オンライン英会話にて、講師側としての数年前の話です。
生徒さんの詳しい年齢は確認しませんでしたが、恐らく小学2～3年生ぐらいの女の子でした。
レッスン冒頭で簡単な挨拶や自己紹介を行うので、その時点で平易な英語でなら意思疎通出来るレベルであることは確認できました。
とても真面目な子で、こちらの発言を一言一句漏らさず聞き取ろうとする姿勢が伺えました。
また自分が話すときも間違えないように言葉を選び、ジェスチャーも合わせてどうにかこちらに意思を伝えようとする熱心さが見られました。
概して小さい子は集中力がまだ乏しく、25分のレッスンを完遂させることが難しいこともあるのですが、この子なら何の問題も無いだろうとすぐに思いました。
しかしテキストの内容指導に入ってすぐに問題が発生しました。
それは、お母様がべったり横についてレッスンを看視されていたことです。
最初から横におられたのか、テキスト指導に入ってから横に付かれたのかは確認出来ませんでしたが、自己紹介のときに全く気付かなかったことを考えると後者かなと思います。
小さいお子様のレッスンで、保護者の方が横におられることは珍しくありません。
適宜レッスンの進め方に関してリクエストを頂いたり、お子様がどうしても答えられないときに助け舟を出されたり。
こちらとしても、小さいお子様を画面の前に座らせ続けるのは難しいときもあるので、特に初回レッスンのときはそういう保護者の手助けがあるのはありがたく感じます。
しかしこの回のお母様がしたのは手助けのレベルではなく、過剰な口出しでした。
レッスン内容はキッズ用教材で、三単現のsの使い方を学ぶものでした。
You play tennis.
He plays tennis.
They play tennis.
My mother plays tennis.
などと主語を入れ替えて、sを付けるか付けないかの練習を行いました。
順調に答えられているうちに良いのですが、女の子が
“My brother like bas…”
と少しでも間違えれば、
「ス！」
と画面の外から怒声が聞こえてきました。
それを受けて女の子が
“My brother likes basketball.”
と答えなおす、という調子です。
こちらの
“Does he watch TV?”
などの質問にyes/noの指定された方で答えを作る練習でも
“No, he don’t.”
と答えてしまうとやはり即座に
「ダズント！」
の声が横から聞こえてきます。
連続で間違えると女の子も自信が無くなってきて、次の質問には正解しているのに声が小さくなるような場面もありました。
そういうときでも横から
「ハッキリ喋る!」
と指導が入ります。
そしてまた女の子が同じ答えを大きな声で言いなおします。
正直途中ぐらいで僕の方のメンタルがきつくなってきて、テキストには書かれていない優しめの問題を即興で作って出し、どうにか正解してくれてと願って答えを待つようなこともしました。
とにかく「間違っちゃダメだ!」と恐る恐る答える姿を見て、本当に心が苦しくなりました。
少しでも緊張を和らげてレッスンを楽しんでもらえるように、テキストがひと段落するタイミングで、その子の英語力で答えられそうな雑談も挟みました。
いくつか簡単な質問と応答を繰り返してピリついた雰囲気もやや和み、
“What sports do you like?”
に対しても
“Badminton.”
と笑顔で答えてくれて安心していると
「I likeは!?」
とすかさず横から訂正が入りました。
（というかこのやり取り、別に間違いでも何でもありませんし）
「いや、定期テストじゃないんだから、さすがそこまで気にしなくても……」
とつい制止したくなりましたが、そんなことを言えるはずも、その隙も無く。
せっかく和んだ雰囲気もまた一気に凍り付きます。
その横やりで雑談すら楽しむことを許されない空気になってしまい、そこからは機械的にテキストの問題を出して答えてもらうだけになってしまいました。
もちろんそこからも、怒涛の訂正は続きましたが。
思えば最初の自己紹介からずっと慎重に言葉を選んでいたのも、文法や単語を間違えた瞬間に注意されることを恐れていたのでしょう。
というかその自己紹介の部分すら実際に過去に何度も訂正された経験があって、それで正しく覚えた英文を必死に思い出して喋っていてくれてたのかもしれません。
何とか楽しくレッスンを受けてもらいたいと思いつつ、しかしどうにも出来ないもどかしさを感じながら結局そのまま25分が過ぎてレッスンは終了になりました。
最後に女の子が
“Thank you so much.”
と言ってくれたことだけが救いです。
それも、言わないと怒られるから、だったのかもしれませんが。
今思い返してもどうすることが正解だったのか、明確な答えを出せません。
仮にこのご家庭から個人的に家庭教師の依頼を受けていたなら、間違いなくお断りします。
或いはレッスン中には保護者は口を出さない、目先の得点や成績で子どもを責めないということを保護者に釘刺してから授業をさせて頂きます。
しかしオンライン英会話の講師として、他の生徒・講師もたくさんいるプラットフォームで働かせて頂いている以上、そこのルールから逸脱した行為は出来ませんし、レッスンの中断も出来ません。
ではお母様の方に「ちょっと黙っててください」と注意すれば良かったのでしょうか。
正直それも中々難しい話です。
こちらが意に沿わない態度を取ったことで、別のプラットフォームを探して退会でもされてしまったら運営や他の講師にも迷惑がかかります。
そこまでいかないにしても、もし注意したらその場でレッスンを終了されて、僕の評価に星1がついて終わりになるぐらいは十分あり得たでしょう。
いや、それでもそれがきっかけにで次からお母様の態度が多少でも改善するなら、僕一人の評価が下がるぐらいやぶさかではないのですが。
残念ながら恐らく、というかほぼ確実に、たまたま受講した一講師に注意された程度であのお母様の態度が改善することはないだろうと感じました。
むしろそうすることで機嫌を損ねて、その怒りが
「あなたがあんなに間違えるからお母さんが文句を言われた！」
などと女の子の方に向いてしまうことが心配でした。
それも大いにあり得そうなシチュエーションでしたので。
結局講師としてどうするのが正解だったのかは分かりませんが、あのお母様の行為や態度が女の子にとって良くないということは間違いないと言えます。
執拗に間違いを注意されると、子どもからしたら何を答えるのも怖くなって当然です。
楽しんで勉強出来るはずもなく、とにかくミスをしないように注意をすることが最優先になります。
現にレッスン中も、その女の子に楽しんでもらえてると思える瞬間はほんの数回あったぐらいで、残りの時間は終始お母さんの叱責を気にして恐る恐る質問に答える状態になっていました。
講師としては悔しい限りですが、あのレッスンを受けた直後に
「もっと英語を勉強したい！またレッスンを取りたい！」
と前向きに思ってもらえることは無かったでしょう。
僕以外の講師とのレッスンでも毎回同じような状態で受講していたのだとすると、（そしてそうだと思いますが）やればやるほど英語が嫌になるだけでしょう。
嫌々でも学習すれば多少の単語・文法の知識は得られるでしょうが、それと引き換えに学習意欲や向上心は失われる一方です。
努力を継続する最大のコツは、その行為自体を楽しむことです。
「英語で会話をするのが楽しい。新しい表現を覚えられて嬉しい」
そういう前向きな気持ちが、また次も頑張ろうという気持ちを生み出します。
「点数が上がって嬉しい。褒められて嬉しい」
など外部の要因が理由でも良いと思います。
とにかくポジティブな感情を持たないと、自発的な努力を継続するのは困難です。
「今日は怒られなくて良かった」
という感想からでは
「次もレッスンを頑張ろう」
という気持ちは生まれません。
「今日もたくさん怒られた」
では
「もうやりたくない」
になってしまうだけです。
親が熱心なあまり、子どもから学習意欲を奪ってしまうのは親自身のエゴとしか言えません。
勉強しているのを横からチェックするのは大いに結構ですが、せめて間違えたときに指摘するばかりでなく、正解したときに褒めるというような形を取ってもらいたかったです。
また人前で叱られるというのは大人でもメンタルがやられるぐらい辛いことです。
初対面の講師の前でミスするたびに注意され叱られたのは相当きつかったでしょう。
だいぶ昔のことですが、これが未だに忘れられないレッスンの一つです。
願わくはこの女の子が、もう小学校の高学年か中学生になってる頃でしょうが、今でも英語の学習に前向きに取り組んでくれていてほしいものです。
ということで、英語学習者の皆さんには、まずは楽しんでレッスンを受けるようにして頂ければと思います。
子どもにレッスンを受講させる保護者の方は特に、この楽しめるかどうかを最優先に考えてもらいたいです。
目先のミスにとらわれ過ぎて、レッスンが嫌になる、英語そのものが嫌いになるなど、勿体ない以外の何物でもありません。
楽しければ続きます。
続ければ能力は必ず向上します。
「上手く言えないことも間違えたこともあったけど、いっぱい喋って楽しかった！」
ぐらいでもう100点だと思って、まずは楽しくレッスンを受けてもらいたいです。
一講師としては、生徒さんが少しでも英語に対して前向きな気持ちになれるようにサポートしていきたいと思うばかりです。
コメント