隆慶一郎は、また凄いヒーローを私たちのもとに登場させてくれた。
実在した人物、前田慶次郎の物語。
今ではこの名前はかなり知られている。
それは隆慶一郎の「一夢庵風流記」を原作とした、原哲夫による漫画「花の慶次」の影響であろう。
文庫本裏表紙のあらすじ
戦国末期、天下の傾奇者として知られる男がいた。派手な格好と異様な振る舞いで人を驚かすのを愉しむ男、名は前田慶次郎という。巨躯巨漢で、一度合戦になるや、朱色の長槍を振り回し、敵陣に一人斬りこんでいく剛毅ないくさ人であり、当代一流の風流人でもあった。...
あとがきで隆慶一郎が書いている。
敗者の記録は勝者によって消され、あるいは書き変えられるのが歴史の常である。だから敗者に属して、しかも僅かでも名を残す者は人並みはずれてすぐれた人間に限る。前田慶次郎はその数少ない男の一人だった。
なぜ知名度が低いのか。
それは、いつでも負ける側に属するという性癖の持主なのだ。真田親子を思い出す。力を持っているものに属さず、好きな人間に属したい。
勝つ側に味方するなんて薄みっともないことなぞ、男として出来るわけがないという慶次郎だ。
そのうえ、慶次郎は剛毅ないくさ人でありながら、学識溢れる風流人で、しかも優しく、自由に生き抜いた一匹狼であった。
だから、慶次郎の命を狙っていた忍びや刺客までも、慶次郎の魅力にいつのまにか無二の部下になっていく。
慶次郎は、豊臣秀吉の命で朝鮮出兵に先立ち、朝鮮へ渡り朝鮮の状況を見てきているのだ。
表には出ないところで、慶次郎は、豊臣秀吉、石田三成、前田利家、無二の親友の直江兼続など歴史上の重要な人物を救っていた。
豊臣秀吉の失敗は朝鮮出兵だと他の本でも読み、私としては、母親、弟、鶴松(長子)を続けて亡くしたことで自暴自棄になっていたのではないかと想像していた。
それを、なんと慶次郎が理由を述べていた。
はぁ、そうか、なるほど・・と納得してしまった。
そして、「無茶苦茶で馬鹿馬鹿しいかもしれないが、心の熱さに免じて許すことが出来るではないか。」と慶次郎は思っていたのだ。
なんか分かる、まったく隙のない計算ずくめの家康より、人間らしい秀吉に好感が持ててしまう。
それから、野生馬であった漆黒の巨大な松風との出会いが良い。
「俺みたいな男も、お前みたいな馬も、そうそう生きちゃいけないよ。いずれ鉛弾丸をくらって死ぬのさ」
「どうせ死ぬなら、俺と一緒に死んでみないか」
何日も山で待ち、何度も振り落とされ、野生馬の松風を口説き落とした。
何人がかりで抑えつけても、慶次郎以外の人間は誰も乗せない松風。
時代背景や史実の描写も丁寧で、歴史上の人物たちの違う視点からの描写に、新たな一面が見れたり、とにかく面白かった。
慶次郎と松風の戦いっぷりも、強過ぎて爽快で清々しくていう事なし。
こんな素晴らしい人物が歴史上に実在したという事実に興奮が冷めやらず。
本当に、読んでみてほしい1冊でした。
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