人は、難しそうな言葉の響きですごいと感じる傾向がある(経営と生活に役だつ行動経済学、ジンクピリチオン効果)

人は、難しそうな言葉の響きですごいと感じる傾向がある(経営と生活に役だつ行動経済学、ジンクピリチオン効果)

言葉の音感などで「すごそうだ」と感じさせる“ジンクピリチオン効果”

皆さんは、知り合いの人が、「今、IPOのためにインベスターやレンダーにカンファレンスや、ワン・オン・ワン・ミーティングの場で、当社のエクイティ・ストーリーにつきプレゼンテーションしている」と話すのを聞くと、「この人はかなりの金融の専門家だ」と思ったりしませんか?

普通に言い直せば、「今、会社を上場するために、投資家や銀行などに、会議や対面で個別に、当社の成長戦略を話している」ということです。実際に携わっている仕事の難易度はともかく、話していることそのものは、難しいことではないと思います。

このように、専門家でなければ意味がわからない用語や、言葉の音感や新奇性などによって、何となく「すごそう」とか「優れた情報に違いない」というような印象を相手に与えることを“ジンクピリチオン効果”と呼びます。相手がこのような印象を持ってくれると、話し手の言葉の信頼性や説得力が増すことにもつながります。

“ジンクピリチオン効果”の語源は、シャンプーに含まれる成分

“ジンクピリチオン”とは、そもそも何のことでしょうか。大手消費財化学メーカーである「花王」が、1970年に日本初の「フケかゆみを止めるジンクピリチオン配合のシャンプー」として、「メリット」を発売したことが、その語源になっています。テレビCMでも強調されていた“ジンクピリチオン”の詳細については、ほとんどの人々は知りませんでしたが、人々の脳裏に何となく効果がありそうな印象を残しつつ、ヒット商品となりました。ここから、“ジンクピリチオン効果”という言葉が生まれました。

1985年(昭和60年からは、“ジンクピリチオン”を改良した“ミクロジンクピリチオン”を配合でしたメリットが発売されました。

“ジンクピリチオン効果”は数多くの広告などで活用されている

語源になったために、“ジンクピリチオン効果”の説明には、花王のメリットの話がすぐに出てきますが、実際には数多くの企業が、製品表示や広告で使っています。

1981年に発売された大正製薬のパブロンゴールドカプセルでは、「医薬用で使われている成分「塩化リゾチーム」を配合した総合かぜ薬」が謳い文句になっていましたし、1987年に発売されたパブロンゴールドS錠では「日本の一般医薬品では初めて「塩酸ブロムヘキシン」を配合」を強調しています。2002年のパブロンゴールドS錠では、「解熱鎮痛の成分「イブプロフェン」を加えて3つの医療用成分を配合」と紹介しています。

1989年に缶コーヒーとして発売されたキリン・ジャイブは「あらびきネルドリップ方式」を謳っていますし、家電メーカーのシャープは、独自の空気浄化技術である「プラズマクラスター」を、空気清浄機の特徴として強調しています。

“ジンクピリチオン効果”の活用には実体が伴っていることが大切

留意しなくてはならないことは、“ジンクピリチオン効果”というと、言葉や表現だけで人々の関心を引いたり、印象操作をしたりすることのように誤解される場合があることです。ここで紹介したような製品は、いずれも根拠や実体のあるものであり、それに加えて、“ジンクピリチオン効果”も作用してヒット商品となったと理解した方がよいでしょう。

例えば、花王の「メリット」が発売された時代は、今のように、ほぼ毎日、洗髪するのが当たり前ではなく、「フケかゆみ」に悩まされる人がかなりいました。そうした背景の中で、「花王」がシャンプーの「機能性」に着目して「フケかゆみを止める」というコンセプトを打ち立てて、それをマーケティング戦略に活かしたことが、真の成功要因だと考えられます。その象徴として、人々の記憶に残るような“ジンクピリチオン”という言葉が用られたと解釈するのが自然でしょう。

効果的な“ジンクピリチオン効果”の活用

他人との会話でも、無意識のうちに“ジンクピリチオン効果”を引き起こしてしまうことがあります。人は程度の差はあれ、他人から評価されたいという心理があります。仕事上のプレゼンテーションであれば、説明している商品やプロジェクトがいかに素晴らしいものであるかを知ってもらいたいと考えるでしょう。

そのために、話の中に意図的にあるいは無意識の内に、難しい専門用語や多くの人が知らない言葉を入れてしまうことがあるかもしれません。ですが、そのときは評価されても、実際の内容が伴っていなければ、後から評判を下げることにつながる懸念もあります。そもそも、そうした意味のはっきりしない表現を、嫌う人もいるかもしれません。

その意味では、広告のように目的がはっきりしている場合は別として、そうでない場合は、自信のある内容の話をするときに、少しだけ“ジンクピリチオン効果”を効かせるようにするのが、よさそうですね。