プール血清を精度管理に使用する利点を解説します【臨床検査】

みなさんこんにちは!

「Webサイトエンジニア」×「臨床検査技師」のハイブリットおじさんこと、ウエノです。

臨床検査技師を15年しながら独学でプログラミングを勉強し、Webサイトエンジニアとしてフリーランスで活動しています。

さて、みなさん。

入職した当初から、臨床化学の部署ではプール血清を使用していませんか?

使用しているならば、なぜ精度管理試料の1つとしてプール血清は用いられているのか答えられるでしょうか。

今回はその答えとなる、プール血清を精度管理に使用する利点について解説します。

プール血清の利点は意外と知られていませんので、もし昔から使っているから、という理由でワケもわからずに使用している施設や、まだ知識の乏しい後輩などにこっそり教えてあげると良いでしょう。

では本題に移ります。どうぞ!

そもそもプール血清ってなに?その特徴は?

プール血清を精度管理に使用する利点を解説する前に、そもそもプール血清とは何なのかわからないと理解が浅くなりますので、まずはプール血清について解説します。

プール血清とは患者血清をかき集めて作成した自家製管理用血清です。

名前の由来としてはプール血清の「プール」は「溜める」という意味で、患者血清を集めて溜めたものから作成していますので、(患者血清を)プール(して作成した)血清と呼ばれています。

ちなみにプール血清の作り方については次のブログで解説していますので、参考にしたい人はどうぞ。

なんで購入しているコントロール試料があるのにも関わらず、わざわざプール血清を作るんだろう。作り方には工程が多いけど、その理由は何なんだろう。作ってみたけどデータが安定しない…。プール血清についてこのように悩んではいませんか?このブログではプール血清の作り方とその意義について解説し、みなさんがドヤ顔でまわりに語れるくらいのレベルに引き上げます。臨床検査技師であり、生化学に携わっているのなら間違いなくチャンスですよ。

プール血清特徴としては「完全ヒト血清」というところです。

患者血清から作成ているのだから当然だと思うかもしれませんが、じつはプール血清の最大の利点はこの「完全ヒト血清」というところなのです。

なぜ「完全ヒト血清」というところが利点となるのでしょうか。

それは次の項に続きます。

プール血清を精度管理に使用する利点

前の項でプール血清の最大の利点は「完全ヒト血清」であることはお伝えしました。

「完全ヒト血清」であることがなぜプール血清の利点となるのでしょうか。

市販の管理試料というのは、ベースとなる血清が「ヒト」だけでなく「ウシ」であったり「ウマ」であったり、「ヒツジ」であったりと様々です。

これが何が問題なのかといいますと、試薬に対して若干の反応差を生じることがあります。

反応差を生じると測定値にも影響を及ぼし、「ヒト」ベースの血清より高値であったり低値であったりと測定値が変動します。

しかもこれが試薬ロットによってマチマチであり、影響が出る出ないが予測不能です。

さらにいうと、「ヒト」血清ベースであっても管理試料がマルチコントロールであれば測定値を調整するため様々な薬品を混ぜ合わせるため、その薬品の影響で反応性に違いが生じることもあります。

マルチコントロールというのは1つの管理試料で複数の検査項目を管理できる試料で、例えばシスメックス社の「QAPトロール」やシノテスト社の「Aalto」、セロテック社の「セロコン」などです。

マルチコントロールは複数の検査項目をある程度の測定値でキープしなければならないので、各項目が濃い濃度(高値)で存在する薬品を混ぜ合わせて作成します。

この混ぜ合わせた薬品の影響で、本来とは違った反応をしてしまい試薬ロットが変わったタイミングで管理幅から逸脱してしまうこともあります。

これを「マトリックス効果」といい、試薬と試料の反応に何らかの影響を受けているときに使用される用語です。

マトリックスとはキアヌ・リーヴスの映画でもなくミトコンドリアの内部でもなく、「材料」や「物質」を指していますので覚えておきましょう。

ここまでの内容をまとめると

  • 管理試料にはベースとなる血清の由来動物種類によって反応性に影響が出ることがある
  • 管理試料に投入されている薬品にもよって反応性に影響が出ることがある

ということです。

要は管理試料は「マトリックス効果」の影響を加味しなければならない、ということです。

特に試薬のロットが変わったタイミングで起きることが多いということですね。

では精度管理をしていくうえで、マトリックス効果が疑われた場合はどうすれば良いのか。

そこで活躍するのがプール血清なのです。

プール血清を精度管理に使用する利点は「マトリックス効果なのかどうかを判定できる」ということなのです。

プール血清の特徴を思い出してください。

プール血清の最大の利点は「完全ヒト血清」であることです。

しかも薬品も入っていませんので、純粋な反応をする試料なのです。

薬物を投与されている患者もいるではないか、という声が聞こえてきそうなので解説しておくと、プール血清は不特定多数の何十何百人の血清を混ぜ合わせますので、患者の大半が同じ薬物を大量に投与されてでもない限りはほぼゼロ濃度にまで希釈されます。

よって薬物の影響はまず出ません。

という理由で、管理試料でマトリックス効果が疑われた場合はプール血清の測定値を見てみて、プール血清の測定値に変動がなく管理試料のみで変動しているようであればマトリックス効果が疑われます。

また、例えば管理試料が2濃度などの複数タイプの場合、プール血清と基準範囲の方はいつもと変わらないが、高値の方だけ逸脱してしまった、というときもマトリックス効果が疑われることもあります。

何が言いたいのかというと、同じ管理試料でも濃度によって投入しているしている薬品が違うため、片方だけ逸脱してしまうこともあります。

管理試料を新しくする、キャリブレーターの溶解に間違いがないか確認する、キャリブレーションを行うなど然るべき対処をしてみてもどうしても解消されず、試薬ロットを戻してみると解消される場合はマトリックス効果が強く疑われます。

プール血清はこのようにマトリックス効果が疑われるときにとても活躍します。

【まとめ】プール血清は限定的な条件で活躍する管理試料である

プール血清は他の精度管理試料のように、管理幅に収まっているのか、トレンドやシフトが起きていないかなどの確認に用いるのではなく、測定値の動きを見てマトリックス効果が疑われるのかどうかを判断するために使用します。

ですので、プール血清は毎日の精度管理で有用というよりは、マトリックス効果が疑われるかどうかを確認する場面、というような限定的な条件で活躍する管理試料です。

自家製プール血清はどうしてもバイアル間差が出やすい管理試料となりますので、管理幅内に収める努力をするより、マルチコントロールのようなマトリックス効果の起きやすい精度管理試料との動きを比較する程度の運用方法で問題ありません

そこまで神経質にならずに使用するのがプール血清運用のコツだったりします。

プール血清はマトリックス効果の判定に有用なのはここまでお話してきた通りですが、作る手間や必要性からみて本当にプール血清は必要なのかどうかを書いたブログもありますので興味のある人はどうぞ。

プール血清を作っている施設は多いと思いますが、そもそも本当にプール血清を作る必要はあるのでしょうか。このブログでは僕なりの結論とその理由をお話します。またプール血清についてまったくわからない人のために、プール血清の役割や存在意義も解説します。臨床化学を担当している人には絶対に読んでほしい内容です。

このブログがみなさまのお役に立てれば幸いです。

最後まで、ご閲覧いただきありがとうございました。

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