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なぜ宇宙は膨張しているのか?宇宙物理学者が語るダークエネルギーの謎と、過去、現在、未来の宇宙

2024-03-14 22:28:51 | 宇宙・地球・航空宇宙ビジネス

【関瑶子の研究って楽しい】高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所教授の松原隆彦氏

 

M87ブラックホールの輪郭。左側が2017年4月、右側が2018年4月の写真(提供:EHT Collaboration/SWNS/アフロ)
M87ブラックホールの輪郭。左側が2017年4月、右側が2018年4月の写真
(提供:EHT Collaboration/SWNS/アフロ)

 

2024年1月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による日本の無人月面探査機SLIM(スリム)が月面に降り立ち、日本列島は歓喜と興奮に沸いた。

2024年2月29日現在も、SLIMは月面から様々なデータの送信を断続的に続けている。それらのデータは、月の起源を明らかにする研究への活用が期待される。

 

 とはいえ、宇宙は恐ろしく広い。地球からわずか38万km、約0.00000004光年離れた月の詳細ですら、我々はまだ知らない。となれば、138億光年先まで広がる宇宙は、さらに謎に包まれている。

 

 

 松原隆彦氏(高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所教授)は、シンプルな疑問をそのままタイトルにした書籍『宇宙とは何か』(SBクリエイティブ)を上梓した。宇宙とは何か──、松原隆彦氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──現代宇宙論では、「宇宙は膨張している」「宇宙の膨張速度は加速している」というのが通説になっていると聞きました。これは、どういうことなのでしょうか。

 

松原隆彦氏(以下、松原):「宇宙が膨張している」というのは、一般的な「膨張」と同じです。2つの点があったら、その点同士が遠ざかっていくという現象です。

ただ、その膨張していく速度が「遅くなっているのか」「一定なのか」「速くなっているのか」ということが、かつて盛んに議論されていました。


20世紀後半頃までは、宇宙の膨張速度は「遅くなっている」と考えられていました。

ところが、1980年代頃から、どうやらそうではなさそうだ、という仮説がまことしやかにささやかれるようになりました。そして1998年から1999年にかけて、宇宙の膨張速度が速くなっていることを示す観測データが得られました。

 

138億年前の誕生直後の宇宙は、めちゃくちゃな速度で膨張していました。宇宙の膨張速度は、そこから徐々にゆっくりになり、50億年前までは「遅くなっていた」ことがわかっています。その膨張速度が、50億年前に加速に転じたのです。

 

──なぜ宇宙の膨張速度は減速から加速に転じたのでしょうか。

松原:ダークエネルギーが増えたからです。

 

ダークエネルギーの不思議な特性

 

松原:ダークエネルギーは宇宙の膨張を加速させる作用を持ちます。

ダークエネルギーは、宇宙が誕生した当初から存在していました。ダークエネルギーの不思議なところは、一定の密度を保つ、という点です。

普通の物質は、空間が広がれば薄まりますよね。でもダークエネルギーは空間が広がれば、その分、エネルギーが増加するため、薄まることはありません。


宇宙が誕生したときは、宇宙空間そのものがとても小さかった。したがってその空間内に存在するダークエネルギーも微々たるものでした。宇宙を加速膨張させるには不十分だったんです。

 でも、今の宇宙って、めちゃくちゃデカいですよね。そして宇宙がデカくなった分だけ、ダークエネルギーも増えているんです。

 

ダークエネルギー以外のエネルギーは、宇宙の加速膨張を止める作用を持ちます。でも、宇宙が大きくなると、そのエネルギーは薄まってしまう。それに対し、一定の密度を保つことができるダークエネルギーは増え続けています。

 

──ダークエネルギーが増えているということは、宇宙全体のエネルギーが増えているということですよね。増加分のエネルギーは、どこから供給されているのでしょうか。


松原:
確かに、これはイメージしにくいかもしれません。高校の物理で最初に習うのが、エネルギー保存則ですから。エネルギーは、形は変えるけれども量は永久に変わらないという法則です。

 でも、エネルギー保存則が成立するのは、空間が膨張していない場合に限定されるという点は習いません。宇宙は空間が膨張しているので、その内部にあるものに対してのエネルギー保存則が適用できません。

 ダークエネルギーは空間が膨張すると、自動的に湧き出してくるエネルギーです。新たに空間ができると自然に増えるエネルギーなんです。

 

──なんとなく理解しました。

松原:なんとなく、でいいんです。日常生活の中で、空間が膨張する経験なんて、できませんから。実感を持って理解できる人なんていないですよ(笑)。

 

──宇宙の膨張速度を速めているのは、ダークエネルギーだけなのでしょうか。

宇宙の加速膨張を説明する最もシンプルな仮説

松原:観測事実として、宇宙が加速膨張していることは確かです。でも、ダークエネルギーは、理論的な仮説に過ぎないんですよ。存在が証明されているわけでもありません。

 アインシュタインの一般相対性理論では、時空がゆがんでいることや、時空が膨張あるいは収縮することを示しています。一般相対性理論によって、恒星の振る舞いを計算すると、観測データと一致します。

 

 ただ、一般相対性理論を宇宙全体に適用させようとすると、ダークエネルギーがないとできないんです。

 一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式(重力場方程式)は、以下のような式になります(注:外部配信先で画像が表示されない方はJBpressのサイトでご覧ください)。

一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式(重力場方程式)一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式(重力場方程式)

上式の左辺3項目「Λgμν」が宇宙項ないしは宇宙定数と呼ばれるもので、宇宙の加速膨張を説明するために付け加えられたものです。

ダークエネルギーの一番簡単な種類がこの宇宙項ですが、上式はすごくシンプルですよね。

 

もちろん、ダークエネルギー以外で宇宙の加速膨張を説明する方法もあるにはあるのですが、非常に不自然でややこしくなります。アインシュタイン方程式の左辺にあれやこれや、いろいろな要素を追加しなければならなくなりますので。

 一般相対性理論という確立した理論がにダークエネルギーを入れ込むだけで観測事実が説明できるようになるんです。その上、膨張の変化の仕方すら、ぴたりと言い当ててしまう。

 

そのため、存在が証明されているわけではないのですが、ダークエネルギーは宇宙の加速膨張を説明できる最もシンプルな仮説、仮定の少ない理論だと考えられているのです。

 

宇宙の終わり方、その3つの可能性

──観測可能な宇宙の外側から、宇宙を引っ張るようなエネルギーが存在しているという考え方はできないのでしょうか。

松原:時空の外側に表面のようなものがあって、それを引っ張れば時空が広がるのではないかということでしょうか。

 

──はい。

松原:時空の外側に取っ手があったとして、それを引っ張ったとしても、広がるのは表面だけです。時空自体は広がらないんです。それに、そもそも、時空は掴むことができません。

 

──時空をつかむことができないとは、どういうことでしょうか。

松原:普通にモノを大きくするときは、外側からつかんで引っ張る必要があります。でも、時空には、つかむための取っ手がないんです。

 空気には、取っ手がないですよね。だから、空気を引っ張ろうとしても引っ張れない。けれども、温度を高くする、つまりエネルギーを与えると、自然に膨張してくれる。宇宙も同じで、ダークエネルギーが増えていくので、自然と膨張していく。

 

 それと、空気の場合は容器に入れて、容器を引っ張ってやれば、密度は薄くなりますが膨張します。でも、宇宙にはその容器すらない、というイメージです。

──理解したことにしておきます(笑)。

松原:そうしてください。

 

──書籍では、宇宙の誕生について書いてありました。「誕生」があるからには「終焉」もあってしかるべきだと思うのですが、宇宙に終わりはあるのでしょうか。

 

松原:宇宙の終わり方には、3つの可能性が考えられています。

 1つ目は、加速膨張が永久的に続く可能性です。加速膨張が続くと、ダークエネルギー以外の物質はどんどん薄まっていきます。ブラックホールもやせ細っていって蒸発して物質になり、これもどんどん薄まります。そして最終的には、物質も光(光子)や電子といった素粒子にまで分解してしまいます。

素粒子が空間にものすごく薄く存在しているという状態から、さらに宇宙が加速膨張を続けると、素粒子同志の距離が離れすぎて、隣の素粒子と何の関係もなく存在しているという状態になります。

理論上、時間が進んでいたとしても、素粒子はあるけれども何の反応も永遠に起こらない。時間が進んでいるって言っていいのかどうなのかという感じです。

これが、1つ目の宇宙の終焉の可能性です。残りの2つは、もうちょっとドラマチックな終わり方です

 

 

「タイムマシン」が存在する可能性も

松原:今、宇宙は加速膨張しています。その加速が速くなりすぎると、ある時間内で加速が無限大になってしまいます。すると、時空自体の有限であるはずの領域が、無限に広がってしまいます。ここに至ると、時空が引き裂かれます。この現象は、ビッグリップと呼ばれます。

 時間と空間は、有限のものとして存在しています。空間が無限に達すると、そこで時間も終わってしまう。時間が進まなくなってしまうんです。

 
 

最後の可能性は、宇宙の加速膨張が減速に転じて、そのうちに宇宙の膨張が止まり、そして宇宙が縮まって潰れてしまうという考え方です。

 遠くの銀河がどんどん近づいてきて最終的には一点に収縮し、空間がゼロになってしまう。空間がゼロになると、時間もゼロにり、時間が止まる、つまり、宇宙が終わるんです。

 

──3つ目の説で「宇宙の加速膨張が減速に転じる」というお話がありました。なぜ、そんなことが起こり得るのでしょうか。

松原:ダークエネルギーの「空間の膨張に伴い増加する」という性質が、変化する可能性があるからです。

 先ほどダークエネルギーの性質として、空間の膨張に伴い増加すること、そしてそのエネルギーの増大が宇宙の加速膨張を引き起こしているということを説明しました。ただ、ダークエネルギーの正体は現時点では不明ですので、ダークエネルギーの性質が今後どう変化するかはわかりません。

 

ークエネルギーの密度が一定であるということは、観測事実です。でも、これ、複数の観測データがあって、微妙な観測誤差があるんです。ダークエネルギーが仮にちょっとでも変化しているとしたら、今後その変化がどんどん進んでいく可能性がある。

 そのため、ダークエネルギーの「空間の膨張に伴い増加する」という性質が、今後「空間の膨張に伴い減少する」というふうに変化する可能性が否定できない。前者であれば、宇宙は引き裂かれて終わります。後者の場合は、ダークエネルギーは宇宙を収縮させる方向に働くようになり、宇宙の膨張が加速から原則に転じます。

 

──いろいろな可能性があるんですね。

松原:基本的に、物理学者は非日常的な変わった可能性を考えるのが好きなので、誰かが今までの考え方から逸脱したことを言い出したら、みんながワーッと集まってきて、わいわい議論が始まるんですよ。

 

──今まで見聞きした中で、最も「逸脱している」可能性は?

松原:ワームホールですね。過去に戻れる、タイムマシンのようなものです。

 

一般相対性理論でも否定できないワームホールの存在

松原:物質を吸い込む性質を持つブラックホールと物質を放出する性質を持つホワイトホールをつなぐトンネルを「ワームホール」と言います。ちなみに、ブラックホールは存在が確認されていますが、ホワイトホールもワームホールも実在しているかはわかりません。

 ブラックホールの中に入って、ワームホールを通って未来に進んでいたのに、出口のホワイトホールは過去につながっている。そういうものが存在する可能性があるという話です。

 

 アインシュタインの一般相対性理論を使うと、ワームホールがあっても別になんの不思議もありません。存在を否定できないという感じですね。積極的な理由はないけれども、あっても別に矛盾するわけではないので。計算上、矛盾していないし、理論的にそれを禁じる原理もないですし。

 ただ、人工的にワームホールを造ることは難しい。時空をねじらなきゃいけないので。これは、人間にはできない芸当ですね。

 

──松原先生のご専門は「観測的宇宙論」とのことですが、これはどういった学問なのでしょうか。

松原:観測的宇宙論は、観測に基づいて宇宙の全体構造や宇宙の存在そのものを調べようというものです。

 先ほどから「あんな説がある」「こんな説もある」という話をしてきましたが、すべて理論の話です。嘘か本当かは、現段階では誰にもわからない。矛盾がないもの、可能性が否定できないものをアイデアとして出して、みんなで楽しく議論している「理論的な仮説」なんです。

僕は嘘か本当かわからない仮説のままでは満足できないタイプです。だから、観測可能な範囲に関しては、できる限りその時々の最先端の技術を使って調べ尽くしたいと考えています。

僕は今、銀河の分布の観測から何がわかるのかという研究をメインでやっています。


銀河そのものではなくて、銀河そのものがどう群れ集まっているのか。膨大な数の銀河をどのように調べれば、どのようなデータが得られ、それをどう解析すると宇宙の何がわかるのかということを数学的な方法を使って考えています。

 そして、「こんな面白いことがわかるんだから、こういう観測をしましょう」と提案する。そんな学問です。

 

──研究を通して実現したい夢や目標がありましたら教えてください。

松原:今やっている研究は、あと10年、20年程度たてば、実際に観測が行われて、僕の計算による予言が正しかったのか否かがわかるはずです。

 実は、ポスドクをやっていた頃、「こういう観測でこういうデータが得られれば、ダークエネルギーのこういうことがわかります」という話を論文で発表したんです。すると、論文を発表してから10年もたたないうちに実際にその観測が行われて、僕が予言したダークエネルギーによる効果の性質がその通りだったということが明らかになりました。あれは本当に感動しました。

 こういった自分の研究は、「宇宙項入りコールドダークマターモデル」と呼ばれる宇宙論の標準的な理論が確立する過程で重要な役割を果たしたと自負しています。

 

僕がやっている研究は、論文を書いてもすぐにはあまり読んでもらえないんです。新しい理論ですし、まだ観測データもないものなので。研究しているモデルが、将来的に当たり前のように使われるようになること。これが僕の研究の目標です。

 

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。You Tubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。

 

 

JBPress記事 2024.03.14より引用

 

 


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