
前回の記事で、老後資金がいくら必要なのかシミュレーションしました。一般的な生活をおくるためには、2,700万円が必要との結果でした。
しかし、これは人生90歳まで生きることを前提に試算したもの。果たして自分は、90歳まで生き残れるでしょうか?病気や事故で、平均より早く寿命が尽きる可能性もあります。
「DIE WITH ZERO」という考え方があります。
死んでしまう前に、お金を使い切ろうというものです。
この記事では、60歳で年金を繰り上げ受給するメリットと損益分岐点を紹介します。若くて健康なうちに、お金を使いきる人生を考えてみてもよいかもしれません。
年金の繰上受給と繰下受給
繰り上げ受給
公的年金の繰上げ受給とは、本来65歳から受け取る老齢基礎年金や老齢厚生年金を、60歳から64歳の間に前倒しで受け取る制度です。繰上げると毎月の年金額は減りますが、受給を早く開始できます。
繰り上げ:1か月ごとに 0.4% 減額される。
<65歳で月22万円受給できる人が60歳に繰り上げた場合>
減額率は 0.4% × 60か月 = 24% 減少。支給額は、22万円 × (1 – 0.24)
= 16万7,200円
繰り下げ受給
一方で年金は、70歳まで繰下げることもできます。繰下げると受給の開始は遅れますが、年金額が増えます。
繰り下げ:1か月ごとに 0.7% 増額される。
<65歳で月22万円受給できる人が70歳に繰り下げた場合>
増額率は 0.7% × 60か月 = 42% 増加。支給額は、22万円 × (1 + 0.42)
= 31万2,400円
繰上受給のメリットとデメリット
繰上受給のメリット
繰り上げ受給することで、以下のようなメリットがります。
1.早く年金を受け取れる
→ 例えば60歳から受給すれば、収入がなくても生活費の足しになる。
2.働けなくなったときの備えになる
→ 病気やケガで働けなくなった場合の収入源として活用可能。
3.受給開始後すぐにお金を使える
→ 早めに旅行や趣味に使える。投資で自ら増やせる。
4.平均寿命より早く亡くなった場合は総受給額が多くなる
→ 受給期間が長くなり、短命の場合は繰上げの方が得。
繰上受給のデメリット
1.年金額が減額される(生涯減額)
→ 1ヶ月早めるごとに0.4%減額(1年で4.8%、5年で24%)
2.一度決めると変更できない
→ 途中で変更したいと思っても変更できない。
3.長生きすると総受給額が少なくなる
→ 長生きするほどに、生涯でもらえる差額が大きくなる。
4.加給年金・振替加算を受けられない
→ 扶養する子供や配偶者がいる場合に、65歳から受け取れる特別な加算(年金制度における扶養手当のようなもの)が受けられない。
繰上げと繰下げの損益分岐点
それでは、何歳まで生きると得なのか?それとも損なのか?
損益分岐点(受給額が同じになる年齢)を計算します。
60歳繰上げ vs. 65歳
・60~65歳まで167,200円 × 60か月 = 10,032,000円
・65歳以降の差額:220,000円 – 167,200円 = 52,800円/月
・損益分岐点=10,032,000円 ÷ 52,800円 =15.8年
⇒ 80.8歳
70歳繰下げ vs. 65歳
・65~70歳まで受け取るはずだった 10,032,000円
・70歳以降の年金差額:312,400円 – 220,000円 = 92,400円/月
・損益分岐点=13,200,000円 ÷ 92,400円 =11.9年
⇒ 81.9歳
※繰り下げ期間中に死亡した場合、遺族年金は増額されませんので注意が必要。
損益分岐点
・60歳に繰り上げると約81歳。
・70歳まで繰り下げると約82歳。
まとめ
損益分岐点の結果を見ていかがでしたか?
実は、繰り上げしても繰り下げしても、81~82歳が分岐点になるのです。
まとめると以下のようになります。
繰上げした方がよい人
• 生活資金に余裕がなく、すぐに年金を受け取りたい
• 健康状態が不安で長生きできる自信がない
• 仕事を完全にリタイアして収入がない
繰上げしない方がよい人
• 長生きする可能性が高い(家族に長寿が多い)
• まだ働けるので収入がある
• 老後資金に余裕がある
何歳まで生きられるかなんて誰にもわかりません。
若くて健康なうちにお金をもらって、旅行したり美味しいものを食べておくのも悪い人生ではないように思います。「今すぐお金が必要か」「長生きする可能性が高いか」「長生きする自信があるか」などを考えて判断するとよいですね。
ちなみに、国民年金の掛金を取り戻すためには11年以上必要です。65歳に受給を開始した場合は、76歳まで元が取れません。せっかく納めた年金ですから、少なくとも76歳までは生き延びたいものです。