第109回薬剤師国家試験(物理・化学・生物)(2024.2.17-18)

薬学

今年も薬剤師国家試験が終わりました。
毎年必須問題だけ解いていますが、年々、記憶が抜け落ちて行っています。
自分の勉強のメモとして、解説を書いていきます。
誤っている部分もあるかもしれませんので、参考にしていただき、実際には教科書等で確認することをおすすめします。

物理・化学・生物

物理

問1 永久双極子モーメント

4 水分子(H2O)は、分子全体として分極している極性分子です。
1 ベンゼン、3 二酸化炭素(CO2)は、平面(直線)上で対称構造を持つため無極性分子です。
2 メタン(CH4)、5 四塩化炭素(CCl4)は、正四面体の構造でそれぞれの双極子モーメントを打ち消し合うため無極性分子です。メタンのH原子がCl原子になったものが四塩化炭素なので、立体的な構造は同じです。

問2 SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動でのタンパク質染色

SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)においてタンパク質を染色する際は、5 クマシーブリリアントブルー(CBB)を使用します。銀染色が用いられることもあります。
1 ニンヒドリンは、医薬品の確認試験等で用いられ、アミノ酸水溶液に加えると紫色に、イミノ酸では黄色に呈色する試薬です。
2 臭化エチジウム(エチブロ)は、核酸染色としてアガロースゲル電気泳動後の核酸の検出に用いられます。
3 o-フタルアルデヒド(オルトフタルアルデヒド)は、イオン交換クロマトグラフィーの後にアミノ酸をポストラベル法によって蛍光検出する際に用いられます。(一方で、ニンヒドリンは、吸光検出で用いられます。)
4 フルオレセインイソチオシアネート(FITC)は、核酸、抗体、タンパク質等の蛍光標識に用いられる試薬です。

問3 質量数が変わらず原子番号が1増加する放射壊変

2 β壊変は、中性子1個が陽子1個に変換され、陰電子1個が放出される壊変であり、質量数が同じで原子番号が1増加した娘核種を生成します。
β壊変は、β壊変、β壊変、軌道電子捕獲(EC)に分類され、いずれも原子核内の陽子と中性子が変換されるものです。中性子と陽子の質量は同じであるため、壊変により相互に変換しても質量数は変化しません。
βとβがどちらがどちらか覚えにくいですが、βの右肩に乗っている電荷の粒が原子核から放出されると覚えればよいです。

β壊変:陰電子(-)が放出される ← 中性子(±0)が陽子(+1)に変換されて電子(-1)が出る
β壊変:陽電子(+)が放出される ← 陽子(+1)が中性子(±0)に変換されて陽電子(+1)が出る

問4 粉末X線回折パターンの横軸パラメータ

必須問題の物理に入っている問題とは思えないです。
粉末X線回折(XRD)は、向きがバラバラ(無配向)の粉末試料にX線を入射し、反射したX線により描かれるリング状のパターン(回折像)を得て、結晶多形や溶媒和結晶の判定に用いられる分析法です。
横軸のパラメータは回折強度であり、選択肢1の2θで表されます(θは入射X線と格子面群の角度)。

これは2θでこういうものだと言われれば覚えてそれまでですが、一応解説します。
XRDでは、入射X線が試料面で反射した反射X線(散乱X線)が波の干渉によって強め合う条件で観察される回折像を測定します。
回折像の回折強度を、各回折角について測定しますが、回折が起こる条件はブラッグの法則で表されます。
2dsinθ=nλ (θ:X線の入射角、X線の反射角、他の説明は省略)

下図で、入射X線と試料面のなす角度をθ1、反射X線と試料面のなす角度をθ2、入射X線が試料を通り過ぎていた場合の方向(X線源から試料を挟んで真正面)と試料面のなす角度をθ3とすると、
θ1=θ2(反射の法則)
θ1=θ3(入射X線と試料面のなす同位角)
によって、θ1=θ2=θ3(=θとします)となり、全て同じ角度になります。
回折角、回折強度は、検出器を動かしながら測定します(試料を動かす場合もあるようです。)。
X線源の真正面から、検出器をどれくらいの角度動かしたか、回転したかを測定するため、実際に測定されるのは2θであり、これがX線回折パターンの横軸である回折角度となっています。
本当に測定したいものはθのはずですが、実際に測定される数字は2θであることから、一般的に2θを横軸にするようです。

問5 水溶液のpH

弱酸の[H+](水素イオン濃度)は、弱酸のKa(酸解離定数)、弱酸の濃度Cを用いて、以下のように表されます。

$$[H^+]=\sqrt{K_a・C}$$

pHは、[H+]の逆数の常用対数であるため、以下のように表すこともできます。

$$pH=\frac{1}{2}pK_a-\frac{1}{2}logC$$

0.01 mol/Lの安息香酸水溶液のpHは、安息香酸のpKa=4.2のとき、

$$pH=\frac{1}{2}pK_a-\frac{1}{2}logC=\frac{1}{2}\times4.2-\frac{1}{2}\times log10^{-2}=2.1-(-1)=3.1\approx3.0$$

よって、pHは選択肢2の3.0となります

化学

問6 アルカンの沸点

アルカンは分子量が増えるにつれて沸点が高くなり、分子量が同じ場合は分岐が増えるほど沸点は低くなります。
これは、分子量が大きいほど、分子の表面積が大きいほど(分子が球形ではなく直鎖に近いほど)、ファンデルワールス力が強くなるためです。
1と3は炭素数が4であり、2、4、5は炭素数が5です。
炭素数5の選択肢のうち、一番分岐が少ない直鎖構造をとっている2のn-ペンタンがこの中で最も沸点が高いことになります。

問7 活性酸素

通常、酸素分子は基底状態にあり、それは三重項酸素(3O2)と呼ばれます。
一方で、電子のスピンが通常と異なり不安定な状態になり活性が高い状態になったものが一重項酸素(1O2)と呼ばれます。
なんでこんなにどっちがどっちか覚えにくいのかとも思いますが、簡単に言うと、安定な状態である三重項酸素はパターンが3つあり、不安定で活性の高い一重項酸素はパターンが1つあるため、このように分類されているようです。

活性酸素種(ROS)ではないものは、選択肢の中では2 三重項酸素(3O2です。
他の選択肢の1 一重項酸素(1O2)、3 スーパーオキシド(O2)、4 ヒドロキシラジカル(・OH)、5 過酸化水素(H2O2)は、いずれも活性酸素に入ります。

問8 転位反応

転位反応は、化合物中の原子や置換機が別の原子に結合し、骨格が変わる反応です。基本的には、転位前よりも転位後の方が化合物として安定となることが多いです。
4の反応は、硫酸による酸性条件下で、C=N-OHの構造が、C(=O)-NHの構造に変わっています。
C=N-OHの構造(ケトオキシム)がC(=O)-NHの構造(アミド)に変わる反応をBeckmann転位と呼びます。
ケトオキシムにH+が反応してH2Oが脱離し、C=NのC原子に結合していたアルキル機がN原子に転位し、その後H2OがC原子に付加し、N-置換イミド酸を生じ、互変異性により最終的にN-置換アミドとなります。

問9 アルケンへのハロゲン化水素付加反応の活性化エネルギー

エチレンの炭素二重結合(C=C)に塩化水素(HCl)が付加する反応は2段階で起こります。
第1段階:エチレンへのプロトン(H)付加によるカルボカチオンの生成
第2段階:カルボカチオンへの塩化物イオン(Cl)の付加によるクロロエタンの生成

よって、それぞれの活性化エネルギーは下のようになり、塩化物イオンが求核攻撃する段階の活性化エネルギーは3 E3ということになります。
E1:HがC=Cに付加するエネルギー(律速段階)、反応第一段階の遷移状態
E2:カルボカチオンの状態
E3:ClがC-Cに付加するエネルギー
E4:反応熱(発熱)

問10 排尿障害を悪化させる生薬

4 ロートコンは、ナス科のハシリドコロ等の根茎及び根を薬用部位とする生薬であり、主要成分としてヒヨスチアミン、アトロピン、スコポラミンを含みます。
ロートコンを基に医薬品のロートエキスが製造され、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、肛門疾患における鎮痛・鎮痙に適応があります。
成分にアトロピンが含まれているように抗コリン作用があるため、排尿障害を悪化させる可能性があります。

生物

問11 第8脳神経

第8脳神経(第Ⅷ脳神経)は、内耳神経、聴神経と呼ばれ、3 聴覚を司っています。
1 嗅覚は第Ⅰ脳神経(嗅神経)、2 視覚は第Ⅱ脳神経(視神経)、4 味覚は第Ⅶ神経(顔面神経)と第Ⅸ脳神経(舌咽神経)により支配されています。
5 触覚は、顔面については第Ⅴ脳神経(三叉神経)が関与し、体の触覚については脳神経というより末梢神経系>体性神経系>知覚神経により支配されています。

脳神経は、ゴロ合わせがたくさんありますが、有名なのは、
「嗅いで見る、動く車の3つの外、顔聴く舌に、迷う副舌」
ですね。舌が二つあるのがややこしいですが。

嗅いで視る動く車の3つの聴く舌に迷う
動眼滑車三叉外転顔面舌咽迷走舌下
脳神経のゴロ合わせ

問12 独立したDNAを保存する細胞小器官

2 ミトコンドリアは、真核細胞の細胞核の中のDNAとは異なる独自のDNAが存在しています(ミトコンドリアDNA)。
ちなみに、ヒトにおいてミトコンドリアのDNAは母親からのみ受け継がれ、父親からは全く受け継がれません。
ミトコンドリアDNAを調べて遡っていくと、母親の母親・・・と祖先を辿ることができ、ある研究で人類の共通の祖先として約17年前のアフリカの女性が祖先と判明しています。彼女のことは「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれています。

問13 核内受容体に作用するビタミン(前駆体)

レチノールはビタミンAのひとつであり、レチナール、レチノイン酸に変化します。
レチノイン酸は、核内受容体に結合し、細胞の増殖や分化に関与しています。
つまり、4 レチノールは変化してレチノイン酸になる前駆体であり、変化したレチノイン酸が核内受容体に結合(リガンドとして作用)します。
他には、ビタミンDであるコレカルシフェロールも活性型ビタミンD3となって核内受容体に作用します。
ビタミンAもビタミンDも脂溶性ビタミンであり、細胞膜や核膜を通過して核内に到達することができます。
1 ナイアシン、2 ピリドキシン(V.B6)、3 パントテン酸、5 ビオチンはいずれも水溶性のビタミンです。

問14 コレステロール輸送を行う血漿リポタンパク

4 低密度リポタンパク質(LDL)は、肝臓から全身の組織(末梢組織)へコレステロールの運搬を行います。いわゆる「悪玉コレステロール」です。
1 キロミクロン(CM)、2 超低密度リポタンパク質(VLDL)、3 中間密度リポタンパク質(IDL)も肝臓から末梢神経へのコレステロール輸送を行いますが、これらの中でコレステロールの組成の割合が最も大きいのはLDLになります。
反対に、5 高密度リポタンパク質(HDL)は、末梢組織から肝臓へコレステロールの運搬を行います。いわゆる「善玉コレステロール」です。

問15 MHCクラスⅠとクラスⅡの両方を持つ免疫担当細胞

主要組織適合遺伝子複合体(MHC)は、免疫的に自分か自分以外か(俺か俺以外か)を判別するために重要な物質です。
昔はMHCというと遺伝子群のことを指していたようですが、近年ではそれらの遺伝子の産物であるタンパク質をMHC、MHC抗原と呼びます。ヒトの場合は、MHCをHLA(ヒト白血球抗原)と呼ぶこともあります。

MHC抗原は、クラスⅠとクラスⅡに分けられます。
クラスⅠ分子はほとんど全ての有核細胞に発現していますが、クラスⅡ分子は抗原提示細胞である樹状細胞(DC)、マクロファージ(Mφ)、B細胞等にのみ発現しています。
よって、1 樹状細胞がMHCのクラスⅠ分子とクラスⅡ分子の両方で抗原提示ができる細胞になります。
2 キラーT細胞(CTL)、3 好中球(Neut)、5 制御性T細胞(Treg)はいずれも免疫担当細胞ではありますが、MHCクラスⅡ分子は発現していません。
4 巨核球は、分化して血小板となる細胞であり、免疫担当細胞ではありません。

参考

◇薬剤師国家試験
【厚生労働省:薬剤師国家試験のページ】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakuzaishi-kokkashiken/index.html

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました