黒猫の額:ペットロス日記

息子は18歳7か月で虹の橋を渡りました。大河ドラマが好き。

【光る君へ】#16 道長&まひろ悲田院での再会。別れから8年、すれ違いから4年(オリンピック?)

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第16回「華の影」が4/21に放送された。まひろと道長のニアミスや再会があっても、一喜一憂せずフラットに受け止めると前回のすれ違いで反省して書いたが、今後は「いと」が私の代わりに大騒ぎしてくれそう。いと、いいねー。

 公式サイトからあらすじを引用する。

(16)華の影

初回放送日:2024年4月21日

石山寺からの帰路、まひろ(吉高由里子)は思いかけず、さわ(野村麻純)を傷つけていることを知り落胆する。宮中では、後宮に伊周(三浦翔平)や弟の隆家(竜星涼)らが集い賑わう中、詮子(吉田羊)が現れる。一条天皇(塩野瑛久)らが緊張する中、伊周は・・・その頃、都で疫病がまん延していた。ある日、たね(竹澤咲子)がまひろを訪ね、悲田院に行った父母が帰って来ないと助けを求める。悲田院でまひろが見たのは・・・。((16)華の影 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

まずは、さわへの手紙。でも・・・

 自分が「どうでもいい子」だと落ち込み、まひろに八つ当たりして鬱憤をぶちまけた「さわ」。まひろは涙目、せっせと乙丸にさわへの手紙を持って行かせたが、何度も突き返されていたようだった。

 せっかく実り多い石山寺詣でだったのにねえ・・・締めくくりがこれじゃあ台無し。これも道綱のせいだ。道綱といえば、「まひろ」と名前を口にし、夜這い失敗を報告した時の道長の表情が見ものだった。道長はまひろに対してまだ気持ちがちゃんとあるんだね、と確認できた。

 オープニング直前に、文机に向かったまひろが念入りに墨をスリスリスリスリしていたが、番組後の紀行のための墨のご紹介だったのかな。ずいぶん長いことスリスリしていたから「これって日記を書き始めるの?それとももう物語に行くの?」と、前のめりに期待してしまった。

 まあそうだよね。まひろとしては、まずはさわにお手紙なのもわかる。でも、旅で「書くことで己の悲しみを救った」と蜻蛉日記の作者・道綱の母藤原寧子にせっかく教えてもらったのだから、手紙以外に何か書き始めていてほしい。

 「源氏物語」は、起筆が1001年(長保3年)らしいので(倉本一宏著「紫式部と藤原道長」巻末の略年表による)、そうなると今回のドラマは994年(正暦5年)だから、まだ先か・・・。

道兼が変化、善人キャラに更生していた

 ドラマに出てくるのが全員善人ではお話にもならないから、さわみたいにグズグズ言うカマッテちゃんキャラがたまには必要なのはわかる。ただ、ごめんね、興味はそこに無いので何とも面倒な思いがして、げんなりしてしまった。早いところ仲直りしてね。

 面倒キャラと言えば、名物DV男道兼が、これまでの悪人キャラを返上したかのように人が変わっていた。前回、不貞腐れて飲んだくれて壊れていた道兼に、道長が言った;

道長:まだこれからではありませぬか!兄上は変われます。変わって生き抜いてください。この道長がお支えいたします。

 この続きの様子が、今回のドラマで見たかった。道長は、具体的には何をどうして兄のトゲを抜き、人格改善ができたのか興味があった。察するに、道兼と慎重に対話を重ねて、幼少期から兄の中で拗れていた誤解を解いていったのだろう。その対話のプロセスを見せてもらいたかった。

 このドラマの従来の道兼は、寂しさや嫉妬から兄も弟も強烈に敵視するばかりだった。が、今回を見る限り、道長とは互いを思い合う兄弟関係になったよう。人を見抜ける倫子様が「殿のように心の優しい人に育ちますように」と眠る彰子に言ったように、道長は優しい。その心が届いたらしい。

 道兼は、不貞腐れていないでちゃんと内裏にも出仕していた(991年に内大臣になり、994年には右大臣。この時伊周が内大臣へ)。疫病対策を講じるよう兄道隆に進言して、逆に放火の件で「役目不行き届き」と咎められ、睨みあってきた道長にも、こんな声を掛けた。

道兼:(廊下ですれ違い)どうした。そんな顔をして。

道長:関白と話しても無駄なので、自分で悲田院を見て参ろうと思います。

道兼:やめておけ。都の様子なら、俺が見てくる。

道長:(振り返って)え?

道兼:汚れ仕事は俺の役目だ。(去っていく道兼を、道長が目で追う。道兼、悲田院に向かう馬上で小さく微笑む)(悲田院に到着、庭に置き去りになった死体を見て、口を袖で覆う)

道長:(後から従者・百舌彦と来る)兄上。

道兼:お前が来ては元も子もないではないか

道長:私は死ぬ気がいたしませぬゆえ。

道兼:相変わらず、間抜けな奴だ。

 「汚れ仕事は俺の役目だ」って・・・一族のためにと父・兼家に押し付けられたその役目を、父に気に入られるためや自らの出世のためでなく、弟のために買って出たことが分かる会話だった。意識は切り変わっている。

 その前にも、鼻持ちならない甥・伊周にこんな口を利かれていたが、激高しなかった。

内大臣伊周:若輩者ゆえ、お二人(右大臣道兼と、左大臣重信か)にお力添えしていただきたくお願い申し上げまする。(道兼に)叔父上とこのようにお話しするのは何年ぶりでしょうか。

道兼:お前は疫病のことをどう思っておる?

伊周:それについては父が策を講じております。それに貧しい者に移る病ですゆえ、我々は心配ないかと存じます。

道兼:そのような考えで内大臣が務まるとは思えぬな。

伊周:ハハハハ・・・叔父上は、何か良きことをなさったのでしょうか?このまま何もなさらないのも、悪くはないと存じますが。

道兼:(無言で伊周を見据える)

 この変わり様。当然中の人の演技によるのだが、もう表情からしてギラギラ感が抜けて別人だ。この人があの時の道兼だったなら、まひろの母・ちやはは殺されなかった。ちょっと「大奥」のカッコイイ黒木様が時を遡り転生して蘇っている印象があるかな。

 こういう悪人キャラが善人に更生するのは、「闇落ち」ならぬ「光落ち」と今どきは言うそうだ。良くなるんだから「落ち」じゃなくて「上がる」方で良いような気もするが、面白い言い方。

 悲田院(なんか懐かしい言葉)で、薬師は「仲間は次々に倒れている。手が足りない」「(内裏には)これまで何度となく申し出たが、何もしてはくれぬ」と道兼に訴えた。なるほどね・・・こういう経緯で道兼は悲田院へ継続的に出入りするようになるのだろう。道兼の運命を知っているだけに、次回以降、泣けそうだ。

まひろが悲田院に~!

 この道長と道兼の悲田院訪問では、電撃的なまひろと道長の再会が待っていた。

 まひろは、以前文字を教えていた「たね」という少女が、父母が悲田院に行って帰ってこないと訴えるので、乙丸が止めるのも聞かず、たねと一緒に探しに来た。そこで父母の遺体を見つけたが、たね自身が発病、まひろがその場で世話を続けた。

 不幸にも、たねが死んだ後も、まひろは行きがかり上他の患者の看病を続けてしまった。コロナを経験した視聴者は、まひろが口も覆わず、手も満足に洗わないで次々と汗まみれの患者の顔を拭うのを見て「ひゃ~💦」と背筋がゾッとしたと思うが、当時、まひろが危険性を知る由もない。

 乙丸はここでも止めるのに、帰らないまひろ。とうとう、咳が出始めて顔が赤くなり、発病。そこに!なんと!訪問した道長がタイミングよくぶつかって再会するという・・・🎵出会いは~スローモーション~と、一瞬、中森明菜が脳裏に流れた。

 道長は自分の馬に乗せてまひろを連れ帰り(百舌彦&乙丸の従者コンビも復活)、彼女を御姫様抱っこで邸に運び込んだ。その時、いとが良い反応をした。

いと:ああ、姫様!

道長:藤原道長である。乙丸!

乙丸:こちらでございます!(部屋に駆け込む)

いと:藤原ミチナガ・・・誰?はっ、殿様!(呼びに行く)

道長:(まひろを寝具に横たえる)

為時:(いとと急ぎ来て)まひろ!

道長:疫病かもしれません。

いと:ああ!(悲鳴)

道長:私が看病いたしますので、あなた方はこの部屋に入らないでください。

為時:あ・・・されど大納言様に・・・。

道長:私のことは良い!

為時、いと:(気圧されて、一礼して下がる)

いと:(まひろからもらった石山寺のお守りを手に)姫様のご回復を、殿様、お祈りいたしましょう・・・殿様。姫様と大納言様はどういうアレなんでしょうか。こうやって、抱いて見えたんですよ。こうやって!(お姫様抱っこの真似)

 主人公を歴史の流れにどう絡ませるのかは歴代大河の、特に女性主人公の場合に課題になっているように思うが、こうきたか。そこでさらに道長にまで再会させてラブストーリー要素を持ってくるなんて、なんて抜かりない脚本なんだろう。さすがだ。

 いとがヤキモキしているのも面白いし、道長の夜通しの看病の後、眠気と必死に戦う百舌彦の横で、乙丸がぱっちり目を開けてまひろの生死を案じている描写も面白い。従者に至るまで、キャラが立っている。

 少女たねについては、直秀の時も思ったけれど、なんともったいない。彼女は賢いから、両親が亡くなった後、引き取られてまひろの侍女に成長するかと期待した。それがあっけなく両親に続いて死んでしまった。庶民の運命には厳しい。

 疫病は身分を選ばないけれど、庶民の生活場所はどう見ても密。貴族は広々とした場所に住み、扇で顔を隠し、手指もお着物でお隠しになって雅やかにお暮らしだから、庶民に比べれば疫病罹患の危険性は低かったのかも。

 年表(田中重太郎著「校注枕冊子」巻末の略年表)を見ると、それでも、993年から「この年の夏、咳疫流行」、994年「この年、天災多く疫疾が流行する」、そして995年に「上達部・殿上人にして罹病死没する者が甚だ多かった」とあり、貴族だからといってインフルエンザ(?)の流行から免れなかったことがわかる。

 ドラマでどこまで描くか分からないけれど、上記年表によると996年には大地震もあるし、997年にも日食と大地震、998年には「赤斑瘡流行、死者が多かった」とあるから、人々は病やら天災の多い大変な時代に生きていたと分かる。神仏に頼りたくなる。

まひろ、死地を脱する

 苦しい夜を過ごして、まひろは生き延びた。看病する道長の声は届いていただろうか。次回分かることだが。 

まひろ:(額に汗がにじみ、荒い息遣いで目を閉じ横たわる)

道長:(まひろの額の汗を布でぬぐう)久しいのう。(布を濯ぎ、絞って)なぜあそこにいた。(まひろの首筋を濡らした布で冷やす)生まれてきた意味は、見つかったのか?(まひろの息が苦し気に)逝くな、戻ってこい!(頬に触れ、まひろを見つめる)

まひろ:(朝になり、赤みが引いて穏やかな寝顔)

道長:(ハーッと溜息)

為時:失礼いたします。一晩中ご看病くださってありがとうございました。娘も喜んでおることでございましょう。されど、大納言様には朝廷での重いお役目がおありになりますでしょう。この先は、娘は我が家で看ますので、どうぞお帰り下さいませ。

道長:わかりました。(まひろの手に触れようとして手を止め、心の中で「大事に致せ」と声を掛ける。そっと出ていく)

 このロマンチックな看病シーンは、「おんな城主直虎」を思い出させる。井伊直虎(柴咲コウ)は、今川家に呼び出されたが時間稼ぎのために薬物(?)を使ってわざと発熱し、床に臥す。それを小野政次(高橋一生)が看病するのだ。

 「俺の手は冷たかろう」と言って、自分の冷たい手で直虎の額(たぶん)を冷やそうとする政次。直虎も「昔から誰よりも冷たい手だった」と応えたと思ったが、実際の中の人は平熱でも37℃とのことで、氷で手を冷やして本番に臨んだとどこかで見て、ブログにも書いた覚えがある。

 昔だったら主人公(男)が美しきヒロインに看病されるのが相場だったと思うが、今作も逆。病になれば無防備だし、距離を縮めるチャンスとなりそうなものだ。

 「直虎」の時は、まだ彼女の意識があったんだよね。だから政次と会話も交わした。しかし今回は、まひろは生死の境を彷徨っている状態。道長の存在を確認できたかどうか・・・4年前の土御門殿でのすれ違いと同じく、これじゃあ会ってはいるけど会話を交わすことは無理だった。

 それにしても、4年置きにしかこの2人は会えないのか。オリンピックイヤーみたいな話だ。次はまた4年後?

倫子様がますます怖い

 帰宅した道長を待ち構えていたのが、嫡妻の倫子だった。手には小麻呂(たぶん)が抱っこされている!良かった~久しいのう。でも、小麻呂の再登場を喜んでばかりもいられない。場面は不穏だ。

 帰ってきた道長について、倫子は赤染衛門にこう言う。

赤染衛門:ゆうべは高松殿でございましたか・・・ご無礼致しました。

倫子:(腕の中の猫を撫でながら)衛門。

赤染衛門:はい。

倫子:殿様、ゆうべは高松殿ではないと思うの。

赤染衛門:は?

倫子:殿のお心には私ではない、明子様でもない、もう一人の誰かがいるわ。・・・フフフ・・・オホホホホホ・・・

 「お帰りなさいませ」「うん」だけの会話の、どこで倫子様は「もう一人」の影を感じ取ったというのだろう。道長の笑顔、そして背中から伝わる少し浮ついた様子からなのだろうか?洞察力が半端ない。

 そして、最後の高笑いが怖い。赤染衛門もい訝しげに見ていたが、この笑いはどこかで・・・母(石野真子の穆子)譲りなのかな。

 もう一人がまひろだと気づいた時、どうなるのか。意外に近く、もう時間の問題のような気もしてきた。怖いよ~。

中の関白家の命運は東三条院が握る

 清少納言と定子の「香炉峰の雪」についてのやりとりは、多くの人がお書きになってるから別にここで触れなくてもいいだろう。公式サイトでも解説があった。

www.nhk.jp

 次回、とうとう中の関白家の井浦新の道隆とお別れになりそうだ。大酒は体に悪いよ、と現代の視聴者にも知らしめる役回り。もっと彼が節酒して長生きしていたら、道長の出番など無かったかもしれないのに・・・。歴史を変えた大酒飲みだ。それと、疫病も絡むのかな?あれだけ疫病を無視し続けているのは何かのサイン?

 彼の庶長子の道頼が出ていないようなのだけれど、もったいない。もうひとり伊周の三浦翔平レベルに美しい俳優さんを連れてくると、何かと集中できなくて大変だから止めたのだろうか?

 天狗になって帝と同じ白っぽい色の直衣を身に着け、公任らに陰で責められていた伊周。摂政・関白の道隆も白っぽいから、なんと、ぱっと見で帝が3人いるみたいだ。

 伊周は怖いもの知らずで、帝の母である東三条院に説教を垂れた。道綱が、その場は凍り付いたと言っていたが、そんな恥をかかされて帝の母たる者が終わらせる訳がない。

 しれっと「他の公卿を取り込んでおくわ」というセリフが予告には切り取られていたが、彼女の意志1つで道隆・伊周らには大打撃、道長らには心強いお話が待ってる訳だね。本当に伊周はおバカさん。母に絶賛されて育ったからなあ。

 演じる三浦翔平はかなり整ったお綺麗な顔立ちをしている。だからこういう役が回ってくる。ハンサムの宿命だ。ドラマでは、道兼のように「光落ち」する余地はあるのだろうか?

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#15 まひろ、道綱の母に示唆され作家の道に光を見出す

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第15回「おごれる者たち」が4/14に放送された。何も踏み出せなかった歯がゆい時期を経て、闇から立ち上がるヒントを石山寺で得ることができた主人公まひろ。ここから「書くこと」へと思いが動き、いよいよ紫式部の「源氏物語」ワールドが花開くか・・・!

 まずは、あらすじを公式サイトから引用する。

(15)おごれる者たち

初回放送日:2024年4月14日

道隆(井浦新)は、強引に定子(高畑充希)を中宮にし、詮子(吉田羊)を内裏の外へと追いやった。二年後、一条天皇(塩野瑛久)は麗しく成長。道隆の独裁には拍車がかかっていた。伊周(三浦翔平)らに身内びいきの人事を行い、定子のために公費を投じ始める。道長(柄本佑)は兄のやり方に納得がいかない。一方のまひろ(吉高由里子)は、さわ(野村麻純)と近江の石山寺へと出かける。そこで思いもよらない人物との出会いが…((15)おごれる者たち - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

麗しい一条天皇がご登場

 今回の始め、永祚二年(990年)の御代でまだ子どもだった一条天皇は、中宮に立てられた定子と仲良く偏つぎ遊びをしていた。まひろが倫子様サロンでやっていた遊びだ。定子と不穏な空気も漂っていた母の皇太后詮子は、道隆によって厄介払いされ、内裏外の職御曹司に追いやられた。ここは・・・もしかして後に定子が住むところ?

 正暦四年(993年)にワープしてようやく帝の本役が、衣擦れの音をさせながら檜扇を片手にご登場。何とも麗しい帝だ。満月と雪明りに照らされ、ただ定子と向き合い、笛を吹いているだけなのに、なんだこのしっとりとした愛の空間・・・!2人の間には誰も入り込めない感じだ。

 高畑充希演じる定子の方も、雰囲気が少女から大人になった。ただ黙って帝の笛に耳を傾ける表情だけで、その変化を示せるとは。

 今回はBGMでもフルートの美しい調べが目立つ。一条天皇は笛の名手だと聞くから、演じる俳優さんもかなり練習したんだろう。塩野瑛久という劇団EXILEの俳優さんだが(公任の町田啓太と同じだね)、これまでご縁が無くて見覚えが無い。

 大河ドラマでは今作の円融帝を始めとして歌舞伎の方々がよく帝を演じ、威厳やら気品やら着こなしやらの点で安心感があるが、この人も軽やかながら気品では負けてないと思う。今後も楽しみだ。

 定子は、頭の回転の速い母・高階貴子の進言で、ききょう(清少納言)を漢詩や和歌のお相手をする女房として迎えた。ききょうが定子との対面時に「きれーい」と口ポカーンになったり突っ伏してアワアワしている感じ、まさに枕草子の179段を思わせる。こういうの、楽しい。

 ききょうが「女房になることが決まった」と喜びを伝えに来た際、まひろが書写していた「声を尋ねて闇に問う。弾く者は誰そと。琵琶 声 停みて」は、白居易の琵琶行の一節だとネットで調べるとすぐに出てきた。便利な世の中と、「光る君へ」に合わせてさっそく書いている方に感謝。

光る君へ まひろが書写していた漢詩 琵琶引(行) 白居易 - 新古今和歌集の部屋 (goo.ne.jp)

 まひろは琵琶行に続け、自分の琵琶を見やって思う。

まひろの心の声:私は一歩も前に進んでいない。

 大学寮の試験に受かり家族を喜ばせた惟規、志の通りに宮仕えが決まったききょう。それぞれに「おめでとう!」と喜べても、詩を読みおセンチになって我が身を振り返る気持ちも分かる。でも大丈夫だよ、まひろ!目覚めのその時は近い。

だからの財前直見

 今回の「あらすじ」に書かれた、まひろが石山寺で出会う「思いもよらない人物」は「蜻蛉日記」の作者で、道長の父・兼家の妾・藤原寧子(演・財前直見)だった。彼女とまひろの対話を記しておこう。

まひろ:(寧子に)「蜻蛉日記」をお書きになった方でしたか。(小声でさわに)道綱様のお母君。(寧子に)幼い頃から「蜻蛉日記」を幾度も幾度もお読みして、その度に胸を高鳴らせておりました。

寧子:まあ・・・ずいぶんおませなお姫様だったのですね。

まひろ:はい。でも、幼い頃は分からないことも多かったです。兼家様が何日かぶりに訪れたのに、門をお開けにならず「嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る」という切ないお歌を送られた意味なぞ・・・今は、痛いほど分かりますけれど。

寧子:心と体は裏腹でございますから。

回想のまひろ:心の中では一番でも、いつかは北の方が・・・。

回想の道長:それでもまひろが一番だ。

回想のまひろ:耐えられない、そんなの!

まひろ:(脳裏で道長との口づけを思い出している)

寧子:それでも、殿との日々が私の一生の全てでございました。私は日記を書くことで己の悲しみを救いました。あの方との日々を日記に書き記し、公にすることで、妾の痛みを癒したのでございます。不思議なことに、あの方はあの日記が世に広がることを望みました。あの方の歌を世に出してあげた。それは、私の密かな自負にございます。そこまでして差し上げても、妾であることに変わりはないのだけれど。あなた方はお一人なの?

まひろ、さわ:はい。

寧子:命を燃やして人を思うことは素晴らしいことですけれど、妾はつろうございますから、できることなら嫡妻になられませ。高望みせず、嫡妻にしてくれる心優しき殿御を選びなされ。

 この寧子の言葉がまひろの琴線に触れた。妾でもいいと思い決めていたのに拒絶してしまった、道長への辛く忘れ難い思い。それは書くことで癒せばよいと、まひろはヒントをもらった。まひろは寝付けず、ひとり月を見ながら思いにふける。

まひろの心の声:書くことで、己の悲しみを救った・・・。

 このドラマは「源氏物語」作者の物語なのだから、主人公まひろが書くことに啓示を得る瞬間は非常に大切だと思う。「道綱、道綱」と名前を連呼するサブリミナル寧子というコミカルな役回りに止まらず、寧子には兼家とのすてきな終わり方を前回みせてもらったけれど、ここでまた、まひろの運命を決定づける大きな役目も控えていた。

 だから、財前直見というキャスティングだったのだと納得した。倫子様サロンでの学びといい、「蜻蛉日記」がクローズアップされてきたのもそういうことだった。

道綱、夜這い失敗で良かった

 さて・・・この後に現れた寧子の息子の道綱が、まさかまひろに手を出そうとするなんて、何という皮肉。母親は嫡妻になれと彼女たちに伝えていたのに、道綱は下級貴族の女なんて簡単に妾にでもするつもりだったのか。それとも一夜の遊び心?

 あー、女の着ぐるみを着ているだけで、本当に面倒だ。ちょっと褒めると変に勘違いして、着ぐるみの方にばかり目が行く単純な男はマジで困る。下級貴族の女を軽く見た道綱も、サブタイトルの「おごれる者たち」の1人という事か。

 とりあえず、道綱のまひろへの夜這いが成就しなくて本当に良かったこと。もし成功していたら、まひろにはレイプ魔として恨まれ、道長に殺されることだろうよ。「まったくあんたの兄にはロクなのがいないね」と道長までまひろに恨まれる。

 この時に、さわがあそこまで積極的だったのは意外だったが、ひとめぼれだったの?上級貴族なら誰でも大歓迎?一応彼女なりに人生に切羽詰まっていて、攫ってくれる殿御を捕まえたかったっていうのは分かるんだけどねえ。

 さわは、惟規とはどうなっているんだろう。確か、庚申待の夜、道長と破局して戻ったまひろを迎えた時に、惟規とさわは2人きりだった。まひろが出かけてから、ずーっと話をしていたんだよね?さわは積極的みたいだし・・・。

 今回、惟規は擬文章生試験に受かり、文章生まであと一歩まで漕ぎつけ、まひろ家族は喜びに沸いた。彼はいつものごとく「姉上が男だったらとっくに文章生となって官職を得ていただろうけど」と、まひろに言ったが、まひろは「ようやくこの家にも光が差してきたわ」とその場では笑って弟を祝った。

 しかし、祝いの琵琶を奏でながら心の中ではこう思っていた。

まひろ心の声:不出来だった弟が、この家の望みの綱となった。男であったらなんて考えても、虚しいだけ。

 もしも惟規が女だったら、優秀な「兄」まひろが勉学に邁進するのを尻目に、さわのように殿御に攫ってもらいたいと夢見てそれで幸せだと考えていた気がする。きょうだいで性別が逆転したところにこの家の不幸があるのかもしれないけれども、本来、性差なんか文章生として仕事をこなすには要らなさそうなのにねえ。

 話を戻すと、夜這い相手を間違える話は、「源氏物語」の空蝉がそうだった。でも、光源氏は間違えたままに空蝉の義理の娘(軒端の荻)を言葉巧みに口説いた。あのシチュエーションで「間違った」と悟られては、今さら相手に恥をかかせるだけ、失礼になるからだろう。

 道綱は正直と言えばそうなんだけど、さわを怒らせた。そんな不手際をしない理想の男として、後に光源氏が描かれる訳だ。まひろの頭の中で理想的な男が形作られるのはもうすぐか?

懐が深い道長、本気出してきたかな

 実際の方はともかく、このドラマの道兼はDV男臭がプンプンしており、まったく同情できない作りになっている。が、父親に便利に駒として使われてきた己のマヌケを悟って壊れた道兼は、それなりに哀れではある。

 道兼は公任の家に居座り(公任、そこまで陰湿にめんどくさく絡まれたんじゃなくて良かった)、困った公任から相談された道長が、公任の邸・四条宮へと出向いた。

 すると道兼は烏帽子も取れ、衣服も乱れて寝転んで酒を飲んでいる。髭面だし。昔、いたぶっていた弟に見られたら相当に恥ずかしい姿だ。

道兼:おう。

道長:お迎えに来ました。

道兼:帰らぬ。

道長:この家の者は困っております。

道兼:公任め・・・裏切りおって。

道長:兄上のこのようなお姿、見たくありませぬ。

道兼:何を言うか。お前も腹の中では笑っておろう。

道長:笑う気にもなれませぬ。

道兼:フフフ・・・俺は父上に騙されてずっと己を殺して生きてきた。己の志、己の思い。全て封印してきた。そして、父にも妻にも子にも捨てられた。これ以上俺にどうしろなどと説教するな。俺のことなぞ忘れろ!

道長:兄上はもう父上の操り人形ではありません。己の意志で好きになさってよいのです。

道兼:(半分起き上がって)ならば聞くが、摂政の首はいかほどか。摂政の首が取れたら魂だってくれてやる。(ふらふら立ち上がる)俺はもう死んでんだ。とっくの昔に死んでんだ。死んだ俺が摂政を殺したとて誰も責められぬ。摂政の首が取れたら未練なく死ねる。浄土に行けずとも、この世とおさらばできる。

道長:兄上。私は兄上に、この世で幸せになっていただきとうございます。

道兼:心にも無いことを。

道長:まだこれからではありませぬか!兄上は変われます。変わって生き抜いてください。この道長がお支えいたします。(深々と礼をする)

道兼:(へたりこんで、頭を抱え)俺に生きる場所なぞあるとも思えぬ・・・(泣く)

道長:ありまする!しっっかりなさいませ!父上はもうおられないのですから。(声をあげて泣く道兼)

 甘えん坊のかまってちゃんの次兄道兼。騙されたと言いつつも兼家パパのロスに陥っているみたいだね。「おまえを置いてゆかぬ」と言い、後にはちゃんと内大臣にもしてくれるほど自分にも配慮する長兄(摂政)の首を欲しがるなんて、どうかしてる。「志」とか「己の思い」とか口にしているのも笑わせる。どうせ自分本位の浅い話なんじゃないのか。

 厭世的になった挙句に拡大自殺をほのめかすなんて、典型的な甘えた奴だよ、今作の道兼は(史実はそうじゃないらしいけど)。面倒くさがらないで向き合う道長は懐が深い。それが自分を含めた三方良しの一番の近道だと分かっていそう。

 このシーンの道長といい、実資と除目の後に最小限の言葉だけで会話をする時といい、「物事のあらましが見えている」と父・兼家に評された彼らしい、底知れぬ表情を益々見せてきていると思う。

 明子のお腹を撫でている時も、舅・源雅信(「不承知と言い続ければ良かった」とは・・・やっぱり面白い)の危篤の床で手を握っている時でさえ、静かに宙から物を俯瞰しているというか・・・。

 何をどう見ているのだろうか。まひろと直秀への誓いにまっすぐか。いよいよ兄との戦いを意識してきたか。トップに立とうとうすれば、兄一族を蹴落とさなければ無理だ。長兄道隆のように父がお膳立てし黙っていても権力が転がり込む立場じゃないからね。

 そんな風に思ったのは、甥の伊周との弓競べだ。関白となった道隆が調子に乗り、中宮ご在所の登華殿の模様替えの支出を公費からさせようと中宮大夫の道長にゴリ押ししてきたから、頭に来ていたのはわかる。道長は、皆が関白一家への接待ゴルフに励む場なのに、本気の片鱗を見せてしまった。

 伊周も、憎らし気なことを言った。「そのような気分ではございませぬ」と道隆の「相手をせよ」との誘いを断った道長に、「怖気づかれずともよろしいではございませぬか、叔父上」なんて煽っちゃうのだ。元々母に溺愛されて自信満々だからなー、若いからなー。まだティーンブレインで、万能感いっぱいだ。

 しかし、5本すべて命中させるくらいの精度を誇っていた伊周が「願い事を言うてから矢を射る」方式になって崩れた。人間、欲を出すとダメだ。さらに言霊にはインパクトがある時代だと思うし、プレッシャーが違う。

 「我が家より帝が出る」をど真ん中で命中させたのは道長の方。場はざわついた。さらに「我、関白となる」で大きく外し、塀に矢が刺さってしまった伊周は明らかに動揺したが、同じ願い事を口にしかけて構えた道長を「やめよ!」と大声で止めたのは兄道隆だった。

 この場にいた人たち、今後は鼻っ柱の強い関白家の長男・伊周と、関白の弟・道長を見る目が断然変わるだろう。空気が変わった。あれは神意に見えるもんね。「8歳も年下の甥相手に、バカなことをした」と道長は反省したが、いや、あんたそれ実質的な相手は兄の関白だから。皆そう思ったよ。

 次回予告を見ると、道長が関白と接近して睨みあっている。戦いが顕在化するか。「汚れ仕事は俺の役目だ」と道兼が・・・死が近いから、いい人になるのも役者さんの今後のためか。それと、公式サイトの方の予告には道長従者の百舌彦がいた!久しぶりー。瀕死のまひろ(?!)のために、また乙丸と2人で活躍するんだね。そして倫子様、とうとう道長の心の中の存在に勘づいちゃうか・・・怖いけど楽しみ過ぎる。

(ほぼ敬称略)

 

【光る君へ】#14 兼家没、遠ざかったまひろと道長は各自もどかしい空回り

前回ブログについての反省

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第14回「星落ちてなお」が4/7に放送され、オープニングのトリを飾っていた藤原兼家(演・段田安則)が没した。ここまで公の硬派的な物語を引っ張ってきた功労者、まだまだ居てほしかったが・・・そんなことを言ったら、いとに叱られるか。

 まずはあらすじを公式サイトから引用しよう。

(14)星落ちてなお

初回放送日: 2024年4月7日

仕え先を探すまひろ(吉高由里子)は、土御門殿からの帰りに道長(柄本佑)と鉢合わせてしまう。久しぶりの再会だったが・・・。ある日、兼家(段田安則)は道長らを呼び、道隆(井浦新)を後継者にすると告げる。道兼(玉置玲央)は納得がいかず、激高する。やがて兼家が逝去。跡を継いだ道隆が摂政になり、独裁を始める。一方まひろ(吉高由里子)は、たね(竹澤咲子)に読み書きを教えていたが、厳しい現実が待ち受けていた。((14)星落ちてなお - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 前回ブログに関しては反省している。最後にまひろと道長が土御門殿で鉢合わせただけで、アレコレ妄想を炸裂させてしまった。

 今回蓋を開けてみたら、何のことはない。ただ従者がまひろのことを事務的に説明しただけで、2人は他人行儀にすれ違って終わった。え?そうなるの?ズギューンと撃ち抜かれた顔しているよ、いいの?いいの?・・・と鼻息荒く期待しちゃったが、とにかくすみませんでしたー。

 これからも、まひろと道長の何の展開も無いニアミスとか、バッタリ会うとかの場面が出てくるのだろうか。もう無駄に舞い上がらないように、2人が接近しても「あーそー」程度でフラットに見ることにする。

 それにしても、4年ぶりに訪問したまひろの顔と名前が一致している従者の人、凄い(ところで、百舌彦はどこへ?)。淀みない説明だったねえ。

従者:北の方様のところに以前より出入りしておる、前の蔵人式部丞藤原為時の娘にございます。

道長:ふむ。

まひろ:(頭を下げ、脇によける。道長通過)

 もしかしてこの人は、道長の従者というよりも家人であり、帰ってきた道長をお迎えに出ただけなのかも。それだったら、倫子様を訪ねてきたまひろのことは土御門殿スタッフ全員が情報共有済みかもね。

 さて、まひろと鉢合わせの後、嗅覚が優れている倫子様の前で心ここに在らずの失態を見せてしまった道長。幼い娘がせっかく「ちちうえ」って言えたのにねー。「良い風だ」なんて言って、まひろの去った方向をチラ見している場合じゃない。

 こうやって、倫子様の心の中で様々な事象が少しずつ積み重なっていき、道長の心の中のまひろの存在が徐々に浮かび上がってくるのだと思うと・・・炙り出されるな、きっと。

哀れ道兼、とは思わないんだよな

 兼家が永祚2年(990年)に没する少し前、兼家の口から後継者は長男・道隆が指名された。これまで父の政権奪取のための汚れ役を担ってきた道兼は、土壇場での父の裏切りに最大級にキレた。悪魔的な顔に身震いした。役者がうますぎる。

兼家:(息子たちが控える中、よろよろと着座する)今日は気分が良いのでお前たちを呼んだ。出家いたす。望み通り関白になったが、明日それを辞し、髪を下ろす。わしの跡は・・・道隆、お前が継げ。

道隆:はっ・・・仰せ、かしこまりましてございます。

道兼:父上は正気を失っておられる。父上の今日あるは、私の働きがあってこそ。何故、兄上に!

兼家:黙れ。正気を失っておるのはお前の方じゃ。お前のような人殺しに一族の長が務まると思うのか!

道隆:人殺し・・・。

兼家:大それた望みを抱くなぞ許し難し。下がれ。

道兼:父上こそ、帝の父の円融院に毒を盛り、花山院の女御様とそのお子を呪詛しその挙句、殺め奉った張本人ではないか!

(道隆が目を泳がせ、道長を振り返るが道長は目を伏せる)

兼家:道隆は何も知らずともよい。お前はまっさらな道を行け。

道隆:はっ。(道兼、憤懣やるかたない表情)

兼家:道兼は、これからも我が家の汚れ仕事を担って兄を支えて参れ。それが嫌なら、身分を捨てどこへでも流れてゆくがよい。

道兼:(目を剝き、歯を食いしばる)この老いぼれが・・・とっとと死ね!(去る)

兼家:以上である。(立ち上がろうとしてよろけ、道隆と道長が支える)よい(手を振り払う)道隆、道長。今より父は無いものと思って生きよ。(歌いつつ、家司に支えられ去っていく)

道長:(父の背中を見送る。視線を転じると、道兼がうなだれている)

ナレーション:これ以来、道兼は参内しなくなった。

 道隆が何も知らず、まっさらな道を歩んでいるとは思わない。確か、花山帝のお子を呪詛するように安倍晴明に兼家が迫った時には、御簾の中に並んでいた公卿の中に道隆の顔もあったから。

 そして、当時の円融帝に毒を盛った時にも、妹である女御の詮子が宴会に乗り込んできて父を詰り、その場にいた道隆も薄々事情は分かったはずだった。ここでとぼけても視聴者はおぼえているよ。道隆は、道兼の殺人(まひろの母殺し)については無知でも、その他の父兼家&道兼の悪事は、道長と同程度に知っている。

 死を前にした兼家は腹を括ったな。これまでは道兼の機嫌を取るような言動も見られた。それは手駒としてうまく操りたかったからだろう。でももう自分は望み通り「家」を残し、死んでいくだけ。道兼もお払い箱だ(息子なのに・・・)。

 暴れ馬道兼を残される道隆と道長はたまらないだろうが、道隆は以前も道兼をうまくなだめていた。それがまた通じるか?

 こうして父にいいように言いくるめられてきた道兼が、父の真意を知って思わぬ失意を味わった点については・・・親に裏切られて大変にお気の毒、とはやっぱり思えないのだよなあ。主人公まひろの母殺しという、始めから正当な悪役でのご登場だし、DV夫は妻にも逃げられ、因果応報という言葉が浮かぶばかりだ。

 クローズアップされた道兼の妻は、兼家の異母妹、つまり道兼にとっては半分叔母(!)の繁子だが、繁子はまるで現代の女性センターに予め相談してあったように、手回しよく娘尊子を先に家から逃がし、「お父上の喪にも服さぬような、あなたのお顔はもう見たくもございませぬ」とキッパリ言って出ていった。

 彼女の経歴も、なかなか面白い。一条帝の乳母として力もあるのだろう。「好いた殿御ができました」と言っていたが、亡くなった兼家の家司を務めていた平惟仲と再婚するそうだ。惟仲もなかなか目端が利く波乱万丈の人物のようだが、今後そこまで描かれるか?

「人を呪わば穴二つ」を体現した源明子

 セミが鳴く中闘病生活を送った兼家が亡くなったのは、当時の暦での7/2。現代の暦では7/26だそうだ(藤原兼家 - Wikipedia)。暑いね。その直前、道長のもう1人の妻・源明子が熱心に兼家に対する呪詛を行っていた。前回兼家からせしめた、例の扇を祭壇に据えてのことだ。

 画面には並行して、横たわる兼家の様子、そして空を見上げる安倍晴明が映る。晴明は(式神らしき)従者に言う。「今宵、星は落ちる。次なる者も長くはあるまい」

 寝ていたはずの兼家は、東三条殿の中を彷徨い、裸足で庭に出た。三日月を見上げて微笑んだが、にわかに月は赤く染まった。ちょうどその頃、明子は高い声で「即滅ソワカー!」と叫んで扇目がけて気を投げつけ、扇が吹き飛んだ。

 轟音とともに雨が降り、明子は腹を抱えて苦しみ倒れた。そして兼家も、庭で倒れ雨に打たれ事切れた・・・らしい。翌朝、死後の兼家を道長が見つけ抱きかかえた。血の気の無い兼家と対照的に、生気が満ちて唇が深紅の道長。道長は、直秀らを自分の手で葬って以来、死穢とかどうでもいい人だと視聴者は知っている。

 兼家の死は、明子の呪詛が成就したということだろう。作用反作用というか、兼家を呪い殺した代わりに、腹に宿っていた道長との子も、母の身代わりなのか犠牲となった。

 多くの視聴者が「人を呪わば穴二つ」と頭に浮かんだことだろう。明子はそれを体現してしまった。

 その後、伏せった明子。彼女の目には、当時の貴族には大問題だった穢れを乗り越え、喪中の身で穢れた自分を見舞いに来た道長は、自分をスーパー気遣っている王子様に見えたかな?彼女は道長が元々死穢やしきたりを気にしないとか未だ知らないようで、彼の行動を勘違いして心動かされたかも。

 もし勘違いなら、後々怖いなあ・・・。勝手に買いかぶったとしても。

 子どものころにいじめに遭っていた人に、「今相手を呪いたい?」と聞いたら、「今が幸せだからそんなことはどうでもいい」と返された。現在の幸せを手にできれば、呪う心も消えていく。でも、嫡妻の倫子がいる立場の明子はそうもいかないだろう。

 その状況で、六条御息所の役回りの明子が、またどんな呪いを発動するのか・・・いや、また先走った妄想は止めておこう。

まひろにロックオンの宣孝

 兼家の死の報をまひろの家にもたらしたのは宣孝だった。その時、いとが「やった!」とばかりに密かにガッツポーズをした。「わしの目の黒いうちはそなたの父が官職を得ることはない」とまひろに宣言していた為時の最大の障壁が世を去り、いとが喜ばない訳がない。いと、かわいいなあ。

 為時は、息を飲み「激しいご生涯であったのう・・・」と感慨深く言い、「ひとりにしてくれ」と目頭を拭った。

 「殿さまのあれはうれし涙でございますよね?」との、いとの問いに、まひろは「分からないわ。父上ご自身もお分かりになっていないかも。嬉しくても悲しくても涙は出るし、嬉しいか悲しいか分からなくても涙は出るのよ」と言った。「複雑だよねー」の一言で返さないところが将来の紫式部だ。

 帰る前に、宣孝は「知らせは、もう1つある」と、自身の筑前下向を告げた。まひろは当意即妙に「筑前の守におなりなのでございますか」と返し、宣孝は「前の筑前守が病で職を辞したそうで、にわかの赴任を命じられた」と説明した。派手な出で立ちでの御嶽詣の御利益だ、とも。

 さらに「いよいよわしも国司になるぞ」との言葉に、まひろはすぐに「おめでとうございます」と頭を下げた。こういうまひろとの軽やかな会話を、宣孝は気に入ったのだろう。まひろをガン見しながら「わしも、為時殿の一家を置いていくのは忍びないと思っておったが」と言葉をつなげる様子を見て、宣孝の気持ちの在りように何も気づかない為時は超鈍感としか言いようがない。

 次回予告を見る限り、ぐにゃぐにゃ惟規が家運を引き上げてくれるようで、それはそれで楽しみだが・・・筑前に赴任してもイケオジ宣孝が何かまひろにアプローチを続けるのかも気になる。

新摂政の身内びいきの陰で、道長苦戦

 ところで、亡父の「次は道兼」との間違った見立てのせいで道兼の懐に入り込んでしまっていた公任(演・町田啓太)。ヘタを打ったと後悔し、「これからは道隆様に真剣に取り入らねば」「道兼様は正気ではない」と愚痴をこぼしていたが、次回予告では「俺に尽くすと言ったよな?」と道兼に迫られるらしい。危機一髪、ガンバレ公任!

 この公任は蔵人頭と前回呼ばれていたが、新摂政道隆の初の公卿会議でもう1人の蔵人頭に選ばれたのが、17歳の道隆長男・伊周(三浦翔平)。「蔵人頭、参れー」と一条帝のかわいらしくも爽やかな声に召喚され進み出て、宮中の女官たちのきゃあきゃあ声をかっさらっていた。

 さらに道隆の身内びいきは続き、公卿会議で道長含め「ありえぬ」の大合唱になったにもかかわらず、長女の女御定子を中宮に冊立してしまう場面が描かれた(ナレで「道隆の独裁が始まった」も入った)。

 そこには2人の蔵人頭が控えていた訳だが・・・中の人は町田啓太に三浦翔平なのだから、「一条帝の蔵人頭は顔だけで選んだ」(失礼)と言われても信じてしまうぐらいのキラキラ顔。感覚がマヒする眺めだった。

 さて、このような道隆の身内びいき全開の陰で、道長は直秀の死の直接原因になった検非違使の改革案を何度も出し、兄によって却下が繰り返されていたことが分かった。

摂政道隆:お前はまた検非違使庁の改革案を出しているようだな。

道長:はっ。

道隆:幾度も却下したではないか。

道長:諦めません。検非違使庁のしもべは裁きの手間を省くため、罪人を密かに殺めておりまする。そのような非道を許せば、国は荒みます。民が朝廷を恨みます。

道隆:罪人は罪人である。どのように処されようと我らが知ったことではない。身分の高い罪人は、供もつけて流刑に処し、時が過ぎれば都に戻るようになっておる

道長:身分の高い者だけが、人ではありませぬ!

道隆:お前はもう権中納言ぞ。下々のことは下々に任せておけば良い。

 道長は直秀への誓いを忘れず、できることは実行していた。しかし、貴族の常識がそれを受け入れず、彼の努力も空回り。「何も成していない」と気落ちすることになった。江戸を斬る、大岡越前、遠山の金さん、水戸黄門あたりの時代劇を見て育つと、下々の中に入ってこそ良い政ができるってぇもんですよ、と言いたくなる。ドラマの道長は、平安貴族では希な存在だ。

 こうなると、やはりトップオブトップに立つしかないと身に染みて決意することになるんだろうな、道長は。

 しかし、平安時代のある時期には死刑が無かったなんて話は貴族様だけのことだった。ちょっと想像すればわかりそうなものだったのに・・・。庶民に対しては、司法システムに乗せるまでもなく、警官レベルが銃殺してしまうようなものだった訳だね。貴族様だけが人であるかのような話を、私もしていてしまったのだな・・・。

 道隆と道長の会話には、定子を巡る続きがあった。

道隆:定子様を中宮にする。

道長:え?円融院の遵子様が中宮としておられますが。

道隆:中宮の遵子様には皇后にお上がりいただき、定子様を中宮になし奉るつもりじゃ。

道長:皇后と中宮が並び立つ前例は、ありませぬ。

道隆:前例とは何だ?そもそも前例の一番初めには前例なぞなかったであろうが。

道長:されど・・・!

道隆:公卿たちを説得せよ。

道長:できませぬ。

道隆:これは相談ではない。摂政の命である。

 この、3后が存在するのに中宮を皇后並みにして1枠をプラス、実質4枠にして娘を押し込んだ道隆の手法については、専門の歴史家の方々や、専門でもない方々まで、多くの方がネット上でご説明されているようなので、私まで参戦する必要はない。ただ、3枠のうち2后をひとりで占めてしまった円融帝が悪く見える。ただ兼家と仲が悪かった結果がそうなったんだね。

 この兄貴の手法を弟の道長君が将来悪用するという・・・先走ったので止めようね。

まひろ、ききょう(未来の清少納言)との会話

 さて、新蔵人頭に選ばれた伊周の妻選びを目的に和歌の会を摂政家が催すことになり、ようやっとまひろとききょうの出番が回ってきた。

 ききょうは自分たちが「にぎやかし」にしか過ぎないと自虐していたが、摂政の北の方である才女の高階貴子に認められている2大才女が、まひろとききょうであることは、特筆すべきことではないか(ドラマの中だけど)。

 その会の後日、市女笠を被り、ききょうがまひろを訪ねてきた。

ききょう:まひろ様。

まひろ:ききょう様・・・!

き:誰ですの?今の汚い子。

ま:文字を教えている子です。それはもう賢くて。

き:あのような下々の子に教えているの?

ま:ええ。文字を知らないためにひどい目に遭う人もおりますので。

き:何と物好きな・・・。(屋内に入って)先日の和歌の会はつまらぬものでございましたわね。あのような姫たちが、私は一番嫌いでございます。より良き婿を取ることしか考えられず、志を持たず、己を磨かず、退屈な暮らしもそうと気づく力も無いような姫たち

ま:そこまでおっしゃらなくても・・・。

き:まひろ様だってそうお思いでしょ。

ま:少しは・・・。

き:私は宮中に女房として出仕して、広く世の中を知りたいと思っておりますの。

ま:それは、ききょう様らしくて素晴らしいことでございます。

き:まひろ様に、志は無いの?

ま:私の志は・・・先ほども申しましたように、文字の読めない人を少しでも少なくすることです。

き:(やや呆れて)この国には我々貴族の幾万倍もの民がおりますのよ。そのこと、ご存知?

ま:存じてます。されど、それで諦めていたら何も変わりません

き:そうでございますか・・・(立ち上がり)私は私の志のために、夫を捨てようと思いますの。

ま:は?

き:夫は女房に出るなどという恥ずかしいことは止めてくれと申しますのよ。文章や和歌はうまくならずともよい。自分を慰める女でいよと。どう思われます?下の下でございましょ。

ま:されど、若君もおられますよね。

き:息子も、夫に押っ付けてしまうつもりです。息子には済まないことですが、私は私のために生きたいのです。広く世の中を知り己のために生きることが、他の人の役にも立つような・・・そんな道を見つけたいのです。

ま:(ききょうを見つめる)

 この会話を文字起こしして読んでいると、また朝ドラ「虎に翼」を思い出してしまう。第2週では、主人公の寅子らは民事訴訟の法廷を傍聴した。そこで、当時の戦前の民法では、婚姻関係にある女の財産は着物1枚までも夫によって管理されてしまうという現実を知る。

 ただ、裁判中の件では婚姻関係は既に破綻しており、夫による妻の財産の管理権を夫側がことさらに主張するのは、妻を苦しめる目的での「権利の濫用」だとの大岡裁きが下り、主人公たちはホッとした。(ちなみに裁判長は「真田丸」の叔父上、「鎌倉殿の13人」の大江殿の栗原英雄だったー!)

 何が言いたいかというと・・・ききょうのような考えを持った女も、ドラマ上だけでなく、きっと千年前もいただろう。そして戦前の猪爪寅子も。とても優秀な人たちなのに、そういった彼女らの声は日本の歴史の中でずーっと花火のようにポツンポツンと打ち上がっては消え、結局は大勢には影響を及ぼせず飲み込まれてきたのかと思うと虚しく悲しい。悲観的に過ぎるか。

 この場面のききょうのセリフについているBGMだって、ドーンドーンドーンみたいに太鼓が勇ましく打ち鳴らされる行進曲で、面白おかしく茶化されているように聞こえた。女が志を語るとなると「へいへい、姉ちゃん威勢がいいね~」といった風に扱われるのがオチなのか。

 まひろの「少しでも文字を読めない人を少なくしたい」プロジェクトは、順調に滑り出したかに見えたのに、少女タネの父親から猛反発を食らってしまった。「文字なんか要らねえ。俺ら、あんたらお偉方の慰み者じゃねえ」と。独りよがりのお節介な慈善事業みたいに思われたのか・・・。

 難しいし、もどかしいね、まひろ。この経験を踏まえ、彼女はどう考えて行動していくのだろうか。「諦めていたら何も変わりません」とききょうにも言ったのだから、まだへこたれないよね?

今回のほっこりエピソード2つ

 その①。まひろが土御門殿の仕事を断ってきてしまったことを、仕方ないながら「断られた」と先方のせいにして説明したため、いとは「何ゆえに」と憤慨した。

 まひろにしたら当然、道長のいる場所での仕事など最初から受ける訳にはいかない。だけれど、いとは大いに期待してまひろを送り出したのだろう。

 そのあと、家計を案じて為時に泣いて暇乞いをするほど、この度のまひろの就職に賭けていたと思うと、いとには気の毒だった。けれど結果的にほっこりエピソードにつながった。

いと:いとにございます。

為時:(書物を読んでいる)入れ。

いと:(為時の前に座り、頭を下げる)殿様、お暇を頂きとうございます。(為時、顔を上げる)本当にお世話になりました。何のお役にも立てず・・・。

為時:ま、待て。いきなりいかが致したのじゃ。

いと:私、食べなくても太ってしまう体でございますので、何と言うか、居場所が無いというか・・・。

為時:いや、今更何を申すか。

いと:されど、土御門殿での姫様のお仕事も決まらず、私の仕立物の注文も途絶えがちで・・・もう、私がお暇を頂くしかあるまいと(伏して泣く)。

為時:行く当てなぞ、無いであろう。(いとのそばへ行く)惟規の乳母となってこの家に来たのは、お前が夫と生まれたばかりの子を流行り病で亡くした直後であった。故にお前は、惟規を我が子のように慈しんでくれた。この家は、お前の家である。(いと、顔を上げる)ここにおれ。(いと、さらに泣く)

 「食べなくても太ってしまう」体質と言わせるとは、さすが女の脚本家。ご本人はかなり小柄で細いお人だったなあと、大昔にお話しさせていただいた時の事を思い出すが、これぐらいの世代の女の人の数多が「それな!」と頷いたと思うし、いとが真剣に言うからこそ笑った。

 それに、これまで語られなかった彼女の境遇も分かった。流行り病で夫と生まれたばかりの子を亡くした後、惟規の乳母になったと・・・辛さを知る身だからこそ、妻・ちやはを亡くした為時にも寄り添い、惟規にも尽くしたのだろう。「この家は、お前の家である。ここにおれ」と言ってもらえて、良かったね。

 その②。道綱の母が、また兼家に「道綱、道綱、道綱」と呪文のように唱えている。これまでも良く出てきた、息子の出世を願う母の真剣な、だけど毎回ちょっと笑わせる、サブリミナル効果(?)を狙っているらしい行為だった訳だが・・・。

寧子:(剃髪し、目を閉じて横になっている兼家の枕元で)道綱、道綱、道綱。聞こえますか?

道綱:母上、もうおやめください。

寧子:道隆様に、道綱のことをお忘れなくと仰っておいてくださいませね。道綱・・・。

道綱:お加減のお悪い時にそんなことを申されるのは・・・。(兼家が目を開ける)

寧子:あっ、お気づきになられた!殿様!(兼家の手を握る)

兼家:(寧子を見てほほえむ)「嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る」

寧子:殿・・・!

道綱:今の歌、何?

寧子:私の・・・「蜻蛉日記」よ。

兼家:あれは・・・よかったのう・・・(寧子、涙を堪えて兼家の手に頬ずり)輝かしき日々であった・・・。

 道綱、母の大ヒット作を知らんのかーい!と突っ込みたくなったが、寧子の方は嬉しかっただろうな。兼家が自作にこっそり目を通し、しかも作中の歌を死の床で諳んじてくれたのだ。愛を感じたと思う。

 謀略を尽くして権力を握った悪党政治家として世を去るだけじゃない。兼家にも、打算ばかりじゃない人間らしい関係が、寧子との間にはあったのだった。「蜻蛉日記」をちゃんと読みたくなった。

(ほぼ敬称略)

 

【光る君へ】#13 退場近い兼家、ここでのまひろ&道長の再会は何を意味するか

朝ドラ「虎に翼」も始まって

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第13回「進むべき道」が3/31に放送された。今回は、悲劇のヒロイン定子様が少女らしく可憐にご登場、安倍晴明に寿命を見切られているらしい兼家はすっかり弱って道長を悲しませ、宣孝のまひろへの恋愛感情の覚醒も感じられた。

 まひろは「より良き世の中を求め、あなたは上から政を改めてください。私は、民を一人でも二人でも救います」との道長への気持ちを胸に、読み書きできるよう庶民の子どもに字を教え始める。

 道長は、民の声を黙殺しようとする兄道隆始め先輩公卿に対して「民なくば、我々の暮らしもありません!」と抵抗。賛同してくれる公卿は「黒光る君」の実資だけ、亡き直秀への誓いが空回りする。

 会わない4年が過ぎても、健気にもふたりは互いへの思いは忘れず生きているようだった。

 では「進むべき道」のあらすじを公式サイトから引用させていただく。

(13)進むべき道

初回放送日: 2024年3月31日

4年が過ぎ、道隆(井浦新)の娘・定子(高畑充希)が、元服してわずか20日後の一条天皇(柊木陽太)に入内する。道隆たち中関白家が絶頂期を迎え、兼家(段田安則)の後継争いが始まろうとしていた。一方、為時(岸谷五朗)は官職を得られず、貧しい暮らしが続くまひろ(吉高由里子)。ある日、さわ(野村麻純)と出かけた市で揉め事に巻き込まれる。文字が読めずに騙された親子を助けようとするまひろだったが・・・

 ドラマ冒頭の表示は永祚2年(990年)、一条天皇が元服した。前回から4年後の今回、20歳前後になっているまひろは、髪や衣装の出で立ちが多少変わって成長した様子だった。そして、家計を助けるための婿探しには相変わらず難色を示す一方で、職探しを始めた。

 貴族の屋敷での女房仕えを希望している訳だが、父・為時が未だに官職無しなので「下女なら」とまで言われてしまう。まひろが漢籍を読み書きできようが、彼女の能力は関係ない。父親が五位の受領であれば良いのだ。

 また、字が読めないがために騙され、子ども3人を売ったことにされて泣きを見た市井の女性もドラマには出てきた。

 ここで唐突ながら・・・新朝ドラ「虎に翼」が第1週を迎え、主人公は女性初の弁護士&裁判官となるはずの猪爪寅子(ともこ)だ。寅子の昭和の始め頃と、まひろの平安半ば頃で、さすがに同じとは言い難いが女には「したたかさ」が必要な、連綿と続く生きづらさがどちらの世の中にも存在しており、両者ともちょうどそこに焦点が当たっているようにも見える。

 その中で、朝ドラも大河も、主人公2人は「進むべき道」に向かって歩んでいる段階だ。ガンバレ寅子とまひろ。道長もね。

 朝ドラの話だが、第5回は感動ものだったのでちょっとだけここに記録しておく。私のお気に入りの松ケンが悪者で気の毒だったけど、今後主人公の味方に転びそうだ。

寅子:あの、ご無沙汰しております。以前、夜学の授業にお邪魔させていただいた・・・。

桂場(松ケン):ああ、君か。

寅子:猪爪寅子です。その節はありがとうございました。

桂場:私は別に何も。

寅子:いえ、あの時背中を押していただいたおかげで明律大学女子部法科への道が開けました。いや、まだ完全には開けてはいないのですが・・・実は、母に女子部進学を反対されておりまして。あの、先生ならばどのように母を説得されますか?

桂場:私も女子部進学には反対だ

寅子:えっ、何でですか?

桂場:君が女だからだ

寅子:はて?

桂場:穂高先生の言葉に騙されない方がいい。あの方のお考えは進んでおられて素晴らしい。だが、あまりに非現実的だ。

寅子:えっ、でも・・・。

桂場:君は頭が良いんだろう。女学校で1番だったかもしれないが。

寅子:2番です。

桂場:とにかく時期尚早だ。いつかは女が法律の世界に携わる日が来るかもしれない。だが、今じゃない。

寅子:それは、やってみないと・・・。

桂場:今、君が先陣を切って血を流したとしても何の報いも無いだろう。

寅子:それも、やってみないと。

桂場:母親1人説得できないようじゃ話にならない。この先、戦うのは女だけじゃない。優秀な男と肩を並べて戦わなければならなくなるんだよ。

寅子:あの・・・私の母は、とても優秀ですが?

桂場:は?

寅子:恐らく、今想像してらっしゃるよりもずっと頭がよく記憶力も誰よりも優れています。

桂場:何言ってるんだ君は。

寅子:ですから、母を説得できない事と、私が優秀な殿方と肩を並べられないことは全く別問題かと。心躍るあの場所に行けるなら、血くらいいくらでも流します。それに私、同じ土俵にさえ立てれば殿方に負ける気はしませ・・・。

桂場:いいや負ける!通うまでもなく分かる。君のように甘やかされて育ったお嬢さんは、土俵に上がるまでもなく血を見るまでもなく、傷つき、泣いて逃げ出すのがオチだろう。

寅子母はる:お黙んなさい!

寅子:お母さん!

桂場:お母さん?

はる:何を偉そうに。あなたにうちの娘の何が分かるって言うんですか?何が時期尚早ですか。泣いて逃げ出すですか。そうやって女の可能性の芽を摘んできたのはどこの誰?男たちでしょ!

桂場:そんな、私に感情的になられても・・・。

はる:自分にその責任は無いと?それならそうやって無責任に娘の口を塞ごうとしないでちょうだい!(娘に向かい)行きますよ寅子!行きますよ!

 そして、はるは法律専門書店に駆け込み、「六法全書ください!」と言うのだ。娘の新しい見合用の振袖は、六法全書に化けた。まず六法全書の存在を知っていることからして、確かにこの母は優秀じゃないか?そして娘に言う。

はる:私は私の人生に悔いはない。でもこの新しい昭和の時代に、自分の娘にはスンっとして(押し黙って)ほしくないって、そう思っちゃったのよ!そこにきて、あんな若造にあんなこと言われたら、こうならざるを得ないでしょ?寅子、何度でも言う。今、お見合いしたほうがいい。その方が間違いなく幸せになれる。それでも本気で地獄を見る覚悟はあるの?

 うなずく娘に微笑む母。まひろの平安時代からほぼ千年でもこう。そして寅子の昭和からほぼ1世紀経って、令和でも報道で見る会議に並ぶ面々は片方の性に偏りがち。女はどこへ行ったやら。口を塞がれ押し黙ってきた結果だな。

 そう考えると、千年も前に「源氏物語」という文句のつけようのない結果を残した紫式部・まひろは、本当に偉大だ。

倫子様、今は気づいていなくても後が怖そう

 大河に話を戻そう。

 職探しをする「まひろ」の噂をサロンで耳にした倫子様(こっちも「ともこ」)は、まひろにどうやら親切な手紙を書き、まひろを雇うと申し出たようだった。しかし、さすがに道長が婿入りした先の土御門殿に出仕するのもねえ・・・と普通は考える。案の定、まひろは他で仕事が決まったと嘘をついた。

 倫子様は「それならこうして、たまにお訪ねください。まひろさんとお話ししとうございます。今日はまだ内裏から戻りませんが、今度、殿にも会ってくださいね」と無邪気に言ったが、これって、まひろの嘘が後でバレる流れでしょ?今は気づいていないようだけど、そうなったら地獄だよね。こういうの鬼脚本って言うのかな。

 その倫子様、道長の文箱から見つけてきたある物をまひろに見せた。なんと、まひろ自身が道長に送った漢詩だった。それを「女の文字では」と倫子は勘づき、もう1人の道長の妻・源明子からの文ではないかと疑っていた。

倫子:(懐から文を出す)これ、殿の部屋で見つけたのだけれど大切そうに文箱の中に隠してあったの。

まひろ心の声①:(私が書いた漢詩だ・・・。)

倫子:これ、女の文字ですよね?

まひろ:さ、さあ・・・。

倫子:漢詩だから殿御かとも思ったのだけれど、やはり女文字だと思うのよ。

まひろ:(とぼけて)はあ・・・。

倫子:あの方が送ってきたのかしら?

まひろ:あの方?

倫子:高松殿の明子女王様よ。あの方は盛明親王のもとでお育ちだから漢詩も書けるのよ。これ、どういう意味か分かる?

まひろ:この詩は陶淵明の詩です。陶淵明とは古の唐の国の詩人で、この詩は帰去来辞でございます。

倫子:もういい。

まひろ:あ・・・ご無礼を。

倫子:あちらとは文のやり取りがあったのね。殿、私には一通も文を下さらず、いきなり庚申待の夜に訪ねて見えたの。突然。

まひろの心の声②:(庚申待の夜・・・。)

回想の道長:左大臣家の一の姫に婿入りすることとなった。

倫子:でも漢詩ですから、やはり殿御からということにしておきますわ。

まひろの心の声③:(あの人はこの文を捨てずに土御門殿まで持ってきていたの・・・。)

女房:姫様!(彰子がやってくる)

倫子:あらあら、どうしたの?今、お客様なのに。まひろさんよ、ご挨拶して。(倫子の後ろに隠れる彰子)ごめんなさいね。

まひろ:お初に。まひろと申します。

倫子:この子、うちの殿に似て人見知りするのよ。

まひろ:倫子様、わたしそろそろ・・・。

倫子:あらそう。働くのは無理でも、また遊びにいらしてね。

まひろ:ありがとうございます。

 まひろがポーカーフェイスを保つのが大変だっただろうこの場面。見ているこちらもヒヤヒヤだ。まひろの驚きを伝える心の声3連発、さらに道長の2歳の子まで登場で、まひろはノックアウトだったろう。道長行動早すぎ!

 倫子から手紙をもらい、土御門殿に上がる段階で色々と想定はしていても、道長が自分からの漢詩を捨てずに取っていたのは想定外、さらにそれを倫子の手で目の前で見せられるなんて。

 そして、庚申待の夜のこと。子どもは道長似だとか・・・あれこれを考えれば目の前の話にはとても集中できないし、とぼけるのも限界がある。帰りたくなる。

倫子にひとつも文をやらなかった道長

 漢詩について。まひろは、倫子様に「どんな意味か」と問われているのに、倫子様が嫌う説明からわざわざ入って倫子様をイラっとさせた。倫子様の気性を知っているのに気遣いが無さ過ぎると思ったが、余裕が無かったか。まひろは倫子様に意地悪をするような子じゃないから。

 倫子は当初は源明子を疑い、結局、漢詩は男から贈られたものであるとすると気持ちを切り替えたが、そもそも道長の文箱を漁ったりしたらダメだったよね・・・道長がまひろの漢詩を土御門殿に持ってきて大切そうにしまっておくのも、倫子の前にわざとニンジンを置くみたいで良くないけど。

 オープニングのすぐ後で、中関白家の道隆が、兄・伊周の恋文を見つけたと騒ぐ娘の定子に「過ちは文を盗み見たお前の方にあるぞ。恋心とは秘めたるもので人に見せるものではない」と教え諭していた。見れば自分の精神衛生上も良くない。知らぬが仏、見ないが一番。

 どうして文箱を漁ったか。倫子としては「自分には文も寄こさなかったのに」が引っかかるんだろう。「スカスカ(たぶん)の文箱の中に大切そうに取ってある文は何?何この漢詩!」だったのでは。

 庚申待の夜に、文を先に差し上げなかった点を倫子母に驚かれていた道長。後朝の文も倫子には差し上げなかったか?よく婿入りできたな・・・倫子の思いに付け込んだか。倫子父の左大臣がまた悔しがったんだろうな、漢字5文字だけの手紙をよこした兼家の子らしいと。舐めてる、と。

まひろと道長、4年ぶりの再会

 倫子に別れを告げて席を立った後、まひろも4年前の庚申待の夜に思いを巡らせて歩んでいたのでは。頭は想定外の事態にオーバーヒート気味、そこに当の道長が帰ってきての驚きの再会だ。

 いや~ここで「つづく」って、ベタだけどヤキモキする。

 道長はもう、ズギューンと撃ち抜かれた顔をしちゃってる。完全ドッキリ成功みたいな顔だ。視線はまひろに固定だし、ごまかしようがない。まひろも、多少は想定していたのかもしれないが、気が緩み虚を突かれた感じ。負けてない。

 どう見ても恋人同士の再会、こっちには「東京ラブストーリー」の小田和正の曲が聞こえてきそうだ(古い)。

 道長の周りのお付きの人たちもいるのに、2人ともそんな顔してたらダメ!でもねー、どうしようもないよね。これでは倫子様には遅かれ早かれ勘づかれる。どーするのー。

 その場では何とか誤魔化したとする。でも、まひろを久しぶりに見てしまった以上、すぐに行動に移す性格の道長がそのまま終わるとは思えない。何かが2人の間に起こるはず・・・こちらもスタンバイして待ってるから!!!

 案その①:社長さんが奥さんにはとぼけて自分の愛人を家政婦に押し込む、みたいなことかもしれないけど、道長・倫子・まひろの三者が揃ったところで改めてまひろの女房勤めが議論され、決まった勤め先(嘘)にはお断りを入れ、まひろの土御門殿での女房勤めが始まる。スリリング~。

 まひろ宅の経済を考えたら(いとの気持ち的にも)それが一番いい。でも、倫子様を裏切る毎日が始まってしまうってことで・・・公共の電波がそんな倫理にもとる内容のドラマを夜8時に流すだろうか。

 案その②:道長は、まひろには土御門殿以外の仕事を陰で世話し、また廃邸での逢引きが始まる。これも倫子様を裏切っていることには変わりないが、貴族が多くの妻妾を持つのが普通の当時、自邸にまひろを引き込まない点でまだマシかと。

 案その③:無いと思うが、道長がまひろを正式に妾として囲いたいと、再度まひろに迫り、まひろが妾になる。

 でも、もしかしたら道長は、踵を返し、まひろに何もしないかもしれない。手を回した結果が直秀の死だったから、安易にまひろを助けて二の轍を踏むのは怖いかな。もし直秀が生きていたら・・・ふたりの間をつないだと思うのになあ。惜しい人材を亡くした。

 とにかく、まひろと道長の焼け木杭に火の展開を期待して、次回を待つ。

黄昏の兼家、めぐる思惑

 今回は、段田安則演じる兼家のボケぶりが物凄く真に迫っていて、舌を巻いた。定子が入内する時に見に来た兼家が足を滑らせたぐらいはご愛敬だが、公卿の面々に醜態をさらしてしまった内裏での言動は痛々しかった。

道長:民なくば、我々の暮らしもありません。

雅信:摂政殿、お考えを。

兼家:(もぐもぐと、下を向いて)おお・・・道兼か。橋の修繕は急ぎ行え。(皆が驚く中、顔を上げて)わしは今、何か申したか?

 一同驚いていたが、それを受けて道兼は兄の道隆に「父上の正気を失う前に後継を指名してもらわねばなりませぬな」と言った。道隆も妻の貴子に「父上は今年の夏は越えられまい」と、摂政になる場合の心積もりを求めた。兄2人の間では、兼家の後継争いが現実化している。

 しかし道長。土御門殿での倫子との会話は、癒される。後継は自分には関係ないと思っているからだろう。

道長:父がおかしい。物の怪にでも付かれたのであろうか。話のさなかに訳の分からぬことを言い出された。

倫子:摂政様も人の子だということではございませぬか。

道長:ん?

倫子:我が父は摂政様よりも年長。このごろすっかり老いました。

道長:あれは老いなのか。

倫子:恐らくは。でも私は老いた父も愛おしゅうございます。ここまで一生懸命働いてきたんですもの。

道長:我が父も長い闘いを生き抜いてこられたからな。帝が即位され、定子様が入内して、気が抜けてしまわれたのやもしれぬな。

倫子:お優しくしてあげてください。

道長:そうだな。

 いい妻だなー倫子様。土御門殿は、ほのぼのだ。道長も誠実な倫子を信頼し、真っ当な話ができている。ここには後継争いも、まひろと道長のドロドロも持ち込んじゃダメだよね。似つかわしくない。

 ところで小麻呂はどこに?父の雅信が倫子からもらい受けたかな?子役と一緒に猫まで出すのは難しいのだろうけど、姿が見えないと寂しい。

 他方、不穏な妻・源明子。兼家が老い先短いと知っても、自身が道長の子を孕んでも、兼家の呪詛を止めない。

 明子が道長に「子ができました」と報告した際、「こんな時でも笑顔は無いのだな」と道長に指摘され「ほほ笑むことすらなく生きて参りましたゆえ、こういう顔になってしまいました」と答えていたのに、呪詛のための扇を兼家から入手した時の満面の笑顔といったら!

兼家:(東三条殿。顔の右半分が引きつり、目線の定まらない様子で座る)

道長:父上、明子女王にございます。

明子:(一礼し、兼家を見る)お加減、いかがでございますか?

兼家:お前は誰だ?

道長:妻の明子にございます。

兼家:(声を詰まらせながら)ああそうか、そうか。お父上はご息災か

明子:父は・・・大宰府から帰った後、身まかりました

兼家:(落ち着きなく)ああ・・・それは気の毒であったのう。(道長、こらえきれず座をはずして廊下へ)

明子:(ほほ笑んで)その扇は、良い作りでございますね。

兼家:ん?

明子:その扇を頂戴いたしとうございます。(立ち上がり、2,3歩前へ行き兼家のそばに座る)父上、それを私に賜りませ。

兼家:これか?ああよい、持って行け。(扇を投げる)

明子:(扇を拾って)フフフフフ・・・ありがとうございます。(笑顔)

 扇を手に入れようと、ゆっくりゆっくり兼家に近づいてゆく明子の様子には背筋が凍ったが・・・その直前に兼家は、藤原が大宰府に追いやった源高明の娘である明子に藤原が言うか?と耳を疑うような事を言った。その正気を失った様に耐えられず、道長は席を外したのだった。

 兼家の扇を入手した明子は、兄の俊賢に「今度こそ息の根を止めてやります」と宣言。だが「お腹に子もいるのだから呪詛など止めておけ。摂政様は何もせずとも間もなくであろう」と言われ、「兄上はいつからそのような腰抜けに?」と詰った。

 この後の兄妹のやりとりで、俊賢にもそれなりの葛藤があったが生きるために分別を付けたことが分かったが、明子が執着を持ち続けた理由は詳しくは語られなかった。彼女は「私は必ずやり遂げます」と言い、兼家のうなされ飛び起きる様子が映った。倫子とは対照的な禍々しい妻、明子だ。

 まさか、まひろを明子の高松殿に仕えさせたりしないよね、道長・・・彼女は怖すぎる。「源氏物語」の六条御息所がモデルなんだろうか?生霊が夕顔とか葵上とか呪い殺してたと思うが、血祭は兼家だけ?

 しかし、本当に段田安則の老いた兼家がすごい。隠れ設定は脳梗塞なのかな?ちょうど再放送が始まった「オードリー」(こちらも大石静脚本)にも日系人役で彼は出ているが、英語が半端ない。元々話せるのか?後から習ったものだとしたら、かなりの努力の賜物だろう。脚本家に頼りにされるのも分かる。

 兼家に呼ばれた安倍晴明。「陰陽寮の勤めは夜を徹しますので、朝は力が衰え、何も見えませぬ」と言ったが、彼には兼家の寿命が見えているから何も言わないのだろう。

 兼家の終幕を真に惜しんでいるのは道長と倫子だけのようだ。というか、悲しむ道長を倫子が優しく支えている。この状況で、まひろが道長の前に出現しても、青春の1ページではあったとしても、今は倫子の存在の方が圧倒的に大きくなっていそうだ。

 ここでまひろと道長が再会する意味は何だろう。青春への決別か。

 兼家は、道長にこう言った。

  • 民におもねるような事だけはするなよ。
  • お前が守るべきは民ではない。
  • 政・・・それは家だ。家の存続だ。人は皆、いずれは死に腐れて土に還る。されど家だけは残る。栄光も誉も死ぬが、家は生き続けるのだ。家のためになすこと。それがわしの政である。
  • その考えを引き継げる者こそ、わしの後継だと思え。

 道長は「はっ」と言って頭を下げた。今後、兼家の遺言ともいえるこの言葉に従ってしまうのか?直秀の死、引いてはまひろの存在も、道長の中では薄れてしまうのだろうか。

 それとも逆に、兼家という重石から逃れ、まひろと直秀への思いを強くするのだろうか。

宣孝、まひろへの恋愛感情を自覚した模様!

 兼家の目の黒いうちは官職に恵まれないことが決定的なまひろの父・為時にとって、兼家の現在の病状は確かに不謹慎だが喜ばしい。

 それで「摂政様の御加減が悪いそうだ・・・身まかられるようなことになれば、風向きも変わろう」と為時に告げにきた宣孝だったが、まひろは「父上は人の死を願うような御人ではありませぬ!」と、その言葉を即座に切って捨てた。

 また決めつけてしまい父を縛ったまひろ。逆に、為時には頑なに夫を持たぬ真意はどこにある?と聞かれ、「あまり己の行く先を決めつけぬ方がよいぞ」と諭された。まひろは決めつけて、父も自分も縛るばっかりだもんね。

 このまひろへの恋心を、どうやら宣孝は自覚したらしい。

 御嶽詣への派手な出で立ち(これは清少納言によって有名なお話ですな)も、わざわざまひろに見せるのが目的で、褒めてもらいに来た感じ。土産も為時に渡さず、まひろに手渡した。

 この宣孝の衣装には「あまり褒めたもんじゃない」と思ったらしく不服な表情の為時と、面白がって「よくお似合いでございます」「まことに神様のご加護があれば、その時はお祝いいたしましょう」と笑って答えるまひろの違い。宣孝とまひろはきゃあきゃあと楽しそうだ。

 前回から4年経っても、相変わらず宣孝はまひろの婿探しをしている様子。だが、読み書きを子どもに教えていてやりがいがあると断固として断ったまひろを「実入りも無いのに楽しいのか、おかしなおなごじゃの」と、見つめる宣孝の横目は、どう見ても恋するまなざしだ。

 これは、ミイラ取りがミイラになったかな。まひろの魅力を伝える役割だったはずなのに、自分がまひろの魅力にやられてしまったのだろう。

 思いついた為時が「宣孝殿のご子息は、まひろの夫になってはいただけぬであろうか」と言い出した時には、宣孝は何回否定するんだというくらいの駄目を繰り出した。「あれは駄目だ。あれは駄目。駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目・・・まひろのような賢い娘には到底太刀打ちできぬ」と言い、そこで話を変えてしまった。

 そして「婿取りの話はこれまでといたそう」と、宣孝の息子の案にすがる為時を払うように退散していった。わかりやすい!これはもう、まひろに恋心が芽生えてしまったね。

 このふたりが夫婦になることは史実だから、ネタバレも何も無いだろうが・・・どうやってまひろがその気になるのか、その気にならざるを得ない環境が作られてしまうのか、ドラマの描き方が気になる。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#12 まひろの恋の果て。これが傑作「源氏物語」の肥やしになるんだ

道長との関係は、切ない結末を一旦迎えた😢

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第12回「思いの果て」が3/24に放送された。幼いまひろと三郎の関係から始まって、2人の関係はなんとも切ない終わりを迎えた。まあ、ここでめでたしめでたしを迎えると、後で余計ドロドロになっちゃいそうだし史実に添わせるにも無理が出る。

 公式サイトからあらすじを引用させていただく。

(12)思いの果て

初回放送日: 2024年3月24日

道長(柄本佑)の妾になることを断ったまひろ(吉高由里子)。為時(岸谷五朗)が官職に復帰する目途もなく、生計を立てるためにまひろの婿を探すことを宣孝(佐々木蔵之介)が提案する。その頃、まひろと決別した道長(柄本佑)はかねてから持ち上がっていた倫子(黒木華)との縁談を進めるよう兼家(段田安則)に話す。一方、姉の詮子(吉田羊)は、藤原家との因縁が深い明子(瀧内公美)と道長の縁談を進めようと図るが…

 前回までに何度か書いていた私の妄想は、あっけなく潰えたことが今回はっきりした。まひろが道長の子を若くして産み、その子(後の彰子)を倫子様が「源氏物語」の紫の上がそうしたように引き取って育て、入内させる・・・という話だ。

 いいと思ったんだけどな。でも、あざと過ぎますな。そんなことをしなくても、十分まひろと倫子様の関係はスリリングに展開していきそうだ。

 予告編では、以前まひろが書いて道長に贈った漢詩を目ざとく倫子様が見つけ、女の字であることに気づき、まひろに相談してまひろがすっとぼけていた。つまり、3~4年後のまひろは倫子様にお仕えしている感じ?

 先走りたくなるが、今12回の話に戻ろう。

 まひろと道長の別れは、庚申待の夜、例の廃邸にまひろを呼び出した道長が、左大臣家の一の姫・倫子に婿入りすると伝えたことで決定的になった。百舌彦が道長の文を持ってきた時、乙丸が寝ちゃってたなあ。眠ったらいけない夜のはずなのに。(をしへて! 佐多芳彦さん ~庚申待ってどんな行事? - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 道長の手紙を見て駆け出したまひろは、それまでに「北の方になるなら誰でもいいの?」「このままあの人を失ってもいいの?」と自問したり、宣孝によるまひろの婿取り活動を通じて「妾でもいい。あの人以外の妻にはなれない」と心を決めていたのに・・・。

道長:すまぬ。呼び立てて。

まひろ:いえ。私もお話したいことがあり、お会いしとうございました。

道長:(まひろの前に立ち)左大臣家の一の姫に婿入りすることとなった。(副音声:まひろの中の全てが止まる)お前にはそのことを伝えねばと思い、参った。

まひろ:・・・倫子様は、おおらかな素晴らしい姫様です。どうぞお幸せに。

道長:幸せとは思わぬ。されど、地位を得てまひろの望む世を作るべく精一杯努めようと、胸に誓っておる。

まひろ:(顔を引きつらせて)楽しみにしております。

道長:心の声「妾でもよいと言ってくれ!」)お前の話とは何だ?

まひろ:道長様と私は、やはり辿る道が違うのだと私は申し上げるつもりでした。私は私らしく、自分の生まれてきた意味を探して参ります。道長様も、どうぞお健やかに。(まひろを見つめる道長)では・・・(立ち去る。涙がこぼれるまひろ)

 道長、思い出せ。まひろは作り事を話すのが得意なんだと。「偽りを申すな!」と今こそ彼女に迫るべきだった。しかし、まひろもよく言ったなあ。虚ろな言葉を聞いて、道長も薄々まひろの本心に感付いただろうに・・・彼女を帰してしまうなんて、意気地なしだ。

 倫子はまひろには尊敬すべき心優しい姫。今回もサロンで「家では下女の代わりに床拭きをしている」というまひろの言葉を聞いて、床の木目を見てみようなどと高貴な姫がすることとは思えないことを言い出し、まひろのピンチを救った。その上で「まひろさんこそ、堂々としていてお見事でした」と褒めたのだった。素晴らしい姫だ。

 そんな倫子と道長の縁談を知ったら、まひろが恐れ多くて身を引くのも分かる。SNSを見ていると「なぜ道長が先に倫子に婿入りすると言っちゃったの、まひろが先に妾になると言っていれば~💦」といった、2人のボタンの掛け違いを惜しむ声が多かった。

 明らかに思い合っているのに別れるのは切ない。道長がレディーファーストでまひろの話を先に聞いていたら。駄々洩れの心の声が「妾でもいいと言ってくれ!」と叫んでいたものの、自分の望みはちゃんと声に出して言わなきゃ伝わらないし現実化できないよ。

 道長が先に言ったことについては、やはりね、道長は行成に書を習っていた時点で「甘えていたのは俺だ。心残りなど断ち切らねばならぬ」と強く己に言い聞かせていたからこそ、揺らぐ前に自分が先に言いたかったんだろうな。

 まひろに会った後、倫子の下へ直行したので「なんてヤロウだ」との反応も見たが、決してまひろと決裂してヤケになっての結果が左大臣家訪問じゃないんじゃないかなーと思う。

 つまり道長は、まひろに断りを言いたかったと彼自身も言っていた。もちろん、心の叫びで本心を言っていたように、まひろに妾になってもらえるとの承諾を得られたら、行動を変更してまひろと一夜を過ごすオプションもあっただろう。でも、基本的には、最初から倫子様の左大臣家に行くつもりだったのでは?

 まひろと道長は、ここで一旦お別れすることになったが、初恋=失恋の経験は強烈なインパクトを残し、紫式部となるまひろの中で醸成されていくはずだ。

 物語は、12回の民放ドラマだったら初恋編1クールが終了した段階。将来、傑作「源氏物語」につながると思うと、この続きの3クールもワクワクする。

小麻呂を愛する、ほのぼの左大臣家の人々が好き

 大嫌いな摂政兼家の息子・道長を、溺愛する一の姫・倫子の婿に迎えることになった左大臣・源雅信(益岡徹)。悲劇なんだけれど、彼の顔芸というか反応がとにかく面白い。

 倫子パパの中の人には、私は「御家人斬九郎」シリーズで強い奥さんにやり込められていた印象が強い。久しぶりにお目にかかり、今作も楽しませてもらっている。で、今回も兼家に迫られて四苦八苦していた。

藤原兼家:わざわざ御出ましいただき申し訳ない。どうぞ。(内裏、兼家の執務室直廬)

源雅信:(座につき、一礼する)摂政様。何用にござりましょうか。

兼家:実は、愚息道長のことでお願いがございまして。道長が左大臣家の姫君をお慕い申しておると申すのでございます。

回想の道長:道長にございます。

回想の兼家:入れ。

回想の道長:お願いがございます。

回想の兼家:何だ?

回想の道長:左大臣家に婿入りする話、お進めくださいませ。

兼家:息子の願い、何とかかなえてやりたいとも思い、左大臣様の御胸の内をお聞かせいただきたくお招きしたのでございます。

雅信:それは光栄にございますが・・・。

兼家:これから道長にも左大臣家の婿にふさわしい地位を与えてゆきますので、どうか道長にご厚情を賜りたくお願いいたします。

雅信:(ずっと視線を下げっぱなし)そのような過分なお言葉・・・。

兼家:道長にご承諾いただいたと伝えてよろしいですかな

雅信:(慌てて顔を上げて)ちょ、ちょっとお待ちくださいませ、娘の気持ちも聞いてみませんと。

兼家:どうかお力添えを賜りたくお願いいたします。

雅信:ああ・・・はあ・・・。

 雅信はお願いされている側のはずなのだが、兼家の押しが一方的に強い強い。オロオロと会話を終えるばかりだった。オロオロ感がほんとに面白いなあ。雅信は、娘の押しにも弱かった。

 兼家から「此者道長也 摂政」というあまりにも簡略な舐めた手紙を持たされた道長が、雅信の土御門邸に顔見せにやってきた後のこと。

雅信:(手紙を見て、溜息)なめておる。

倫子:父上。

雅信:いかがいたした。(漢字五文字の文をたたむ)

倫子:父上、私は・・・藤原道長様をお慕いしております。(雅信、コント張りに大口を開けて驚愕の表情)打毬の会でお見かけして以来、夫は道長様と決めておりました。

雅信:ま、待て待て・・・そなたは猫しか興味が無かったのではないのか?

倫子:そのようなこと、申したことはございませぬ!

雅信:(一瞬、くず折れそうになって)そ、そうなのか・・・。

倫子:道長様をずっと・・・ずっとお慕いしておりました。(雅信、はあ~はあ~と溜息)それゆえ、他の殿御の文は開かなかったのでございます。道長様をどうか、私の婿に。倫子の生涯一度のお願いでございます。

雅信:(かぶりを振って)摂政家でなければ良いのだがのう・・・(困り切った顔)。

倫子:叶わねば、私は生涯猫しか愛でませぬ。(雅信驚き、倫子は跪く)父上のお力で、どうか道長様を私の婿に・・・お願いでございます。(雅信、うめき声)

雅信:道長殿から文が来たことはあるのか?

倫子:いいえ。私が道長様のお目に留まっているかどうかも分かりませぬ。

雅信:留まったようではあるがのう。(倫子、顔を上げる)そのようなことを摂政様が仰せであった。

倫子:まことでございますか!?(父の袖を取り)どうか、お願いです。どうか、どうか、どうか・・・(伏して泣く)

雅信:ああ・・・よしよし、よしよし・・・(倫子の髪を撫でる)ああ、泣かんでも良いではないか。わしは不承知とは言っておらぬのだから。ああ、よしよし。

穆子:よかったわね、倫子。(小麻呂を抱いて登場)

雅信:何だ?お前・・・。

穆子:父上は今、不承知ではないと仰せになりましたよ。この話、進めていただきましょう。(喜んで母に抱きつく倫子)あなた、よろしくお願いいたしますね。(倫子、むせび泣く)

雅信:(ほとほと困ったという顔で)泣くほど好きでは、致し方ないのう・・・。(倫子、穆子に抱かれた小麻呂の手を大事そうに持って、さらに泣く)

 小麻呂かわいい!「猫だけ愛でて生きていく」との倫子の決意もわかる~・・・って、そっちの話じゃない。

 御簾越しに道長を見て「涼やかだこと」と陰で褒めていた妻の藤原穆子が参戦して倫子と共同戦線を張ったから、2対1で雅信の勝ち目はなかった。倫子様、押して押しての押し勝ち。上級貴族の姫らしい、堂々たる戦いぶりだ。

 やはり、穆子は藤原だから道長推しなのだろうか?摂政兼家に夫がどんな思いをさせられているかは、知らないのか。

 この倫子ママ、懸想文も寄こさず倫子を訪ねた道長を「えっ?文も寄こさず、なんてこと・・・」と驚きながらも「いいわ、入れておしまい」と驚きの決断をした。

 そして、倫子様も、一瞬躊躇したかに見えた道長を自分からタックル、またもや押しの一手で狙い通り仕留めた。この積極性は、ママからの遺伝という設定なのかな。納得。

 しかし、色々と端折られているにしても、紙燭を灯した女房に案内されてきた道長が、廊下から御簾で隔てられた倫子のいる部屋へと入ってきた時の姿は美しかったな~光源氏もかくや、まさにTHE平安貴族!という感じだった。大和和紀の「あさきゆめみし」をまた読み返したくなった。

 このあたり、今回は副音声の解説を聞いてみたら面白かったので、それも込みで書いてみたい。

女房:道長様がお見えでございます。どういたしましょう。

穆子:ええ?文も寄こさず、なんてこと・・・。

副音声:(土御門殿)

穆子:いいわ、入れておしまい。

副:(廊下に控える道長。御簾の降りた部屋に向かい、一礼する)

道長:道長でございます。無礼を承知で参りました。おそばに寄ってよろしゅうございますか?

副:(頭を下げる倫子)

道長:失礼します。

副:(御簾をめくり中に入る道長。うつむき目を閉じた倫子、気配に身を固くする。手を握られ、顔を上げる。目が合い、視線を逸らす道長。胸に飛び込む倫子)

倫子:道長様、お会いしとうございました。

副:(倫子を見る道長、抱きしめる)

 平安時代の恋愛の、出会いからの進展の速さに驚くが、副音声は、こんなにも雄弁に語ってくれていたんだね。状況を正確に知るためにも、たまには副音声ありの視聴も楽しい。

 今更ながら、道長役の柄本佑って平安貴族がはまる。「風林火山」で諏訪頼重の忘れ形見の僧(寅王丸だっけ?)を演じた時に、お人形さんみたいな顔立ちだと思ったのを思い出した。それが柄本明の息子と知って腰が抜けたのだった(失礼)。

 とにもかくにも、道長の婿入りは決定。左大臣家のほのぼのした人間らしい空気の中で、小麻呂もいるし、思惑とは違うだろうけど道長も一息つけるだろう。あの倫子様という人間だもの、絶対気に入ると思う。

青白い恨みの炎を燃やす源明子

 一方、道長の姉・詮子様が推す醍醐天皇の孫・源明子女王との結婚も、「お世話させていただいてよろしゅうございますか」の問いかけに明子がOKを出したので、道長とはそういうことになるらしい。御簾陰にいたはずの道長はサッサと逃げてしまっていたが。

 白い衣装のせいか体温が低そうな印象のある姫だが、今回登場してきた「一条朝の四納言」のひとりの兄・源俊賢(本田大輔)に、本心をぶちまけていた。

 「父上の無念を晴らします」と宣言した上で、摂政兼家の髪の毛1本でも手に入れば・・・と言うからには、兼家を呪い殺したいわけだ。彼女は体温が低いどころか、高音の青い炎がガスバーナーからボーッと勢いよく燃えていたようだ。

 彼らの父親は、今は亡き直秀😢の散楽一座が初回でも扱っていた「こうめい」源高明だ。光源氏のモデルとして知られ、藤原との政争「安和の変」に負けて左遷されたぐらいの認識なのだけれど、過去の詳細とかが今後ドラマでも描かれるのだろうか?とりあえず、公式サイトに説明があった。

為平親王は高明の娘を妃(きさき)にしていました。もしも為平親王が東宮となり、のちに皇位に即(つ)くことになれば、「摂関政治」の根幹である外戚の地位が藤原北家から高明に移ってしまうことになります。これを関白・藤原実頼(ふじわらのさねより)や師輔の嫡男である権大納言・藤原伊尹(ふじわらのこれただ)らが警戒し、守平親王を東宮としました。(君しるべ ~大宰府に左遷された明子の父・源高明 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 ・・・だとすると、当時関白だった実頼の子で、公任(町田啓太)の父・頼忠(橋爪淳)が関白の座にあった時には、明子は恨みを晴らそうとは思わなかったのだろうか?なんで伊尹の弟の兼家の方ばかりがターゲットに?現在政権の座にあるから?安和の変で兼家が活躍したとか?

 兄俊賢はすっかりサバサバしているのに、なぜ・・・後々何が明子の口から道長に対して語られるのか、興味深い。

 結婚を勧める道長姉の詮子様も、「源高明公を大宰府に追いやったのは藤原の仕業でしょう?」と言った。その事情を汲み、息子の一条天皇への災いを恐れての罪滅ぼしを明子との結婚を通じて道長にさせようという魂胆だ。

 弟の気持ちなどお構いなし、これこそベタな政略結婚だよな・・・本当に詮子様は兼家パパに似て策士だ。

 蛇足だが、明子の兄・俊賢の中の人は、見るたびに朝ドラ「スカーレット」で大島優子が演じた主人公の幼なじみの夫を思い出す。大島優子が「おスイカにおブドウ」を、気取って夫に供したシーンは未だに思い出すと吹き出す。妹の源明子に「怖いことはするな」と言ってたが、妹の呪詛を止められるか。

道綱、ホッとできる兄じゃんね

 兄と言えば、道長よりも11歳上で兼家の次男だという道綱が、寛和の変での剣璽を取り落としそうになったオットットの活躍(?)以来、今回もいい味を出している。道長もこの兄に限っては、家族内でも癒しを感じているだろう。

 道綱は兼家の妾である母(財前直見)を持つ。彼女の書いた「蜻蛉日記」は妾の悲しみがこれでもかと書かれている訳で、まひろも倫子様サロンで読み込んでいる。その彼ならでは、酒を酌み交わしながら妾の悲しみを道長に伝えた。

道綱:俺にも妾はいるし、それなりに大事にしているけれど、妾の側から見ると、まるで足りぬのだ。

道長:それは、お母上のお考えですか?

道綱:ああ、何も言わないけど、見ていたら分かる。嫡妻は一緒に暮らしているけど、妾はいつ来るかも分からない男を待ち続けているんだよな。男は精一杯かわいがってるつもりでも、妾は常につらいのだ。

回想のまひろ:妾になれってこと?

回想の道長:そうだ。

回想のまひろ:耐えられない、そんなの!

回想の道長:お前の気持ちは分かっておる。

回想のまひろ:分かってない!

回想の道長:ならば、どうすればいいのだ!

道長:(心の中で)ならば、どうすればいいのだ・・・。

道綱:聞いてる?

道長:聞いております。

道綱:何だよ、いつもシレっとしおってさあ!(道長の両頬をつかむ)

 彼の嫡妻って、道長の嫡妻になる倫子様の姉妹の「中の君」というらしいのだけれど、兄弟・姉妹同士で結婚するって相当仲良しじゃないか?倫子様の姉妹は、今のところ土御門邸には影も形も無い。源雅信の妾腹の娘なのか?出てこないかとお待ちしている。 

庚申待の夜、まひろ弟・惟規が大人に

 今回は、まひろの弟もクローズアップされていた。皆が起きて過ごす庚申待の夜に大学寮から戻り、今回からまひろと急激に仲良くなった「さわ」(父・為時の妾の娘、実父の下で育った)を交えて3人で仲良く酒を飲んでいた。

 3人とも20歳以下だろうけど、当時としては成年だから。まあ、どうでもいいか。

 惟規は以前、まひろのために三郎(道長)探しをしたことがあった。あの頃が既に懐かしい。彼は子どもの装束を着て、まひろはまだ三郎を庶民だと思っていた頃だった。でも、初回の子役時代(978年)はともかく、吉高由里子が登場してからまだ984~987年の数年間しか描いていない。だから、実は三郎探しもそんなに前の話じゃない。

 今回、百舌彦が持ってきた道長の手紙を惟規がまひろよりも先に読んでしまい、「姉上!道長とは誰?」「まさか、道長とは三郎のことなの?まだ三郎と付き合ってたの?」と、からかって手紙を取り上げてしまった時には、心痛極まる姉にそんな幼い態度は痛いなあ、まひろ可哀そうにと思った。

 しかし、道長と別れ、今にも泣きそうになって戻った姉をからかうことは、惟規はもうしなかった。

惟規:飲みなよ、こっち来て。

まひろ:酔ってしまうかも・・・。

惟規:どうぞ。(縁に腰を下ろしたまひろ)はい。(酒を差し出す惟規)

さわ:堪えずともようございますよ、まひろ様。

惟規:(さわに軽口)何を偉そうに。

まひろ:(口をつけ、ゴクゴク飲み干し下を向くが、涙がこぼれないように上を向く)

惟規:(横目で姉の様子を眺め、無言)

さわ:(黙ってまひろの様子を見ている)

まひろ:(涙の溢れる瞳で、空を見据える)

 惟規も、失恋の何たるかを味わったことがあったのだろうか。974年生まれだとすると987年当時は、え?まだ満13歳か~😅

 余談。惟規の生まれ年を確認しようとウィキペディア先生(藤原惟規 - Wikipedia)を見たら、この惟規役を、以前は段田安則(現兼家役)が演じたと知った。映画「千年の恋 ひかる源氏物語」でのこと。段田康則は今は兼家を演じているから、惟規だなんて想像もできない。

 そうそう、庚申待の夜と言えば、ドラマには出てこなかった道長姉の超子(藤原超子 - Wikipedia)は、982年の庚申待の明け方に、脇息に寄りかかったまま眠るように死んでいたとか。

 道長の母・時姫は980年に死んでいるから、ドラマの初回には超子はまだ生きていた。だから詮子の円融帝への入内の話が出た時には、先に入内した長女について、せめて言及があっても良かったはずなのだ。まあ、冷泉院に入内しているから東三条邸にはいなかったのだろうが。

 彼女の死後、兼家の一門では庚申待の催しをしなかったという逸話も残っているぐらいなのだから、庚申待を扱うなら超子を取り上げても良かったのにな。

 さて、次回から話は数年先に飛ぶようだ。今回、まひろの婿探し(実資とか・・・まひろは前回の「虫けら」に続き、「鼻くそ」扱いだった💦)に知恵を絞った宣孝が、予告では派手な衣装をまとっていたから例の話かな?

 高畑充希の定子様も、成長してとうとう出てくる。かなり楽しみだ。

(敬称略)

【光る君へ】#11 まだ子どもだったまひろ💦現実離れの頭でっかち故に道長のプロポーズを潰す

現実を知る道長、頭でっかちなまひろと伊周

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第11回「まどう心」が3/17に放送された。エンディングで破局したまひろはあの恐ろしき廃邸にひとり残されすすり泣いたが、もうね、こちらも急転直下の破局にアララ・・・だった。

 先に行く前に、あらすじを公式サイトから引用させていただく。

(11)まどう心

初回放送日: 2024年3月17日

兼家(段田安則)の計画により花山天皇(本郷奏多)が退位し、為時(岸谷五朗)は再び官職を失うこととなった。まひろ(吉高由里子)は左大臣家の娘・倫子(黒木華)に父が復職できるよう口添えを頼むが、摂政となった兼家の決定を覆すことはできないと断られる。諦めきれないまひろは兼家に直訴するが…。一方、東三条殿では道隆(井浦新)の嫡男・伊周(三浦翔平)らも招いて宴が催され、栄華を極めようとしていた。((11)まどう心 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 今回の残り数分。BGMのギターがカッコ良くかき鳴らされる中、廃邸で待つ道長に、駆け寄る笑顔のまひろ。乙丸に「若君、もういいかげんにしてくださいませ」と、まひろを垣間見に行った道長が怒られながらも(乙丸カッコイイ~言う時は言うね)、恋してる2人がようやく会えたシーンの幕開けだ。

 2人は無言で抱き合い、口づけを交わす。

道長:妻になってくれ。遠くの国には行かず都にいて、政の頂を目指す。まひろの望む世を目指す。だから、傍にいてくれ。2人で生きていくために俺が考えたことだ。

まひろ:それは、私を北の方にしてくれるってこと?・・・妾になれってこと?

道長:そうだ。北の方は無理だ。されど、俺の心の中ではお前が一番だ。まひろも心を決めてくれ。

まひろ:心の中で一番でも、いつかは北の方が・・・😢

道長:それでも、まひろが一番だ。(抱きしめる)

まひろ:(振り払って)耐えられない、そんなの!

道長:お前の気持ちは分かっておる。

まひろ:分かってない!

道長:ならば、どうしろというのだ!(一瞬怒鳴った後、穏やかに)どうすれば、お前は納得するのだ。言ってみろ。

まひろ:(怯えたように声を失っている)

道長:・・・遠くの国に行くのは嫌だ。偉くなって世を変えろ。北の方でなければ嫌だ。勝手なことばかり・・・勝手なことばかり言うな。(まひろを置いて、去る)

 もちろん、現代では「お前が心の中で一番、だけど妾になって」等と言う価値観の男は早々に「バカにするな!」と切って正解。それに、怒鳴る男も最低だ。男に怒鳴られたら、非力な女は怖さが発動して固まるだけだろう。

 だけれど世は平安。偉くなる男ほどたくさんの妻妾を持ち、それにも耐えて他の妻妾を気遣うのが、できた上級貴族の北の方なのだろう。

 まひろの母「ちやは」は、北の方だった。父は妾の下にも通ったが、基本的にまひろは両親の仲睦まじい姿を見て育ったから・・・。でも、それは下級貴族だから出来たこと。身分高い男を相手にそれを望むのは酷だよね、ましてや更に偉くなることを望むのだったら、彼には経済的にも身分的にも強い北の方が必要だ。

 物語上、まひろはまだ成長途上の16~17歳の頃。夢見る女子でも仕方ない。無残に死んだ直秀のためにも自分ができない「世を正す」立場に道長を押し上げようと、遠くの国には一緒に逃げないし、全て理解して込み込みで道長に別れを告げ「死ぬまで見つめ続ける」と前回は言ったのかと思い、ブログでもそう書いた。

 が、ぜーんぜんそこまでの大人じゃなかった😞紫式部への道は、まだ遠かった。

 まひろの頭の中では、学問にすこぶる励むことで出世もできるし、世も正せる、という程度の理解だ。現実はそうじゃなく、あの手この手、汚い偽りを繰り出しても帝を引きずり降ろしてトップに立つのだと、道長は知っている。

 その場合、結婚は政治の一部だ。打毬の後で着替えながら公任&斉信が述べていた通り、貴族の女は身分が全て。妻の財力政治力が無ければ男もトップには居られないのだ。好きな女は妾にするものと言っていた。

 まひろ、あの時は何を聞いていたのか・・・道長と自分の世界を阻む身分差を受け入れたくなくて、ボーイズの言うくだらない貴族の現実から目を逸らせていただけかな。その点も、道長様と私が正すべき、と考えていたのか。

 人は一面的でもなく、あの反応は年相応なんだから、まひろが現実離れしていると責められたもんじゃない。けれど、書物の理想しか知らないまひろじゃ、道長と思いがすれ違い、気に入らないプロポーズを粉砕しても仕方なかった。

 道長は、自らの落ち度によって直秀を失って自責の沼に落ち、政治の世界でトップに立つという熾烈な現実に揉まれ育ち、一家挙げての息詰まる政権乗っ取りの謀に直面したばかりだ。

 何と、即位式で使われる高御座に据えられていた、嫌がらせと見られる子どもの生首まで平然と始末し、自分の袍で拭って「穢れなど無い」と言い切った。まるで兼家パパみたいになってきたじゃないか。蛙の子は蛙か。

 急速に大人にならざるを得なかった道長とまひろのギャップは開くばかりだ。

 そうそう、大人と言えば、道長の長兄・道隆の嫡男・伊周が、いつの間にか大人びて出てきた。ママ高階貴子に「大人のお話に口を挟むものではありませぬ」と窘められても、演じる三浦翔平は見るからに立派な大人。「は?」となってしまったが、12歳前後の設定らしい。

 彼はいきなり「晴明殿。父は笑裏蔵刀。顔は笑っておりながらも刃を隠し持っておりますぞ。お気を付けなさいませ」と安倍晴明に威嚇的に言った。たぶん母方仕込みの漢文だろうが、晴明は心中で苦笑(きっと)。

 いつも晴明は意味ありげに相手の顔を見ているが(顔相を見ているのだろう)、印象は以前晴明に父の非礼を詫びていた道長の方が断然良いだろうね。

 頭でっかちで無鉄砲という点で、伊周はまひろと共通するキャラだ。先行きを考えると、三浦翔平の整った顔なんだけど既に小憎らしい。ドラマではどう造形されるのだろうか。隣に座る定子の子役ちゃんが、大人の定子を演じる高畑充希にそっくりで、NHKの子役発掘力がまた発揮されていた。

政治が分かり、花も実もある倫子様

 さて、まひろなんだが。賢い賢い言われても、現実には通用しない点では父為時そのまま、こちらも蛙の子は蛙だ。ただ、紫式部になるんだし、こういった経験が執筆の肥やしになっていくんだね。

 貴族社会の何たるかの一端をまひろに率直に教えてくれた人が今回2人はいたが、彼女は理解できないままに終盤で道長と向き合い、別れることになった。2人とは倫子と兼家だ。

 花山帝の突然の退位によって官職を失って散位になった父の、打ちしおれた姿を受け、まひろはまず左大臣家の姫である倫子に会いに行き相談した。左大臣の力で官職を得ようとしたのだ。

倫子:まひろさん、どうなさったの?

まひろ:突然お伺いして申し訳ございません。

倫子:私は暇ですからよろしいんですけど。

まひろ:今日はお願いがあって参りました。実はこの度のご退位により式部丞の蔵人であった父が、官も職も失ってしまいました。

倫子:まあ・・・。

まひろ:父は裏表のない真面目な人柄で、学者としても右に出る者がいない程の学識がございます。必ずや新しい帝のお役にも立てると思いますので、何とか左大臣様に・・・。

倫子:(かぶりぎみに)それは難しいわ。だってそれ、摂政様がお決めになったことでしょう?

まひろ:はい、ですから左大臣様に・・・。

倫子:摂政様のご決断は、すなわち帝のご決断。左大臣とて覆すことはできません。(言葉を失うまひろ)ごめんなさいね、お力になれなくて。

まひろ:では、摂政様に直接お目にかかって・・・。

倫子:(ビシッと)おやめなさい。摂政様はあなたがお会いできるような方ではありません。

 ここまで物事をハッキリ言ってくれる倫子様。なんと優しい。書物は読まないと言いながら、政治的な物事の動きはちゃんと頭に入っている。それをもったいつけず、まひろに教えてくれたのだ。

 カッコいいなあ、倫子様。花も実もある誠実な大人だと思う。おっとりと、でも姉御肌というか。

 それなのに、人の言語を理解できないとしか思えないまひろ。必死なんだろうが、ある意味倫子様の言葉を軽んじる行動に出た。なんと、おやめなさいと言われたのに、摂政兼家に直談判に及んだのだ。

 優しく、けれどしっかり本質を言ってくれる言葉を軽んじる人ってどうなのかな・・・心の中で「そうは言っても」と自分を譲らない。相手が怒鳴るとか、叫ぶとかしないと耳を貸さないのだろうか。必死過ぎてか。

 そんなまひろが、倫子様から見て「何か、嫌」とならないか心配だ。

 後半の、倫子様とまひろの女子トークは恐ろしかった。互いの想い人が同一人物だと知らずに会話をしている2人には震えあがったが・・・こんなに政治力のある人を敵に回しちゃいけないよ、まひろ。

 やっぱり、まひろが「源氏物語」の明石の上のように道長の子を産み、それを身分高い紫の上の立場の倫子様が育て、入内させるという妄想が捨てきれない。道長のために協力し合い、彰子の入内プロジェクトを成し遂げる2人が見てみたい。倫子様、道長に頼まれたら断れなそうだから。

夢の中を、ホップ、ステップ、砕け散るまひろ

 倫子様の次にまひろが会いに行ったのが、前述のように摂政兼家。まひろは止まらない。

藤原兼家:為時の娘?

家人の平惟仲:ええ。お目にかかれるまで帰らぬ(!)と申し、裏門に居座っておりますが、やはり追い返しましょうか。

まひろ:(面会のために案内される。「ここがあの人の家」と心中で息を飲む。座って待っていると、兼家がやってくるので深々と礼)

兼家:面を上げよ。賢いと評判の高い為時の娘とはそなたのことか。

まひろ:お目にかかれて恐悦至極に存じます。(頭を下げる)

兼家:わしに何の用だ?

まひろ:父のことでお願いに上がりました。摂政様の御為に、父は長年お尽くし申して参りました。不器用で至らぬところもあったやも知れませぬが、不得手な間者も精一杯務めておりました。何故、何もかも取り上げられねばならぬのでございましょうか。どうか父に官職をお与えくださいませ。どうか、どうかお願い申し上げ奉ります。(頭を下げる)

兼家:(立ち上がり、まひろを見下ろす)その方は、誤解しておるのう。(顔を上げたまひろの顔まで腰をかがめて)わしの下を去ったのは、そなたの父の方であるぞ。

まひろ:存じております。摂政様が「長い間、ご苦労であった」と仰せくださったと・・・。

兼家:(強く)そこまで分かっておって、どの面下げてここに参った。そなたの父はわしの命は聞けぬとはっきり申した。わしは去りたいと申す者を止めはせぬ。されど、一たび背いた者に情けを懸けることもせぬ。わしの目の黒いうちにそなたの父が官職を得ることは無い。下がれ。

まひろ:(呆然と、涙目で兼家を見上げる)

 「兼家様はわしをお許しにはなるまい。この先の除目に望みは持てぬ」と為時パパは息子惟規に言っていた。当初は「兼家様が長い間ご苦労と言ってくれた」などと、かなりおめでたいパパ・・・💦と思っていたが、佐々木蔵之介演じる宣孝が「今すぐ東三条院に謝りに行け」と慌てふためき、召人のいとが泣くほど常識外れを自分がやっていると、実は分かっていたのだね。

 その時に、まひろは「父上はご立派でございます」と言ってしまったと思う。見ていて、ああ、そんなこと言っちゃったらダメだよ!と世俗にまみれたコチラは思った。娘の理想で縛られているパパに、上塗りするような事を言ってさらに縛るほど、まひろは事の大きさが理解できていなかった。

 道長がまひろを妾にしたくても、今回の兼家への押しかけ談判がアダになりそう。絶対に兼家には会わせられないだろうな。しかし、妾なら親に会わせ許可をもらう必要も無いか・・・。

 まひろは今も、直談判の何がいけないの?と思ってそうだ。若さゆえの無鉄砲な行動力が眩しく見えてしまう宣孝が、かなり彼女を褒めちゃうからな・・・さすが将来の夫。

藤原宣孝:摂政様に会いに行ったのか。お前、すごいな。

まひろ:すげなく追い返されました。

宣孝:会えただけでも途方も無いことであるぞ。ひとこと慰めを言うぐらいのつもりで来たわしに比べて、お前は真に肝が据わっておるのう。摂政様に直談判するとは・・・。

 今回、賢いと音に聞く娘はどんなもんかとの興味から引見しただけだったろう摂政兼家に、まひろは当たって砕けて、現実をご丁寧に教えてもらった。陰で「虫けら」とまひろを呼びつつ、なんとお優しい(皮肉)。

 もちろんドラマ的には面白いから、まひろの無鉄砲は悪くない。ただ、会えるまで帰らないと言い張るなど、まひろもまひろで強引なハラスメント気質見え隠れでハラハラする、単に子どもなのかもしれないが。

 だけど一応、突破力があってさすが将来の紫式部だと書いておく。隠れていたい凡人の目線で見ると空恐ろしいばかりだが、表に自ずと出る大物は違うのだな。

妾は嫌だのこだわりはどこから

 先ほどの宣孝との会話の続きで、まひろの婿取りの話が出てきた。まひろの北の方へのこだわりが見える。

まひろ:私に何かできればと思いましたが・・・下女たちにも暇を出して、私もどこかで働こうかと。

宣孝:婿を取れ。有望な婿がおれば何の心配もない。

まひろ:このような有様の家に、婿入りする御人なぞおりますでしょうか?

宣孝:北の方に拘らなければ、いくらでもおろう。(まひろ、途端に気まずそうに目線を外す)ほほう・・・そなたは博識であるし、話も面白い。器量も・・・そう悪くない。誰でも喜んで妻にするであろう。婿がおれば、下女に暇を出すこともないし、働きに出ずともよい。為時殿は好きな書物でも読んで暮らせばよい。誰か心当たりはおらぬのか?

まひろ:妾の話が出てからずっと不機嫌そう)おりませぬ。それに私は妾になるのは・・・

宣孝:わしにも幾人かの妾がおるし、身分の低い者もおるが、どのおなごも満遍なく慈しんでおる。文句を言う者なぞおらぬぞ。男はそのくらいの度量は皆、あるものだ。(呆れたような顔をして宣孝を見ているまひろ)もっと男を信じろ、まひろ。身分の高い男より、富のある男が良いな。若くてわしのような男はおらぬかのう・・・ハハハハ(まひろ、一緒になって笑ってしまう)探してみるゆえ、心配するな。(まひろ、イヤイヤとかぶりを振る)為時殿には会えなんだが、まひろと良い話ができた。では帰るぞ。

 この会話が、道長との喜びの再会からスピーディに破局に至った際に思い出された。2人は離れていても思い合い、互いに逢瀬を思い浮かべるほどだったのに、まひろは道長の妾になってほしいとの要望に「そんなの耐えられない!」と反発し、道長が考える2人が寄り添って生きる未来を砕いた。

 そもそもが現代の視聴者(女子)に寄り添ったキャラ設定なのだと思うが、まひろが妾を毛嫌いする理由には、道長の兼家パパの妾である道綱の母(財前直見)の手による「蜻蛉日記」を左大臣家のサロンで倫子様たちと読み、学んでいるのもあるだろう。

 赤染衛門先生が「言葉の裏に込められた思いを感じ取れるようになると、良い歌が詠めるようになります」という点では、まひろはまだまだ。話の行間が読めて良い歌詠みになるのはこれからだろうが、妾の恨みつらみだけは、蜻蛉日記によってずっしり受け止めてきたはずだ。

 プラスして、一家の使用人ながら「いと」という身近な存在が、このところ為時の妾以下の召人の立場で苦しんでいる。まひろも男女関係について深く考えさせられているだろう。

 今回も「父上は?」とまひろに為時の所在を聞かれて「殿さまは高倉に」と、引きつった顔で妾の下に(介抱に)出かけていることを、いとが告げていた。(いとは為時が瀕死の妾の介抱に行っていることは知らされていないか?前回の高倉探索の後、まひろに様子を聞こうとしたのに、タイミング悪く道長から手紙が来ちゃってたから。)

 いとは前回も、まひろの琵琶に涙しながら繕い物をしたりしていた。惟規が婿入りしても姫様のそばに置いてくれとまひろに懇願した時、惟規についていけば良いと返されたら、多少元気を取り戻して「殿さまは高倉にくれてやります」と言っていた。

 まあまあ、なぜ妾が嫌なのか色々あるのだろうけれども、これから後出しで出てくる決定的理由もあるかもしれない。

 しかし思うに、何よりもまひろは道長が大好きで、他の人とシェアするなどとんでもなく、彼を独占して2人の世界を生きていきたいのだろうな。意地悪な見方かもしれないが、支配欲は強そうだ。ナンバーワンでありたいのかも。

 そんなまひろが分不相応にも北の方を望み、皮肉にも道長と別れることになった。何もかもを望み過ぎると、こうなる。ほどほどを知るんだろうか。

北斗七星の意味

 今回は、番組の最後の「光る君へ紀行」でユースケ・サンタマリア演じる安倍晴明が取り上げられていた。

 紫式部や道長の時代に、朝廷に置かれた役所の1つ、陰陽寮に所属したこと、朝廷や貴族たちの相談役として人々の信望を得ていたこと、千年の時を越えて今尚人々の心を魅了し続けていること等がナレーションで語られたのだったが、見事に「占い」とか「呪術」とは言わない。なぜ?

 晴明が人々の信望を得るにしても「占いで」だったのに、NHK的にNGなのかな、あまりに迷信的じゃないかと言われるのを恐れて。

 ちなみにテロップや映像では、道長の「御堂関白記」での晴明に関する記述の他、晴明が子孫に残したと伝わる占術の書「占事略决」の「占病祟」といった字が大写しになっていた。

 確か、安倍晴明ら陰陽師が呪詛を解くための、北斗七星の形に歩みを進める呪術的な足づかいがあるというのを、磯田道史の「英雄たちの選択」という番組で見た気がする。(「陰陽師・安倍晴明 平安京のヒーローはこうして誕生した」 - 英雄たちの選択 - NHK

 明治になって、大久保利通や西郷隆盛が明治天皇を表に引っ張り出したい時に、厄除け(?)のために、いちいち北斗七星の形に天皇を歩ませようとする陰陽師がいたら邪魔だったろうと、磯田は言っていたと思う。想像するとおかしかった。

 それぐらい、陰陽道では大切に扱われている北斗七星。それが、今回は目についた。

 まず、即位する幼い帝の衣装の背中に北斗七星の刺繍が。幼帝は例の、嫌がらせの生首が置いてあった高御座に座った訳で、当時の死穢思想からいったら・・・それを跳ね返し幼帝を守る意図の北斗七星だったか。(私は生首よりも、帝の後ろに立っている介添え?の黒い袍の公卿の方が、絵面的に怖かったけど・・・。)

 また、兼家らの策略によって退位させられた花山帝が、新帝即位のタイミングで呪詛の真言を唱えていたものの、数珠が切れて呪詛はならなかった。その時に、散らばった数珠が北斗七星の形に並んだのも、陰陽師の力によって呪いは妨げられたと示していたのかな。

 そして、兼家と道長が生首の件を話し、道長の判断を兼家が褒めた夜の空を飾るのも、北斗七星だった。安倍晴明に守られ、即位式を一通り終えたということを示しているように見えた。

 そもそもが、兼家は晴明の策を買って花山帝退位⇒一条帝即位⇒兼家摂政を成し遂げた。それを忘れちゃいけなかったね。

兼家に噛みつく道兼

 花山帝を退位に追い込んだ功労者だと自負のある道兼が、道隆一家と宴を楽しんでいた兼家に噛みつき、報いることを忘れてはいないと言いくるめられていた。道兼の娘も一条帝に入内させると兼家は約束していたが、確かに道隆の定子に次いで、道兼の娘も入内していた。(藤原尊子 (藤原道兼女) - Wikipedia

 しかし、彼女が入内したのは、兼家(990年没)も道兼(995年没)も亡くなってからの998年、数え15歳だそうだ。母は一条帝の乳母だそう。道兼の娘は、兼家の存命中はまだ幼く、約束は果たせなかったか。それに、あの兼家ならなんだかんだと理由を付けそうだ。道兼本人も、娘をなかなか入内させられなかったようだ。あまりに幼くてもね。兼家がわざわざ言及したところを見ると、そこら辺も後にエピソードになるか。

 兼家はドラマではどんな死に方をするのだろう。陰陽師に守られて、安らかな死なのか、それとも・・・。道長は、心優しき三郎を完全に脱し、頂に上ると心に決めたせいか父の片鱗を見せるようになった。道長の今後の変貌が心配になっている。

(敬称略)

 

【光る君へ】#10 陰謀進みメンタル限界の道長、まひろに使命諭され別れ(?)の逢瀬

えっと、夜8時のNHKでしたよね?

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第10回「月夜の陰謀」が3/10放送された。脚本家が「平安のセックス&バイオレンス」を宣言していたんだから、主役カップルがプラトニックのままな訳はなかった。

 が、やはりNHKの夜8時だから、ちょっと驚いた。例えば小学生の大河ファンがいるご家庭では、お子様方のお目目を塞いだりしたんだろうか?

 大河ドラマや朝ドラの女子の主役というと、物凄く恋愛関係に疎いとか鈍感であるように描かれることが多い印象がある。または、恋愛が成就して両想いになっても「なんでそうなるの」というくらい2人が会えなかったり。王道は、時間がワープして、いつの間にかママになっているパターンだろうか。

 でもこのドラマは脚本が大石静だから。朝ドラ「ふたりっこ」でさえ、ヒロインの片方がベッドシーンに至って話題になっていたんだし、今作でも、果敢に突き進んでも不思議ではなかった。

 これまでの大河ドラマでもそれなりにラブシーンはあったしね。昨年の大河ドラマ「どうする家康」の「側室をどうする」の回では、夜伽がコミカルに描かれていた。一昨年の「鎌倉殿の13人」では、ガッキーの「おかえりなさい」に皆でキュンとして「良かったね、義時」となったんだったよなあ。

 今年のまひろと道長の関係は、結ばれて良かったねと単純には言い難いほろ苦さがある。美しいとしか言いようのない月夜の逢瀬だったものの、オープニングテーマの一度は繋がれた指が離れてしまう映像が示唆するところを気にすれば、これっきりなのかもしれない。

直秀がいない廃邸は怖い

 本題に入る前に、あらすじを公式サイトから確認しておこう。

(10)月夜の陰謀

初回放送日: 2024年3月10日

兼家(段田安則)は道長(柄本佑)たち一族を巻き込んで、秘密裏に花山天皇(本郷奏多)を退位させ、孫の懐仁親王(高木波瑠)を擁立する計画を進め始める。その頃まひろ(吉高由里子)は、家に帰ってこない為時(岸谷五朗)を案じ、妾の家を訪ねてみる。そこには身寄りもなく最期を迎えようとしている妾の看病をする為時の姿があった。帰宅したまひろのもとに道長からの恋文が届く。まひろは道長への文をしたため始めるが…

 気になってしまったのは、2人が会ったのが、以前直秀が案内してくれた廃れた邸跡だったということ。まひろがフラフラ出歩くのが貴族の姫としてまず有り得ないところ、しかも夜中で徒歩だよ?

 前は、直秀という頼りになる人物が陰から守ってくれていた。だからセキュリティ対策はOKだったが、彼が居ないとなれば、治安の悪い当時、姫が夜中に廃れた邸に赴くなんか不可能なんじゃ・・・。

 どこかに乙丸が隠れているのか?それでも頼りないなあ。

 前回のブログで、弟は大学寮に入り、父為時は妾の看病のためにそちらに行きっぱなしになることで、まひろの周りが仕える人々を除くと何となく人払いされているようだと書いた。まひろの自由度が増し、恋愛をするには好都合だと思い、当然、道長がまひろの下へとやってくるのだと思った。

 まひろは、妾に関する父為時の振る舞いで傷ついていた「いと」に優しく接していたから、彼女を味方に引き入れることができそうだし、だとしたら、自邸で道長と普通に会えそうだった。(ところで今回、いとは弟惟規の乳母だけではない存在だったことがはっきりした。)

 廃れた邸なんて、「源氏物語」でも光源氏に連れていかれた夕顔が命を落としたじゃないか。ドラマの廃邸は六条にある設定だったと思うが、夕顔が襲われたのは六条御息所の生霊だ。

 物の怪だけでなく、住居に困った盗賊やら誰が住み着いているかわからない。掃除もされてなければ、夏なら虫だらけ。そこで貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが夜中に会うなんて、無茶だよなあ😅若いなあ。

道長は謀略により追い込まれ、逃げ出したくなっていた

 さて、文句はこれくらいにして・・・前9回のブログでこう書いた。

直秀を欠いたからこそ、道長とまひろの間に離れがたい絆ができるのだと思う。こんな経験をしたんだから、幼なじみのような関係から本当の恋人同士へと一気に関係が変質するような気もする。直秀は、キューピッドの役目を終えたのだ

 直秀を死なせたことで、トライアングルの一角が欠けて残った2人が恋人同士として急速に近づくことになったのかなと前回を見た段階では思ったが、今回を見ると、どうも直接的にはそういうことではなかったようだ。

 一番の理由は、道長の父・兼家が強引に進めている謀略によって「俺もう無理」状態に道長のメンタルが追い込まれてしまったことらしい。そこで、何もかも嫌になって逃げ出したい道長は、まひろに縋りついたか。

 前9回は、まひろと父・為時が桜の花びらがこぼれ散る中、惟規を大学寮へと送り出したところで「つづく」となった。桜の花びらがハラハラとそんなに多くなく散っていたのだ。つまり、直秀らを葬ったのは986年(寛和2年)春か、その前だ。

 今10回の冒頭では、ユースケ・サンタマリアの安倍晴明が「23日は、歳星(木星)が28宿の氐宿を犯す日」だと説明し、「12年に1度の犯か」と兼家パパも受けた。当時当たり前の知識なのか。

 晴明は6月23日丑の刻(午前1~3時)のクーデター実行を兼家パパに進言したのだったが、パパは「すぐではないか!支度が間に合わぬ」と言っていた。旧暦だから6月は現在の7月?つまり、桜が散っていた第9回から数か月経過した初夏の話が第10回なのだろう。

 道長がまひろに手紙を送り始めたのは、この謀略が進み始めて以降。単に直秀を失ったことでまひろとの関係が進展したのなら、手紙を送り始めるのを数か月待つ必要などなかった。

 だから、手紙を受け取ったまひろは「(直秀の埋葬を思い浮かべ)あの人の心は、まだそこに」と言ったのだね。大切な友人が死んで、悲しみ、自責の念に襲われ悩んでいたとして、数か月じゃ「まだ」って言うほどの日は経っていないのではないかと引っかかりはするものの・・・まひろは頭の回転が速い。

 道長は、直秀を葬ることになってしまった己が罪による心の傷が癒えないうちに、貴族である自分の一族が恐れ多くも帝に対して冒そうとしている政変に直面し、どうしようもなく、いたたまれなくなったのだろう。

 家庭内では、

  • 得意がる道兼(でも父には道綱と共に便利使いされているだけだが)がうるさい兄弟間での駆け引きもあるし、
  • 父は陰で道長には「事をしくじった折には、お前は何も知らなかったことにして家を守れ」「父に呼ばれたが、一切存ぜぬ、我が身とは関わりなきことと言い張れ」と更なる謀を命じるし、
  • 仲の良いはずの姉・詮子様は自分の息子のために道長の結婚相手を2人も決めてしまうし(ところで源明子女王、演じるのは男女逆転「大奥」の阿部正弘の中の人かー。美しかったね)。

 道長は自分の意志とは関係なく、がんじがらめの駒。まともな心ある母・時姫を失ってから、まるで心許せる家庭環境じゃないのはよくわかる。ここまでよく耐えてきた。

古今和歌集をパクって送る道長、コピペはイケマセン

 女性に和歌を送るのが当時の恋愛上のルールだったとして、送るにしても自作ではないのか?まひろが「好きな人がいるなら歌を作ってあげるわ」と昔、道長に代作を申し出ていたのだから、このドラマの中でも自作の和歌を恋人には送るもの、という常識があったのだと思う。

 でも、道長君は古今和歌集からパクってまひろに送るのだ。余程自信が無いのか・・・まひろも「なんで」と言ってたが、恋路とはいえ剽窃はダメだよ、当たり前でしょう。

 まあ、まひろみたいな相手に自作の和歌を送るのは嫌だよねえ、添削して返されそう(全視聴者に添削されるのも😅)。それに、古今和歌集の和歌なら、どこかで聞いたことがあるし、後からでも調べられるから見ている側にはありがたいかな。その前に、ドラマで口語訳されていたが。

 道長の古今和歌集と、まひろからの陶淵明の漢詩とのやり取り(口語)を並べると、こうだった。

道長:そなたを恋しいと思う気持ちを隠そうとしたが、俺にはできない。

まひろ:これまで心を体のしもべとしていたのだから、どうして一人くよくよ嘆き悲しむことがあろうか。

道長:そなたが恋しくて死にそうな俺の命。そなたが少しでも会おうと言ってくれたら生き返るかもしれない。

まひろ:過ぎ去ったことは悔やんでも仕方がないけれど、これから先のことは如何様にもなる。

道長:命とは儚い露のようなものだ。そなたに会うことができるなら命なんて少しも惜しくはない。

まひろ:道に迷っていたとしてもそれほど遠くまで来てはいない。今が正しくて、昨日までの自分が間違っていたと気づいたのだから。

 このやり取りじゃあ大変だ。道長は「会いたい、会いたい、会いたい」と分かりやすくズバリと伝えてきているのが分かるが、まひろとは永遠にすれ違うのか💦追い込まれている道長に、まひろの返事の仕方は厳しい。

 ここで道長が行成にアドバイスを求めたところ、「道長様には好きなおなごがおいでなのですね」と、ちょっとしょんぼりした行成だったが(やっぱりね・・・)、こう言った。

行成:そもそも和歌は、人の心を見るもの聞くものに託して言葉で表しています。翻って漢詩は、志を言葉に表しております。つまり、漢詩を送るということは、送り手は何らかの志を詩に託しているのではないでしょうか。

 それで「少しわかった」と言った道長が、次にまひろに送ったのが漢文「我もまた君と相まみえぬと欲す」だったのが笑えた。これって陶淵明の続きなのか?そうじゃなさそう。ストレートな「志」ではあるよね・・・とにかく会いたいと。

 まひろもこれで、まどろっこしく漢詩を送っててもダメか、直接会って伝えようと観念したかな。

まひろの思いは

 前回「遠くの国」の終わりで、まひろは父とこんな会話をした。

為時:お前が男であったらと、今も思うた。

まひろ:私もこの頃そう思います。男であったなら、勉学にすこぶる励んで内裏に上がり、世を正します

 その後、「言い過ぎました」と父と笑ったまひろだが、「世を正します」を言わせたのは直秀の死だ。

 自分が男であったならという思いは、男で上級貴族である道長に対しては、「直秀のために」その立場を生かして世を正してほしい、となっていくのだね。正に、自分ができないことができる羨ましい立場に道長は生まれたのだから。男女差もそうだけど、身分制度の厳しい時代には殊にそうだろう。

 また、まひろは「直秀のために」と思って立ち向かうことは、道長の深い後悔の念をも救うことになると思っているのだろうな。実は道長が心を痛めているのはそれだけじゃなくて、家族の命運が懸かる大掛かりな陰謀が切迫している訳だけど、もちろん彼女はそんな事までは知らない。

 でも、道長はまるでマフィアの家に生まれちゃったみたいなものだよね。そうそう人に言えない陰謀なんか抱えちゃって。たまらんな。

 それで、出会っていきなりのキス!となったのはドラマチックだったけれど、まひろの気持ちとしてどうなんだ?とちょっと驚いた。彼女の方も、そこまで道長への気持ちが醸成されていたとは・・・甘く見ていた。

 そのあたりを説明してくれた2人の会話はこうだった。

道長:一緒に都を出よう。海の見える遠くの国へ行こう。俺たちが寄り添って生きるにはそれしかない。

まひろ:どうしたの?

道:もっと早く決心するべきだった。許せ。

ま:そんな・・・。

道:藤原を捨てる。お前の母の仇である男の弟であることを止める。右大臣の息子であることも、東宮様の叔父であることも止める。だから一緒に来てくれ。

ま:道長様・・・うれしゅうございます。

道:まひろ!(抱きしめる)

ま:うれしいけど・・・どうしていいか分からない。

道:分からない?父や弟に別れを告げたいのか?そのために家に帰れば、まひろはあれこれ考えすぎて、きっと俺とは一緒に来ない。だからこのまま行こう。お前も同じ思いであろう?心を決めてくれ。まひろも、父と弟を捨ててくれ。

ま:大臣や摂政や関白になる道を、本当に捨てるの?

道:捨てる。まひろと生きてゆく事、それ以外に望みは無い。

ま:でも、あなたが偉くならなければ、直秀のような無残な死に方をする人はなくならないわ鳥辺野で、泥塗れで泣いている姿を見て、以前にも増して道長様のこと好きになった。前よりずっとずっとずっとずっと好きになった。だから帰り道、私もこのまま遠くに行こうと言いそうになった。でも言えなかった。なぜ言えなかったのか、あの時はよくわからなった。でも、後で気づいたわ。2人で都を出ても、世の中は変わらないから。道長様は偉い人になって、直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような、よりよき政をする使命があるのよ。それ、道長様も本当はどこかで気づいてるでしょう?

道:俺はまひろに会うために生まれてきたんだ。それが分かったから今、ここにいるんだ!

ま:この国を変えるために道長様は高貴な家に生まれてきた。私とひっそり幸せになる為じゃないわ。

道:俺の願いを断るのか。

ま:道長様が好きです。とても好きです。でも、あなたの使命は違う場所にあると思います。

道:偽りを言うな。まひろは子どもの頃から作り話が得意であった。今言ったことも偽りであろう。

ま:幼い頃から思い続けたあなたと、遠くの国でひっそり生きていくの、私は幸せかもしれない。

道:ならば!

ま:けれど・・・そんな道長様、全然思い浮かばない。ひもじい思いもしたことも無い高貴な育ちのあなたが、生きてくために魚を取ったり木を切ったり、畑を耕している姿。はあ、全然思い浮かばない。

道:まひろと一緒ならやっていける。

ま:己の使命を果たしてください直秀もそれを望んでいるわ

道:偽りを申すな。

ま:一緒に遠くの国には行かない。でも私は、都であなたのことを見つめ続けます。片時も目を離さず、誰よりも愛おしい道長様が政によってこの国を変えていく様を、死ぬまで見つめ続けます

道:一緒に行こう。

 この、2人の別れにも聞こえる言葉をまひろは告げているのに、その後、どうしてラブシーンになるのか?少々混乱した。

 そもそもまず、道長はともかく、そんなにまひろ側が道長を大好きだったなんて。幼い頃は気になる程度かと思っていた。左大臣家のサロンで道長の話が出るたび、分かりやすく目を見開いて固まっていたから、成長してから好きは好きだったのだろうが、道兼という仇の存在が、心の中で大きく邪魔をしているのかと・・・。

 逆なのか。道兼が居たからこそ、道長への禁断の思いが膨れ上がっていた。

 プラスして直秀の死、そしてその埋葬を共にしたこと。泥塗れの道長を見てずっと×4好きになったんだもんね。ここでぐっとまひろの道長への思いは高まったんだね。

 それなのに、出てくるのはあの漢詩なんだな・・・自分の気持ちを抑え込み、道長を使命へと振り向けるつもりで。高尚過ぎる。まひろが気持ちを抑え込みすぎちゃってたもんで、こちらはついて行けてなかった😅再会していきなり熱いキスを交わすほどだったとは。驚いた。

 道長は「偽りを申すな」と繰り返していた。家族や貴族仲間と気持ちを偽って生活をしているから、救いは偽りのないまひろと直秀だけ(百舌彦もいるけどねー)。まひろが言葉を尽くして説明しているのに、まだ「一緒に行こう」と言っていた道長に、死ぬまで見つめ続けるという自分の言葉が偽りじゃないと分からせるために、証として一緒に寝たってことなんだろうな。

 道長は「振ったのはお前だぞ」「また会おう。これで会えなくなるのは嫌だ」と言っているから、まひろのこれきりの気持ちも伝わっているらしい。これは2人の別れのシーンだったのだと、理解した。

 まひろは「人は幸せでも泣くし、悲しくても泣くのよ」「幸せで悲しい」と言っていた。両想いを確かめられても、別れるんだもんね・・・。

事変での道長は

 道長は、これ以後はまひろに指摘された「己が使命」をはっきりと意識しながら生きていくのだろうか。

 手始めに寛和の変での道長だが、内裏に呼ばれた際にも無の境地のような表情をしていた、異母兄の道綱が落ち着かない様子MAXだったのに比べて。

 「これより、丑の一刻にございます」の声で兼家パパが「これより、全ての門を閉める」と言った時、詮子様は目をギュッと閉じ、道長はいよいよか、というようなやや高ぶった目を向けたが、すぐに表情は消えた。

 帝の位の在りかを示す剣璽が兄2人の手で東宮の下へと運ばれ、いよいよ道長の出番。「行って参ります」と兼家パパに告げ、関白の下へと馬を走らせた。

関白頼忠:何事じゃ。

道長:ただいま帝がご退位され剣璽は梅壺に移り、東宮が践祚あそばされました。

関白:なんと・・・。

道長:関白様も急ぎ内裏へ。

 馬上の道長の表情は遠くて窺い知れなかったが、関白への口上を申し述べる彼は、引き締まった声で、ああ、運命を受け入れたのだろうかと感じさせた。

 ところで、この政変の途中でとても気になったのが道隆と道綱が運んだ、帝の即位に関わる剣璽のこと。帝のお住まいの清涼殿から持ち出して道隆兄弟に渡す典侍ら女房2人の顔も引きつっていた。なぜ易々と?協力させられている訳?

 女房らも、これは大変なクーデターにガッツリ関与しているとの意識はあったはずだ。怖かっただろうな・・・何か失敗したら消されるだろうし。いや、成功した暁にも兼家パパならもしかして?

 この辺の疑問は公式サイトで説明されていた。(をしへて! 佐多芳彦さん ~藤原兼家が運ばせた「剣璽」とは? - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 道長、兼家パパを反面教師に、こんな権力者にはならないでね。死ぬまで見つめているまひろが泣くよ・・・と思う訳だが、ドラマでは後の道長をどう描いていくのだろうか。

 次回、花山帝をたばかった道兼が、己の立場を思い知らされるらしい。それはそれで1ミリぐらい気の毒。花山帝に仕えていた父為時が、退位によって職を失い、立場を思い知らされるのは、まひろも同じことか。

(敬称略)

【光る君へ】#9 役目終えたキューピッド直秀、遠く黄泉の国へ😢

せっかくの成功オリジナルキャラ直秀なのに

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第9回「遠くの国」が3/3の雛祭りの日に放送された。う~ん、直秀について残念過ぎて色々と言いたくなるが、まずはあらすじを公式サイトから引用しよう。

(9)遠くの国

初回放送日: 2024年3月3日

東三条殿に入った盗賊の正体は直秀(毎熊克哉)ら散楽一座だった。道長(柄本佑)の命で検非違使に引き渡される。一方、直秀らの隠れ家を訪ねていたまひろ(吉高由里子)は盗賊仲間と勘違いされ、獄に連行される。宮中では、花山天皇(本郷奏多)と義懐(高橋光臣)の関係が悪化し、代わって道兼(玉置玲央)が信頼を得始めていた。その頃、兼家(段田安則)を看病する詮子(吉田羊)を思いもよらぬ事態が待ち受けていた。((9)遠くの国 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 ニコニコと桜餅を食べた日に、まさか我が推しキャラ直秀に涙で別れを告げねばならなくなるだなんて思いもしなかった。

 直秀は、主役のまひろを挟んで道長とトリオを形成する重要キャラだった。こんなにもあっさりと命を失うとは。2人をつなぐ闇のキューピッドであり、今後は、道長の隠密ポジションへと立場を変え、続けて活躍していくかと勝手に期待していた。ねずみ小僧とか、飛猿とか、風車の弥七とか、御庭番でもいいけどそんな感じ。

 ああ・・・でも、あれだけまひろと道長の2人が1日かけて埋葬したのだもの、本当に死んじゃった設定なんだなあ。実は生きてました!は無いのだろう。遠くの国に流罪になった直秀と数年後に再会とか、話としてアリだったと思うのだけど、死ななきゃならなかったかー。

 推しだから言う訳ではないが、ゼロから育ててこれだけ成功した人気オリジナルキャラだけに勿体ない。大河でオリジナルキャラが叩かれる例は「麒麟がくる」の駒ちゃんとかが記憶にあるが、愛される例になるのは大変なこと。

 その直秀を切っても構わず先に進んでいけるぐらい、このドラマは面白くなるんだね、そういうことだ。

 戦略的に言って、民放のドラマが10回前後で1クールだと思うから、50回近くとなる長い大河ドラマだと、1クールごとにスパイスとなるキャラを取り換えて進行するつもりなのだろうか。つまり、視聴者の飽き対策。次のクールは誰が担うのか。

手ずから直秀ら7人を葬った道長とまひろ

 さて、流罪になった直秀ら散楽一座7人が獄を出る時刻は、卯の刻というから、早朝5時から7時に当たるのだそうだ。確かに検非違使の獄前で道長とまひろが門番と相対した時には、まだ暗かった。

 (百舌彦が乙丸に、道長のモノマネをしてまひろへの伝言を告げる様子がおかしかった。並んで張り合って走って百舌彦がゼーハーしたり、最近は従者2人の関係が面白くて目が離せない。)

 そして「屍の捨て場ではないか」と道長が門番に言った鳥辺野へと、一座は既に向かっていた。馬で後を追った2人の頭上には、同方向に多くのカラスが飛ぶ。縄で手を縛られた一座が放免の2人に前後を挟まれ、靄の中を進む様子が見えた時にも、カラスが何かをついばむ様子が大きく映り、おどろおどろしかった。

 薄明るくなった頃、鳥辺野を進む道長とまひろが、とうとう直秀ら一座の亡き骸を発見。既に彼らをエサとしていたらしい複数のカラスが飛び去り、倒れている一座がはっきりと目に入った。これはショックだ。

 道長は、呆然として「手荒なことをしないでくれ」と心付けを渡した自身の行動を思い返した。彼の期待とは全く逆の結果が、悲しくも眼前にある。

 「愚かな」と一言つぶやき、うつぶせの直秀の骸を表に起こした道長は、固くこぶしに握られた土塊を払い(悔しさで死ぬ間際に握りしめたか😢)、代わりに両手に自分の扇を持たせた。

 これについて、ネットでは「芸人として葬りたかったから」扇を持たせたとの解釈を見たが、扇=あふぎ=また会おう、の意味があると京扇を餞別に渡された経験があるので、私としてはこちらの説を取りたい。

 扇を下さったのは、源氏物語がお好きだった高校時代の国語の先生。まだ大切に持っている。先生にお会いして「光る君へ」のお話がしたいなあ・・・。

 私の感慨はともかく、道長は、直秀との黄泉の国での再会を願って自分の扇を渡したのだろう。

 当時の死穢思想からは、貴族の坊ちゃんが自ら鳥辺野に赴いて、放置されている遺体に扇を握らせるなんて、めまいがするような格別の行動だろう。直秀への惜別の情を示すには、それだけでも十分だったかもしれない。

 しかし、そこでは終わらない。道長は、日が高い間ずっと、無言で手で土を掘ってせっせと7人を葬った。まひろもそれに付き合って。なぜそこまで・・・の理由は、皆を埋め終わってから道長が口にした。

道長:すまない(最初はまひろに。彼女の衣の汚れを払おうとする)。すまない(葬った7人に)。皆を殺したのは・・・(泣き顔になって)俺なんだ。(自分を拳で2度叩き)余計なことをした!(泣いて絞り出すように)すまない・・・すまない、すまない!すまなかった!(まひろ、背中から道長を抱く)すまなかった!(ふたりとも泣く)

 夕日の中、無言で帰途に就く2人ともが呆然とし、表情は生気を失っていた。馬の背に揺られるまひろも、馬を引く道長も。これが秀逸だった。

 道長が獄からまひろを連れ帰った時、道長はまひろに「信用できる者なぞ誰もおらぬ。親兄弟とて同じだ。まひろのことは信じておる。直秀も」「あいつはあれで筋が通っておる。散楽であれ盗賊であれ、直秀の敵は貴族だ。そこを貫いているところは信じられる」と言っていた。

 それなのに・・・道長にとっては人生で初めて経験する大きな挫折だろう。自分のせいで信頼できる2人のうちの1人の命を失った。痛恨の極みだ。

 まひろと道長は、まひろの母・ちやはの死で仇同士として忌まわしく結びついていた。特別な絆だ。ここにまたトリオの1人の直秀を共に葬った経験を経て、さらに心の結びつきは強くなっただろう。

 と言うか・・・直秀を欠いたからこそ、道長とまひろの間に離れがたい絆ができるのだと思う。こんな経験をしたんだから、幼なじみのような関係から本当の恋人同士へと一気に関係が変質するような気もする。直秀は、キューピッドの役目を終えたのだと思った。

貴族のたしなみ、穴掘り?

 それにしても。蛇足だが、素手であんな風に土を掘ったりできるのか?ベランダガーデニングの土作りが遅れている私は、7人をいとも簡単に貴族の坊ちゃんのヤワヤワな手で土葬できた鳥辺野のフカフカの土を見て瞠目した。

 道長も手伝ったまひろも2人とも、道具も軍手もないのに、指は血だらけにもなっていないようだった。

 一緒に見ていた家族も「きっと鋼鉄の指なんだ」「打毬のように平安貴族のたしなみとして穴掘り競技があるんだ」などと言い出したが、あそこは鳥葬や土葬の弔いの場だから・・・積み重なる遺体が微生物に解体され、フカフカの培養土みたいになっていたってことなんだろうか・・・怖すぎる。よく足を踏み入れたものだ。

 本来だったら前の方の骨とか衣類とか分解に難がある物が、2人が掘るたびにザクザク出てきたんだろうな。死臭もしただろう。背景の木には、死者が着ていただろう衣服が風化したっぽい布も引っかかっていた(NHK、芸が細かい)。

 でも、そんな恐怖もお構いなしに、直秀らを運命づけた自らの浅はかな行動への悔恨に突き動かされて、道長は行動したのだろうね。まひろも逃げずに最後までいた。これは、普通の姫にはできないよ。

なぜ直秀は殺されたのか?

 道長が「余計なことをした」と言った、心付け。公式サイト(用語集 大河ドラマ「光る君へ」第9回より - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK)によると、受け取ったのは看督長(かどのおさ)という検非違使長に属する下級役人で、牢獄の管理や犯人逮捕を行う役目があるそうだ。

 なぜ彼は、直秀らを殺すことにしたのだろうか。この看督長、以前に道長が誤認逮捕された時にいた人か?下っ端の放免の何人かはまひろの顔も覚えていて、お馴染みのようだったが。

 もし看督長が以前もいた人なら、道長に対して「あ~、前にも貴族様権限で解き放たれた右大臣家の坊ちゃんか」と、既に反感を持っていたかも。今回、道長があからさまに金に物を言わせたので、さらなる反感を買った可能性もある。同じ手を回すにしても兼家パパならもっとうまくやったんだろうが、狸寝入り中なので・・・。

 ネットで見た有力説は、この看督長が、道長に「手荒なことをしないでくれ」と言われたので⇒通常の鞭打ち30回や腕をへし折る刑を避け流刑にはなったが⇒流刑地に送る手間やコストを惜しみ⇒一座は殺された、というもの。

 そうなのかな・・・私は、まひろが先に看督長によって解き放たれたことが気になった。

 道長が心付けを渡した直後、道長は、偶然に捕らえられてきたまひろと乙丸を目にして「この者は私の知り合いゆえ身柄は預かる」と慌てて交渉し、看督長が「どうぞお帰り下さいませ」と縄を切ってまひろらを自由にした。そして、道長はまひろの手を引き、そそくさとその場を去ったが、見送る看督長の表情がねえ・・・。

 あの顔を見ると、当初「なぜそのようなお情けを」と訝しく思った看督長も「右大臣家の坊ちゃんの目的は女だったか、なるほどね」と合点し、「女を渡したのだから坊ちゃんは満足しただろう」と心付けの件は終わったと考えたのではないだろうか。

 だから、直秀ら一座に対しては、特に気にせず処断した、か。

 また、あの心付けの効力が直秀らにも及んだとしても、意味が逆に捉えられて念入りに吟味された可能性もある。余罪を調べていると言っていたから、通常は30回の鞭打ち刑のところ余罪が積み上がれば鞭打ち刑等は消え、流罪決定か。

 そこに、わざわざ一座を検非違使に引き渡してきた右大臣家が、心付けまでご丁寧に渡してきたのだ。散楽では散々右大臣家をバカにしていた一座だし。そこで、表向きは流罪、内々に処刑と決まったのでは。

 いずれにしても、道長はヘタを打ったってことなんだろうけど・・・でも、まひろは助かった。まひろが連行されてきた時、かなり心配そうだった直秀も、解き放たれたのを見てホッとしていた。彼はまひろを気にしていた。今思うと泣ける。

兼家始動、フィクサーは安倍晴明

 今回も、吉田羊の女御詮子様に「キャー」と叫ばせた時の兼家・段田安則の目が、権力奪取に向けて不気味にやる気満々だった。やっぱり兼家パパの謀略だった。

 こちらもキタキタキタキタと身構えたが、実は安倍晴明の策だったとは。兼家にはバカにされていたのに。・・・そうか、晴明はだからユースケ・サンタマリアなんだね。頭の中の野村萬斎は完全に消し去っておくよ。

 晴明に策があると持ち掛けられて「買おう」と言った時の、兼家パパの悪ーい生き生きとした表情が印象深い。右大臣様、お主もトコトン悪よのう。源雅信を取り込み兄らを圧倒していた詮子様でもまだまだ小玉、父親に及びもしなかった。

道長:ち・・・父上の病は偽りだったということでございますか?

兼家:内裏の殿上の間で倒れたところまでは真である。家で目覚めたが、目覚めなかったことにした。何故か。これは我が一族の命運に関わる大事な話じゃ。身を正してよく聞け。

回想の道隆:遅いではないか、晴明。

回想の晴明:瘴気が強すぎる。右大臣様と私だけにしてください。(気を失っている兼家の枕元で祈祷する。お不動様の真言が聞こえた)

回想の兼家:ううう・・・。

回想の晴明:右大臣様。気が付かれましたか?右大臣様。おお・・・ただいま皆様を。

回想の兼家:待て。わしはどうなる?このまま東宮懐仁様のご即位を見届けられず死ぬのか?

回想の晴明:そのようなことはございませぬ。安倍晴明が命懸けでご祈祷いたしておりますゆえ。

回想の兼家:帝には・・・(晴明に背中を支えられて起き上がる)速やかにご譲位いただき、懐仁様のご即位を急がねばならぬ。されど、帝は思いの外しぶとくおわし、わしには策が無い。

回想の晴明:策はございます。

回想の兼家:なんと・・・。

回想の晴明:私の秘策、お買いになりますか?

回想の兼家:買おう。

回想の晴明:されば・・・。

兼家:晴明は、このまま眠ったふりをしろと言いおった。そして内裏に亡き忯子様が怨霊となり、右大臣に憑りついたという噂を流した。晴明は自らその話を帝に申し上げた。愛しき忯子様の怨霊と知って帝は、おののいておいでらしい。のう道兼。

道兼:(誇らしげに兄らに少し視線をやってから)日々、涙ながらに憂いておられます。(父に頭を下げる道兼を、どういうこと?という視線で見る道隆、詮子、道長)

兼家:これから先が正念場じゃ。内裏でさらに色々なことが起きる。わしが正気を取り戻し、忯子様の迷える御霊が内裏に飛んでいき、彷徨っていると晴明が帝に申し伝える。忯子様の御霊を鎮め、成仏させるために帝が成すべきことは何か?これより力の全てを懸けて、帝を玉座より引き下ろし奉る。皆、心してついてこい

道兼、道隆:はっ。(道長、やや頭を下げるのみ)

兼家:詮子、源なぞ何の力もない。わしについてこなければ懐仁様ご即位は無いと思え!

 いつもは女御となった娘を「詮子様」と呼び、敬って会話をするのに今回は「詮子」。兼家の本音が出た。「帝を玉座より引き下ろし奉る」を聞いて、「日出処の天子」の蘇我馬子のセリフ「帝を弑し奉る」がバーンと頭に浮かんだのは、私だけじゃないはず。敬意が全くないすごいとしか言いようのない謙譲語(?たぶん)を久しぶりに聞いた。

 この時の道兼のドヤ顔が過ぎる。帝に取り入った手口を得意げに兄と弟に説明する場面も、虫唾が走る。DV気質丸出しだ。元々加害者側の人間だからこそ、上手に被害者ぶって振る舞うことができ、周りは騙され同情しがちだ。

 それに、愛する人を失って打ちひしがれる花山帝の弱みに付け込む人間のクズ、とんでもない奴だ。こんな兄からは距離を取りたいよね、道長。

 兄の道隆に、なぜ先に知っていたと問われた道兼は「兄上や道長より私が役に立つと父上がお思いになったからですよ」と大きく出た。そして「兄上や道長がのんびりと父上の枕元に座っている時に、私は体を張って父上の命を果たそうとしていたのです」と挑発した。

 子ども4人を前に真相を明かす兼家パパはド迫力。長男道隆、次男道兼は魅了された。だが、道長は、帝の亡き女御への哀惜の念を利用する心無い家族を前に、さらに心が離れそうに見える。驚きの陰謀は既に始まり、道長も片棒を担ぐことから逃げられない。次回、たまらんよなあ。

 詮子も無言だった。我が子の即位までは父親を利用しておこうと思うだろうが、彼女がまた、どう考えを巡らせるのか興味深い。

何となく・・・まひろの周りから人払い?

 今回は直秀惜別の回だったが、彼が去ったことで、まひろと道長の恋路が本格的にスタートすることになるのかもしれないと、先ほども書いた。

 あのグニャグニャしていた弟の惟規もそれなりに立派になり、大学の寮に入るため家を去った。あの時の父為時からのはなむけの言葉「一念通天、率先垂範、温故知新、独学孤陋」は、惟規が1つ分かった!と言って笑いを誘ったが、こちらも音だけパッと聞いても分からないものだ。花山帝への御進講といい、テロップを出してくれないかなあと時々思う。

 話がそれた。弟惟規が家を出て、父為時も「高倉の女のもとにお出かけ」で家を空けるのだよね・・・惟規乳母いとの嫉妬を買いながら。今後、長く帰ってこないらしい。

 となると、乙丸や、いと等の雇人が在宅するとしても、まひろはかなり自由だ。道長との恋の進展に、その自由の意味するところは・・・次回も見逃せない。小麻呂ちゃん登場も、また期待している。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#8 母の仇・道兼来訪に大緊張のまひろ一家・・・やはり言えないよね

まずは小麻呂情報から

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第8回「招かれざる者」が2/25放送された。先ほど(3/2の土曜日)再放送もあった。今回は、日曜日に忙しくて見られなかったので、ようやく落ち着いて見られた(録画やNHK+を見ればいいじゃんね、とは思うけれど・・・ほら、東京タワーはいつでも登れると思うといつまでも行かないって言うでしょう?あれと同じ)。

 さて、こちらは元々我が家の王子様猫を愛する猫ブログなので(一応今も)、前回の平安ポロ会場でずぶ濡れになって行方をくらました小麻呂😢(左大臣家の倫子様飼い猫)がかなり気になっていた。

 そしたら、テーマ曲後にドーンと小麻呂登場!生存確認できた全国の小麻呂ファンは、安堵で胸をなでおろしたことでしょうよ。小麻呂のおかげで物語は良い感じに転がり大活躍だし、それだけNHKも小麻呂ファンに気を遣ったってことかな。

 ところでこの小麻呂ちゃん。YouTubeで人気の「タイピー日記」(タイピー日記/taipi - YouTube)に出てくる「おぎん」くんに似てる。小麻呂ちゃんが出てくるたびに「おぎんこ~」と心の中で思ったりしてしまう。私だけかな。

 ではでは、公式サイトからあらすじを引用しておこう。

(8)招かれざる者

初回放送日: 2024年2月25日

倫子(黒木華)たちの間では、打きゅうの話題で持ち切り。斉信(金田哲)らの心無いことばを聞いたまひろ(吉高由里子)は心中穏やかでない。そんな中、宮中で兼家(段田安則)が倒れる。安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)のおはらいが行われるが効果はなく、道長(柄本佑)ら兄弟が看病にあたる。一方、為時(岸谷五朗)を訪ねて道兼(玉置玲央)がまひろの家に突然現れる。母のかたきと対じすることになったまひろだったが…((8)招かれざる者 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 時は寛和元年(985年)。このドラマは、ずいぶんとゆっくり進んでいる気がする。昨年の「どうする家康」は、お馴染みの戦国時代で、さらに超有名人の家康が主役だったから行く末が見えてしまい、「瀬名の話にこんなに尺を取っていて家康の最期まで辿り着けるか」と気を揉んだ・・・が、ちゃんと終わった。

 見慣れぬ平安の世を進むこの「光る君へ」も、大石静脚本だし、きっと良い頃合いで進んでいるのだろう、心配することない。今まで「源氏物語」の方に気を取られ、作者の周辺に興味を持たなかったのは何故だったのか不思議なくらい面白いし。今や、何をどう描くのか、勝手に妄想を膨らますのが楽しい。

 さて、オープニング前は、数え16歳のまひろと20歳前後の道長が、互いに相手を思う夜が描かれた。「少女漫画大河」と誰かが言っていたけど、確かにピッタリなお年頃だ。

 まひろは心の中で「もう、あの人への思いは断ち切れたのだから」と、自分に言い聞かせている。そうじゃないと思うけどなーと、見ているこちらはニヤニヤしながら思う。

 道長も、打毬の日にチラ見したまひろを思い返している。しかしあの日、彼の切れ長な横目が発するラブラブビームにしっかり絡め捕られたのは、倫子様と、しをり。

 女子トークの場で、公任推しの茅子と道長推しの、しをりが言い争う中「私もあの日の公任様は大人しかったように思います」と冷静を装って割って入ったのは倫子だったが、後で両親から婿入りの話をされた時に彼女が「道長様💕」とつぶやき、ポワンと頬をピンクに染めていたのが乙女チックで可愛かった。これまた見ていてニヤニヤだ。

 この女子トークの最中に、行成の代わりに急遽打毬に駆り出された直秀を「猛々しくもお美しい」と褒めた赤染衛門が言ったセリフがさすがだった。

赤染衛門:人妻であろうとも心の中は己だけのものにございますもの。そういう自在さがあればこそ、人は生き生きと生きられるのです。(茅子としをりがキャ~と歓声をあげる)

 そう、口に出すのはまた別だと思うけれど心は自由。まひろは真顔で赤染衛門を見つめていた。クリエイターとして心に響いたんじゃないか。

直秀と友になりたかった道長

 貴族のナリをした直秀が、F4と一緒に歓談していたのには驚いた。まあ、「道長の最近見つかった弟」という体で打毬を無理やりやらせた以上、それだけでサヨウナラという訳にも行かなかったのかな。

 でも、直秀と友達になりたかったにしても、道長は自分の住む世界に彼を引き込むのはNGじゃないかな・・・直秀には刺激が強すぎる。F4に再度会わせるなどは止めた方が良かったよね。

 道長は、宿直で自分が射た盗賊ではないかと直秀を疑った。いや、確信に近かった。だから、聞くことは聞いて、釘を刺したつもりだったんだろう。でも・・・だとしたら大甘だなあ。

直秀:兄上。

道長:ん?

直秀:私は身分の低い母親の子ですので、このようなお屋敷は生まれて初めてです。ぜひ、お屋敷の中を拝見しとうございます。

斉信:東三条殿は広いぞ。東宮の御母君・詮子様も時々お下がりになる。

公任:酒の後、ゆっくり案内してもらえ。

(略)

直秀:兄上。

道長:はあ、ここには誰もおらぬ。兄上は止めておけ。

直秀:西門の他にも通用門はあるのか?

道長:なぜそのようなことを聞く。

直秀:なぜと言われてもな・・・ただ、広いな~と思っただけだ。

道長:今日の直秀は、別人のように見えるな。

直秀:俺は芸人だぞ。何にだって化けるんだ。

道長:ハハ・・・そうであったな。ところで、左腕に傷があったがいかがした?

直秀:散楽の稽古でしくじった。

道長:矢傷のように見えたが、何か刺さったか?

直秀:(道長を真っ直ぐ見ながら)稽古中、小枝が刺さったのだ。俺らしくも無いことで、我ながら情けなかった。

道長:ふ~ん。

直秀:東宮の御母君のご在所はどこかな?

道長:お前は、藤原を嘲笑いながら何故そのように興味を持つ。

直秀:よく知れば、より嘲笑えるからだ。(毬でキャッチボールする道長と直秀)

 道長が直秀に盗人を止めてもらいたいとして、何を言えたかな。もっと突っ込まなくちゃ!「友だと思うお前を、盗賊として捕えたくないんだ!」とハッキリ言っちゃえよ~とも思う反面、いやいや、言えないでしょ、あれぐらいしか道長には言えないとも思う。

 道長は、貴族仲間や家族など、本来彼が居るべき場所に居てもいつも居心地が悪そうだ。右大臣家など諸々に対して自分が抱く鬱屈を理解して話ができる相手に、直秀がなってほしいと期待していたのだろうね。

 しかし、それは直秀からすると無理な話じゃないのか。

 道長と話しながら、直秀は、盗みの下見とばかりに東三条邸の通用口などを確認していた。それも仕方ない。持たざる人が、こんなにもふんだんに持っている人の暮らしを目の当たりにしたら、怒りさえ湧きあがろう。

 これは直秀の立場、彼の感情に無頓着な道長の罪だ。直秀を守るためにも、道長には可哀そうだけれど、相応の距離は置くべきだったんじゃ?

 後日、直秀が捕らえられた時、道長は苦悶の表情を浮かべた。でも、なんで盗賊を止めないんだと一方的には直秀を責められないよね。むしろ、エサを撒いたのは自分。自分の愚かさで友を失うんだと自分をも責める、ないまぜの感情があの表情だったのではないか。柄本佑が素晴らしかった。

直秀がまひろにプロポーズ?

 直秀は「なぜ打毬に出たの?」とまひろに聞かれて「奴らを知るためだ」と答えた。「散楽に生かすため?」といかにも気軽に聞くまひろは、無邪気な少女だ。(ついでに従者の乙丸も無邪気よな。散楽メンバーと楽し気にしゃべってる💦)

直秀:都の外は面白いぞ。

まひろ:直秀は、都の外を知っているの?

直秀:ああ。丹後や播磨、筑紫でも暮らしたことがある。

まひろ:(立ち上がって)都の外はどんなところ?

直秀:海がある。

まひろ:海?見たことないわ。

直秀:海の向こうには、彼の国がある。晴れた日には海の向こうに彼の国の陸地が見える。海には漁師がおり、山には木こりがおり、彼の国と商いをする商人もいる。都のお偉方はここが一番だと思ってふんぞり返っておるが、所詮、都は山に囲まれた鳥籠だ。

まひろ:鳥籠・・・。

直秀:俺は鳥籠を出て、あの山を越えていく。(とんびの鳴く声)

まひろ:山の向こうの海があるところ・・・。

直秀:一緒に行くか?(真剣にまひろを見つめる)

まひろ:・・・行っちゃおうかな

直秀:フフ・・・行かねえよな。

 まひろは「海」に大いに好奇心を刺激され、「鳥籠」に逃げた雀と母の言葉を思ったかもしれない。そんな風に思わせる表情が吉高由里子は本当にうまい。

 「都の外は面白いぞ」「一緒に行くか」と誘う直秀の言葉はプロポーズとも聞こえる。将来、父に付いて紫式部が「山の向こうの海がある」越前に赴くのも、この影響からなんだろう。

 ここまで、推しの直秀のことを散々ブログでも書いてきたが、次回がとにかく恐ろしい。なるべく事前に物語情報を入れないようにしているつもりだが、不吉な予感しかない。

 公任を演じる町田啓太のキラキラした雰囲気と違い、毎熊克哉には薄っすら悲しさが漂っていて、「どう家」の大岡弥四郎といい、悲劇が似合ってしまうからなんだろうな。せっかく人気なんだし、オリジナルキャラをそんなに早く消し去らないよね?と期待したいけれど・・・。

左大臣家の本音

 もったいつけても史実だし。道長の左大臣家への婿入りは、円融帝の女御・詮子の左大臣を東宮の後ろ盾へと取り込みたい思惑と、兼家のそれぞれの思惑とが合致して滞りなく進み・・・と思ったら、倫子を溺愛する左大臣その人は反対のようだった。

 左大臣源雅信は、妻穆子(むつこ)との会話で本音を言っていた。

雅信:藤原道長はまだ従五位の下、右兵衛権佐(うひょうえのごんのすけ→つまり「鎌倉殿の13人」で源頼朝が当初呼ばれていた佐殿!)だぞ。そのような下位の者を倫子の婿にできるか。

穆子:でも、右大臣家の三男でございましょう?偉くおなりになるのは間違いありませんわ。

雅信:義懐らが力を持てば、何がどうなるか分からぬ。それに、右大臣家は好まぬ。関白家の嫡男・公任殿なら考えんでもないが。

穆子:関白家の公任殿は見目麗しく目から鼻に抜ける賢さで、おなごにも大層マメとの噂です。そういう遊びの過ぎる殿御は倫子がさみしい思いをしそうで、私は嫌ですわ。

雅信:右大臣家の三男とて、先日の打毬の会では姫たちに大層騒がれたそうではないか。赤染衛門がそう申していた。

穆子:あなた・・・衛門と2人でお話なさったの?

雅信:(アワアワして)廊で会えば話ぐらいするであろう。

穆子:何か・・・オホホホ、嫌。

雅信:わしは今、何を言おうとしていたのだ。お前が変なことを言うから分からなくなってしまった。ああ、そうであった。わしは右大臣のあのガツガツした風が何より嫌なのだ。父親を見れば息子たちは自ずと分かる。詮子様とて右大臣にそっくりだ。右大臣のひな型など、この家に入れたくはないのだ。

 左大臣と、心は自由な赤染衛門の秘密が垣間見れたような気がするが、左大臣は右大臣をここまで嫌っていたか。倫子様の希望は道長一択なのに。

まひろと倫子は、明石の君と紫の上?

 改めて、公式サイトにある倫子の人物紹介を読んでみたら、こう書いてあった。

道長の嫡妻 源 倫子(みなもとのともこ)

黒木 華(くろき・はる)

藤原道長の嫡妻。源雅信の娘で、宇多天皇のひ孫。おおらかさと強さを併せ持つ女性。まひろ(紫式部)とも交流があり、不思議な関係が築かれていく。

 「不思議な関係」って何だ。ネットで見た、まさかあの説が・・・?

 史実では結婚していないとされる紫式部と道長。だが、このドラマではかなり互いに思い合っている。こうなったら結ばれないのはむしろ無理難題なんじゃないかと、私は考えている。

 それは皆さんも同様らしく、このドラマでは、まひろは「源氏物語」の明石の君の存在になるのではないかとの面白い説が、ネットのどこかで唱えられていた。えーと、URLがどこだったか・・・💦

 「源氏物語」では、身分は低いけれど教養深い明石の君が、光源氏の娘を産む。その姫君は光源氏の正妻格の紫の上に引き取られ、貴婦人として養育され、帝に入内して明石女御となり、将来は国母にもなる。入内の際には実母の明石の君が女房となって付きそったが、これは紫の上の明石の君への配慮からだった。

 つまり、ドラマでは・・・身分が低いまひろが道長の娘を産み、その娘彰子が嫡妻の倫子に引き取られて貴婦人へと育てられ、一条天皇に入内するとしたら・・・実際に、まひろ(紫式部)は彰子の女房になるのだから明石の君との一致点は多く、話としてもかなり面白い。

 そういえば、明石の君って琵琶の名手だった!まひろも、母譲りの琵琶を今回も奏でていたね。明石の君も、父親の明石の入道が琵琶の名手、それにどうして気づかなかったか・・・!

 こちらのサイトにも琵琶の話でそんなことが書いてあった。

 この4人の女性の中で一番、身分が低いのが明石の君。一時、都落ちしていた光源氏と結ばれ、女児にも恵まれますが、そのわが子(明石の女御)も紫の上の養女になって入内し、今や別世界の住民です。そうした高貴な人たちに囲まれてても物おじせず、教養深く、落ち着いたたたずまいを見せるのが明石の君でした。

 同じように決して身分が高いとは言えず、しかし才能は絶賛された紫式部本人と重なり合う部分も多いようにも思えます。明石の君は、紫の上や六条御息所のように目立つキャラクターではありませんが、ここぞという場面で「神さびたる」と形容するほど、紫式部が深い思い入れを持ってその人物像を創り上げたことが伺われる存在です。その彼女を象徴する楽器が琵琶でした。

 明石の君の父親で、光源氏と娘を結びつけることに力を尽くした明石入道も琵琶の名手で、光源氏の琴と合奏したこともあります。この点もまひろと母親のちやは、とは相似形です。

 まひろと琵琶の胸を打つシーンは、こうした明石の君を巡る様々なエピソードから生まれてきたものかもしれません。(【光る君へ】第8回「招かれざる者」回想 まひろが琵琶に寄せた母への想い 「源氏物語」光源氏の邸宅に響いた琵琶の音 紫式部も尊敬の赤染衛門 – 美術展ナビ (artexhibition.jp)

 琵琶を通じて、まひろとちやは、そして明石の君と明石の入道が相似形。それが琵琶だけの話に止まらないとしたら、確かにまひろと倫子は、彰子を挟んで「不思議」とも言える関係を築くことになるだろう。そうか、その方が絶対に面白そう✨✨

 宣孝との結婚で生まれる賢子が、実は道長との間の子で宣孝との結婚はカモフラージュ!という説も捨てがたいけれど、まひろ=明石の君説の方が、より「源氏物語」を踏襲しているし、ドラマチック。いや、欲張りかもしれないけど両方取りでもいいよ・・・益々先が楽しみだ。

兼家パパの陰謀、怖すぎる

 前回、まひろの為時パパは、バカ正直にも、花山帝への間者を辞めて右大臣兼家の手を離れたいと兼家に宣言してきてしまった。今回は、それによって兼家の魔の手が為時にも伸びてきてしまった。

 そうか、そろそろ兼家による花山帝退位への仕掛けが始まったか。

 兼家は、自分の手を離れた為時には容赦がない。その悪魔の使者は道兼だ。ほとほと道兼はまひろ一家にとって疫病神だ。事件当時、色々と揉み消した兼家は、当然為時の妻(まひろの母)が道兼の被害者だと知っているだろう。知ってて道兼を差し向けるんだから、本当に残酷な人だ。

 まひろと道兼の対決は後で書くとして、そこに至る経緯を振り返る。花山帝は、叔父の義懐を従二位に上げ、さらに権中納言にもし、関白にもしようとしていた。つまり、現在権力を握る貴族たちにとっては横車を押される状況が迫っていた。

 そして、寛和二年(986年)の年が明け、義懐は公卿の面々を前に、花山帝の意向として「陣定を当分の間、開かぬこととする」と宣った。公卿のお歴々へのお役御免宣言に等しい。

 これに対して、大声で異論を唱えたのが右大臣兼家だった。

右大臣藤原兼家:権中納言義懐、勘違いが過ぎるぞ!

左大臣源雅信:その通りだ!帝がそのようなことをお考えなさるはずがない!

藤原義懐:帝の叡慮に背くは、不忠の極み。

兼家:(立ち上がり)不忠とはどちらのことだ。帝のご発議もまず陣定にて議論するは古来の習わし。また時に帝とて誤りを犯されることはある。それをお諫め申さぬままでは、天の意に背く政となり世が乱れかねぬ。帝がお分かりにならぬとあれば、なぜそなたがお諫めせぬのだ!これより、帝をお諫めに参る。関白様、左大臣様。

雅信:うむ。

義懐:待たれよ。帝は本日は御不例にて。

兼家:どけ!(義懐を突き飛ばしたが、体調に異変が起き、倒れる)

 兼家は、興奮して頭に血が上ったか。花山帝は「右大臣め、いい気味じゃ、これで目の上のたんこぶが居なくなった」と喜んだ。「これは天の助け」と言った義懐には、しかし、まひろの父・為時は咎めるような視線を向けた。

 「このままでは命が危うい」と言われ寝込んだ兼家だったが、いかにも怪し気。気を失っていたのに、道兼にのみ目をカッと見開いたのだ。この後は映らなかったが、花山帝を引きずり下ろすための指示を、道兼に飛ばしたのだろう。道兼はすぐに行動に移る。

 まずは花山帝に近づき信頼を得なければならない道兼。帝に自作自演を疑われないように周到に両腕に打擲の痕を付け、人の善い、まひろパパ為時に接近。わざわざ傷を見せて「父に疎まれている」と同情を買った。

 花山帝の疑いの目を凌げるほど、道兼の芸は細かい。そこまで兼家が病床で指示できたか?道兼が、父の意を汲み、虐げられた息子としての芝居を打っているのかな。

 怪しげな力で道長を助けた安倍晴明も、一枚噛んでそう・・・もしかしたら、兼家が倒れたのも、始めから全部嘘か?頭に血が上ったのも嘘だった?

 花山帝に道兼の「苦境」を伝え、引き合わせてしまった為時。「どこへ行っても私は嫌われる」と訴える道兼は怪しいけれど、為時は道兼を可哀そうだと思ったんだね。妻の仇なのだが、同情してしまって踊らされてしまうのだね・・・。

 まひろが弟の惟則に「父上はこんな争いに巻き込まれたくないの。静かに学問を究め、学問で身を立てたいだけなのよ」と説明した時の、為時の顔。まひろの言葉に縛られている?とも思うが、娘の理想の父でありたいだけの善人なんだなと思った。

まひろ~!さすがに言えないか

 ということで、道兼はさらに為時を懐に抱き込むために酒を持参してまひろ宅に来訪。事情を知る乳母を含め、一家は心臓をつかまれたように真っ青だ。御方様を無残にも殺した張本人を、心から歓迎できるわけがない。

 今回のクライマックス、一家vs.道兼の心理戦にはドキドキした。

乳母いと:お帰りなさいませ。

為時:うん。いかがした。

いと:それが・・・(無理やりに為時を人陰に連れていく)

為時:誰か来ておるのか?顔が青いぞ。

いと:藤原道兼様が・・・お酒もお持ちになり、為時殿と飲みたいと仰せになって。

乙丸:御戻りでございます!(まひろ帰宅)

為時:(まひろの前に立ちはだかって)お前は今少し外におれ。乙丸。

道兼:為時殿。

為時:これは失礼をいたしました。

道兼:ご息女か?

まひろ:(礼をして顔を上げ、来訪者が道兼と知って固まる。屋敷内に走って逃げる。心配気に見送る為時、いと。まひろは自室で息をつき、琵琶に目をやる)

道兼:(リラックスして酒を飲みながら)ああそうか、息子は間もなく大学か。大変じゃな。

為時:は。(うつむいている)

道兼:為時殿の息子なら、聡明であろうから心配は要らぬか。

為時:いえいえ、それがさっぱり。(酒を勧められる)あ、私はもう。

道兼:つまらぬな。せっかく訪ねて参ったのに。

まひろ:(琵琶を持ってしずしずと廊を進んできて座る。琵琶を置き、礼)このようなことしかできませぬが・・・お耳汚しに。(琵琶を弾く。母の姿が脳裏に蘇る。無言ながら、まひろを気遣う為時)

道兼:はあ、見事ではないか。体中に響き渡った。琵琶は誰に習ったのだ?

まひろ:母に習いました

道兼:母御はいかがされた?(緊張する為時)

まひろ:母は・・・(記憶の中で道兼に刺される母ちやは)7年前に身まかりました

道兼:それは、気の毒であったな。ご病気か?

まひろ:(血だらけの道兼の顔を思い浮かべつつ)・・・はい。(厳しい表情の為時、いと。まひろ、表情を動かさず礼をして)失礼いたしました。(去る)

道兼:(為時に)麗しいが、無愛想じゃな。

為時:申し訳ございません。

道兼:おい、そなたもどうじゃ(いとに。いと、礼)

為時:お捨て置きくださいませ。

道兼:楽しく飲もうと思うたが・・・ハハ、真面目な家じゃ。ハハハハハ(為時、微妙に憤然とした表情)

 五節の舞姫を務めた時に道兼を見つけたまひろは、もし隣に三郎が居なかったら「人殺し!」と叫んでいたかも・・・と道長に告白していた。

 今、道兼の隣には道長はいない。道兼の前に進み出た時、まひろ、言っちゃうのか?と固唾を飲んだが、形見の琵琶を奏で、母の死について道兼に問われた彼女は、無表情で言いたい言葉を飲みこんだ。

 本当は、「おまえじゃ~ミチカネ~!おまえが殺したんじゃ~!」と言いたかっただろう。いや、全視聴者が言いたかったはず。

 まひろは言えるわけがない。もしも、まひろが真実をぶつけたとする。青ざめた道兼は去り、その代わりに右大臣家の武者どもが、まひろ一家を潰しに来ただろう。右大臣家の名誉を守るためとあらば、その程度の犠牲を犠牲とも思わず実行しそうだ。

 結局、弱い者はこうやって長いものに巻かれるしかないのか。

 まひろは、道長の「一族の罪を詫びる。許してくれ」「俺は、まひろの言うことを信じる」という言葉を、涙しながら思い出していた。そこにやって来て、「よく辛抱してくれた」と頭を下げる父に、こう言った。

まひろ:私は道兼を許すことはありません。されど、あの男に自分の気持ちを振り回されるのはもう嫌なのです。それだけにございます。

 あの男とは果たして道兼だけか。道長も?悲しいなあ、まひろ。でも、前回の平安ポロの日の「品定め」での会話に、道長は賛同してなかったからね、誤解しただろうが。

 次回予告を見たら、まひろは両手を縛られ荒っぽく連行されていた。そして従者の乙丸が、道長従者の百舌彦と並んで走っていた。こうなると、道長がまひろを助けるんだよね?しかし、直秀の件は気が重い。

(ほぼ敬称略)

【光る君へ】#7 平安のポロ・打毬は楽しそう、だが残酷なボーイズトーク

猫・小麻呂は無事か?火事は大丈夫?

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第7回「おかしきことこそ」が2/18に放送され、平安時代のポロ・打毬がとーっても楽しそうだった。やってみたい。まず馬に乗れなきゃだけど。かの時代の文化がこうやって贅沢に再現され、それを見る幸せを、毎週感じている。

 しかし・・・猫の小麻呂が~!ずぶ濡れだったじゃないか~!まひろが男どもの「雨夜の品定め」(「源氏物語」のような宿直の夜じゃなかったけど)にいたたまれずその場を離れたのは、「え~そんなひどすぎる😢」とショックを受けがちな乙女の気持ちとして分からないでもないが、探していた小麻呂はどうしてくれるの?雨の中、放って帰っちゃうの?それはないよね?

 左大臣家の一の姫・倫子様が可愛がっている猫だから、まひろだけでなく、きっと従者とかが大挙して探しているはずだと思うけど(というか、なぜまひろが出しゃばって探す?)、雨水が苦手な猫は多いし、当時の環境では逃げた飼い猫には厳しかろう。猫好きをかなり心配にさせる設定だった。

 まひろ、本当に小麻呂に何かあったらどうしてくれるんだ(怒)。まあ、あのような広場に小麻呂を連れて行った倫子が悪いし、小麻呂の導きが無ければまひろはボーイズトークを立ち聞きできなかった。だけどね・・・「私が(探す)」と言ったのだから、まひろは最後まで責任を持って探してやってほしい。せめて「ここで追いかけたんですけど見失って」とか、誰かに情報を引き継いでほしい。

 今週は猫の日(2/22)もあった。小麻呂の安全が気になって、全然物語が入ってこない猫好きは結構いたと思う。

 もう1つ気になったのが、まひろが燃やした道長の恋文の燃え殻。落ちていった先に枯れ草が見えて、えええー火事になる!とギョッとした。あれ大丈夫?盛り上がっていいシーンになるはずだったのにこちらは気もそぞろ、台無しだ。

 手紙を燃やすなら、はっきりと火鉢とか水たまりの上で燃やしてちょうだいね。あんな大きなお袖をしているのだし(事前にずぶ濡れになっていたが)。もし、まひろの家が全焼したら、道長の手紙を燃やしておセンチになってる場合じゃない。・・・いや待て、次回、火事になることで物語が動くんですか?だったら伏線として仕方ない。

 しかし、まひろ、道長に返事を書かなかったんだね。お手紙に返事を書かないって当時はかなり非常識なのかと、で、お返事必須だからこそ、以前まひろがやっていたような手紙の代筆業が成り立つのかと思っていた。違うのかな・・・これも伏線だったりして。

 道長はまひろに「振られた!」と言ってはいたものの、従者・百舌彦が手紙の返事が来ないのはおかしいからとやっぱり考えて、確認しようと乙丸と接触して「ええ!三郎は右大臣家の若君だったんですか~」みたいな展開になったりして?

 まあ、従者が目端の利かない二人だからこそ、物語として面白くなるんだろうね。

 さて、先に進む前に公式サイトからあらすじを引用する。

(7)おかしきことこそ

初回放送日: 2024年2月18日

道長(柄本佑)への想いを断ち切れないまひろ(吉高由里子)は、没頭できる何かを模索し始める。散楽の台本を作ろうと思い立ち、直秀(毎熊克哉)に直談判。まひろの演目は辻で披露され、次第に評判を呼び大盛況に。噂を聞きつけた藤原家の武者たちが辻に駆けつけ大騒動に。一方、道長や公任(町田啓太)ら若者たちはポロに似た球技・打きゅうに参加する。招待されたまひろは倫子(黒木華)たちと見物に行くことになるが…((7)おかしきことこそ - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

直秀の正体に気づいた道長

 「光る君へ」版の「雨夜の品定め」が公任や斉信によって展開されていた打毬控室で、道長は直秀の腕の傷を見て自分が射た盗賊だと気づき、言葉を失っていた。宿直の時に「人を射たのは初めてゆえ」と、その手応えにショックを受けていたもんね。

 その時、同僚の貴族が平然と言ったセリフ「猪や鳥は射たことがおありでしたよね。同じことではございませぬか。相手は盗賊、猪や鳥よりも下にございます」「心の臓を射抜いておれば、今頃命を落としておりましょう」を思い合わせると、何とも考えさせられた。

 こういう事を平気で言う人たちに囲まれた環境にいながら、道長が自分なりの独自の感性や価値観を持ち続けられたのは何故だろう。亡き母・時姫の教えと、市井に出かけて民たちの姿を見ていたからだとは思うけれど。

 そういえば、兼家パパが安倍晴明への当てつけで道長に言ったセリフは、言葉面だけなら現代でも通じる。

兼家:人は殺めるなよ。人の命を操り奪うは、卑しき者のすることだ。

 兼家パパの場合、「卑しき人にやらせて、道長自らは手を出すな」が本意なんだろう。だが、当時のような厳然とした身分差が無い現代であれば、最初から卑しき人などおらず、皆への良きメッセージに聞こえる。兼家の言葉なのが意外なほどだ。

 さて、次回予告で「捕らえました!」と家人らが道長に報告していたが、その画面で抑え込まれていたのは直秀らだったようだ。つまり、散楽一座は右大臣家に盗みに入って失敗するらしい。今回、まひろが台本を書いて盛況だった散楽を蹴散らされて邪魔された恨みから、右大臣家に報復を試みるのかな。悲劇につながりそうで怖い。

 以前も書いたように、直秀のモデルになっているのは貴族だけど盗賊の藤原保輔(藤原保輔 - Wikipedia)かしらと思ったのだが、そうだとしたら、今回はまだ花山天皇が在位中の985年だ。保輔が史実で死ぬのは988年だから、もう少し先のはず。直秀、退場はまだ早いからね。

 今回、腹痛で打毬をドタキャンした行成の代わりに、ピンチヒッターとして道長が直秀を連れてきて「最近見つかった弟」と公任らに説明した。そこで直秀に貴族要素を持たせたのも、ムムム、もしかして保輔・・・と思わせた。違うかもだけど。

 しかし、保輔が初めて切腹した人物とか聞いてしまうと、直秀がそんなことになったらヤダなあ。

 でも、なぜ直秀は、いきなり上級貴族の遊びの打毬があんなにうまくできるのか?ただ身体能力が高いだけ?実はどこかの貴族の生まれだったりして・・・道長の弟なんてことはないにしても。

遠ざかろうとして、道長を引き寄せたまひろ

 今回のサブタイトルは「おかしきことこそ」だが、これをまひろに言ったのは直秀だった。前回も言っていた「私は道長様から遠ざからねばならない。そのためには何かをしなければ」の件での思索を深めるまひろが、思い返していた。

まひろ:(夜、ひとりで考えている)おかしきことこそ・・・。

回想の絵師:おかしき者にこそ、魂は宿る。

回想の直秀:笑って、辛さを忘れたくて辻に集まるんだ。下々の世界では、おかしきことこそめでたけれ。

(絵師の描いた、鳥獣戯画のような動物たちの絵・・・それを思うまひろ)

 道長から心の距離を取るため、何かをせねばとまひろが取り組んだのが散楽の台本だった。「狐に騙される猿たちの話よ。猿の顔をしているのは毎度おなじみ右大臣家の一族」とまひろが持ち掛けると、一座は乗った。

 が、それを採用した直秀らの散楽一座は、「藤原への中傷が過ぎる」と右大臣家の武者らの怒りを買って襲われた。いきり立つ武者どもを路上では見送った道長は、帰宅してから事を理解して「なぜ止めないのだ!」と激怒、武者らが向かった散楽の現場へ駆けつけた。

 そこで、まひろと再会する道長。じゃじゃーん。道長から遠ざかろうとしたまひろなのに、道長を引き寄せちゃったね。

 現場には検非違使の一行もご来場で、うろうろしていたまひろは、以前、道長が誤って捕らえられた時の放免に「お前、あの時の!」と、つかまりそうになる。そこを道長が割って入り、彼女の手を取り、現場から共に逃げるのだ。ワクワク。

 道長とまひろは、ここでどさくさに紛れて手を握る(!)チャンスに恵まれた。哀れ、倒れたまま顧みられない従者の乙丸・・・と思ったら、「邪魔をした」と言いつつ、2人が逃げた先に乙丸を連れてきたのは直秀。彼は道長の従者百舌彦の面倒まで見てくれていた。優しい。

 「帰りましょう、姫様!」と乙丸に強く言われ、まひろは道長とろくに会話もせずに帰ることになったが、この場の道長、やっぱり良いな・・・。「みんなに笑って欲しかっただけなのに・・・私が考えたの」というまひろに、「俺たちを笑いものにする散楽をか?」と静かに問い、「そうか、俺も見たかったな」と言うのだもの。懐の深さと共に、彼の悩みの深さも見せたね。

 見つめ合う2人、まひろもキュンとくるはず。もう、平安のロミジュリで良いと思う。

打毬しながらチラ見するふたり

 もどかしいまま別れた2人は、打毬会場でまた会うことになった。プレーしながら道長はまひろをチラチラ目で追う。まひろも道長を見たり、道長の視線を感じると猫を撫で、目を伏せたり忙しい。ああ、もどかしいこと。(チラ見は御簾があったら無理だったね。やっぱりドラマには邪魔か~💦)

 まひろは行かないと言っていたのに、何が行く気にさせたのかな。やっぱり物書きならではの好奇心だろうか。実際に見てみたい、と思ったか。それを言い訳にした恋心が絶対に裏にはあるけどね。

 ところで、あの姫様方に出された案内状は、斉信がまとめて出したのだろうか。気のあるファーストサマーウイカのききょうだけに出すのもなんだから、という理由でまひろにも来たということは、道長は案内状には関与していなかったっぽい。

 斉信は、花山天皇ご寵愛の妹が7月に死んだばかりなのに喪服を着るでもなく、「気晴らしに」と打毬で大っぴらに遊んじゃっていいのか。「女御様追悼打毬大会」だったのか?そういえば、女御の葬送の様子も描かれなかったが・・・。

 当時の服喪のルールがよく分からないが、源氏物語「薄雲」では藤壺女御が厄年の37歳で亡くなり、濃い鈍色の直衣姿の光源氏が出てくる。殿上人は皆が喪の黒に沈んだとの描写もあった。まあ、全部やっていたらキリが無いのだろう。

 打毬は、演者さんたちは馬にも乗れて屋外でかなり楽しそう。けれど、ずいぶん練習したんだろう。と思ったら、リアル公任の町田啓太は大した練習も無く一発OK!だったと、斉信役のはんにゃ金田がYouTubeで言っていた。はー、すごい運動神経だ。

 倫子様を筆頭に、居並ぶ姫君たちも美しかった。このドラマでは、あえて上級貴族でも姫君が堂々と御簾を降ろさないから、姫様方のカラフルなお衣装の袖口が御簾からこぼれて雅だわ~という話も無く、ダイレクトに姫様方の品評会が控室の公達の間で始まってしまった。

斉信:ハハハハ・・・姫たち、だいぶ慌ててたな。

公任:牛も暴れていたしな。(控室に皆で駆け込んできて着替えが始まる。まひろ、隠れて聞いている)いや~直秀殿の杖の振りは見事だったな。ハハ。(直秀、無言で外を見る)そういえば、漢詩の会の時のでしゃばりな女が来ていたな。斉信のお気に入りの。

斉信:ああ、ききょうだけ呼ぶのはマズいから、漢詩の会にいたもう一人も呼んでおいたよ。

公任:ああ、為時の娘か。

斉信:うん。

公任:あれは地味でつまらぬな。

斉信:ああ、あれはないな。

道長:斉信は土御門殿の姫に文を送り続けていたんじゃなかったっけ?

斉信:今日見たら、もったりしてて好みではなかったわ。

道長:ひどいな。

斉信:ききょうがいいよ。今はききょうに首ったけだ。

公任:だけど、女っていうのは本来為時の娘みたいに邪魔にならないのが良いんだぞ。あれは身分が低いからダメだけど。

斉信:まあ、ききょうも遊び相手としてしか考えてないけどな。

公任:俺たちにとって大事なのは恋とか愛とかじゃないんだ。いいところの姫の婿に入っておなごを作って入内させて、家の繁栄を守り、次の代につなぐ。女こそ家柄が大事だ。そうでなければ意味がない。そうだろ?道長。

道長:(聞いていなかったか)ん?

斉信:関白と右大臣の息子なら引く手あまたというところか。まあ、いずれにせよ家柄の良い女は嫡妻にして、あとは好いたおなごのところに通えばいいんだよな。

公任:斉信の好いたおなごは人妻だろ。

斉信:えっ、そうなの?

公任:知らなかったのかよ。

(まひろ、いたたまれず去る。その姿を扉近くに立っていた直秀が見つける。道長は直秀を見て、腕の傷に気づく。)

 いやあ、明け透けなボーイズトークだった。公任の上級貴族男子の哲学「女こそ家柄」は、まひろにはどう聞こえたか。

 以前、三郎(道長)が貴族ではないと思い込んでいた頃、まひろは「身分なんかいいのに」とお気楽だった。でも、自分が右大臣家から低く見下げられる側になってみて、そして道長への恋心が募る今となってみると・・・つらいねえ。

 こういう王道の身分違いの恋が描けるのが時代劇の良いところ。大河ドラマなんだけど、人間を描くのだもの、こういうラブ要素もあっていいよね。(その点、申し訳ないけど昨年の「どうする家康」は築山殿だけに集中、他のあまたの側室がなおざりで残念だったな・・・。)

まひろパパ為時の行く末が心配

 長いものに巻かれるのが常道の、バランス感覚の優れた人たちからしたら信じられないような行動を、今回、為時がやらかした。帝を欺き奉る間者は辛いから止めたいと、いずれ権力を握るに決まっている次の天皇の祖父である兼家に、正面切って言ってしまったのだ。

 何を考えているのか、とこちらも青ざめる思いだったが・・・これは、為時が妻を失った辛さを良く知っているからだと思う。

 妻を殺されても、涙を呑んで右大臣家の次男坊を殺人者とすることはできなかったあの時。今、最愛の女御を失った花山帝の姿をお側近くで見ているからこそ、あの頃の自らの辛さが心中に蘇り、右大臣のために間者として働くことがこの上なく辛くなってしまったんじゃないか。

 (それにしても・・・女御を失っても死穢の関係でご遺体にも触れられない花山帝はおいたわしい限りだが、泣き伏す時に手にしていたのは、あの女御の手をぐーるぐるにしていたリボンでは?彼女を偲ぶアイテムがアレなのね?w)

 もちろん、為時が言ったように花山帝が曇りなく自分を信じているという負い目もあるだろう。けれど、ベースには右大臣家は仇であるという意識が、妻の死を思い出すことでより強く意識の表面に浮かび出てきたのではないか。

 それに前回、まひろの覚悟を聞いてもいた。仇の右大臣家にだけ繋がりがあるのは嫌でございます、だから左大臣家にもつながりを持ち続けるためにサロンにも通います・・・みたいな。だから「喜べまひろ」と言ったのだろう。

 見ているこちらは花山帝の退位が近いと知っているから、まひろ一家の経済がいきなり心配だ。イケオジ宣孝や乳母いとが「今すぐにでも東三条邸に行って取り消して来い」という言葉につい賛同してしまう。でも、倫理に通じた学者さんなんだもんねー。

 為時は今は帝の側近としての給料もあるのだろうし、右大臣からの間者手当が無くても暮らしは大丈夫だと思っちゃったか。そんな計算は出来ないか。先を読んで行く宣孝のような能力が無い、学者一辺倒の人物はつらいね。

 それにしても、乳母の立場でいとが為時にあそこまで言うか!と宣孝もまひろも戸惑っていたような。まあ、いつの間にか嫡男の乳母だけじゃない立場に、彼女もなっていたってことなんだろうな・・・(ゲスの勘繰り)。

気弱になった?兼家

 為時が右大臣兼家に間者を辞めたいと申し出をした場面は、兼家の考えは役者さんがどっちにもとれる表情をするものだから、裏があるのかどうなのか、よくわからなかった。つまり、段田安則の演技がうますぎて、煙に巻かれた。

兼家:帝のご様子はどうじゃ?

為時:日々、お気持ちが弱られております。

兼家:それだけか?

為時:今日は一日、伏せっておいででした。

兼家:近頃さっぱり注進に来ぬゆえ、いかがしたのかと思っておった。

為時:申し訳もございません。帝のご様子をお知らせすることが・・・苦しくなりました。

兼家:ん?(初めて為時の方を見る)

為時:右大臣様の御恩は、生涯忘れません。されど、この御役目はお許しくださいませ。帝は私のことを心から信じておられます。これ以上、帝を偽り続けますことは・・・どうかお許しくださいませ。(深々と頭を下げる)

兼家:(為時に歩み寄って)そうか、そんなに苦しいこととは知らなかった。長い間、苦労を掛けたな。(ポンポンと首のあたりを叩く)(為時が体を起こして兼家を見る)もうよい、これまでといたそう。(にこやかに、為時の目を見て笑い、去る)(為時が再度、深く礼をする)

 兼家の「これまでといたそう」と最後に言った際の笑みを、どう理解すべきなのか。お前、これから俺の世になるというのに、分からんことを言う奴だな・・・と面白がっているのか。バカな奴、と憐れんでいるのか。

 ただ、本心から「そんなに苦しいこととは知らなかった」と言い、為時を役目から解き放った可能性も全く無いわけじゃないようにも思った。

 兼家は、怖くなったようだったし。女御まで殺すことはなかったと、安倍晴明を難詰していた。

兼家:詫びることは無いのか?

安倍晴明:お褒めいただくことはあると存じますが。

兼家:腹の子を呪詛せよとは言うたが、女御様の御命まで奪えとは言うてはおらぬ。やり過ぎだ。

晴明:さようでございましょうか?腹の子が死すれば皇子の誕生はなくなり、女御様もろともに死すれば、帝は失意のあまり政を投げ出されるか、あるいは再び女にうつつを抜かされるか・・・どちらにしても、右大臣様には吉と出ましょう。この国にとっても吉兆にございます。

兼家:長い言い訳じゃのう。

晴明:いずれお分かりになると存じますが、私を侮れば、右大臣様御一族とて危うくなります。

兼家:ほほう。

晴明:政を為すは人。安倍晴明の仕事は、政を為す人の命運をも操ります。

兼家:お前の仕事はただ財のためだ。そんなことは前からお見通しだわ。褒美が足りないなら、そう申せ。もったいぶりおって。

 この後の安倍晴明の道長へのまなざしが大いに気になったが、兼家パパは、呪詛の結果は依頼した自分が負うものと怖くなっていたのだとは思うけれど、晴明の力を信じていたのかいないのか、イマイチよくわからない人だとも思った。

 力を信じればこそ、呪詛を頼みもし、やり過ぎだと責めもする。それなのに、その人を「ただ財のため」「もったいぶりおって」などと罵倒するなんて、命知らずとしか・・・えーと、どっちなんですかね?

 ただ、兼家は怖い夢を見て、懲りた様子。財前直見にヨシヨシされて「道綱~道綱~」と刷り込まれて「ウン」と言っていたのも、気弱になっていたからだろう。

 死んでしまった女御を皇后に立てたいと花山帝が望んでいるからと陣定で検討された時も、はっきり拒絶せず「前例があればOK」と許容した。義懐も右大臣には反対されると思っていたから「あれ?」という顔だった。

 少し、兼家は変わったのかも。晴明に命じて花山帝の妻子を呪詛した負い目もあって心境の変化があり、為時にああ言ったのかも・・・。段田安則の演技はそんな風にも見えた。

 (ところで、先の円融帝の「中宮」が存在する状況下、花山帝の死んだ女御を「皇后」に冊立する話が出ている。この件は引っかかる。後々、道長が「中宮」は「皇后」とは別モノだから両方居てもいいよね!と自分に都合よく横車を押すのは有名な話。この時点で既に別モノとの認識を皆が持っていたなら、後々の道長の行動は何の問題も無い。今回のドラマはそれでいいのか?道長を悪者にしないための環境づくりなのか?)

 でも、兼家みたいな悪党が気弱になったら終わりだ。彼は次回予告によると倒れるようだ。そこで例の大問題が進展するはずだが・・・。

 そのキーマンになる道兼は、今回、兄の道隆の思いやりのある言葉に涙していた。

道兼:義懐ごときが兄上を飛び越えて参議になるなど、腹立たしいことにございます。

道隆:そのことは気にしておらぬ。いずれ父上の世は来る。それは即ち、私たちの世ということだ。

道兼:それはそうでございますが・・・。

道隆:それよりお前、父上に無理をさせられて疲れておらぬか?お前は気が回る。その分、父上にいいように使われてしまう。そうではないか?(道兼の盃に酒を注ぎ)わしは分かっておるゆえ、お前を置いてはゆかぬ。(感涙にむせぶ道兼)

 道隆こそ、兼家のような根っからの性悪を父に持って嫡男として苦しかっただろうな、妻・貴子の存在は救いだが。このシーンでは、兄として弟を見る目が優しくて救われる(これに裏があったら怖すぎる)。

 次回、なんとまひろは仇の道兼と直接会う羽目になるらしい。その時、彼に「人殺し」と叫ばずに済むだろうか。

(ほぼ敬称略)

 

【光る君へ】#6 道長、まひろに畳みかける恋の歌~ヒューヒュー!

見てる側もドキドキだよ

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第6回「二人の才女」が2/11に放送された。時季は丁度バレンタイン前じゃないか、ここで燃え上がる恋心をね・・・NHKもやりますよ!ということで、公式サイトからあらすじを引用させていただく。

(6)二人の才女

初回放送日: 2024年2月11日

まひろ(吉高由里子)は道長(柄本佑)と距離を取るため、そのライバルの左大臣家で間者を続けることを決断。一方、道長は道兼(玉置玲央)の口から、まひろの母の事件をもみ消したのが兼家(段田安則)であることを知り、一家が背負う闇の深さに戦りつを受ける。そんな中、宮中で勢いを増す義懐(高橋光臣)一派に対抗するため、道隆(井浦新)は若い貴族たちを招いて漢詩の会を催すことに。参加を申し出たまひろだったが…((6)二人の才女 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 まずは道長の兄道隆が主催する漢詩の会。ここには学者として招かれた為時のお供としてまひろが参上した。弟惟規が尻込みして逃げたので(大丈夫か弟)。

 その参加について、まひろは父親の心をうまーく刺激していた。言ったのは「ぜひ父上の晴れ姿拝見しとうございます」だったんだけどね・・・今回は、左大臣家のサロン参加継続の理由でも為時を感心させていたが、既に数え15歳にして父親を掌で転がすなんざ大したものだ。

 今、15歳と書いたが、前回ブログまでは、ドラマの時代考証担当の倉本一宏著「紫式部と藤原道長」の巻末の略年表にある天延元年(973年)生まれに従い、永観二年(984年)のまひろを「数え12歳」と書いていた。それが、諸説ある中、NHKの今回のドラマでは970年生まれを採用したと知ったので、今回からは970年生まれへ転換したい。

 こちらの記事によると、NHKの「光る君へ」のガイドブックにまひろは970年生まれと書いてあるそうだ。

asa-dora.com

 そうだよね・・・まひろがまだ数え12歳じゃ(つまり満11歳)、どうしても道長19歳との恋の話は進めづらい。見ている側の現代の価値観が邪魔をして「いいのかな~」とすっきり応援できない気分が残る。

 数え15-16歳だってどうなの?という声はあろうけれども、相手がオッサンじゃなくて19-20歳だからギリ若者同士の恋として今の価値観でもOKじゃないか。その点も考慮して、NHKは970年生まれに主人公を設定したんだと思う。

 さて、漢詩の会に話を戻す。世は寛和元年(985年)となり、まひろは数え16歳とますますこちらがホッとする年齢になり、父のお供で道隆の家での漢詩の会に参加した。漢詩が苦手だから遠慮するみたいなことを言っていた道長はやっぱり登場、彼抜きでのF4は有り得ない。

 ここで、遅れて入ってきた道長と、まひろは視線を交わしてハッとするんだね・・・会の最中だから無言なのがもどかしい。だけれど道長、やってくれました!

 漢詩については詳しくないので(いや、他も詳しくないけど)、現代語訳がご本人たちのナレーションで入ってくれたのが助かった。道長の選んだ詩はこうだった。これを父為時が詠みあげるというね・・・もう、まひろはどうしていいかわからないシチュエーションだ。

下賜の酒は十分あるが 君をおいて誰と飲もうか

宮中の菊花を手に満たして私は ひとり 君を思う

君を思いながら 菊の傍らに立って

一日中 君が作った菊花の詩を吟じ むなしく過ごした

 素人には、まひろを想う恋の歌にしか聞こえなかった。まひろにもそう聞こえたはず。朗詠される間の吉高由里子の表情が物語っている。でも、その場にいる他の人たちにはそう聞こえず二人だけが気持ちを通わせているという、ウルトラうまい設定だ。

 「道長殿もお見送りを」「道長殿?」とせっつかれなかったら、道長は何か言葉をまひろに掛けていたのかな・・・いや、隣にききょうがいるもんねえ、無理だったよね。視線だけを交わすふたり。これがまた、もどかしさを増したシーンだった。

 漢詩に限らず、和歌やら当時の古典の素養のある方たちのネットでの解説が頼りになる。読むと、本当に勉強になる。それを素人なりに乱暴にまとめると(間違ってるかも😅)、道長の漢詩にある「君」こそが、ききょうの言った「白楽天の無二の親友だった元微之(げんびし)」であり、この詩は彼のことを白楽天が詠んだものだったらしい。

 そして、ハツラツと発言していたききょう(ファーストサマーウイカが良い味、後の清少納言)の言葉を聞いた時の、道隆の妻高階貴子のニッコリ微笑みが意味深。貴子の漢籍の素養は実家の関係で大したものらしく、将来の定子の女房としてききょうに唾つけた、ということなんだろう。

 後に、白楽天と元微之の関係は、ロバート秋山演じる実資と道長との関係になぞらえられるらしい(実資に可愛がられてたはずの道長の方が、すいすい出世していったので)。実資の書いた「小右記」に道長の有名な望月の歌が記録されていることは知られている。

 この漢詩の会で、ききょうが良いと言った斉信の選んだ漢詩の一節も気になった。「酒をなみなみと注いでくれ。早くしないと花が散ってしまう・・・」。

 なんと縁起の悪い。まさに斉信の一族が頼りとする女御の妹の命は散ろうとしていたのに。「お隠れに(死んだ)」と聞いた花山天皇は、被り物もせずに(つまり現代ではパンツいっちょの感覚らしい)寝所から飛び出てきたほど慌て、哀れだった。

 ずっとセリフ無しだった井上咲良は、お隠れの前にセリフがあって良かった。お兄ちゃん、瀕死の妹を前に出世の話ばかりで鬼だったけどな(はんにゃだけにw)。

恋文キターーーーーー

 そして!とうとう!道長からの文がまひろのもとに届けられた。

ちはやぶる神の斎垣(いがき)も越えぬべし

恋しき人のみまく欲しさに

 なんと直球な・・・恋しい人に会いたくて神聖な斎垣も越えちゃいそうって、これは、まひろも恋文を思わず胸に抱くよね。

 確か「源氏物語」で六条御息所が娘の斎宮に付いて伊勢に下る前に、光源氏は精進潔斎の場にも関わらず彼女に会いに行って、この伊勢物語の本歌を踏まえて斎垣も越えるとか何とか会話していた。

 この場面の道長の気持ちは、源氏のあの場面をまざまざと思い出させたが・・・何だっけ、野々宮詣で・・・確認したところ「賢木」の巻だった。

【源氏物語】【賢木 02】源氏、野宮に六条御息所を訪ねる【原文・現代語訳・朗読】

 解説の部分に「斎垣も越えはべりにけれ 『ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし大宮人の見まくほしさに』(伊勢物語七十一段)。『ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし今はわが名の惜しけくもなし』(拾遺・恋四 人麿)などをふまえる」とある。

 道長の歌は伊勢物語の本歌取りだけれど、気持ちで言ったら後者の歌の方が近そう。これは万葉集?

 ドラマの道長とまひろの関係で言えば、越えなければならない「斎垣」は仇同士ということ。まひろの母を道長の兄が殺した、その忌まわしい重い鎖の関係を越えても「恋しき人」って・・・ヒューヒュー(古い)言いつつ、次回の展開をおとなしく待つか。

 ただ、まひろは道長から離れることを心に決めていた。さて次回、どうなるのか。

道長から離れるために、まひろが決めたこと

 まひろが「紫式部」へとなるために動き始めた兆しのような描写も、今回は見られた。984年も暮れのこと、道長が道兼に一族の闇を突きつけられ慄然としていた頃のことだ。

 (そういえば、道長が道兼の殺人を忘れるとずいぶん簡単に言っていたように見えて、「どうして?」と疑問だった。もっと引っ張るかと思った。道長も、この時には「まひろのことを思い切るしかない」と考えていたのだろうか。)

まひろ:(心の声)私は道長様から遠ざからなければならない。そのためには、何かをしなければ・・・この命に、使命を持たせなければ

 この三段論法が、どうもしっくり来なかった。なぜそうなるか?と。

 「道長から遠ざからなければ」の次に「何かをしなければ」と来たら、どこか具体的に彼から離れるような手段を講じる話かと思った。例えば、父に受領になってもらって地方に下り、同行することで物理的に彼から離れるか。または、心理的距離を取るために、あえて誰かと結婚してしまうか。ますます左大臣家ベッタリになるのもそうだろう。

 しかし、そうじゃないみたい。「何かをしなければ」の後に続くのは「この命に使命を持たせなければ」なのだ。使命を与えられれば、本当の望みを手放すこともできるということか・・・つまり使命とは、自分を支える「人生の拠り所」になる何かのことだよね。

 まひろの場合、自分の心の奥底を素直に見つめれば、真の望みは、言葉と裏腹に「道長と共にあること」だと理解していそう。それを悲しく諦める、その代わりに欲しいのは自分を奮い立たせる何か、ということか。

 さて、その後、散楽一座の出し物の台本を書く気になったまひろ。五節の舞で倒れた舞姫の話(自分のことじゃんね)はどうかと振られて、「じゃあ、こういうのはどう?」と直秀ら一座に考えた話の筋を伝えるが、一座には受けない。そして言われてしまう。

直秀:大体、その話のどこがおもしろいんだ。散楽を見に来る民は皆、貧しくカツカツで生きてる。だから笑いたいんだよ。笑って辛さを忘れたくて辻に集まるんだ。下々の世界では、おかしきことこそめでたけれ。お前の話は全く笑えない。所詮、貴族の戯言だ。

まひろ:・・・ん~笑える話。今度、考えてみるわ。じゃあね、稽古頑張って。

 これでまひろは、自分が好きなように書くだけではなく、受け手を楽しませるというプロ意識を持って、作家として歩みを進めることになるのだろうか?「源氏物語」を書く大作家への第一歩かな。

思惑入り乱れ、道長は婿入りへ?

 左大臣家の姫・倫子は、サロンにてまだ馴染めない振舞いをするまひろも排除せず、温かく接する。まひろの話を聞いて「苦手なものを克服するのも大変ですから、苦手は苦手ということでまいりましょうか」と声を掛け、「内裏でのお仕事は鈍いくらいでないとね」と父・左大臣を引き合いにやんわり教育する。サロンの女主人として、なかなか賢い。

 やはり、猫を追いかけたのは右大臣・兼家の目に留まるよう、わざとだったかな(そもそも、上級貴族の姫が、邸内とはいえ人前にて走る!なんて有り得ないとは思うが、ドラマだし)。

 倫子の思惑通り、兼家は道長に「左大臣家の一の姫はどうだ」と言い、婿入りを勧めた。兼家も、左大臣家と結び付くことができれば何かと都合がいいからだ。

 そして、同じく左大臣家への婿入りを道長に勧めた人がいた。「私には裏の手がありますゆえ」と前回、兄の道隆に啖呵を切っていた姉の詮子だ。やはり詮子が意志を持って動き出した。

 彼女は左大臣源雅信を呼び出した(ふたりの間に存在するはずの、女御様の前の御簾はどこに行った)。

 そうそう、この時、「東宮様をあちらへお連れ申せ」と詮子に言われて「さあ、参りましょう」と東宮を誘ったのが乳母の藤原繁子。詮子の叔母、兼家の妹に当たる人物だ。

 この繁子さん、なんと道兼の妻だと公式サイトに書いてあったので仰天した。道兼の妻にしては・・・老けているよね。父の妹だし(この時代の感覚では同母でなければOKみたいだけど)。どういう経緯で妻になったのだろう。東宮様の乳母なんだから、道兼の思惑は推して知るべしだ。

 脱線した。東宮を去らせてからの、ストレートな詮子と源雅信との会話は見ものだった。

詮子:わざわざ局まで来ていただいて、済まぬことです。

源雅信:とんでもないことでございます。されど、女御様が私に御用とは何事かと存じました。

詮子:先の帝に毒を盛り、ご退位を促したのは我が父であること、ご存知でしたか?

雅信:そ・・・それはさすがに、それは有り得ぬと存じますが。

詮子:ご退位の直前に帝ご自身がそう仰せになったのです。間違いありません。私はもう父を信じることは出来なくなりました。都合が悪ければ私とて懐仁とて手にかけるやもしれませぬ。

雅信:それはございませんでしょう。

詮子:危ないので、表立って父に逆らうことはしません。されど、私は父とは違う力が欲しいのです。もうお判りでしょう。(困った顔をしている雅信)もう私の言葉を聞いてしまった以上、後には引けませんよ。覚悟をお決めなさい。(膝を進めて)末永く東宮と私の力となること、ここでお誓いなさい。・・・さもなくば父に申します。左大臣様から、源と手を組まぬかとお誘いがあったと。

雅信:そのような理不尽な・・・。

詮子:私は父が嫌いです。されど父の娘ですゆえ、父に似ております。

雅信:・・・私なりに、東宮様をお支え致したいと存じまする。

詮子:ああ・・・(一段降りて、まさかの雅信の手を取って!)有難き御言葉。生涯忘れませぬ。(手を放して)ところで、左大臣様の一の姫はおいくつですの?

雅信:22でございます。

詮子:殿御からの文が絶えぬそうではありませぬか。

雅信:いや・・・それが全く関心を示しませんで、殿御を好きではないのではないかと妻とよく話をしておりますが・・・。

詮子:そうですか・・・私のように入内して辛酸を舐めるよりはよろしいかもしれませぬ。

(雅信退出、道長がやってくる)

詮子:ああ道長、やっと会えたわね。お前、左大臣家に婿入りしなさい。

道長:は?

詮子:評判の姫らしいわよ。年は少し上だけど、それもまた味があるわ。

道長:味・・・何でございますか?それは。

詮子:フフフ。私の言うことに間違いはないから。いいわね。

道長:(無言)

 詮子がこんなにもあからさまな手段に出るとは思っていなかったが、彼女はただ父にやられて打ちひしがれている人間ではなかった。

 大きな不安を抱えていただろうに、それを逆手に取り、父に匹敵する左大臣に目をつけて自分の力の源にしてしまおうと考えるだけでも凄いが、奥方やらの女同士の関係を頼っての裏から手を回すのではなく、表立っての乾坤一擲の直談判で左大臣にYESと言わせてしまった。いやはや。

 倫子が自ら蒔いた種も少しはあるにせよ、お気の毒にも、左大臣家は右大臣家の内部闘争に巻き込まれるのが決まってしまった。逃げ場は無かったね。

 詮子(吉田羊)が「父に似ております」と言った時、確かに表情まで段田安則がちらついた。確かに顔の系統は、よくよく見るときょうだいの中で一番兼家に似ていた。そして思考も兼家張り。皮肉にも、道隆・道兼・道長の三兄弟よりも一番父の血を色濃く受け継いでいたらしい。

 そして、道長は完全に「何の話?」状態で自分の婿入り先が決まった。今は、まひろのことで頭がいっぱいなのにねー。貴族の結婚なんぞ、そんなもんだろうが、彼も源雅信もお気の毒。

(敬称略)

【光る君へ】#5 特別な絆=道長は仇の弟、重い鎖で結ばれたふたり

ずっと心にしまわれていた、あの日の事

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第5回「告白」が立春の日の2/4に放送された。公式サイトからあらすじを引用させていただく。

(5)告白

初回放送日: 2024年2月4日

道長(柄本佑)が右大臣家の子息であり、6年前に母を手にかけた道兼(玉置玲央)の弟であることを知ったまひろ(吉高由里子)はショックを受けて寝込んでしまう。事態を重く見た、いと(信川清順)はおはらいを試みる。一方、まひろが倒れたことを聞いた道長は、自らの身分を偽ったことを直接会って説明したいとまひろに文をしたためる。直秀(毎熊克哉)の導きでようやく再会することができたまひろと道長だったが…((5)告白 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 前回描かれた五節の舞の後、やっぱり倒れて寝込んでいたまひろ。お祓いに来た憑坐と法師陰陽師は、乳母のいとが御方様は亡くなったと言ったことで怪しげに頷き合い、まひろが倒れたのを亡き母ちやはのせいにしてお礼の米を稼いで去った。

 いとは弟惟規の乳母であり、初回から登場しているが、いいとこある。ちゃんとまひろのことも心配して、当時の人並みな「治療」のために彼らを呼んだわけだ。「もう呼ばないで」とまひろは言ったが。

 まひろは、お礼参りの帰りに母親が殺されているのだ。神仏等への信頼は薄くもなるだろう。

 父・為時が、正気に戻ったまひろに、初めて思いを正面から告白した場面も心に残った。父にお願いもされた。でも、それをまひろが素直に聞ける訳もない。家族の誰かが殺されて、皆が皆同じタイミングで同じ方向を向ける訳もなかろう。

為時:わしは賭けたのじゃ。お前が幼い日に見た咎人の顔を忘れていることに。されど、お前は覚えておった。何もかも分かってしまったゆえ、分かった上で頼みたい。惟規の行く末のためにも、道兼様のことは胸にしまって生きてくれ。ちやはも、きっとそれを望んでおろう。

まひろ:母上が?

為時:お前が男であれば大学で立派な成果を残し、自分の力で地位を得たであろう。されど惟規はそうはゆかぬ。誰かの引き立てなくば、真っ当な官職を得ることもできぬ。

まひろ:右大臣様におすがりせねばならぬゆえ、母上を殺した咎人のことは許せと?!

為時:お前は賢い。わしに逆らいつつも何もかも分かっておるはずじゃ。

まひろ:わかりません。(顔をそむける)

 五節の舞姫のひとり(まひろ)が倒れたことは憑き物につかれたと噂になっており、それが道長の耳にも届いた。分かりやすく、無言で立ち往生した道長は、まひろの昏倒は自分の素性を舞の途中に知ってしまったことが理由だと考え、手紙を書いたんだけど・・・。

 この時点での手紙の様子を察するに、色恋のカケラもない感じ。道長はまひろへの気持ちがまだニュートラルだと信じていて恋だとは意識できていないからなのか、単に彼が無粋なのか。この時点では何とも言えない。

 とにかく道長はまひろに謝りたい気持ちになった訳だが、彼が思いもしなかった告白が待っていたんだよね。

(六条のどこか、まひろが待っていると直秀が道長を連れてくる)

道長:右大臣藤原兼家の三男、道長だ。

まひろ:三郎じゃなかったのね。(横目で見ている)

道長:三郎は幼い時の呼び名だ。出会った頃は三郎であった。お前を騙そうと思ったことは一度とてない。驚かせてしまって済まなかった。会って話がしたいと思い、文を書いた。

まひろ:父の前でそのことを詫びて、どうしようと思ったの?

道長:ただ・・・詫びるつもりであった。(柱の陰で直秀が聞いている)

まひろ:(道長の方を向いて)誠は・・・三郎が道長様だったから倒れたのではありません。あなたの隣に座っていた男の顔を見たからなのです。

道長:道兼のことか?

まひろ:あの顔は一生忘れない。

道長:兄を・・・知っているのか?

まひろ:6年前・・・母はあなたの兄に殺されました。私の目の前で。(驚く道長)6年前、父は播磨の国から戻っても官職を得られず、食べることにも事欠いて下男や下女が逃げ出してしまうほど貧しくて・・・そんな時、右大臣様が東宮様の漢文の指南役に父を推挙してくださったのです。官職ではないけれど、父も母もこれで食べていけると喜んで、次の日、母はお礼参りに行くと言いました。

 私が河原で三郎と会う約束をしていた日で・・・私は三郎に会いたかった。行かないって言ったけど、行きたかった。

回想のちやは:(小走りのまひろに)まひろ、今日のあなたはおかしいわよ。(馬のいななき)

回想の少女まひろ:あっ!

回想の道兼:(馬で疾走、まひろと出会い頭にぶつかりそうになり、落馬。下男の刀を抜いて走り、その場からまひろを守って離れようとするちやはを背後から刺す)

まひろ:あの道兼が・・・(ちやはの返り血を浴びる道兼の顔)三郎の隣に座ってた。もし道兼だけだったなら、私は人殺しと叫んでいたかもしれない。でも、三郎が居て。

道長:(表情を失って)すまない。

まひろ:父は、禄を頂いている右大臣様の次郎君を人殺しにできなかったの。

回想の為時:(涙を流しながら)急な病で死んだことといたす。

回想の少女まひろ:なぜ!母上は殺されたのよ!父上!

まひろ:東宮様のご様子を右大臣様にひそかに知らせる役目もしていたから。

道長:すまない。謝って済むことではない・・・が、一族の罪を詫びる。許してくれ(頭を垂れる)。

まひろ:兄はそのようなことをする人ではないと言わないの?

道長:俺は・・・まひろの言うことを信じる。・・・すまない。

まひろ:別に三郎に謝ってもらいたいと思った訳じゃない。

道長:ならば、どうすればよい。

まひろ:わかんない・・・三郎のことは恨まない。でも、道兼のことは生涯呪う。

道長:(胸を押さえて)恨めばよい。呪えばよい。

まひろ:あの日、私が三郎に会いたいって思わなければ・・・あの時、私が走り出さなければ・・・道兼が馬から落ちなければ・・・母は、殺されなかったの。だから、母上が死んだのは私のせいなの。(しゃくり上げ、ひどく泣きながら)

道長:(まひろに歩み寄り、背中に手を回す)(直秀、去ろうとする)待て。お前、名前は?

直秀:直秀だ。

道長:直秀殿。今宵は助かった。礼を言う。

直秀:直秀でいい。

道長:まひろを頼む。(走って去る)

直秀:帰るのかよ・・・。(まひろ、泣き続けている。馬のいななきが響く)

 今回のクライマックス。この吉高由里子の演技を、柄本佑は「ゾーンに入っていた」と2/10のスタジオパークで言っていたが、本当に演技とは思えない、見ているこちらも心が深く痛む、涙を抑えられない演技だった。

 まひろ、この6年間ずっと辛かったね!と、そっと背中に手を置きたい気持ちにこちらもなっていたので、「まひろを頼む」とその場を後にする道長に「帰るのかよ」と直秀と一緒に突っ込んだ。

 気持ちは分かるけど、まひろが6年越しにやっとのことで心の中身を言葉にしたのだから(多分初めてのことだろう)、自分の気持ちの解決に走らず、一旦受け止めてほしかった。

 まひろは「母上が死んだのは私のせいなの」と言った。そう言葉にするのはどれだけ辛かったことか。だけれど、そうじゃない。仮に、馬上にいたのが道兼じゃなくて道長だったら?長兄の道隆でも良い。少女まひろに出会い頭にぶつかるのを避けようと落馬したとしても、ちやはが殺されることなぞは無かったと容易に想像がつく。

 あれは道兼個人のせい。まひろのせいではない。まひろは悪くないんだよ、と言ってあげたいけど・・・この被害者遺族の罪悪感・自責の念(サバイバーズギルト)は、周りがそう言っても理屈じゃなく、簡単には拭えるものじゃないと聞く。それは故人を助けたかった愛情ゆえのことだよね。苦しみから脱するには時間もかかるだろう、本当に痛ましい。

 (孫娘が殺され、その時に在宅していた祖母が事件に気づかず孫娘を守れなかった罪悪感から「私が殺した~(ようなもの)」と嘆き悲しんだら、それを真に受けた警察に逮捕されてしまった冤罪事件が昔あったと記憶している。いやいや、あなたは家にいただけで殺してないでしょ、というロジックが通じない程の大きすぎる悲しみの表明が祖母の「私が殺した~」だったのだろう。今は被害者支援も進み、そんなポンコツ警察は無いだろうけど。)

 この重すぎる罪悪感を、物語とはいえ、まひろはたった6歳で抱えてしまった。殺人者は処断もされずにおれば、余計に心の中で自責感が膨れ上がるんじゃないか。その溜め込んだ感情が怒りとなって、父に向っていたのだろうね。

自分は加害者の弟、という重い事実

 「まひろを頼む」と言って道長が向かった先は、道兼の下。当時、自分が道兼から受け続けた暴力の経験からも、道兼ならやりかねないと考えただろうが、道長らしく、慎重に確認から入った。

 満月の夜、ひとり馬を走らせる道長の複雑な胸中を思うと・・・自分はまひろの仇の弟かもしれないのだ。兄弟の縁は切りたくても切れない。道兼には否定してほしいと、そう思っていただろうな。

道長:兄上。6年前、人を殺めましたか?お答えください。

道兼:やっと聞いたな、お前。やはり見ておったか。(回想。返り血を浴びた道兼の姿を見てしまった、当時の三郎)虫けらのひとりやふたり、殺したとてどうということもないわ。

道長:何だと・・・(道兼の胸ぐらをつかんで)虫けらは・・・お前だ!(道兼に殴りかかる)

道兼:(殴られ、烏帽子も取れて)父上に言ったのはお前ではないのか?

道長:え?

道兼:父上もご存知だぞ。何もかも父上が揉み消してくださったのだ。

道長:(兼家を見て)誠でございますか?!

兼家:我が一族の不始末、捨て置くわけにはゆかぬでな。(愕然とする道長)

道兼:そもそもお前が悪いんだぞ。

回想の時姫:何をしておる!

回想の三郎:弱き者に乱暴を働くは心小さき者のすることと申したら、兄上が・・・。

道兼:お前が俺をイラ立たせなかったら、あのようなことは起こらなかった。あの女が死んだのも、お前のせいだ。(道長、言葉を失う)

兼家:ハハハハハハハ・・・。道長にこのような熱き心があったとは知らなんだ。これなら我が一族の行く末は安泰じゃ。今日は良い日じゃ。ハハハハハハ・・・。

 まひろの仇の弟だったと分かった道長には最悪の日を、良い日じゃと言って笑う父兼家。道長にも闘争心があると見て、安泰じゃと言ったのだろう。熱き心が発動するポイントは、親子で大きく違いそうだけれど。

 道兼がネットでサイコパスと呼ばれていたが、サイコパスならこの父の方では。前述の例え、もし兼家が馬上にあって少女まひろと出くわしていたら?彼なら、片頬にあの笑みを浮かべつつ事も無げにちやはを惨殺したかもしれない。その前に、まひろをも平然と片付けたかも。ゾッとする。

 兼家と道兼は同じ思考回路を持つかのように見えるが違うようだ。道兼は、ただ父に褒められたい一心なのだと思う。

 そして道兼にとり、父母それぞれが目をかける弟は、どこまでいっても憎い存在。ただ、武官でもあり体格で上回る道長には、いつの時点からか力で叶わないと観念しているのだろうか。殴り返しては来なかった。

 しかし、道兼は言葉で道長の心を抉った。「お前が俺をイラ立たせなかったら」「あの女が死んだのも、お前のせいだ」と。優しい普通の人たちは、こういった言葉に素直にやられる。道兼は典型的な「せいだ病」にかかっているDV気質のクズ男だとよくわかる。

 まず「子どもじゃあるまいし、自分で自分の機嫌ぐらい取れ!」と、こういうクズ男には言いたい。転んだ娘の定子に、自分で起き上がるように導いた道隆の妻・高階貴子に指導してもらいたい。そんな弱い心で、宮廷を渡っていける訳がない。

 そして、「じゃあ何?あんたは遠隔操作されて人を殺したとでも?頭が空っぽな操り人形なんだね!」と言いたい。「大奥」の黒木様だとはとても思えない。ああ、ムカムカする(程の素晴らしい演技をするよね、中の人)。

 このクズ男の兄になんか負けるな、道長!しかし、道長の心はクズ男の言葉にハマって罪悪感いっぱい。自分はまひろの仇の弟、それも自分のせいだという重い十字架をドーンと背負ってしまった(たぶん)。まひろは道長のことは恨まないと言っていたけれど、恨まれて当然だ、と(きっとそう)。

 公式サイトの相関図を見ると、まひろと道長の間には「特別な絆」があると示されているが・・・それは、身内が被害者と加害者の「仇関係」だったのか。しかも「そもそもは自分のせいだ」と思う自責感の強い者同士。この心理的な障壁は手ごわそうだ。貴族の格の差もあるし。

 まあ、まだ数え年12歳と19歳だから。まひろが書くことになる「源氏物語」では紫の上も12歳で適齢期扱いだったけれど、NHK的には現代の視聴者向けにそんな恋人関係は描きたくないだろう。しばらくは焦らされるはず。でもずっと焦らされたくはないなあ。

 ところで、どこかで見たが(多分X)、紫式部が後々イケオジ宣孝と結婚して儲ける賢子は実は道長との子で、カモフラージュのために宣孝が結婚した形にしてくれるのでは?という考察だったのだけど・・・なぜにカモフラージュする必要に迫られるのかはさて置いておいても、もう道長と結ばれない結末は悲しすぎるから、その路線に1票入れておきたい。

花山天皇、政争に敗れたから悪評をたてられた?

 前回書きそびれた花山天皇。今回、彼が愛する忯子(井上咲楽。はんにゃ金田演じる斉信の妹・弘徽殿女御)は、何かセリフを言う前に早くも病んだ。

 前回入内し、NHK的には限界プレイ(手首にリボンをぐ~るぐる)に挑んでいたとネットでも騒がれたが、ご寵愛が過ぎて・・・というか、要するに懐妊し、つわりに苦しんでいるようだ。

 この忯子の腹の子を呪詛し奉ることを、安倍晴明が藤原兼家だけじゃなく、公卿一同に命じられていたシーンが怖かった。御簾の陰に並んでいた皆が皆、自分たちが仕える今上天皇の子を殺そうと言っているのだ。

 段田安則の兼家は、以前は関白の娘・遵子が身籠らないように何とかしろと晴明に命じていた。娘が天皇の子を産むかどうか、それで一族の命運が分かれる時代だ。

 そして権力闘争によって何かが歪み、おかしくなった人間が兼家なんだろう。「内裏の仕事は騙し合いじゃ。嘘も上手にならねばならぬぞ」と息子に教えていた。

道長:そういえば、先日四条の宮で公任や斉信らが帝のご在位は長かろうと話しておりました。

兼家:ほう。

道長:帝はお若く、お志が高く、すばらしいと。

兼家:お前もそう思うのか?

道長:分かりませぬ。

兼家:分らぬことを分からぬと言うところはお前の良いところでもあるが、何か、己の考えは無いのか?

道長:私は、帝がどなたであろうと変わらないと思っております。

兼家:ほほう・・・。

道長:大事なのは、帝をお支えする者が誰かということではないかと。

兼家:そのとおりじゃ。よう分かっておるではないか。フフ。我が一族は、帝をお支えする者たちの筆頭に立たねばならぬ。筆頭に立つためには東宮様に帝になっていただかねばならぬのだ。わしが生きておればわしが立ち、わしが死ねば道隆が立つ。道隆が死ねば道兼がお前か、道隆の子、小千代が立つ。その道のためにお前の命もある。そのことを覚えておけ。

 このあたり、「鎌倉殿の13人」で聞いたような話だ。同じようなことを、若き北条義時も、道長も言われている。筆頭=てっぺんに立ちたいんだね。その争いがドロドロの素だ。

 兼家は、道長とのやり取りで、花山天皇が若く、志高く、思いのほか長期政権になるのではとの若手連中の見方を知り、早速阻止に動いたようだ。関白、左大臣と談合し「未熟な帝と成り上がりの義懐ごときは、ねじ伏せればよろしい」と息巻き、珍しくも大臣同士意気投合した。

 花山天皇は、贅沢を禁じ、銅銭を世に広め、正しい手続きを経ていない荘園を没収する荘園整理令など「新しい政治」と称してあからさまに関白と左右大臣らの力を抑える思い切った政策を取ろうとし、危なっかしい。ロバート秋山(黒いけど、思いの外ちゃんと演技しているよね)の実資も忠告していたが、若い天皇を、側近の義懐(「梅ちゃん先生」が懐かしい高橋光臣)らも守り切れなかったのだろう。

 次回以降に描かれる退位の顛末が注目だが、まだ20歳にもなっていない真っ直ぐな若さ、純情さが哀れだ。あっけなく兼家の描いた罠にはまるのだろう。

 花山天皇は、あまり評判が良くない人物だが、公卿らに真正面から戦いを挑み過ぎ敗れ、そのせいでこれでもかと悪評をたてられ、女好きなどの人物像も作られたような気がしてならない。

 現代の政治にも通じる話か。自分たちの脅威になってくると見ると、お雇いのDappiを使って悪評を散々に煽り立て、精神的に追い詰めてお払い箱にする、とか?権力を握る人間のやることは変わらない。

 前回、父兼家になるべく早く花山天皇を退位させる方策を問われて、天皇としてとても相応しくない悪い噂を流す、その準備は万端整っていると道隆は言っていた。(以前に卑怯な噂を流せと言われて怯んでいたけど、父に言われれば何でもやるようになるんだな・・・。)

 それが、即位式で高御座に女官を引っ張り込んで事に及び・・・との噂だったのだろう。即位式では本郷奏多の花山天皇は、女を引っ張り込むどころか、「ほれ、ほれ」と扇を操る奇妙な足技を見せることも無く、大人しく座っている映像が出たものね。

 次回、悲しんで心が弱っているところをやられてしまうのだね。哀れだ。

倫子様のたくらみ?

 一つ一つの出来事が、当時は計算尽くで企まれ動いていたと見えてきてしまうと、あの猫が走り抜けたのも、もしかしたら・・・と思った。

 冒頭の、まひろが倒れて不在の左大臣家のサロン。メンバーの茅子が「どうせなら、帝とか右大臣家の3人のご兄弟とかならよかったのにね」とサブングル加藤の侍従宰相のお通いがあった肇子について話す。

 倫子は「右大臣家の3人のご兄弟はそんなに見目麗しいの?」と聞く。茅子は「はい。皆様お背が高くお美しゅうございました」と、にこやかに答えた。

 ふうん、お美しいんだ・・・そう心にとめた倫子が行動を起こしたのではないか。

 左大臣家で関白と右大臣が談合をする場に、倫子は猫を追って現れた。「小麻呂!」と呼ぶ倫子の声が響き渡り、一旦猫が逃げた方向に消えたが、戻って「失礼いたしました」と詫びた。

 そこで父の左大臣が「ご無礼致しました。今のは我が娘、倫子にございます」と説明、右大臣の兼家は興味深そうに目を凝らして倫子を見ていた。

 これで、見目麗しい3兄弟は射程に入った。関白の様子は不明だったが、関白の嫡男の公任は尚更美しい公達であるし、どちらに転んでも悪くはない。姫様、やる時はやる。

詮子の「裏の手」

 道長の姉の詮子にも注目している。今回は、兄の道隆が父・兼家との仲たがいを収めようと詮子の下に来ていた。妹でも女御様で東宮の母だから「詮子様」だ。

 「分かり切ったことを、誰に向かって言っているのですか?兄上は」と詮子が腐す。道隆は「分かっておられるなら是非、父上と和解を」と畳みかけるが、詮子は「嫌です」ときっぱり。

 さらに「愛しき夫に毒を盛った父を、私は生涯許しませぬ」「父上には屈しませぬ。私には裏の手がありますゆえ」と宣言した。

 この「裏の手」は何だろう?とワクワクする。前回、気に入りの道長を左大臣家に婿入りさせ、右大臣家の権力を道長に取って代わらせることを目指して詮子が動くのかと思ったが、婿入りの話は、また別口で兼家と倫子の思惑で動きそうな雲行きだ。

 となると、裏の手?楽しみにしておく。

(敬称略)

【光る君へ】#4 二重のショックに負けず五節舞をやり切ったまひろ。次回が待てない

まひろはまだ子どもだよね

 NHK大河ドラマ「光る君へ」第4回「五節の舞姫」が1/28に放送された。さっそくあらすじを公式サイトから引用する。

(4)五節の舞姫

初回放送日: 2024年1月28日

互いに身分を偽ってきたまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)だったが、まひろはついに素性を明かす。道長も真実を語ろうとするが…その頃、円融天皇(坂東巳之助)の譲位を知った詮子(吉田羊)は挨拶のために謁見するが、思いもよらぬ嫌疑をかけられる。ある日、まひろは倫子(黒木華)からの依頼で、即位した花山天皇(本郷奏多)の前で五節の舞を披露する舞姫に選ばれる。そこでまひろは驚愕(がく)の真実を知ることに…((4)五節の舞姫 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 コロナの倦怠感が長引く中、頭も回らないが最後の五節の舞は目が離せなかった。あまり見てないのにイメージだけで物を言ってなんだけれど韓国ドラマ風というか、昔の山口百恵の「赤いシリーズ」(←古い・・・💦「赤い衝撃」とかね)みたいなインパクトと言うか。

 五節の舞と言えば、「源氏物語」では「少女(おとめ)」の巻で光源氏の従者の惟光の娘が舞姫に選ばれて華やかに舞い、源氏の息子の夕霧は舞姫に懸想する。彼女は典侍という女官として宮中への出仕が決まっているから一時離れるものの、後には夕霧の側室になる。

 昔、このあたりを読んだ時に勝手に華やかな舞を妄想して私までフワ~っと舞い上がっていたが、それが映像として見られたのが本当に嬉しかった。NHKならでは、録画を何度でも見返したい。

 吉高由里子も美しく、「お目に留まらない自信がある」なんて訳がない。美しい女優さんが演じる主人公が自分は美しくないと思い込んでいるドラマあるあるだ。

 しかし、すごいことになった。このゴージャスな舞の最中に、まひろは緋色の袍(=五位、つまり父親の六位より上位)を着ている三郎(居眠り中w)を見つけてしまい、隣には母を殺した殺人者「ミチカネ」を発見!!よく立ち往生せず、扇を取り落とすこともなく、舞を続けられたものだ。舞っている最中は、まだ考えがまとまらない部分があったからか。

 他の舞姫たちが右大臣家の3兄弟を丁寧に説明してくれたことで、まひろは三郎(道長)の素性をしっかり認識した。そしてミチカネ(道兼)についても。セリフの「道隆様」に続けての「道兼様」がとても言いにくそうで、見ているこちらは「分かるわー。まひろの心理的抵抗感が出てる吉高凄い」となった。まひろがくず折れそうなところで第4回は終わったが、次回のまひろは、きっと心がパンクして寝込むだろうね。

 まひろは女子の成人式である裳着の儀を終えていたけれど、年齢は今の高校生ぐらい?冒頭で永観二年(984年)と書いてあったので、時代考証を務めておいでの倉本一宏著「紫式部と藤原道長」の巻末にあった略年表を見てみたら・・・えええ、紫式部の生まれは973年?!984年は満年齢で11歳、数えでもまだ12歳程度か。そりゃまだ子どもだ。確かに子どもっぽい演技をしているもんね、吉高由里子は・・・。

 ちなみに、道長は966年生まれ。984年時点では年表には19歳だと書いてある。数え年で19歳なんだな。12歳と19歳、現代だとちょっと問題があるカップルだね。

 しかし、12歳の女子が男の声を出して代筆仕事なんかできるのかなあ・・・まあ、そこのところ、あまり真剣に考えないようにしよう。

 まひろは、左大臣家の倫子(確か前回20歳とか言っていた?)にたしなめられる場面(竹取物語について話す「絵合」の巻を思い起こさせる)や、宣孝に愚痴をこぼす場面を見ていても、考えが浅く、確かにまだまだ子どもだ。その彼女が、子ども心を砕かれた母殺害事件。母の仇ミチカネと、恋心を抱く三郎との関係を目の当たりにすれば、それはショックだろう。

 ドラマ終わりで次回予告を見せられちゃったので、次の第5回「告白」では、あの日の事件についてまひろが涙ながらに道長に告げるらしいし、道長は兄の道兼と直接対決するらしい。ひゃー、これは絶対見なきゃ。

身分はまひろが下だった

 これまで、まひろは自分は貴族だけれど、三郎を貴族じゃないと思い込み悩んでいた。皮肉なものだ。

 父の為時が六位でずっと宮中でのお役目も無く、藤原でもずっと下だから気にしないで、と三郎に言っていたまひろ。宣孝に「あの男には近づくな」と言われた時に、こう嘆いていた。

まひろ:身分とはとかく難しいものでございますね。貴族と民という身分があり、貴族の中にも格の差がある。

宣孝:しかし、その身分があるから諍いも争いも起こらずに済むのだ。もしもそれがなくなれば、万民は競い合い世は乱れるばかりとなる。

 この後、まひろが父・為時に間者を頼まれた話題に移ってしまったので、この宣孝の言葉にまひろは特に反応せず終わった。

 これまでのところ、まひろは散楽の直秀に誘われて「面白そう」と一緒に付いて行こうとしたり(さすがに従者の乙丸に制されていたが)、身分差を気にしていない。それが世慣れぬ若さによるものなのか(つまり、大人へと年を重ねるに従って考えが変わっていくのか)、身分を気にしたくない反発心というか頑固さを既に強く持っているのか、まだ分からない。つまるところ、まだ子どもなんでね。

 三郎がいわゆる「民」の範疇にいると信じていたからこそ(つまり、貴族の自分の方が上)まだ余裕もあったのだろうけれど、実は彼が右大臣家の三男坊と知って、まひろはどう考え、どんな態度を取るようになるのだろうか。

第二の彼・直秀は盗賊だった

 ところで、既にまひろ(12歳の子どもだけど)を挟み道長と三角関係になっているように見える直秀(「まんぷく」塩軍団出身)は、散楽一座の仲間と共に盗賊を働いていた。あれだけ身軽なチームが、たまに辻で散楽やってるだけの集まりだなんて訳がなかった。

 ただ、まひろが左大臣家のサロンで言っていたように、盗み取った物を民に分け与える義賊なのだろうか?そこら辺は不明だ。

 以前のブログで私が「怪しい」と書いた、道長の従者の百舌彦にちょっかいを仕掛けていた女「ぬい」は消えてしまったが(もし、まだ出てくるようなら今後右大臣家に忍び込むための情報を百舌彦から得ていたか?)、散楽一座は当時の世相を見せてくれるネタの宝庫に見える。色々と楽しませてくれそうだ。

 字幕を見ていたら、一座の中心で口上を述べていた男の名は「輔保」と書いてあったので「え?もしかして」と思ったが、別人と勘違いをしていた。調べたら、頭に浮かんだのは貴族なんだけど盗賊として知られた「保輔」(藤原保輔 - Wikipedia)の方で、名前の字が上下反対だった。

 藤原保輔は988年に没しているので、ドラマの時代にちょうど生きているはず。保輔は輔保のモデルなんだろうか。

卑怯な円融天皇

 道長の姉・詮子(吉田羊)が、今回も可哀そうな目に遭っていた。

 ドラマでは前回までに、父の兼家が次男・道兼に命じて詮子の夫である円融天皇に毒を盛って体調を悪化させた。今回、天皇は詮子の産んだ自らの一人息子を東宮に据えたい気持ちから玉座を退き、花山天皇が即位した。東宮は望み通り、詮子が産んだ懐仁親王、後の一条天皇だ。

 懐仁親王を巡り、天皇と兼家の利害は一致していたのだが、待てない兼家は一刻も早く孫を東宮➡帝に据えて、自分が摂政になりたい。そのために円融天皇は早めに帝位を追われた。

 詮子は、足蹴にされても愛しい背の君として円融天皇をずっと見続けており、健気にも退位の折に挨拶に赴いた。相談された時に、道長ね、ちゃんと「挨拶に行くのは止めておきなよ」と言ってあげれば良かったのにね・・・。

 望みを断ち切れない詮子は、そう思いたくなかったのかもしれないけれど、円融天皇は最初から詮子を見て兼家を思い浮かべており、その点は気になった。

 つまり、ずっと目の前の詮子を見ずにバックの父親を見ている人だったのだろう。だから、この期に及んでも、詮子が述べる心を込めたいたわりの言葉が全く聞こえていないのだ。

 そうして、きっと兼家には面と向かっては言えなかったことを身代わりとばかりに詮子にぶつけ、とうとう扇を投げつけケガまでさせ、さらに「人のごとく血なぞ流すでない、鬼めが」と彼女を罵倒した。

 弱虫め、鬼はどっちだ、なんて卑怯な・・・坂東三津五郎のファンだったから円融天皇を演じる息子がこんな役で悲しくもなる。けれど、よく言えば人間臭い天皇の役をきっちり憎らしく演じたということだ。

 中の人も「政治的なことが絡んできて気持ちが変化」「これは現代の価値観からはとても理解できない」等とインタビューで言っていたが・・・そうだね、理解できない。円融天皇こそ弱虫の鬼だし、詮子は相当気の毒だ。

詮子、父と戦え!

 御所から退出してきた詮子が実家の宴に怒鳴り込んできた時、相変わらず「人でなし」な対応をする兼家。これには同席する道長も堪らないようだった。

詮子:父上!

兼家:おお、詮子様。

詮子:帝に毒を盛ったというのは誠でございますか!(道隆、道兼、道長が父の顔を見る)父上!

兼家:(とぼけて)一体何ごとで?

詮子:(兼家の前に進み出て、涙声で)帝と私の思いなぞ踏みにじって前に進むのが政。分かってはおりましたが、お命までも危うきに曝すとは。

兼家:何を仰せなのか分かりませぬな。お命とは、誰のお命の事でございましょう。

道兼:(お付きの者たちに?)下がっておれ。

道隆:詮子様、大きく息をなさいませ、大きく(座から立ち、詮子の背に手をかける)。

詮子:離せ!(座り込んで)懐仁のことも、もう父上には任せませぬ。私が懐仁を守ります。そうでなければ、懐仁とて・・・。

道隆:詮子様。

詮子:いつ命を狙われるか・・・。

道隆:詮子様、お口が過ぎますぞ。

詮子:(道隆に、怒って)兄上は何もご存じないのですか!嫡男のくせに!(道兼に、声を和らげて)兄上はご存知なの?(振り返って、ややきつく)道長!

道兼:薬師を呼びます。

詮子:要らぬ!薬など、生涯飲まぬ(立ち上がり、泣きながら出ていく)。

兼家:・・・長い間の独り身ゆえ、痛ましいことだ。これからは楽しい催しなどを考えて、気晴らしをさせてやらねばならぬな。(道長は反発する表情を浮かべる)飲み直そう。興が冷めた。

道隆:父上。存じ上げなかったとはいえ、今、事情は呑み込めました。詮子様にはお礼を申さねばなりませぬな。これで父上と我ら3兄弟の結束は増しました。何があろうと父上をお支えいたします。

(頭を下げる道隆、道兼。兼家の視線に促されて渋々頭を下げる道長。満足そうにうなずく兼家。横目で父をにらむ道長)

 ああ、ホントに人でなし。兼家が「長い間の独り身ゆえ、痛ましい・・・気晴らしをさせてやらねば」と言い出して、自分がやったことを棚に上げ娘をバカにするのも大概にしろ、人の心が無いのかと頭にきた。

 そして道隆は、詮子にお礼を言わねばと言いながら、父の敷いた道を突き進む。どちらも劣らぬ人でなしだ。こんなやり取り、詮子と仲が良いのだったら道長は付いていけないはず。

 今回のドラマの後、X(旧ツイッターと書くのが面倒くさい)をつらつらと楽しく見ていたら、その件について書いた面白いものがあり、そうか!と膝を打った。今、ブックマークしたはずのそのポストを探しているのだけれど見つからない😅なんでだ・・・。

 曰く、この実家である右大臣家のやり方に反発する詮子が、仲の良い弟道長をライバルの左大臣家にあえて婿に入れ、その道長と共に父や兄らに対して復讐に立ち上がるという内容だった。詮子は以後、天皇の母として左大臣家の道長を強力にバックアップし、右大臣家を追い落とす方向に動くというのだ。

 確かに!言われてみればそうかも・・・先ほど引用した場面では、「もう懐仁を任せない」と詮子は言った。国母をバカにするな!上等だ、戦ってやる!という決意を固め、宣戦布告が成された場面だったのかもしれない。

 だとしたら、これは吉田羊が演じる意味があるというものだ。厳しい戦いも、負けずに遂行してくれそう。

 本当にそう東三条院(詮子)が心積もりをしたかどうかは当然わからない。ただ、歴史は確かにそう動いていっているように見えるから、ピンとくる考察だと思った。

 道長の左大臣家への婿入りは、ドラマではどういういきさつで描くのかなと思っていたけれど、「詮子&道長」対「兼家&道隆&道兼」の、熾烈な親子戦争を絡めてくるのだとしたら。これは面白くなる。

(敬称略)

【光る君へ】#3 「謎の男」は「まんぷく」塩軍団の彼!「どう家」に続いて大河出演おめでとう~

まひろと父・為時との緊張関係は続く

 2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」第3回「謎の男」が1/21に放送された。毎回、と言ってもまだ3回だけど、テーマ音楽を聞くたびに素晴らしくてため息が出る。

 かのショパンの名手・反田恭平さんが弾くピアノの、ヒラヒラと舞ってホロホロと崩れ落ちていくような表現が軽やかに凄すぎるし、朝川朋之さんのハープの波状攻撃にも息を飲む。そして、後半の感情を揺さぶる力強さ。何回も聴きたい。

 音楽担当の冬野ユミさんって朝ドラ「スカーレット」の人か・・・「スカーレット」も面白かった。深いチェロ(たぶん)の音が思い出される。大河ドラマのテーマ曲でハズレって本当に無い。選ばれた作曲家が渾身の力を注ぎ込むからだろう。今年も例に漏れず、素晴らしいの一言だ。

 では、第3回のあらすじを公式サイトから引用させていただく。

(3)謎の男

初回放送日: 2024年1月21日

 放免に捕えられた道長(柄本佑)を案ずるまひろ(吉高由里子)。為時(岸谷五朗)に謹慎を強いられ、成すすべもない。ある日、まひろは為時から思わぬ依頼を受けることに。

 自分のせいで放免に捕らえられた道長(柄本佑)を心配するまひろ(吉高由里子)。しかし、父の為時(岸谷五朗)に謹慎を強いられたため、ただ案じることしかできない。兼家(段田安則)の指示で道兼(玉置玲央)は女官を使って帝の食事に毒を仕込み、円融天皇(坂東巳之助)は急激に体が弱っていく。政権を掌握するために二の手を打ちたい兼家は、ライバルの左大臣家の動向を探るため、為時を利用してまひろを間者として送り込む。((3)謎の男 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 まひろが間者として左大臣家に送り込まれた件。まひろは当初、心底嬉しかっただろうなあ、父・為時が「お前は賢い。身分など乗り越える才がある」と自分の才能を認めてくれ、「安心して楽しんでくるがいい」と、自分のことを思って左大臣家の源倫子(黒木華)のサロンに送り出してくれたと思っていたみたいだから。

 一応まひろは下級とはいえ貴族の娘だから、本当は街を駆け回ったりできる訳もない。父と決裂して家に居にくくなって外で代筆仕事なんかこっそりやってたぐらいだし、じっと家に籠っていては精神的に辛いばかりだっただろう。

 で、倫子のサロンに行ってみたら、楽しくて、場の空気を読むのを忘れるほど偏つぎ遊びに熱中したと。和歌の素養のある赤染衛門の存在に刺激され、ちょうどサロンで紹介されていた和歌;

秋の夜も名のみなりけり 逢ふといへば ことぞともなく 明けぬるものを(小野小町、古今和歌集)

・・・の「秋の夜長が長いなんて名前ばっかり」と言いたい気持ちと同様に、サロンでは時間があっという間に短く感じたんじゃないか。

 それなのに。ガッカリもきっとひとしお、父親は自分の気持ちを慮って外出を勧めたのではなく、期待された役目はまさかの間者。でも、そこで反抗したらもうサロンにも行けなくなって外出もできなくなる。少し大人になってグッと堪えたんだろう。

まひろ:ただいま戻りました。

為時:土御門殿はいかがであった?

まひろ:良い時を過ごしました。

為時:まことか。倫子様という左大臣様の一の姫はどういう御方であった?

まひろ:今まで、あのような御方とは会ったことがありません。

為時:それはどういうことだ?

まひろ:よくお笑いになる方で姫君たちにも慕われておられました。

為時:婿を取る話などは出なかったか?

まひろ:・・・いえ。(不審に思う)

為時:左大臣の姫君はお年頃と聞いている。東宮の后となさってもおかしくない。

まひろ:なぜ、そのようなことをおっしゃるのですか?(為時、一瞬まひろを見る)・・・兼家様に何か頼まれたのですか?・・・私を間者にしろと。

為時:(目を伏せて)お前が外に出たがっていたのではないか。それに、高貴な方とお近づきになっておいて損はない。嫌なら行かなくていい。(視線を合わせず横を向いてしまう)

まひろ:はい、余計なことを申しました。(為時がまひろを見る)倫子様のお気に入りになれるよう努めます。

為時:うん。

まひろ:(礼をして退出、亡き母の琵琶の置いてある部屋=自室?で泣くのを堪える)

 母の遺品の琵琶を見やったまひろ。亡くなった母が自分にくれた愛情と、父が自分を利用しようとする事実とを比べたら、涙も出ようというものだ。緊張の父娘関係は続くが、とはいえ、まひろも父の立場を理解し自分の得を取る賢さがある。

 今回、為時にも変化が見られた。世渡り上手の宣孝ほどではないにせよ、学者一辺倒の考え方から、まひろを左大臣家に間者として送り込むことを考えついて兼家に進言する程になった。

 また、家人が逃げ出すほどの困窮にあえいでいた初回と違い、為時家の経済は上向いたのか、今回は家人も下女も数人いるようになった。兼家からの禄で何かと賄えるようになったのだろう。

 家人が多くいては、まひろも以前のように自由に逃げ出すのは難しい。まあ、まひろを外に出すための設定だったのかなと思うけれど、ちょっと貧乏過ぎたもんね。

別れも出会いもスローモーション🎵

 前回の終わり~今回の冒頭で、逃げていた「謎の男(直秀・毎熊克哉)」と見間違われて三郎(道長)が放免という元罪人の岡っ引きみたいなのに捕まった。その原因を作ったのは、テキトーに放免を案内したまひろだった。

 「お前も盗賊の仲間か」と疑われて、「逃げていたのはその人じゃありません!」と言い募れなくなったまひろだったけれど、何だろうあれ。この時代の人は超能力者なのか・・・連行される三郎の「心の声」が、まひろにもちゃんと届き、まひろが突然黙った。

放免:ほら、行け!

まひろ:やめて!

三郎(道長):(心の声)来るな!俺は大丈夫だ。(放免に向かって)行こう。

放免:何様だ!

 心の声の部分はスローモーション。ふたりの心が、目を交わしただけで通じ合ったってことなのかな・・・ちょいと無理がある。

 道長は、当然ながら父・兼家の右大臣の権力を発動して無事にご帰還。それを直秀も陰から見届け、ちゃんとまひろに「あいつは無事だ」と報告に来た。

 直秀は「見るな。声を上げるな、危害は加えぬ」と告げてから一方的に道長の消息を伝え、この時点では身元は明かさなかった。だから、今回の終わりで道長と再会できたまひろは、直秀が散楽一座のメンバーと分かってダブルで驚いていた。

 あの時、直秀はうっかりまひろと道長にそれぞれ駆け寄っちゃってキューピットになっちゃったのかな?彼も驚いていたもんね。

 ちなみに、その時もスローモーション。つい中森明菜の歌声「🎵出会いは~スローモーション~」が頭の中で響いてしまった。

 この直秀、今後はまひろと道長をつなぐ存在になっていくのか?まひろも道長も、そうそう自由に会えないのだろう。このドラマオリジナルキャラの直秀が、どう物語の中で動いていくのか注目したい。とりあえず、次回予告だとまひろの心を弄ぶなと道長に言うみたいだけど。

 演じている中の人・毎熊克哉は、昨年「どうする家康」で汚れ役の大岡弥四郎に抜擢されていた、「まんぷく」塩軍団の人。あの少し暗めな表情がこういった役にはまるんだろうな。2年連続の大河ドラマ出演、大したものだ。おめでとう!

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兼家も詮子も、下々に関心を向ける道長を理解しない

 さて、兼家は安定の権力欲の権化のまま、詮子が産んだ孫の親王を早く東宮にするために円融天皇の譲位を早めようと画策中だ。

 父の指示で策謀に手を染めている次男の道兼には、天皇に薬を盛らせた陪膳の女房が吐かねば証拠は無いから、当分大切にしておけと言う。「お前に守られておると思えば口は割らぬ」と。

 そして「一族の命運はお前にかかっておる。頼んだぞ、道兼」と言った。その時の道兼の嬉しそうな顔!こんな、人を人とも思わぬ、息子を駒としか思わぬ父の愛を乞い、操られて哀れだ。その道兼に使われる陪膳女房も。

 家族であっても、物事を上へと上昇するためにしか考えない強烈な兼家。ここまでくるとむしろ潔い。利用できるかできないかの彼の物差しは、強固な身分の上下意識が基礎にある。

 道長が釈放された時の兼家との会話はこうだった。

藤原兼家:お前は右大臣の息子だ。放免なぞを相手にする身分ではない。

道長:相手にしておりませぬ。

兼家:では、なぜ捕らえられた。

道長:さあ?

兼家:もし、わしが屋敷におらねばお前は獄でなぶり殺されていたやもしれぬぞ。

道長:屋敷におられて、ようございました。

兼家:大体、その格好は何だ。

道長:これは・・・民に紛れて下々の暮らしを・・・。

兼家:民の暮らしなぞ知らんで良い!なまじ知れば、思い切った政は出来ぬ。わしにとっても一族にとっても今がどういう時か、お前も分かっておろう。

道長:ん~分かっておらぬやもしれませぬな。

兼家:何だと?!分らぬのか。詮子は帝に嫌われておる。その上、お前までが厄介ごとを起こせばどうなる。我が一族だけでなく、懐仁親王様にまで傷がつくことになるのだぞ。今は、1つの過ちもあってはならぬ。一刻も早く懐仁親王様を東宮にし、帝になし奉らねばならぬのだ。わしとて、そうでなければ摂政になれぬ。

道長:父上は既に右大臣。これ以上、偉くおなりにならずとも。

兼家:上を目指すことは我が一族の宿命である!お前もそのことは肝に銘じよ。

道長:私は三男ですので。

兼家:わしも三男だ!ゆえに三男のお前には望みを懸けたが、間違いであったようだな。

道長:あっ。お顔に虫が・・・。

兼家:(慌てて払う。口の端で笑う道長)・・・うつけ者!

 上を目指すことにしか目を向けられない父と、下々にも関心を向けている変わった息子。兼家は怒って出ていくが、この後、話を聞いていた詮子は「面白いわね、道長って」と笑う。

 道長と親しいこの姉も、言うことは父と変わりない。従者の百舌彦を庇おうとした道長に「あの従者はお前の秘密を知っているのね?」と問うのだ。秘密を知られている=利用価値がある従者だから弟が庇おうとしていると彼女は考えたのだろう。

 そして詮子は「隠してもダメよ、道長は下々の女子に懸想している」「身分の卑しい女なぞ所詮いっときの慰み者。早めに捨てておしまいなさい」と現代人が卒倒しそうな言葉を吐くのだ。

 道長はそれには構わず百舌彦を助けるように詮子に頼み、ひとりになって「待ってください!逃げていたのはその人じゃありません!」と言って駆け寄ったまひろの姿を思い出し、ほっこりしている。まひろも、捕らえられた道長を心配している。恋だねえ。

 この兼家一族の中では、今のところ道長は相当な変わり者だ。ドラマの中ではどのタイミングでどう変化し、権力を極めていくのだろうか。それとも兼家の考えには染まらず、このままで変わらないのか?興味が尽きない。

まひろ画伯

 今回、まひろの弟・太郎がお姉ちゃん思いなのが良く分かった。いくら何でも、あのまひろ画伯の描いた三郎の似顔絵と「身の丈6尺以上、名前は三郎」という情報だけでは、どう見ても人探しは無理だろう。

 それなのに、まひろに頼まれた三郎を本気になって探し、一応数人の候補者を屋敷に連れてきた。「歌はうまいけど絵は下手だな~」と嬉しそうに言いながら。

 絵は本人には似ても似つかないから、道長本人が乗る馬を引く従者の百舌彦に太郎が絵を見せても「さあ」と言われていたのは笑えた。

 太郎は、まひろが代筆業をやっていた雇われ主の絵師にも「何だよ恩知らず、姉上が歌の代筆をやったおかげで相当儲かったくせに!」と噛みついていた。可愛い弟だ。

 その太郎が、まひろに「貴族じゃないのかよ、はあ、まずいよそれ。釣り合わないでしょ」と言った。当時の厳しい身分の上下を、主人公たちの姉弟である詮子と太郎が、視聴者に教えてくれている。

 太郎はさらに「姉上の三郎?幻じゃないの?鬼とか悪霊とか怨霊とかさ」とまひろに聞いた。その後に、まひろとはいつも関係なく存在しているようで実は物語世界をコントロールしているような、怪しげな安倍晴明が出てくる。話運びがうまくて感心するが・・・うさんくさい安倍晴明だ。

道長らの「雨夜の品定め」

 藤原公任、藤原斉信と道長が宿直をする場面。これは「光る君へ」版の源氏物語「雨夜の品定め」がキターと身構えた。元々がキラキラしている町田啓太の公任はともかく、はんにゃ金田の上級貴族っぷりが意外なほどぴったりで、キャスティングは正解だ。

 が、シチュエーションはそうだったけど、公任のモテっぷりがわかったぐらいで夕顔らしい話も出ず、大した品定めにはならなかったね。現代のドラマでは女の人の品評会みたいな話はコンプライアンス的に難しいか。

 そして、道長の懐から出てきた手紙の中身が明かされなかったので、誰から?何の手紙?と気になった。もしかしたら、ただの懸想文じゃないのでは?謎だ。

 道長は自分で「俺のように字が下手で歌も下手だと困るな」と言っていた。確かに書いている場面では、独特な字だった。世界遺産(!)にもなっているという道長の実際の字(それが「御堂関白記」かな)に似せて書くそうだから、大変だ。しかし、字も歌もうまいまひろと、更なるつながりが後々期待できそうな話だ。

助かる解説「かしまし歴史チャンネル」

 上級貴族の公達が、休日でも関白の屋敷で学んでいたという漢籍。「国家を率いていく者としての研鑽を積む」とナレーションが入った場面で、孟子の「人に忍びざるの心有り」が出てきた。公任がそらんじていたのは、字幕によると、こうだった。

藤原公任:人皆 人に忍びざるの心有りと謂う所以の者は、今人たちまち孺子の将に井に入らんとするを見れば、皆怵惕(じゅってき) 惻隠の心有り。交(まじわり)を孺子の父母に内るる所以に非ざるなり。誉を郷党 朋友に要むる所以に非ざるなり。(略)辞譲の心無きは 人に非ざるなり。是非の心無きは 人に非ざるなり。

 小さな子が井戸に入ろうとするのを見れば、人はとっさに助けるものだという話らしい。別にその子の父母が知り合いだとか、みんなに褒められるとか関係ないと・・・。字幕を見ればやっとこさ内容が推測できるが、とても聞き取れない。

 「光る君へ」の公式サイトでは、平安時代を扱うとあって説明することがいつもの大河ドラマよりも多くて大変だろうけれど、平安の知識をそれなりに説明してくれている。が、それでも足りない点もある。

 そこで!頼りになるのがこちらのYouTube動画だ。私が大ファンのきりゅうさんが、付け焼刃ではない、深い知識を楽しく分かりやすく披露してくれている。この孟子の「人に忍びざるの心有り」についても、説明があった。

youtu.be

 この「かしまし歴史チャンネル」を放送後に見て、なるほど!と理解して、またドラマの録画を見直すコースがとても楽しい。言い間違えもしょっちゅうあるけれど、それもご愛敬。きりゅうさんの博識には驚かされるばかりだ。

 「平安でわからないから」といったドラマ脱落組を引き留め、むしろファンを増やしていそう。NHKはきりゅうさんのサポートに感謝すべきだろうなあ。

(基本は敬称略)

【光る君へ】#1&2 滑り出し上々、京の町を走る(!)紫式部(まひろ)と道長のドラマを見守っていきたい

元日から発熱、コロナでした

 2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」が今月からスタートしている。以前、題材が発表された時に、喜びに満ちあふれたブログを書いていたのだけれど、元日からの発熱でまさかのコロナ。何とかパソコン前に座れるようになってみれば、2回目も既に終わって3回目も放送目前だ。完全に乗り遅れた。

 ところで、以前書いたブログでは、私は勘違いをしていた。「光る君へ」では、「源氏物語」そのものがもっとがっつり描かれるのかと思って、光源氏には誰が良いとか、紫の上は誰だとか、妄想を膨らませて「源氏物語」内で勝手にキャスティングしたりしていた。

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 だけれど、今回の大河ドラマで描かれるのは、作者の紫式部の人生の方。劇中劇としても「源氏物語」は出てこずに、紫式部=「まひろ」と、藤原道長との関わりを「特別な絆」として描いていくのだという。勘違いしていたけれど、それはそれでとってもワクワクするなー。

 脚本は大石静、昨年のようには全然心配していない(失礼)。ドラマの滑り出しは上々、平安絵巻の中で描かれる「まひろ」と道長のふたりの行く末を見守っていきたい。「源氏物語」のエッセンスはあちこちに散りばめられていくようだし、それを毎回見つけるのも楽しいだろう。

 それに、漢学者である「まひろ」の父がフニャフニャグニャグニャしている弟の太郎に授ける「史記」など漢籍の講義は興味深い。高校時代の古文漢文の遠い記憶を掘り起こしつつ、毎週勉強させてもらえそうだ。それにしても、あの太郎が「舞い上がれ」のあの先輩と同一人物だとは・・・💦毎回思うが、役者さんってすごい。

 ドラマを見て、また読みたくなって「源氏物語」の田辺聖子訳を引っ張り出してきた。昔は円地文子訳の「源氏」が自分にはしっくりくるなと思っていたけれど、今、冒頭を布団の中で少し読んでみると、田辺聖子訳も自然に入ってきてスルスルと読みやすい。どうして昔は軽くてヤダなあと思ってしまったのか・・・不思議だ。

「鎌倉殿の13人」の大姫ちゃん登場!

 初回は熱に浮かされた状態で見たが、1時間起き上がっていられなかった。それでも、終わりの道長兄・藤原道兼による「まひろ」の母「ちやは」(国仲涼子)への暴挙は衝撃的、しっかり頭に残った。

 まずは物語のあらましを、公式サイトから引用しておこう。

(1)約束の月

初回放送日: 2024年1月7日

 「源氏物語」の作者・紫式部の波乱の一代記。藤原為時(岸谷五朗)の長女・まひろ(落井実結子)はある日、三郎(木村皐誠)という少年と出会い、二人は打ち解けあうが… 。

 1000年の時を超える長編小説「源氏物語」を生み出した女流作家・紫式部の波乱の一代記。平安中期、京に生を受けた少女まひろ(落井実結子)、のちの紫式部。父・藤原為時(岸谷五朗)の政治的な立場は低く、母・ちやは(国仲涼子)とつつましい暮らしをしている。ある日まひろは、三郎(木村皐誠)という少年と出会い、互いに素性を隠しながらも打ち解けあう。再び会う約束を交わす二人だったが…激動の運命が始まる。((1)約束の月 - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 少女期の「まひろ」を演じているのは、なんとあの大姫ちゃんの中の人物(落井実結子)!2022年大河の「鎌倉殿の13人」での熱演は素晴らしくて、源頼朝に対して源義高の命乞いをするシーンは出色。両親役の大泉洋と小池栄子の大人を差し置いて、完全に大姫ちゃんのものだった。

 それで、私も前掲のブログで幼少期の紫の上を演じてくれと、キャスティング希望のいの一番に書いたのだったなあ。

光源氏:個人的に見たい義高&大姫コンビ

 光源氏もSNSでは様々な俳優さんが推されていて、悩む。皆さんお目が高い!というご意見ばかりだ。それに対抗するわけでもないが、こんな方々はいかがだろう。

 

  1. 市川染五郎&落井実結子:少年期の光る君の候補は、「雀の子を犬君が逃がしつる」と泣く、幼い若紫とのセット推し。「鎌倉殿の13人」で木曽義高と大姫の幼いカップルを演じたおふたりにお願いできないか。悲劇を演じたふたりの笑顔がまた見たい。年齢的にも光る君と若紫の出会いのシーンを演じるにはぴったりでは?

 ことごとくキャスティング希望が外れた中(というか、前提が間違っていた)、この第二の安達祐実のような小さな名女優さんのご出演はとても嬉しい。初回でサヨナラなのが残念だが、あまり引き延ばしても主役の吉高由里子が出てこられないし。

 少年の三郎役の子も、茫洋としている感じが将来の大物感を醸し出して良かった。成長後の柄本佑にも、立ち姿や目元とか似ているし。最近の子役さんは本当に当たりばかりだ。大姫ちゃんも三郎も、ふたりとも、回想で出てきてね。

恐ろしいのは父・兼家の暴力的DNA

 その三郎を「物事のあらましが見えている」と評した父・藤原兼家(段田安則)。この初回、第2話だけでも兼家の恐ろしさがじわじわ沁みた。

 自分だって掌中の珠の娘(吉田羊)を入内させたのに、円融天皇は太政大臣と共にそちらの娘の方に行く。それを目の当たりにさせられた兼家が、物に当たって机の上をぶちまけるシーンがあった。そこで「まひろ」の父・為時からの手紙を見つけ、為時を手駒として東宮御所に仕込むことを思いつくわけだが、この、物事がうまくいかないと激昂して当たり散らすDNAは兼家から道兼に遺伝したんだろう。

 兼家自身も、兄との熾烈な政治的な戦いを経てこうなってしまったのか。それとも、そもそもが兼家はこうだったから兄に徹底的に排除されたか。「カムカムエヴリバディ」の雉真足袋の社長さんとはだいぶ性格が異なる。そして、嫡妻・時姫とのシーン。

時姫:(兼家の肩を揉みながら)近頃の道兼には手が付けられませぬ。なぜあのようにイラ立っておるのでございましょう。

兼家:嫡男道隆を汚れなき者にしておくために、泥を被る者がおらねばならぬ。そういう時は、道兼が役に立つ。

時姫:(肩揉みを止めて)そのような恐ろしいお考え・・・。

兼家:ふん?道隆も道兼も三郎も、我らの大切な子じゃ。道隆は押し出しも良く真面目であるし、道兼は乱暴者だが猪突猛進で良い。三郎は、ボーっとしてやる気がないが、物事のあらましが見えておる。(時姫の手を取って)そなたの産んだ三兄弟は、皆それぞれに良い。うん。

 時姫は母として道兼の現状を心配しているのに、兼家は手駒としてしか息子たちを見ていない。まったく「そのような恐ろしいお考えをお持ちとは」と、妻としては後ずさりしたくなるような物言いだ。

 彼の言う「大切な子」「良い」の意味が恐ろしいのだ。「一族の泥を被る者として役立ち、乱暴者だけれど猪突猛進で良い」と、そんな事を親が言うのか。暴力団の組長が鉄砲玉の下っ端を評しているみたいだ。権力欲に囚われているのがデフォルトになっているのが兼家。その心の内が良く分かった。

 この直前のシーンでは、三郎(道長)はイラ立つ道兼にいつもの通り(慣れていると言っていたからね)言いがかりをつけられ、殴打され痛めつけられ、足首に大きな傷跡が残った。

 こんな事でも無ければ、貴族の坊ちゃんの体に傷跡なんか残らないだろうから、第2回で「まひろ」に再会した時に気づいてもらえない。道兼はトラブルメーカーだけれど、彼が引き起こす嵐がドラマを引っ張っている。

 そして、初回終盤の衝撃的シーン。母「ちやは」が、道兼に殺害された。あんなに血とか死穢を気にする平安貴族が、自ら人を刺し殺しちゃうなんて大変なことだ。「ちやは」の返り血を浴びて帰宅した際の姿を、三郎は偶然目にして逃げた。それを目の端でとらえていた道兼。これは後々怖い。

 そうだった、兼家の妻・時姫はセーラームーンの声優として知られる三石琴乃が演じていたと知ってビックリ。昨年の渡辺守綱役の木村昴といい、「おだまりなさい!」の声がピシッと通る・・・だけじゃなくて存在感があった。

 「ちやは」役の国仲涼子と同様、初回で退場とは勿体ない。道兼をもっとしっかり月に代わってお仕置きしてほしかった。道兼も、母の愛を欲しているよう。親の愛に飢えるのは、二番目あるあるか。

母を失った主人公たち

 主人公「まひろ」も準主人公道長も、初回を終えて早くも母を失った。「源氏物語」の光源氏も母・桐壺の更衣が早死にしたね。当時は珍しいことでもなかったのだろうな。

 「まひろ」(吉高由里子登場)は、母「ちやは」の殺害を「急な病で死んだことといたす」と言って揉み消した父・為時(岸谷五朗)と決裂。母が自分の目の前で殺されたというのに、「人殺しを捕まえて、ミチカネを捕まえて」と泣いて頼んでも「そのことはもう忘れろ!」と父は言った。

 「まひろ」は、父が正義よりも忖度を選んだから、母と同時に、信頼できる父をも失った気になったのだろうな。

 そして町中に出て、男を演じて「代筆仕事」など、貴族の娘がすることとはとても思えない稼業に手を染めていた「まひろ」。まるでグレた問題児だ。「まひろ」が街中を疾走する場面では、さすがに周りの注目を集めていたが、貴族の娘がそこまでするとは。

 平安時代、グレたくても貴族の娘に逃げ場などあったのか?為時の方が「まひろの視線が怖くて自宅に居るのがつらい」と、「まひろ」の裳着(成人式)の腰結いを頼んだ親戚のイケオジ藤原宣孝(佐々木蔵之介)にこぼしていたが、裏返せば、それは「まひろ」も同じことだ。

 それに、三郎の住む兼家の東三条の邸が豪壮なのとの対比なのだろうが、「まひろ」の家がいかにもボロで狭すぎる。あれではどこにも逃げられず息が詰まりそうだし、将来、娘の婿をどこに迎える気なのだろうと心配になる。宣孝は成人した「まひろ」が婿を貰えると大喜びしてみせていたが。

 そもそも、為時が東宮の御前に上がるために着用した緑色の袍にカビが生える程、邸内に水が引き込んであるのもどうなんだ?屋根から雨漏りが始終しているのも、書物が沢山ある学者の家には似つかわしくないはず。書物命のはずだから、もっとカラッとしてなくちゃ。

 母がもし生きていたら「まひろ」もグレず、母に見守られて御簾の中に少しはじっとしている娘になっていたかもしれない。そうしたら、現代の視聴者が喜ぶ大河ドラマにはならないが💦

 三郎も、自分に暴力を仕掛けてくる兄・道兼を止めてくれる母が亡くなり、防波堤がなくなった以上、家に居るのは危険になった。道兼の鬱憤晴らしの餌食になるばかりなら、やはり身をやつしての外出は増えただろう。(貴族だから、本来は牛車に乗っていると思うんだけど。だからお得意の変装しての外出なんだよね。)

 そんなふたりの共通点、自宅が居心地の悪い場所であるのは、ふたりが外で再会するためにも、良く考えた設定だと思った。

 第2回は「めぐりあい」。初回のエピソード、三郎の足のキズや足で名前を書ける点が早々に回収され、ふたりは巡り会った。

(2)めぐりあい

初回放送日: 2024年1月14日

 母の死から6年、成人したまひろ(吉高由里子)と父・為時(岸谷五朗)との関係は冷めきっていた。道長(柄本佑)の父・兼家(段田安則)はさらなる権力を得ようと…。

 母の死から6年、まひろ(吉高由里子)は15歳となり成人の儀式を迎える。死因を隠した父・為時(岸谷五朗)との関係は冷めきる中、まひろは代筆仕事に生きがいを感じている。一方、道長(柄本佑)は官職を得て宮仕え。姉・詮子(吉田羊)が帝との間に皇子をもうけ、道長の一家は権力を拡大していた。道長の父・兼家(段田安則)はその権力をさらに強固なものにしようと道兼(玉置玲央)を動かし、天皇が退位するよう陰謀を計る。((2)めぐりあい - 大河ドラマ「光る君へ」 - NHK

 このめぐり逢いは、すれ違いになっていくのだろうか。となると、逆に恋心は盛り上がっていきそうだなあ。平安時代版の朝ドラ「君の名は」みたいになっていくのか。

源氏物語エッセンス

 初回では、雀が逃げて探しながら泣く幼い「まひろ」と、散楽で出会った女(ぬい。野呂佳代)と消えた従者・百舌彦を待っていた三郎が出会った。

 そのパートで、源氏物語ファンはキュンとしたはず。伏籠に入れてあった雀の子を犬君(いぬき)が逃がしちゃった!と泣く、幼い紫の上が光源氏と出会う(というか一方的に見初められる)かの有名な「若紫」の場面がそのまま想起されるようなシーンだったから。

 第2回では、代筆仕事の依頼人が歌の書き直しを頼んだ時に、もう少し話を聞かせてと「まひろ」が問うたのに対して「初めて出会った時に夕顔が咲いておりました」で、おおお!夕顔キター✨と内心で盛り上がった。代筆仕事をしていた場所も、貴族が住んでいた界隈とは違い、夕顔=「五条の女」が隠れ住んで居た場所はこんな感じかしらと思わせた。

 「まひろ」が裳着の式を終えて書き物をしていた時に、後ろにこんもりと脱ぎ捨てた衣が残されていたのも、あれがいわゆる「空蝉」なのかしらね、と思ったりもした。ああいう衣装を着て、五節の舞姫なんかは踊るものかしらと想像すると、貴族の姫様方も大変に骨が折れそうだ。衣装の重みで潰れそう。

 裳着など儀式に止まらず、衣装も調度品も食べ物も、大河ドラマとなると予算の許す範囲で本物を目指していると思うと、いちいちが素晴らしく目に映る。「まひろ」が三郎にもらって食べていた菓子は食べてみたいし、何度もゆっくり録画を見直したい。もちろん、ストーリーとしても「源氏物語」に負けずに人生の深淵を描いていってくれるんだろうと期待している。

 道長の姉・詮子は、円融天皇に「母として生きよ」なんて冷たい言葉を浴びせられていて可哀そうだったが、唯一の皇子を上げているから国母となれるかもしれない立場。それが、「源氏物語」での弘徽殿の大后みたいだと思った。

 大后は、桐壺帝の後を継ぐ源氏の兄・朱雀帝の母だ。桐壺帝に愛されているとは言い難かったが、後継ぎの母として尊重され、権力を手に入れる。

 こういった「源氏」エピソードが、道長など実際に生きていた人たちをモデルとするドラマとして書き換えられていくのだろうから面白くない訳がない。

 (ところで、「源氏」をプレーボーイ光源氏の恋愛遍歴を描くラブストーリーと単に捉えていそうな浅さを、昨年の「どうする家康」では感じ、がっかりした。瀬名が於愛を引見する場面でだったが、女の読者は於愛のようなキャッキャだけの読み方は出来ないものではないかと思ったからだ。「源氏」で描かれる女君たちは、出家する以外は自分で自分の人生を決められず苦しんで生きる。言わば男に踏みにじられても、それでも生きていく側なのだから。)

御簾内に居る東宮でも

 そうそう、流石にドラマの円融天皇は御簾内に居て政務に当たっていたのだけれど、当時の貴族女子は御簾の陰に隠れて成人するにつれて家族にも顔を見せないのでは・・・ドラマでは御簾は見事に取っ払われ、あんなに開け広げでやっていくんだなと、初回の兼家一家の会食シーンを見て思った。

 あんまり開け広げじゃ「垣間見」の感動というかドラマチックさが薄れちゃうのではないか。でも、いちいち貴族の姫を御簾内にぶち込んでいたら、やっぱりドラマにも何もならないでしょ!ということなんだろう。

 ところで、あの泣いている色白の赤ちゃんが定子なのか。泣いているのも彼女の将来を感じさせて暗示的だ。それとも、じいじ兼家は、権力を握る手駒としてしか家族を見ない恐ろしい人物と感じて泣いているのかな。

 第2回で、兼家は道兼による初回での「ちやは」殺害を知っていて、従者を手にかけ隠ぺいを図っていたことが判明した。それだけでゾッとするが、それをネタに息子をさらなる悪行に仕向けるとは・・・権力の鬼だ。「まひろ」の父・為時を子飼いにし禄を与え続けているのも、花山天皇の監視だけでなく、妻を殺された口封じの意味もあったのかもしれない。

 その為時が漢籍を教えている後の花山天皇(本郷奏多)がサイコーだ。「麒麟がくる」で近衛前久を演じていた時に雅な曲者だなと思っていた。変わり者の天皇なら当たり役だ。

 初回の師貞親王役の子役からして突き抜けていて目を引かれたが、物心つく前から大人に頭を下げられ、御簾内でかしずかれて育つと、何をどう信じていいのか分からなくて試し行動連発になるのかな。心細いのだろう、気の毒な人だ。唯一、信じてみるかと思った為時も間者だったと知ったら荒れそうだ。

 しかし、花山天皇にさえ漢籍を教えることができた為時が苦戦するのだから、「まひろ」の弟・太郎はある意味大したものだよね。

怪しい「ぬい」と散楽一座

 次回は「謎の男」ということで、予告映像を見た限りでは「雨夜の品定め」的な話が若手貴族の皆さんが参加して展開するのかなと思ったのと、「まひろ」が上級貴族のサロンに参加するらしい。そして、俄かに気になっているのは散楽一座の面々だ。

 次回予告で、見つめ合う「まひろ」と道長の後ろに堂々と存在している人物(「秋の女御」を演じていたかな)が謎の男なのか?第2回でも、身分を隠していた道長は、一座の演技中に「弟よ~」と「秋の女御」にいきなり話しかけられ、驚いていた。

 道長が「秋の女御」のリアル弟だと知れていて、それで真っ直ぐ話しかけに来たとしか思えない。その後、道長の反応が分からなかったが、どう次回描かれるのか。

 改めて考えてみると、道長の従者の百舌彦を籠絡した女(ぬい)が怪しく思えてくる。ただ単に百舌彦が仕立ての良い着物などを身に着けているから、良いところにお勤めなんだね💕と目を付けられ、声を掛けられて良い仲になったのかと思っていた。

 しかし・・・もしかしたら「ぬい」は散楽一座の密偵なのか?寝物語に百舌彦から兼家一家の内情を聞き出して、一座がそれを出し物に仕立てているんじゃないのだろうか。狙いは情報の方だったのかも。

 大体、百舌彦って名前からして「百の舌がある男」なんだよね?お仕えしている家の話を、外でものすごく喋ってそうだ。それで、道長が本当の「トウの一族」の三男であることが一座に知られちゃっているのだったら、理屈が通る。

 次回も楽しみだ・・・と書いたところで、もう一寝入りすれば昼のBS4Kでの放送が見られる。コロナ後のせいかまだ頭がハッキリせず、名前が出てこなくて苦戦してしまった。今回はいつもにも増して取り留めなくグダグダ、とりあえずここで切り上げることにする。

 次はコロナから完全脱却して、もう少しマシな体調になっているはず。長々お付き合いいただいている方々、毎度ありがとう。今年は平安大河ドラマを一緒に楽しみましょう。

(敬称略)