コンテナガレージ

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手紙とは想いを伝えるディバイスである4-5

「知りませんか?」

「まったく。あまり外部の情報は取り入れていない。端末も、それからPCも必要な情報以外のアクセスを控えるよう心がけてます。だって、不要な情報を処理する時間も判断をせずに所有する余裕も私にはありませんから」

 熊田は腕時計を見た。「あの、喫煙室はこのフロアにありますか?」

「ここにはないと思います。社内の喫煙は基本的には禁止されてますので。屋上か屋外の施設を利用しなくてはなりません」

「そうですかぁ、喫煙者には厳しい環境ですね」

「喫煙や化粧を直す時間もここでは排除されている。食事の時間は自由に選択できる反面、不要と思われる事柄に関しては、自戒の念を取り去って、強制的に正したんでしょう。私はどちらにも興味がなかった。こういった職業です、それこそ外部の人間とは顔を合わせませんので、薄化粧で十分。外見が整っているからといって、デザインが仕上がるかといえば、首はずっと斜めに傾いたままですから」

「面白い表現です。社長も化粧はほとんどされていないように思いました。いつもでしょうか?」

「どうでしょうか。私は社長とお会いしたのは病室ですし、そこでは化粧をしていなくて当然なので」

 話を切り上げる寸前に、わらわらと社員たち、いかにも年齢層の高い人物たち、一様にこの会社には不釣合いな上等なスーツを着込んで、会議室側から話し声が聞こえた。熊田は玉井を先に、会議室に戻り、現れた面々にいきさつと玉井が有する社長の権利の信憑性を説明した。当然に、懐疑的な反応。玉井はメールの文面とアドレスを見れば、判断が変わるのではと提案、彼らを引き連れて持ち場に戻った。

 現場に残された死体に熊田は軽く手をあわせて、ドアが締め切らないように椅子を調節、体重を支える右前の一本をドアに噛ませた。熊田は外の空気と現場到着の車両を待つふりをして、一階に下りた。喫煙室は食堂の窓際にサンルームーの一角、あるいは庭に組み立てられた父親の隠れ家のようなログハウスに見えた。どこでも追いやられてるらしい、熊田は先客にまぎれて、喫煙室入り口ドアをくぐった。