導されたと推測できますね
*インピーダンス(詳細は、ブログカテゴリー「ホルター心電図装置のこと」”電極インピーダンス”に書いておくので
詳細はそちらを参照してください)
交流回路における抵抗成分のことで、周波数と共に抵抗値が変化する静電容量(キャパシタンス)成分や
電磁誘導成分(インダクタンス)と直流抵抗成分が合成された回路のこと
電極と皮膚の間でインピーダンスが発生し回路を形成し、接触してる距離や状態でその値や成分が変化するので、
そこを通る波形はその大きさや形状、位相などが変化することになり、アーチファクトの原因となります
この外部からのノイズは、上図の6:15の時と下図の13:03では形状や大きさが違うものの、その周期は同じで、皮膚間のインピーダンスがかなり大きくなっった状態、辛うじて皮膚から浮いてるように着いてる電極から飛び込むような環境下での記録だったと推測されます
3段目になると、CH1では電極と皮膚が近づきまだ高いインピーダンスながら辛うじてR波を拾っているように見えます
皮膚状態や電極の着き方などで、外部から飛び込んでくるノイズやインピーダンス変化によるアーチファクトが多く発生することが分かります