SLIM復活

月面着陸 無人探査機「SLIM」通信確立し新画像取得に成功 JAXA

JAXA=宇宙航空研究開発機構は今月、月面への着陸に成功した無人探査機「SLIM」について、地上との通信を再び確立し、月面からの新たな画像の取得に成功したと明らかにしました。
着陸後、発電できていなかった探査機の太陽電池が28日夜までに発電したということで、今後、月面を特殊なカメラで撮影するなど月の起源を探る調査を進めることにしています。

今月20日未明に世界で5か国目となる月面への着陸に成功した日本の無人探査機「SLIM」は、その後のデータの解析で着陸目標地点との誤差を100メートル以内とする世界初の「ピンポイント着陸」に成功したことも判明しています。

一方、着陸直前に2基のメインエンジンのうち、1基になんらかの異常が発生し、想定とは異なる姿勢で月面に着陸したことから、探査機に搭載された太陽電池に太陽光があたらず、発電ができていませんでした。

このためJAXAはいったん探査機の電源を切り、今後、太陽電池に太陽光が当たって電力が復旧すれば探査機が自動的に起動して運用を再開できる可能性があるとして復旧に向けた作業を続けてきましたが、28日夜までに太陽電池が発電し、地上と探査機との通信を確立することに成功して運用を再開したと29日朝、明らかにしました。

すでに科学観測を始めているということで、探査機に搭載されている特殊なカメラを使って月面にある岩石を撮影した画像を合わせて公開しました。

この画像は、これまでに得られた画像データから観測対象として絞っていた6つの岩石のひとつで、「トイプードル」と名付けられた岩だということです。

JAXAは今後、こうした月面での調査を続けることにしています。

「トイプードル」と名付けられた岩の画像は

これはSLIMとの通信が復旧した後に新たに送ってきたものだとしてJAXAが旧ツイッター、Xの公式アカウントに掲載した画像です。

ゴツゴツとした月面の岩の表面の様子が写し出されていますが、これはこれまでに得られた画像データから観測対象として絞っていた6つの岩のひとつで、電源が復旧したあとにSLIMに搭載された特殊なカメラを使って撮影できたものだということです。

JAXAは観測対象の岩の相対的な大きさをイメージしやすいようにそれぞれ犬の種類になぞらえて「あきたいぬ」や「セントバーナード」などと愛称を付けていて、このうち掲載された画像は「トイプードル」と名付けられた岩です。

着陸成功の達成度は3段階で評価

JAXAは「SLIM」の着陸成功について達成度に応じて▽「ミニマムサクセス」▽「フルサクセス」そして▽「エクストラサクセス」の3段階に分け、それぞれに1つから4つの目標項目を設けて評価することにしていました。

このうち
▽「ミニマムサクセス」は、小型・軽量な探査機を月面に軟着陸させることなどとされ
▽続く「フルサクセス」では、着陸目標地点との誤差100メートル以内での高精度の着陸を実施し、着陸後も探査機が機能を維持することなどが掲げられ、ここまで達成できれば着陸は完全に成功となると定義していました。
▽さらに追加の目標である「エクストラサクセス」では、「SLIM」が月面に着陸したあと、日没までの一定期間、ミッションを行うことが掲げられていました。

現時点では、一部、確認が続けられている項目もありますが、JAXAはフルサクセスまでの要件をほぼ達成できたと考えています。

今回、SLIMが通信を再び確立し、画像データの受信に成功したことからエクストラサクセスについても達成できたとするかどうか判断が注目されます。

太陽が移動し 太陽電池が発電

JAXA=宇宙航空研究開発機構によりますと、「SLIM」はエンジンのトラブルで想定とは違った姿勢で月面に着陸し、本来は上を向くはずの太陽電池が西側を向いた結果、太陽電池での発電が確認出来ませんでした。

月面では昼と夜がおよそ2週間ごとに繰り返していて、太陽は地上での見え方と同様に朝方に東から上り、夕方に西へ沈むように動きます。

着陸時には太陽は東側にあったため、西側を向いた太陽電池では発電が確認出来なかったものの、日を追うごとに太陽が西側に移動していくため、徐々に太陽電池に太陽光が差し込むようになると考えられていました。

このためJAXAは今月25日に開いた記者会見で、日没にあたる来月1日ごろまでに太陽電池に太陽光が当たって電力が復旧すれば、探査機が自動的に起動して運用を再開できる可能性があると説明していました。

100度以上の高温で機器が正常に動作

ほとんど大気がない月では、昼夜の温度差が非常に大きく、月の赤道付近では昼は100度以上になるとされています。

探査機が月面に着陸して以降は月の昼間が続いているため、JAXAは着陸後の記者会見で、月の温度が100度程度に上昇すると、搭載した電子機器の半導体などが動かなくなるおそれがあり、太陽光発電による稼働時間については数日間動けばいい方だと説明していました。

「SLIM」が月面に着陸してからすでに1週間以上が過ぎていることから、高温の条件下で機器が正常に動作するかどうかも焦点の1つとなっていました。

「本当に復活するとは」専門家も驚き

惑星科学が専門で月開発に関する著書もある寺薗淳也さんは、SLIMとの通信が再び確立したことについて「太陽電池への光の当たり方が変われば復活するかもしれないと言われてはいたが、本当に復活するとは、まだ信じられない気持ちだ」と驚いた様子で話していました。

そのうえで「月は昼になると表面がプラス100度という想像を絶する世界になり、探査機に搭載されている観測機器の半導体などに悪影響がでるため、高温に耐えられれば復活するという厳しい条件がついていたにもかかわらず、見事に打ち勝って生き延びていたことが確かめられた」と話していました。

一方、今後の観測については「本来、SLIMの運用は月面の昼の間の数日できればいいと割り切っていたもので来月1日にはその昼が終わる。夜になると今度はマイナス100度以下の極めて厳しい環境となるため、限られた時間の中でJAXAが観測対象にした重要な6つの岩を特殊なカメラで撮影して精密なデータをとることが最優先になるとみられる」と話していました。

そして最後に「科学観測が再開し、月面の岩の分析が進むことで月の進化や起源を知るための貴重な材料が得られるので楽しみにしている」と期待感を示していました。

太陽電池開発メーカー「安どとともに光栄」

月面に着陸したJAXA=宇宙航空研究開発機構の無人探査機「SLIM」が地上との通信を再び確立したことについて、探査機に搭載された太陽電池を開発したシャープは「当初の想定とは違う着陸姿勢となりましたが、太陽電池が月面でも機能したことに安どするとともに、歴史的な成功の一助となれたことを大変光栄に思います」とコメントしています。   (NHKニュースより引用)