人は、似た要素の中に異なる要素があると、その要素が一番記憶に残りやすい(経営と生活に役だつ行動経済学、フォン・レストルフ効果)

人は、似た要素の中に異なる要素があると、その要素が一番記憶に残りやすい(経営と生活に役だつ行動経済学、フォン・レストルフ効果)

“フォン・レストルフ効果”とは何か?

“フォン・レストルフ効果” (Von Restorff Effect)とは、似た要素(文字、絵、色、形状、パターンなど)が多く並んでいる中に、他と比べて異なる特徴的な要素があると、その要素が一番記憶に残りやすくなる心理現象のことです。

1933年にドイツの精神科医・小児科医であったヘドヴィッヒ・フォン・レストルフによって提唱されたため、このように呼ばれています。“孤立効果”ということもあります。

フォン・レストルフが行った実証実験は、次のようなものでした。被験者にシマウマやトカゲを探すように指示した上で、動物の写真を見せ、目の動きを追いました。すると、被験者はシマウマやトカゲよりも、ライオンやヘビの方に目が奪われていました。被験者は意図したわけではないのに、自分にとって脅威があると感じる特徴のある動物に、まず意識を向けたのです。この場合、被験者を引き付けた特徴は、「脅威」だったことになるでしょう。

マーケティングやプレゼンテーションでよく使われる“フォン・レストルフ効果”

このように、“フォン・レストルフ効果”というと、難しい理論のように感じますが、日常でもよく使われ、今や当たり前とも言える手法になっています。

マーケティングでは、商品販売のために様々な形で応用されています。スーパーのチラシで、特別大安売りの目玉商品が、他の商品よりも写真が大きかったり、価格表示が赤色になっていたりするのを目にすることは、もはや日常茶飯事のこととです。

ペットボトルも、日本で発売された当初は、多くの商品の形状が似通っていましたが、今は多様化しています。500mlではなく、600ml入りにしてボリューム感を訴求するものも出てきました。サントリーの緑茶飲料「伊右衛門」のように、発売後に緑茶の色を、鮮度を訴求するような緑色に変えてから、販売数を伸ばした事例もあります。

マーケティングだけでなく、ビジネスにおけるプレゼンテーションでも、パワーポイントが普及したこともあり、“フォン・レストルフ効果”を活用する機会が増えてきました。プレゼンテーション資料の中で、多様な字体の文字やイラストを利用することはもちろんのこと、その中に動画や音響効果なども盛り込むことも、ごく一般的に行われるようになっています。

“フォン・レストルフ効果”の活用の仕方に工夫を

それだけに、“フォン・レストルフ効果”を活用するというよりも、それをいかにして更に効果的なものにするかが競われるようになってきています。

パワーポイントに関して興味深いのは、マーケティングを専門とする方達の多くは、文字は少なくすることを好む傾向にあるように感じます。一方で、経済や証券などの数値分析を中心とする方達は、ある程度、説明や数値を入れた資料を基にして、特定部分を赤字や太字などで強調することを好む傾向があるようです。

当然、どちらが正しいということはなく、何を顧客に訴求したいか、どのような手法が説明に効果的かによって適した方法が異なるので、それに沿った“フォン・レストルフ効果”の使い方を活用するように心がけることが大切です。同じ大学の先生が、それぞれの専門科目で指導するパワーポイントの作り方が、まったく違う場合があるという話を聞いたこともあります。

投資分野にも関係で“フォン・レストルフ効果”が作用することも

“フォン・レストルフ効果”は投資分野にも関係しています。株価は上昇していると「赤字」で、下落していると「青字」で表示されるのが一般的です。株式市場が低調で、ほとんどの株式が下落(青字)しているときに、上昇(赤字)している会社があると、「どこの会社だろう」とか、「何の業種だろう」とかいったことを考えます。

だからといって、すぐにその会社に投資するということにはならないのが一般的ですが、株価上昇(赤字)が続くと気になるのも事実ですので、その理由を問わず、一部の投資資金がそれに引き寄せられる可能性があります。このように、意図しないところでも、“フォン・レストルフ効果”が作用することがあるということは留意委しておくとよいでしょう。

“フォン・レストルフ効果”は

“フォン・レストルフ効果”は、物を識別するという意味でも大きな役割を果たしています。機械や模型などの製造のために、素材やねじの色や形状を変えて違いがわかり易くしておくということは実際に行われています。最近、家具などは、家庭で組み立てる方式のものが増えていますが、こうした際にも、部品の識別が難しいと、かなり大変なことになります。

識別機能という意味で筆者が経験したことでは、あるワイシャツの前ボタンの一つだけが、色違いになっていることがありました。デザイン的に面白くしたのだろうと思っていたところ、シャツを着るときのボタンの掛け違いにすぐに気づくようにという配慮もあることに気づきました。ちょっとしてことですが、「なるほどな」と思った次第です。