45 探偵
聡美は裕子と別れてから階段を上がろうとしてふと足を止め。結局部屋に戻らずデッキに出て行った。だが階段の上では来るはずの聡美を二人が待っていたのだ。スタッフの3番と28番だった。二人は聡美を追いかけた。そしてデッキで二人でぐるっと回って聡美の前に立った。驚いた聡美。
「あら スタッフさん どうしたの? お二人とも いつもの格好とは違って」
先に話し出したのは28番だった。
「二人ともお休みなので」
「あら そうなの?」
「あの」
「なんですか」
三人はだまってしまった。今度話したのは3番で
「今日お二人で講義場にいらっしゃったのを拝見しました そのあと喫茶店にいらして男性の木村さんもお会いに」
呆れた顔をした聡美。
「まるで探偵ね」
だが聡美はいそうぃってから頭をかかえて目を閉じた。
「ああ ごめんなさぃ 心配してくれたのに ただ裕子さんだいぶ調子がよくて」
だが目を開けたら二人ともいなかった。
「えっ ええ?」
二人はすでに遠くにいた。聡美が「待って」といって少し追いかけたが3番は振り向かず背中で両手で×と記した。聡美はあきらめてデッキに戻ると祐子が立っていた。
「ゆ 裕子さん どうしたの?」
「聡美さんこそどうしたの?」
「なんだか海が見たくなって」
「私も! 戻ってきたら裕子さん階段上がって行かなかったから」
「ああ そうなの?」
「あのお二人はどなた? 聡美さん(探偵ね)って叫んでた」
二人の沈黙。そのときデッキに近づいた人たちの中から一人の男性の声が聞こえた。
「幸せだなあ 僕は君といるときが一番幸せなんだ 僕は死ぬまで君を離さないよ いいだろ」
早速はしゃぐ裕子。
「加山雄三さんね」
「日本男子の古風な厳しさとおおらかで明るい西洋の男のよさを併せ持った男性」
「さすが 聡美さん」
デッキの前ではいつのまにか人々が集まって来た。太くて低い男性が大声で
「タムタム 歌え!」
女性の声でも
「タムタム」
「有名人かしら 聡美さん知ってる」
首を振る聡美。
「田村です タムタムです!! それでは (海 その愛)歌わせていただきます」
拍手があふれた。

裕子と聡美が座っていたテーブルに近づいてきたのは
13 メインデッキ
で登場したスズキムタクだった。
「スズキです 片山さんお久しぶりです お二人の席に寄せていただけますか?」
「どうぞどうぞ」
聡美も
「あっ どうぞ」
スタッフにコーヒーを頼みながらスズキムタクは同じテーブルに座る。
「この船に初めて乗った時ウロウロしてたらスズキさんに声をかけて頂いて助かりました」
「それは私も同じですよ」
「でもスズキさん 頬が少し赤いですね」
とくすくす笑った裕子。
「実は私も講義聞いてたんですよ ざわざわした声があった方を見たら片山さんがいらした いっぱい飲んで元気を出して片山さんを探したんです」
「あらぁ でも講義おもしろかったですね」
「そうですか? オバサンオバサンじゃあね 皆さんはレディなのに」
「ですよね」
と聡美は納得。
「それに教授じゃなくて映画の監督も私の妻はあげまんですといったようなもの」
「嫉妬ですか? スズキさんの奥様も聡美さんも私もあげまんなんですよ」 今度はくすくす笑うスズキ。
「自分のことをあげまんって言う人はあげまんじゃない」
「そうか」
また舌を出す裕子。聡美も楽しそうだった。
廊下を歩きなが部屋に戻る裕子と聡美。立ち止まる別れ際。聡美は
「スズキムタクさんは奥様亡くしたの?」 と聡美。
「そう 私もそうだげど 船で一人の人はご主人や奥さまを亡くした人多いわ」
「そうでしょうね」
「スズキムタクは話しててもまぁまぁだけど 私はパパのライバルの方がいいわ ただ病気にならないと会えないわ」
「えっ? 誰のこと?」
「内緒内緒」
聡美に手を振って離れていく裕子。

講義場で人がいっぱい。並んで座っている裕子と聡美。

中居氏をよいしょしすぎたフジの山