「じゃ、後で」
もうすぐすれば来るのに
そのひとりの部屋、に落ち着かなくて
ビールを開ける
「sanaは、どうしてそんなに冷静に全部を、細かいところまで覚えていられるの」
その冷静は
持ちたくて持っているんじゃなくて
たぶん、自分を手放す事ができないせいで
持ち重りのする自分を
聞こえてくる節制を促す声を
自分でも持て余すのに
「どっちにしても冷静すぎるよ。その説明だってそう。もっと我を忘れる瞬間て、無いの」
雅治はそんな私の有り様を、のめり込んでくれていない・・・かのように思うらしく
私は溺れてる
だけど、もうひとりの私が、私のなかで私を見ているのと言えば・・・わかるだろうか
酔えば覚えてないくらいの振る舞いになるかと、グラスを空ける
でも、そんな為のアルコールは
フワリとも、クラリともさせてはくれない
抱かれる前に
肌が離れた明日を思ってしまう
ひとりになると焦るように感じる淋しさは
時を重ね逢えば逢うほどに、濃くなるようで
「昨日は随分ゆっくりだったから、今日はもう少し早くお部屋に帰ります?二日続けての睡眠不足は、帰るのにもしんどくなりません?」
さっき、食事をしながら
つい、思う事と真逆の事を言う私に、雅治は「ん・・そうだね」と相槌を打った
大丈夫、それでいい
3日も経てば、今の切なさは薄れる
次の約束が見えなくて、離れたとたんに気配も息遣いもわからなくなる
そんな時は、もう訪れない
月曜日には、いつものように電話が来るから
トクトク・・とひとりグラスを傾け、飲み干す
意識をふんわりとしておきたい
だけど、そこに慌てて逃げ込むようにグラスを空ける、そんな姿も見せたくない
ただ、今からの時に最大限に溺れたくて
雅治が来るまでの間に、流し込むように2杯・・・3杯・・・
抱かれて壊れ、朽ちるための準備。黄色い液体は喉をつたった