優良なIPを多く抱える名門スタジオ「パラマウント・ピクチャーズ」の
獲得にソニーGも名乗りを上げる(23年9月、米ハリウッド)
【シリコンバレー=中藤玲、ニューヨーク=清水石珠実】ソニーグループと米投資ファンドが、米メディア大手パラマウント・グローバルに買収案を提示したことが2日、分かった。
米メディアは買収額を260億ドル(約4兆円)と報じた。米映画大手が優先的に進めている買収交渉に割って入るかたちだ。買収合戦が熱を帯びている。
関係者によると、ソニーG傘下の映画事業会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)と米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントが2日までに、法的拘束力のない買収提案のレターをパラマウント側に送った。
買収金額について、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)などは現金260億ドルを示したと報じている。
ソニーGとSPEの広報は日本経済新聞の取材に対し、コメントを控えた。
日本企業による海外買収では、2018年の武田薬品工業によるアイルランド・シャイアーの買収額(7兆円弱)が最大級だ。
16年のソフトバンクグループによる英アーム買収(3兆円超)などが次ぐ規模。今回、共同買収とはいえ、有数の買収規模になる可能性がある。
映画の「名作」拡充狙う
SPEは、今回のパラマウント買収で映画コンテンツの拡充を狙う。SPEの母体で、ソニーが1989年に買収した米コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメントは「アラビアのロレンス」などを生んだ名門だが、マーベルや「スター・ウォーズ」を抱える米ウォルト・ディズニーなどに比べてヒット作の数は乏しい。
映画やドラマの流通はネット配信にシフトしている。ソニーGは米国では放送やネット配信などの流通は主に手掛けず、自社が制作したドラマなどのIP(知的財産)をネットフリックスなど配信大手に納入する戦略をとる。それだけに「名作」を中心とした強力なIPの確保が最重要課題だ。
パラマウントのグループの映画スタジオであるパラマウント・ピクチャーズは1912年創業で、ハリウッドを代表する名門映画スタジオだ。
「ゴッドファーザー」や「フォレスト・ガンプ/一期一会」など有力なIPを持つ。ソニーGは買収でこれらのIPを取り込む戦略を描く。
ソニーGはエレクトロニクス事業が中心だった収益モデルを転換し、音楽や映画などエンターテインメント分野を重視している。
吉田憲一郎氏が最高経営責任者(CEO)に就任した2018年から計6年間で、音楽出版やゲームも含めたエンタメ関連に計1兆5000億円を投資した。SPEの強化はソニーG全体の経営戦略にとっても欠かせない。
吉田氏は1月に日本経済新聞の取材に対し、一般論としてのハリウッド再編について「クリエーティビティーを強化できるなら合併や買収なども考えていいかと思う。
IPがあるスタジオは魅力的だ」と話していた。
ライバルには、米オラクル共同創業者などが資金提供
パラマウントを巡っては、現在、ソニー陣営のほかに米映画製作大手スカイダンス・メディアが買収交渉を進めている。ソニー陣営は買収を巡り、スカイダンスと競り合うことになる。
パラマウントは、映画のほか、傘下に地上波テレビのCBS、ケーブル局の「MTV」や「ニコロデオン」などを抱える。上場企業だが、経営構造は少し複雑だ。
オーナー一族であるレッドストーン家が非上場企業の「ナショナル・アミューズメント(NAI)」を通じて、議決権の77%を握る。
スカイダンスは、まずこのNAIを買収したのちに、同社とパラマウントを合併させる2段階の買収計画を提案しているという。スカイダンスは、米オラクルの共同創業者ラリー・エリソン氏の息子、デービッド・エリソン氏が経営する。
買収資金は、父親のラリー氏や米投資会社レッドバード・キャピタル・パートナーズやKKRなどが提供する。
2010年創業の新興の製作会社だが、米俳優トム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」を共同製作するなどパラマウント・ピクチャーズとの関係は深い。
米メディアによると、スカイダンスによる独占交渉権が3日にも切れる。同社が期限延期を希望しているとの報道もある。オーナー家主導で進むスカイダンスとの合併計画には、パラマウントの少数株主からの反発も強い。破談となれば、ソニーGの勝機が広がることになる。
パラマウントは、「メディア王」故サムナー・レッドストーン氏が、親から受け継いだ映画館事業を基盤に買収を重ねて築いた巨大メディア企業だ。
優良コンテンツを抱えることの重要性をいち早く説き、「コンテンツ・イズ・キング」という名言を残した。
傘下の音楽専門局「MTV」や子供向け局「ニコロデオン」はヒット番組を連発し、米国のケーブルTV黄金期をけん引した経緯も持っている。