2024年1月13日、台湾で総統選挙が行われ、民進党が再選を果たしました。
選挙結果は日本のニュースでも広く報道されましたが、各政党の特徴、各候補者のプロフィール、同時に行われた立法院選挙の結果など、パワーバランスまでを俯瞰して理解している方は少ないのではないでしょうか。
台湾におけるメディアと政党の関係から、今現在、台湾の世論がどこに向かおうとしてるのか見ていきましょう。
三大新聞で比較する台湾メディアの特徴
台湾では主に『自由時報』『聯合報』『中國時報』の三紙が三大新聞と呼ばれており、日本やアメリカ同様、それぞれ論調が保守(右派)やリベラル(左派)に分かれる傾向にあります。
まずは2024年総統選の結果を報じる見出しから、三大新聞各社の反応を比較してみました。
【自由時報】民進党寄り/台湾独立を支持
『自由時報』は1980年に設立された新聞社。地方新聞から全国紙に発展し、現在では台湾一の発行部数を誇ります。
購読者の多くは民進党支持層であり、見出しでは選挙の勝利のみをストレートに表現していました。
【聯合報】国民党寄り/対中融和路線を主張
『聯合報』は1951年に創刊された新聞。現在はやや発行部数が鈍化しているものの、民進党批判も多いことから国民党支持層を中心に購読されています。
見出しではややシニカルな言い回しで民進党の勝利をレポートしていました。
【中國時報】中共寄り/政治的偏向が顕著
1950年の前身の創刊に始まり、1968年に現題号に改題された『中國時報』。以前はリベラル寄りとして知られていました。
ところが、2008年に親中派で知られる食品大手・旺旺集団のオーナーに買収されると一転、中国寄りの論調が増え、反発する記者の退職が相次いだことから多くの市民の不信を招きます。
選挙結果を伝える見出しにおいても、民進党の勝利と共に議席数の少なさを強調して伝えています。
台湾の主要メディア一覧
「中立」の存在がバランスを保つ
台湾のテレビやWEBのニュースサイトでは中立的なメディアも存在しています。
テレビ | WEBメディア | |
民進党寄り | 民視・三立 | 自由時報 |
中立 | 公視・華視 | 中央通訊社 |
国民党寄り | 台視・TVBS | 聯合報 |
中共寄り | 中視・(中天) | 中國時報 |
テレビ
中立的なテレビ局といえば公視(公共電視台)が挙げられます。日本でいえばNHKのようなイメージですが、こちらは国所管の公共放送となります。
webメディア
前述の三大新聞はインターネットのニュースサイトからも配信を行っています。
その他、台湾唯一の国営通信社である中央通訊社は国営という特質上、中立の立場での配信が求められています(日本版の「フォーカス台湾」)。
「フェイクニュース」に対抗する機関の存在
総統選挙の期間中、中国が台湾にフェイクニュースを大量拡散したことが非常に危惧されてきました。
台湾ではそのような世論誘導や台湾有事を匂わすフェイクニュースの介入を監視するために、「台灣事實查核中心(台湾ファクトチェックセンター)」という機関も設立されています。
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2024年総統選の候補者と政党を紐解く
【民進党】リベラルな国際的人材が集結
民進党(民主進步黨)は、戒厳令下の1986年に発足。直接選挙の開始4年後の2000年には初の総統を、2016年には台湾初の女性総統を誕生させました。
今期、総統選挙で勝利した賴清德(ライ・チンダー)は、2024年5月20日からの就任となります。
選挙期間中に流れた党の動画広告は、ロードムービー風のスタイリッシュな仕上がりで話題となりました。
共演は現総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)と、副総統候補の蕭美琴(シャオ・メイチン)。
蕭美琴は日本の神戸生まれの台米ハーフで、2020〜2023年まで駐米代表(大使に相当)を務めた人物です。米国での留学経験の中でリベラルな感覚を育んでいったと言われています。
留学経験のある蔡英文然り、民進党には国際的センスあふれるエリート人材が揃っている印象です。
【国民党】安定感ある実直さに評価
国民党(中國國民黨)は、中国大陸に中華民国を建国した孫文によって1919年に結成された政党です。
近代史にも記されているように、日中戦争で共産党と協力するもその後決裂、内戦に敗れた1949年には蔣介石率いる国民党政府は台湾に逃れることに。
この時、中国大陸から国民党員と共に移住した人々が外省人と呼ばれていますが、現在ではそのルーツも4〜5世代目となり帰属意識も薄れてきています。
侯友宜(ホウ・ヨウイー)は、他党のような巧みな広告戦略こそありませんが、海外ではなく、ひたむきに台湾国内で警察畑〜市政で経験を積んできたその実直さが中高年世代に評価されています。
警察キャリア時代には、1997年に起きた有名芸能人白冰冰の娘・白暁燕誘拐事件や、2004年の時の総統・陳水扁狙撃事件を担当したことは、その世代の台湾人にはよく知られた話です。
中国色を緩和するべく選挙活動をしてきましたが、投票を3日後に控える中、馬英九前総統の「習近平氏を信用すべき」という突然の失言によって、国民党は火消しに追われることになってしまいました。
【民衆党】大胆な改革手腕で若者を魅了
民衆党は2019年に結成されたまだ新しい政党です。救急医療の発展に貢献したスーパードクターを経て、台北市長の就任経験もある柯文哲(カ・ウェンヅァ)が、現在党首を務めています。
彼は率直な人柄からか、失言や主張の矛盾点を指摘されるなど、政治家としては少し心配な場面も。
今期の総統選挙では、2023年11月に国民党との連立が話題になるも突如決裂。この一件が野党の敗因とも言われました。
しかしこの異端児的キャラクターから、選挙活動中は若者から柯PまたはKP(PはProfessorの略)の呼び名で絶大な人気を集めました。
2014年から早くもYouTubeで発信、サブカルチャーにも造詣が深く、台湾の現状に閉塞感を抱く若者にとって代言者のような存在なのかもしれません。
台北市長時代には大胆なコストカットで台北市の赤字を解消し、大きな話題となりました。ただし年金の減額なども実施されたためか、高齢者からの支持は離れてしまったようです。
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2024年総統選挙の結果とパワーバランス
投票のためだけに帰国する台湾人
4年毎に行われる台湾総統選挙。今期も投票率71.86%と国内外から高い関心を集めました。
台湾は戦後より国民党の一党独裁体制でしたが、時の総統李登輝によって進められた民主化の一環として、1996年より有権者自身が総統を選出できる直接選挙が実施されました。
日本とは異なり期日前投票の制度がないため、投票のためだけに帰国する海外在住の台湾人が非常に多く見られます。
《総統選挙》の結果/得票率について
今期の総統選で勝利を収めた民進党ですが、その得票率は過半数に届かず約4割にとどまり、国民党3.5割・民衆党2.5割と、とくに第三勢力である民衆党の躍進を許す形となりました。
日本では与野党の勝敗だけに目が向けられがちですが、台湾人はその中身「県市別の得票率」にも熱い視線を注いでいます。
上図は今期総統選の県市別の投票結果を色分けしたものですが、驚くほど支持が二分されていることがわかります。
大きくは北〜東部に国民党、南部に民進党支持層が多いと言われているほか、外省人・本省人・原住民などアイデンティティの違い、地方の経済状況など複雑な事情がこの得票率に表れているのです。
《立法委員選挙》の結果/議席数について
日本での注目度は低いかもしれませんが、台湾では総統選挙だけではなく立法委員(日本でいう国会議員)の選出選挙も同時に行われました。
総統の座を死守した民進党でしたが、議席数は過半数以下の51議席、国民党の52議席より1議席少ない結果となってしまいました(上図参照)。
理想的な対中関係を築きたいという思いが総統選挙の結果だとすれば、立法委員選挙は長期政権が招いた内政への不満が表れた結果ともいわれています。
この16年ぶりに発生したねじれ議会において、ダークホース的な存在なのが民衆党です。わずか8議席ながら民進党と国民党のバランスの鍵を握る存在となったのです。
就任早々から難しい舵取りを迫られている頼政権。台湾有事や日本への影響が囁かれる今、台湾政局の動向からますます目が離せません。