人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

103.「配属ガチャ」よりも「上司ガチャ」に配慮を

まもなく2025年度の新入社員が入ってきます。入社を控えた方は、期待と不安の日々を過ごしていることでしょう。

企業によっては既に配属部署を通知している場合もありますが、入社式に手渡される辞令を受け取って初めて配属部署を知るというケースも少なくないでしょう。希望にそぐわない配属の場合(いわゆる「配属ガチャ」)、一気にやる気を失せて、早期に退職するような人もいるようです。

しかしながら、学生時代に専門的な研究を行ってジョブ型雇用で入社するような人以外は、例えば法学部で企業法務を学んで法務部配属を希望していても、実際には営業部に配属されることもあります。

また、自己分析により自分ではコミュニケーション能力が高く営業部が適していると考えていても、経理部に配属されることもあります。

つまりは、学生時代の専攻や、就職活動向けに自己分析をした結果などは、実社会においては参考にはなれども、その人のキャリアを決定づけるものではないということです。これらにこだわりすぎると、自分の可能性を狭めてしまうことにもなります。

もちろん企業側も、人材不足の折、昨今の若者の職業観も考慮し、できるだけ希望に沿った配属にしようと努めています。しかし、組織構成上必ずしも希望通りにはならないこともあります。ただし、この場合は、希望の配属にできない理由を説明すべきでしょう。希望者が殺到し人数枠の関係で絞らざるを得ないこともあるでしょうが、そのような場合でも、単に人数の関係だけを説明するのではなく、その人の可能性を考慮した配属であることを説明しましょう。

企業は学生時代の専攻や自己分析の先のキャリアを見越して配属しているということを示して、モチベーションを維持させる必要があります。

ただし、ここで気を付けるべきことは、たとえ希望する部署に配属されたとしても、そこの部署の上司が若者の育成に積極的ではない場合、若者からはなかなか仕事を任せてもらえないなどの不満が出てきます。そうなる前に、上司に対する教育をしっかりと行っておく必要があります。また、希望の部署に配属されない者は、面倒見がよく、この先のキャリアを一緒に考えてくれる上司のもとに預けるようにしましょう。

学生時代に描いていた仕事に対するイメージは、上司の言葉や接し方次第でガラッと変わってしまうものです。

 

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102.人事業務のAI化

新聞の第1面に気になる記事を見つけました。

人事業務の領域に人工知能(AI)を導入する動きが広がっているとのことです。

従来より人事業務のうち、定型的な事務作業については、RPA(Robotic Process Automation)によって自動化、効率化が進んでおり、近い将来人の手を介さずとも完結する業務が増えることが予測されています。

例えば、勤怠管理や給与計算などのデータを集計し反映させる業務、社会保険に係る申請から届け出に関わる業務、採用に係る書類選考、面接スケジュール調整等業務、人事評価に用いる実績等の集計業務などが代表的です。目的に合わせたデータの収集と活用に強みを発揮するのがRPAです。

しかし今回のAI化は、RPAによるデータの収集だけでなく、そのデータを分析し判断するところまで進化しています。

紹介されていたのは、コールセンターで働くオペレーターの通話記録から、顧客の課題解決につながったかどうかの顧客の満足度を測り、人事評価に利用するというものです。従来の上司による評価では、どうしても主観が入り込む余地があるため、AIによる公正な評価で社員の納得度が増すそうです。

また、社員が職務経歴などを登録することで、その人に適した部署やプロジェクトを勧めてくれるAIを導入している企業もあるようです。

とすれば、コールセンターのオペレーターに限らず、ホワイトカラーの労働者の人事評価にも応用できそうです。人事評価のツールとして利用される目標管理制度の運用において、その社員の経歴や資格を登録し、一方で企業の目標を部署ごとに割り当てれば、一人一人の目標をAIが設定してくれます。そして、目標の達成度も公正に割り出してくれます。従来の目標管理制度では、達成できそうな目標を設定しがちで、また、他の社員との目標の難易度を統一することが容易ではありませんでした。AIの活用により、人事評価の領域で長年課題だった「公正さ」を担保するきっかけとなりそうです。

しかしながら、目標管理制度を運用する上で大事なのは、上司と部下がAIで算出した目標の達成度合いを確認しておしまいではなく、目標達成に向けての取り組みの中で、新たな気付きをお互いに共有するコミュニケーションにあります。AIが人と人とのコミュニケーションにどこまで踏み込めるか注目です。

 

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101.人事制度の構築(31)賞与の有効活用

前回までで、賃金制度のうちの月例給与部分についての解説は一通り完了しました。今回は賃金制度を構成する二つ目の賃金である賞与について考えます。

賞与とは、一般的に毎月の月例給与とは別に、年2~3回に分けて支給される臨時の賃金のことで、支給基準は企業によって大きく違います。「ボーナス」や「期末手当」などと呼ばれることもあります。

賞与は月例給与と違って法律上支給が義務付けられているものではありませんが、支給基準の定め方次第では社員のモチベーションを喚起することが期待できますので、ぜひとも上手に活用したいものです。

先ず、一般的な賞与の支給時期としては、夏(6月)と冬(12月)に支給されることが多いでしょう。この時期には、商業施設などでバーゲンセールを実施したり、金融機関が優遇金利の商品を提供したりと賞与支給を意識した商戦が繰り広げられます。夏、冬の他に、3月決算の業績次第では期末に追加で支給されることもあります。

次に支給基準としては、基本給に支給月数を乗じて算出されるケースが多いでしょう。基本給は原則として上位等級者ほど高く、同じ等級であっても号俸が上位の者ほど高くなりますので、月例給与の差がそのまま賞与の額に影響することになります。

元々賞与は、月例給与だけでは賄いきれない生活上の出費の補填の目的や、年間の人件費の調整弁として賃金の後払い目的の意味がありました。しかし、このような消極的な目的では、業績悪化により支給額が減った際に不満が大きくなります。特に成績が優秀な社員ほどその傾向が強くなります。

そこで、賞与の支給総額は増やさずに、その配分の仕方を変えることで積極的な支給目的とし、企業の業績と個人の成績を重視した制度でモチベーションの喚起につなげる仕組みとしましょう。仮に業績悪化で支給額が減ったとしても、成績優秀な社員には最大限の配慮をした支給であることが明確に示せるようにすることでモチベーションを維持します。

月例給与の額は職能等級や役割等級に応じて機械的に決定する仕組みになりがちですが、賞与についてはより柔軟な仕組みとすることが可能です。

次回以降、具体的な賞与支給の仕組みについて展開します。

 

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100.年功序列を全廃できるか

また、気になる記事を見つけました。

あるメガバンクでは、報酬制度を見直し、優秀な若手社員を抜擢するため、勤続年数に応じて昇進する仕組みを全廃するとのことです。その結果、勤続が長くても職務内容によっては減給となる人もいるようです。

しかし、若手に限らず優秀な社員を厚遇することはある意味当たり前で、それが大きなニュースとして取り上げられること自体不思議な気がします。それよりも、まだ年功による処遇が色濃く残っていることも理解しがたいところです。

銀行に限らず大企業においては、一昔前から成果主義が浸透し、試行錯誤を繰り返しながらも、年齢や勤続などの年功的な要素から能力や成果を重視した人事制度に切り替わっているはずです。そのような中での年功序列の全廃は、今後浸透するかどうか興味のあるところです。

もっとも、年功序列の全廃自体は進めるべきですが、今までの制度に便乗して昇給してきたベテラン社員、いわゆる「働かないおじさん」にとっては、頭の痛い話です。つまり、優秀な若手社員を抜擢する傍らで、働かないおじさんをどのように処遇するかが年功序列全廃のポイントです。働かないおじさんに必要以上に配慮すれば、優秀な若手社員にとってはモチベーションの低下要因となり、逆に冷遇し過ぎるとベテラン社員のモチベーションに影響します。いずれの場合も制度の存続が危ぶまれます。

評価においては、単純な年齢や勤続といった年功的な要素は排除すべきですが、経験に伴う能力の向上は年功序列が全廃したとしても残り続ける評価要素です。

日本企業においては完全な成果主義は馴染み難く、それが行き過ぎるとチームプレーを行う上での弊害も出てきます。年齢や勤続といった単純な年功序列は衰退することは間違いないですが、経験は新たな序列(「経験序列」)として今後も残っていくでしょう。優秀な若手社員を抜擢しつつ、ベテラン社員の経験を活用することで双方の強みを活かし、お互いをリスペクトすることで相乗効果が得られるのです。

今回でちょうど100投稿目となります。このブログの新たなステージに向けての起点となるよう、今後も発信を続けます。

 

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099.確定申告を有効に活用しましょう

確定申告の時期です。

会社員などの給与所得者は、基本的には勤務先での年末調整で所得税の課税関係は完結する仕組みですが、以下のような人はこの時期に確定申告する必要があります。

1.勤務先での年収が2000万円を超える人

2.勤務先以外からも給与を受け取った人

3.副業による事業所得などが20万円を超える人

このうち、1の人については会社で把握できますので、敢えて年末調整は行わず、確定申告するように案内します。2,3の人についても会社で該当者を把握できる場合もありますので、個別に案内ができます。

一方で、次のような人は確定申告することで税金の還付を受けることができる場合がありますが、会社では誰がそれに該当するかを把握できず、案内が行き届かないこともあります。

4.年末調整の申告をした後、年末までに出産等で扶養家族が増え、1月給与でも再年末調整できていない人

5.年末調整の申告をした後、未申告の保険料控除証明書が出現し、1月給与でも再年末調整できていない人

6.負担した医療費の合計が10万円を超えた人

7.住宅ローンを組んでマイホームを購入した1年目の人

8.ふるさと納税等で寄付をした人

本来税金の還付を受けられるにもかかわらず、確定申告を行わないことでそのチャンスを無駄にしてしまうのは勿体ないことです。人事からの案内の有無にかかわらず、この時期には国税庁のHPや各マスコミでも確定申告の特集を行っていますので、自分は該当しないかを是非気にかけてください。

一番避けたいのは、社員が年末調整で扶養親族として申告していたにもかかわらず、実際はその親族の所得が限度額以上にあり、扶養親族に該当しなかったケースです。このようなときは数年後に会社宛てに扶養是正確認が管轄の税務署から届きます。大抵は税務署の指摘通り、扶養親族には該当せず、遡ってその社員の給与から不足税額を追加徴収します。

人事としては何も落ち度はないのですが、社員から「今頃になって余計な税金を負担させられた」と思われがちであり、とても心外です。ですから、扶養親族に該当するかどうかの判断は慎重に確認することを周知しているところです。そして、もし扶養親族に該当しないと判明すれば確定申告で修正しましょう。

ちなみに、筆者も本日確定申告を済ませました。

 

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098.それでも管理職に就任してみませんか

このブログを開設して2年近く経過し、投稿記事が100件に近づいてきました。

時々、過去の投稿を読み返すのですが、これだけの投稿があると、当時の考えがさらに発展したテーマや、逆に違った考え方をするようになったテーマもあります。今回はそのようなテーマの中から一つ紹介します。

元の記事はブログ開設間もない2023年6月の以下の記事です。

007.管理職に就任するのもいいものです - 人事労務の「作法」

最近の若手社員の中には、管理職に就任することを望まず、今までの業務の延長で活躍したいと考える人が増えている現状について論じたものです。理由は責任が伴う一方で処遇面でのメリットが少ないことが一因ですが、筆者としては管理職に就任してみないと見えない世界があるので、管理職就任も悪くないという意図で記載しました。

ところが最近、少し考え方が変わってきた部分があります。

元々昭和から平成の初期の頃は、会社の中でどれだけ出世するか、同期の中で一番先に課長になることを目指して働いていた時代です。その反動で、平成の中期以降、働きすぎが原因で過労死問題が起き、ワークライフバランスが注目されるようになり、仕事よりも自分の生活を重視する考え方が浸透し、管理職に就任することを希望しない社員が増えてきたという状況です。前回の投稿はこのあたりの現状に対して、それでも管理職に就任してみませんかと投げかけたものです。

ところが令和に入って、さらに進化した考えで管理職に就任することを希望しない若者が増えてきていると感じています。

ワークライフバランスは仕事と生活を別のものと切り分けてバランスさせる考えですが、最近は「ワークライフインテグレーション」として、仕事と生活を切り分けるのではなく統合する考え方が浸透しています。いわば人生の目標達成のために仕事を利用している人が増えているということです。その目標達成のためには管理職就任は必ずしも必要ではないということでしょう。

ただ、昭和、平成の時代を生きてきた筆者としては、それでも管理職就任には意義があると考えています。人生目標達成に向けて会社の機能を利用することは、会社に対する背任行為に該当しない限りは構わないですが、それが管理職の行為である方が周囲の理解を得られやすい現状であることは確かなのです。

今後も過去の投稿についての発展的な見解があれば示していきます。

 

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097.年功重視の賃金制度復活?

最近、気になる記事を見つけました。

ある調査では、賃金を決定する要素として個人の業績や成果を重視する割合が伸び悩んでいる一方で、年齢や勤続を重視する割合が増えているというものです。これだけを見ると、成果主義が衰退し、その反動で年功重視の賃金制度が復活しているようにも受け取られがちですが、そんなに単純な話ではないでしょう。

成果主義が注目され始めたのは、大手電機メーカーに代表されるように、1990年代のバブル崩壊以降、業績悪化の打開策として年功よりも成果を重視した処遇に切り替えたことから各社に広まったものです。

ところが、極端な成果主義は、成果に至る過程よりも結果を重視したり、チームプレーを阻害したりといった、本来日本企業が得意とする、つまり戦後の日本企業が成長してきた肝の部分を放棄したことによって、逆に業績が悪化し、各社成果主義を見直している段階です。

では、このことと年功重視の処遇への逆戻りはどのような関係があるのだろうか。

一部で指摘されている通り、行き過ぎた成果主義には弊害はあるものの、配置転換を繰り返しながら勤続を重ねることで、その企業でしか通用しないゼネラリストを育成する従来の人材マネジメントの仕組みでは、国際的な競争力を確保することはできません。新卒一括採用したとしても、希望や適性に応じて特定の分野のスペシャリストを育成する人材マネジメントシステムに転換する必要があります。

このことは、近年広がりを見せてきている新卒のジョブ型雇用にも通じます。本来、ジョブ型雇用は即戦力を中途採用する際の雇用形態ですが、イメージの良さから新卒にも広がってきています。

しかし、学生時代に産学共同で専門的な研究を行ってきたような一部の学生を除き、例えば法学部で企業法務を学んだからと言って上場企業の法務部で即戦力として働けるとは思えません。ただし、企業としてはこのような社員は法務の知識の素地があることから、あえて他の部門への異動はせず法務部門で育成していく選択をします。

つまりは、新卒でジョブ型雇用した社員を育成していく過程では、勤続を重ねるにつれて知識経験が増し、自然と賃金もアップしていく仕組みになっていくのでしょう。ジョブ型雇用が新卒に浸透した影響で、年功重視の処遇が復活してきたように見えているのだと思います。

 

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