Regen 「雨」を基礎語とする複合語


ドイツ語で雨を表現する語はいくつかありますが、今回は Regen (m. -s/-) 「雨」を基礎語として、その前に何らかの要素を付け足すことによって作られた語を取り上げてみたいと思います。雨を表す語彙としては、他にも Schauer (m. -s/-) 「にわか雨(雪)」とか、あるいは Guss (m. -es/Güsse) 「どしゃ降りの雨(字義:注ぎ)」や Nass (m. es/ ) 「雨(字義:濡れ、お湿り)」などのような迂言的な表現もありますが、それらの語や表現については別稿にゆずるとして、今回は Regen を基礎語(一番最後に来る要素)とする複合語に限っていくつか見てみようと思います。


(なお、 -regen で終わる語は当然ながら全て男性名詞ですので、以下では文法表示の (m. -s/-) は省略しています。)


Dauerregen

Dauerregen は「長雨(字義:持続雨)」を表します。日本語の「地雨」と異なり、降り続いていればたとえ豪雨であっても Dauerregen です。警報基準としての Dauerregen は、ドイツ気象局の警報基準においては、予想雨量に従って3つの段階に分けられています。訳は仮訳です。


  1. Dauerregen 長雨
    • 25 bis 40 l/m2 in 12 Stunden ( 12 時間に 25-40mm )
    • 30 bis 50 l/m2 in 24 Stunden ( 24 時間に 30-50mm )
    • 40 bis 60 l/m2 in 48 Stunden ( 48 時間に 40-60mm )
    • 60 bis 90 l/m2 in 72 Stunden ( 72 時間に 60-90mm )

  2. ergiebiger Dauerregen 長時間の大雨(字義:雨量の多い長雨)
    • 40 bis 70 l/m2 in 12 Stunden ( 12 時間に 40-70mm )
    • 50 bis 80 l/m2 in 24 Stunden ( 24 時間に 50-80mm )
    • 60 bis 90 l/m2 in 48 Stunden ( 48 時間に 60-90mm )
    • 90 bis 120 l/m2 in 72 Stunden ( 72 時間に 90-120mm )

  3. extrem ergiebiger Dauerregen 長時間の激しい大雨(字義:極端に雨量の多い長雨)
    • > 70 l/m2 in 12 Stunden( 12 時間に 70mm より多い雨量)
    • > 80 l/m2 in 24 Stunden( 24 時間に 80mm より多い雨量)
    • > 90 l/m2 in 48 Stunden( 48 時間に 90mm より多い雨量)
    • > 120 l/m2 in 72 Stunden( 72 時間に 120mm より多い雨量)

それぞれの警報ごとにいくつかの基準が掲げられていますが、そのどれかが満たされると予測される場合に、その等級の警報が出されるという仕組みのようです。


なお、それぞれの前に付いている2、3,4の数字は Warnstufe (f. -/-n) 「注意報・警報の等級」を表します。警報の種類によって異なりますが、通常1から4まであり、数字が大きくなるほど重大な警報になります。表にすると以下のような感じです(訳は仮訳です)。


  1. Wetterwarnungen 「気象警報」
  2. Warnungen vor markantem Wetter 「激しい気象への備えのために出される警報」
  3. Unwetterwarnungen 「荒天警報」
  4. Warnungen vor extremem Unwetter 「極端な荒天への備えのために出される警報」

日本とは警報基準が異なるので単純に比較はできませんが(しかも日本では地域ごとの基準値の違いも大きいです)、1.の Wetterwarnungen は、日本ではどちらかというと「警報」よりは「注意報」に当たる場合が多いかも知れません。


ついでながら、ドイツでは雨量は通常は1平方メートルあたりのリットル量 ( l/m2 : Liter pro Quadradmeter と読みます) で表現されます。ややこしいように聞こえますが、実は数字は日本でのミリメートル雨量と同じなので、そのまま読み替えて OK です。1 l/m2 = 1 mm です。(1リットルの水を1平方メートルの広さの平らな容器に入れると、深さは1 mm になります。)もちろん、日本と同様ミリメートル雨量で表記されることもあります。


Starkregen

Starkregen は直訳すると「強雨」「強い雨」です。警報用語としての Starkregen は、以下にあげるドイツ気象局の警報基準にもあるように、 Dauerregen よりも短い時間幅での大雨が予想される時に出される警報の名前です。


  1. Starkregen 強い雨
    • 15 bis 25 l/m² in 1 Stunde( 1 時間に 15-25mm )
    • 20 bis 35 l/m² in 6 Stunden( 6 時間に 20-35mm )

  2. heftiger Starkregen 激しい雨
    • 25-40 l/m² in 1 Stunde( 1 時間に 25-40mm )
    • 35-60 l/m² in 6 Stunden( 6 時間に 35-60mm )

  3. extrem heftiger Starkregen 非常に激しい雨
    • > 40 l/m² in 1 Stunde( 1 時間に 40mm より多い雨量)
    • > 60 l/m² in 6 Stunden( 6 時間に 60mm より多い雨量)

ちなみに日本語でも「大雨」と並んで「強い雨」「激しい雨」「猛烈な雨」等々の表現がありますが、これらの予報用語としての使い分けについては、気象庁の予報用語のページで簡単な解説が見られます。時間雨量 80mm 以上を「猛烈な雨」というなど、想定されている雨量はドイツよりも多いところが多雨気候の日本らしいと言えます。


Platzregen, Landregen

局地的に短時間降る雨は Platzregen 「驟雨(しゅうう)」、広域で長時間降る雨は Landregen 「地雨(じあめ)」と呼ばれることがあります。


Platzregen 「驟雨」はいきなり始まり、すぐに止む短時間の雨です。ただ雨粒が大きく降雨強度も強いため、全体では雨量も多くなる傾向があります。上記のリンク先によれば、日常語としては Wolkenbruch (m. -(e)s/-brüche) 「豪雨(字義:雲の破裂)」とほぼ同義で用いられるとのことで、厳密な専門用語としては用いづらい語のようです。そういった点では日本語の「集中豪雨」「ゲリラ豪雨」とも似ているかもしれません。なお、名称は雨粒が地面ではじける (platzen) ことに由来するとのことです。


一方、弱い雨が長時間しとしとと降り続く、いわゆる「地雨」に相当するドイツ語は Landregen です。こちらも厳密な専門用語というわけではなく、気象情報などでは見かけることはほぼありません。


なお、 DWDS のサイトによれば、ドイツ語の Landregen は近世(15世紀)にさかのぼる歴史のある語のようですが、対する日本語の「地雨」は古語辞典を引いても見つからず、現代語辞典でやっと簡単な記述が見られる程度です。もしかすると日本語の「地雨」は、ドイツ語の Landregen を直訳して明治以降に出来た新語なのかもしれません。仮にそうだとすると、日本語の「天気」と「天候」の区別のところでも触れましたが、日本の気象学用語は、私達の想像以上にドイツ語に負うところが大きい可能性もありそうです。


Sprühregen, Nieselregen, Rieselregen

Sprühregen は「霧雨」を表します。ドイツ気象局の左記のリンク先によれば、雨粒の直径は 0.1-0.5 mm ほどで、層雲もしくは霧から降る雨です。 Nieselregen も意味的には Sprühregen とほぼ同義で、専門用語ではありませんがこちらも時折見かけます。 Rieselregen も同様の意味を持ちますが、こちらは Nieselregen 以上に使用頻度の少ない語です。これらの語は日本語ではしばしば「霧雨」と並んで「こぬか雨(小糠雨)」と訳されることもあります。


gefrierender Regen

gefrierender Regen は日本語ではどうも一語での定訳が見当たらないようなのですが、直訳すると「凍結しかけの雨」くらいの意味です。雨または霧雨の雨滴が零度より低い温度のまま凍結せず、液体の状態のまま地表もしくは物体に衝突すると、瞬間的に凍結する現象を引き起こすことがあります。あるいは零度以上の雨滴が氷点下に下がった物体に触れた瞬間にも同様の現象が生じることもあります。これにより生じた凍結を Glatteis (n. -es/ ) 「雨氷」(読み:グラットアイス)と呼びます。このような現象を引き起こす雨が gefrierender Regen です。これに対して、昼の暖かさで一旦溶けた地面のぬかるみが、夜間の冷却によって再び凍結することもありますが、これにより生じた凍結は Eisglätte (f. -/-n) (読み:アイスグレッテ)と呼んで区別しています。日本でしばしば「路面凍結」と呼ばれる現象は、通常は後者に相当する場合が多いようです。他にも雪が地面で人や車の交通によって圧縮されて一時的に融解し、再び凍結して氷のような状態になることもあり、 Schneeglätte (f. -/-n) と呼ばれています。これらの凍結現象については、ドイツ気象局の気象語彙集の Glätte のページにまとめられています。


unterkühlter Regen

unterkühlter Regen 「過冷却の雨」は、上の gefrierender Regen のうち、零度より低い温度に冷却された雨滴が凍結せずに、液体の状態のままで降る雨のことをいいます。


Eisregen

Eisregen は、ドイツ気象局の気象語彙集の解説(左記リンク)によれば2つの意味があります。1つは上の unterkühlter Regen 「過冷却の雨」で、もう一つは零度より低い気層を通過した雨滴が凍結して、個体の状態で降下する、いわゆる「凍雨」です。前者は液体、後者は個体という違いがありますので、 Eisregen という語が使われていたら、どちらの意味なのかよく確認する必要があります。なお、後者の凍結した雨滴のうち、直径が 5mm を超えないものは Eiskörner (n.pl.) と呼ばれることもあります。


ついでながら、この Eiskörner (n.pl.) は、英語では ice pellets と呼ばれます。同じ意味で sleet という語が使われることもありますが、これは主にアメリカ英語での用法で、イギリス英語での sleet は「霙(みぞれ)」(融けかけの雪、雨まじりの雪)の意味になりますのでこちらも注意が必要です。


Schneeregen

Schneeregen は、その「霙(みぞれ)」、つまり雪と雨が混じった状態で降る降水を指します。イギリス英語での sleet に相当する言葉です。

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