6299777190465681 リウマチ性疾患患者における帯状疱疹リスクとワクチン接種 | 感染症・リウマチ内科のメモ

リウマチ性疾患患者における帯状疱疹リスクとワクチン接種

感染症・内科一般

帯状疱疹ワクチンには、従来、弱毒生水痘・帯状疱疹ワクチン(以下ZVL)がありましたが、2018年に組換え帯状疱疹ワクチン(以下RZV) (Shingrixシングリックス®) が承認されています。これら2つのワクチンの使用ですが、米国CDCでは「50歳以上のすべての患者と、免疫不全状態や免疫抑制治療されている19歳以上の成人」に2回接種を推奨しており、日本でももともとの「50歳以上の成人」に加えて「帯状疱疹の発症リスクが高いと考えられる18歳以上」への追加承認拡大が今年6月にされました。
成人でリウマチ性疾患のかたへは、実際どうなのか、新しいワクチン、シングリックスは使用した方が良いのか?

帯状疱疹ワクチンの種類

帯状疱疹ワクチンには、
組換え帯状疱疹ワクチン(以下RZV) (Shingrixシングリックス®)  と
弱毒生水痘・帯状疱疹ワクチン(以下ZVL) 
 の 2つが承認されている
一般集団を対象とした非対面研究では、RZV の方が効果的であることが示されているため、ZVL は米国ではもう販売されていない

リウマチ性疾患の成人患者における帯状疱疹リスク

帯状疱疹(以下HZ) は、高齢者や免疫力が低下した患者で発生が増える、45 歳以上の患者の発生率は 3.9% と推定されている
リウマチ性疾患患者は一般集団と比較してHZのリスクが高く、すべての年齢層において炎症性筋炎およびSLE患者で感染リスクが最も高くなる
免疫抑制治療はリスクが増大し、大規模試験では、シクロホスファミド(調整ハザード比aHR: 2.7)アザチオプリン(aHR: 1.6)ヒドロキシクロロキン (aHR: 1.4) であったが、メトトレキサート、スルファサラジン、またはレフルノミドでは上昇しなかった
後ろ向きコホート研究では、強直性脊椎炎患者へのTNF-α阻害剤インフリキシマブによる治療はHZのリスクを増加させなかった
乾癬患者では、インフリキシマブとエタネルセプトによる治療により、HZのリスクがそれぞれ2.43と1.65のORで増加した
JAK 阻害剤は HZ 再活性化のリスクが高くなる 
HZの発生率は、ウパダシチニブ15 mgの場合は3.0、用量を2倍にした場合は5.3であった

免疫抑制療法の定義:リウマチ性疾患

・米国CDCの免疫抑制療法の定義 では
 20 mg/日または2 mg/体重kg のプレドニゾン相当用量で 2週間以上のGC使用、メトトレキサート(MTX)≧0.4 mg/kg/週、アザチオプリン≧3.0 mg/kg/日。 
・これより低量の場合は 軽度免疫抑制とみなされる

リウマチ性疾患患者への弱毒生水痘・帯状疱疹ワクチン

弱毒生HZワクチン(ZVL)のリウマチ性疾患患者への安全性  
非生ワクチンは、全身性グルココルチコイドおよびDMARDで治療されている間、リウマチ性疾患患者に投与することができるが、弱毒化生ワクチンの使用はリウマチ性疾患患者では慎重に考慮する
・免疫抑制剤使用者への接種を2件の研究で評価、接種後42日での帯状疱疹発生率増加なし  
・MTX治療の50歳以上の活動性RA患者への、トファシチニブ開始の2~3週間前にZVLを投与した場合、14週間の追跡調査で安全かつ免疫原性があることが報告された

リスクのある患者にはZVLが検討されるかもしれないが、特殊な状況下での MMR ブースターおよび ZVLの慎重な使用を例外として、基本は免疫抑制治療中は弱毒生ワクチンの使用を避けるべき
・免疫抑制状態では生ウイルスワクチンの接種を避けるべきであるが、低~中用量のコルチコステロイド(PSL≤10 mg/日)、レフルノミド、サラゾピリン、MTX(≤0.4 mg/kg/週)、AZA(≤3 mg/kg/日)はZVLに対する禁忌として記載されていない。
・免疫性疾患(RA、PsA、AS、乾癬など)の患者を含む遡及的な大規模データベース研究で、高齢リウマチ性疾患患者においてZVL接種は追跡調査中央値2年にわたってHZの発生率の減少と関連していた
・この効果は、bDMARD を含む薬物使用に関係なく存在した
ZVL接種は、自己免疫疾患患者に対して約 5 年間の予防効果をもたらした
JAK 阻害剤、アバタセプト、TNF阻害剤以外の生物学的製剤を現在使用している患者に対するZVLの免疫原性データは報告されていない

リウマチ性疾患患者への組換え帯状疱疹ワクチン

シングリックスRZVと呼ばれる新規の非生の組換えサブユニットアジュバント帯状疱疹ワクチン
RZVは非生ワクチンであるという事実に基づいて、リウマチ性疾患患者の弱毒化生ワクチンに代わる可能性がある
ZVLの接種後の加齢に伴う免疫力の低下は報告されているが、RZVでは観察されていない。
おそらく強力なアジュバントによるものと思われる注射部位の局所反応は一般的であるが、ほとんどの有害事象は短期間である
3年間の追跡調査においてワクチン群とプラセボ群の間でワクチン関連の自己免疫障害に差はなかった
免疫抑制治療中 リウマチ性疾患患者でのRZV の使用はまだ研究が少ない

RZV のアジュバントが基礎的な炎症性疾患の再燃を引き起こす可能性があるという理論上の懸念がある
・RZVワクチン接種を受けたリウマチ性疾患患者403人を対象とした最初の遡及的レビューでは、ワクチン投与後12週間以内に疾患が再燃する発生率が7%であることが判明した。この発生率は臨床試験から予想される発生率と同様であると考えられました。
・しかし、リウマチ性疾患患者 359 名を対象とした 2回目の遡及調査では、16% がワクチン接種後 12 週間以内に疾患が再発したことが判明した これらの結果の違いはフレアの定義の違いに関連している可能性がある
・リウマチ性疾患患者におけるRZVアジュバントの安全性:400 人の患者を対象とした単一センターの経験 (ACR Open Rheumatol. 2020 Jun;2(6):357-361. )では、再燃の発生率は6.7%、副作用は患者の 12.7%で発生、すべての再燃および副作用は軽度、どちらもその頻度は重要な試験で観察された発生率よりも低かった
・既存で潜在的な免疫リウマチ性疾患を有する成人におけるアジュバントRZVの有効性と重篤な有害事象について2つのランダム化試験のプールされた事後分析では、プラセボ群と同様であった (Rheumatology (Oxford). 2021 Mar 2;60(3):1226-1233. )

各種ガイドラインでは

自己免疫性炎症性リウマチ性疾患の成人患者におけるワクチン接種に関する EULAR 推奨 2019年

Ann Rheum Dis. 2020 Jan;79(1):39-52. PMID: 31413005
リウマチ性疾患の高リスク患者では、帯状疱疹ワクチン接種が考慮される場合がある
証拠レベル:感染率2b 効能2b 免疫原性2b 安全性4
推奨の強さSoR* B
各推奨の一致度:9.1 平均/範囲 (0-10) 7-10、%≥8 93%

日本リウマチ学会  ガイドライン委員会 2020年12月7日

日本リウマチ学会・ガイドライン
組換えサブユニット帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)のリウマチ性疾患患者における使用について
リウマチ性疾患患者における安全性のエビデンスは十分でないため、当該患者のリスクベネフィットに鑑みて使用を考慮してください

米国予防接種諮問委員会(ACIP):19 歳以上の免疫力が低下した成人における組換え帯状疱疹ワクチンの使用:推奨事項 2022年

MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jan 21;71(3):80-84. PMID: 35051134
では、 帯状疱疹の予防に関する以前のACIP推奨事項を更新し
疾患または治療により免疫不全または免疫抑制されている、または将来免疫不全となる19 歳以上の成人における帯状疱疹および関連合併症の予防のために、RZV の 2 回投与を推奨した

投与スケジュール。帯状疱疹の既往歴や帯状疱疹生ワクチンの接種歴に関係なく、RZV を 2 回接種する。2 回目の RZV 投与は通常、最初の投与から 2 ~6か月後に行う
予防接種のタイミング。可能であれば、患者は免疫抑制になる前にワクチン接種を受ける
それ以外の場合、医療従事者は、免疫反応が最も強まる可能性が高い時期(つまり、免疫抑制が低下し、疾患が安定している時期)にワクチン接種のタイミングを検討する
帯状疱疹の既往歴のある人。帯状疱疹は再発することがある。帯状疱疹の既往歴のある人は、RZV の接種を受ける必要がある
水痘、水痘ワクチン接種、帯状疱疹の既往歴がない人。水痘の経験がなく、水痘ワクチンも接種していない人には、帯状疱疹のリスクはない。弱毒生水痘ワクチンを受けた小児および青少年は、水痘を経験した人よりも帯状疱疹のリスクが低い。
いま帯状疱疹にかかっている人。RZV は帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の治療薬ではない。帯状疱疹にかかっている人は病気の急性期が終了し、症状が軽減するまでワクチン接種を延期する

RZVワクチン接種前の考慮事項

Expert Rev Vaccines. 2021 Sep;20(9):1065-1075.より
水痘の既往歴
RZV は HZ の予防に適応されるが、水痘の一次感染の予防には適応されない
帯状疱疹の既往歴
HZ の病歴を持つ個人に対する RZV ワクチン接種は、これらの個人は再発性 HZ のリスクに引き続きさらされているため ドイツや米国などのガイドラインによって推奨されている
以前に ZVL を接種した個人
RZV 予防接種のタイミングに関しては各ガイドラインでバラバラ。これらのガイドラインでは RZV の 2 回投与による再ワクチン接種が推奨されている

まとめ

一般集団と同様に、リウマチ性疾患患者も各種ワクチン接種が検討される
軽度の免疫抑制では(上記、免疫抑制療法の定義 参照)、ワクチンに対する抗体反応が低下するとは考えられない
高度の免疫抑制治療を受けるときは理想的にはその前にワクチン接種を計画する(とくに高用量ステロイド、リツキシマブ、MTX+JAKi)
従来の生ワクチンに加え、組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス)が登場している
最近、日本や米国などで50歳以上の適応に、免疫不全や免疫抑制治療をうけている18-50歳も追加されてきている
とりわけ高度免疫抑制治療を受ける患者では検討すべきと思われる
リウマチ性疾患においてはRZV のアジュバントによって疾患の再燃を引き起こす可能性があるという理論上の懸念があり大規模な臨床研究の結果を待たないといけない

参考文献
Ann Rheum Dis. 2020 Jan;79(1):39-52.
Ann Rheum Dis. 2021 Oct;80(10):1255-1265.
Expert Rev Vaccines. 2021 Sep;20(9):1065-1075.
Viruses. 2022 Jan 19;14(2):192.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jan 21;71(3):80-84.
Clin Rheumatol. 2021 Sep;40(9):3533-3545.

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