毎年恒例のミステリーランキング、「2024年版本格ミステリ・ベスト10」が発表された。
今年も多くの話題作が登場し、ミステリファンにとっては見逃せないランキングとなっている。
この記事では「2024年版本格ミステリ・ベスト10」に入ったミステリ小説を紹介したい。
「本格ミステリ・ベスト10」とは?
「本格ミステリ・ベスト10」は、日本の本格ミステリに特化したランキングであり、探偵小説研究会が毎年発表している。1997年に始まり、毎年12月にその年の優れた本格ミステリ作品を選出する。ランキングの対象は、前年の11月から当年の10月までに発行された作品で、投票は有識者や読者によって行われる。
投票者は「本格」の定義を自由に解釈し、1位から5位までの作品を選ぶ。このランキングは、国内外の本格ミステリ作品を広く網羅しており、特に日本のミステリファンにとって重要な指標となっている。やはり他のミステリランキングに比べて本格ミステリ色が強い作品がランキング上位に選ばれれる傾向がある。
2024年版本格ミステリ・ベスト10
それでは「本格ミステリ・ベスト10」の2024年版国内ベスト10に輝いた作品を紹介したい。
1位:エレファントヘッド / 白井 智之
精神科医の象山は家族を愛している。だが彼は知っていた。どんなに幸せな家族も、たった一つの小さな亀裂から崩壊してしまうことを――。やがて謎の薬を手に入れたことで、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。謎もトリックも展開もすべてネタバレ禁止!前代未聞のストーリー、尋常ならざる伏線の数々。多重解決ミステリの極限
2024年本格ミステリ・ベスト10の1位に輝いたのは、白井智之『エレファントヘッド』だ。精神科医の象山が家族を愛しながらも、彼の人生が一つの小さな亀裂から崩壊していく様を描いたミステリ作品である。物語は、象山が謎の薬を手に入れたことから始まり、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。
このミステリの特徴は、本作が「多重解決ミステリ」となっている点である。複雑に張り巡らされた伏線と、予測不可能な展開が織りなすストーリーは、読者に驚きをもたらすだろう。各事件には複数の解決策が存在し、読者はその中から真相を見つけ出す楽しみを味わうことができる。白井智之の独自の発想と緻密な構成が光る本作は、ミステリ愛好者にとって必読の一冊だ。
2位: 可燃物 / 米澤 穂信
余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。群馬県警利根警察署に入った遭難の一報。現場となったスキー場に捜査員が赴くと、そこには頸動脈を刺され失血死した男性の遺体があった。犯人は一緒に遭難していた男とほぼ特定できるが、凶器が見つからない。その場所は崖の下で、しかも二人の回りの雪は踏み荒らされていず、凶器を処分することは不可能だった。犯人は何を使って“刺殺”したのか?
米澤穂信の『可燃物』は、群馬県警捜査一課の葛警部を主人公とする短編推理小説集である。本作は、警察官が主役のミステリとして米澤の新たな挑戦を示している。全5編から成り、各短編では葛警部が不可解な事件に挑む姿が描かれる。彼は余計なことを喋らず、上司から疎まれ、部下には良い上司とは思われていないが、その捜査能力は誰もが認めるところである。物語は、緻密な推理と巧妙な構成で、読者に驚きと納得をもたらす。米澤の美しい言葉選びが光る作品であり、ミステリファンにとって必読の一冊である。
3位:あなたが誰かを殺した / 東野 圭吾
閑静な別荘地で起きた連続殺人事件。愛する家族が奪われたのは偶然か、必然か。残された人々は真相を知るため「検証会」に集う。 そこに現れたのは、長期休暇中の刑事・加賀恭一郎。――私たちを待ち受けていたのは、想像もしない運命だった。
3位に輝いた『あなたが誰かを殺した』は、東野圭吾の名作シリーズである加賀恭一郎シリーズの第十二作目である。『あなたが誰かを殺した』では、閑静な別荘地で発生した連続殺人事件が描かれている。毎年恒例のバーベキュー・パーティーが行われる中、突如として現れた男によって、参加者たちが命を奪われるという殺人事件が起こる。事件の真相を知りたい遺族たちは「検証会」を開催し、長期休暇中の刑事・加賀恭一郎がその進行役を務める。加賀は、複雑に絡み合った人間関係の中から真実を引き出し、犯人の動機を探る。タイトルが示す通り、加害者と被害者の関係が物語の核心を成しており、読者は最後まで目が離せない展開に引き込まれる。ミステリーの醍醐味を存分に味わえる一冊である。
4位:午後のチャイムが鳴るまでは / 阿津川 辰海
九十九ヶ丘高校のある日の昼休み、2年の男子ふたりが体育館裏のフェンスに空いた穴から密かに学校を脱け出した。タイムリミットは65分、奴らのミッションは達成なるか(第1話「RUN! ラーメン RUN!」)。文化祭で販売する部誌の校了に追いつめられた文芸部員たち。肝心の表紙イラストレーターが行方不明になり、昼休みの校内を大捜索するが――(第2話「いつになったら入稿完了?」)。他人から見れば馬鹿らしいことに青春を捧げる高校生たちの群像劇と、超絶技巧のトリックが見事に融合。稀代の若き俊英が“学校の昼休み”という小宇宙を圧倒的な熱量で描いた、愛すべき傑作学園ミステリ!
阿津川辰海の『午後のチャイムが鳴るまでは』は、九十九ヶ丘高校を舞台にした連作短編集である。物語は65分間の昼休みに起きる5つの事件を通じて、高校生たちの青春と成長を描く学園ミステリである。各話はユーモアと推理が交錯し、倒叙形式や高校生らしい視点が特徴的である。例えば、第一話「RUN!ラーメンRUN!」では、校則を破り昼休みにラーメンを食べに行こうとする生徒たちの計画が、生徒会長によって見破られるという展開が描かれる。青春の一瞬を切り取りながらも、巧妙なプロットが読者を引き込む。阿津川辰海が初めて挑んだ学園ミステリとして、青春群像劇と推理の融合が新鮮であり、読後に爽やかな余韻を残す作品である
5位:或るスペイン岬の謎 / 柄刀 一
心臓移植経験者である南美希風は、その移植手術を執刀した恩人の娘であるエリザベス・キッドリッジの長期休暇に合わせて日本中を旅していたが、行く先々で不可解な事件に巻き込まれていく。すべてが反転した“あべこべ”の密室。雨中、庭に放置された全裸の被害者。悠久の森に佇む異質な殺人現場。シリーズ史上最高となる圧巻のロジックで名探偵・南美希風が奇跡の不可能犯罪に挑む!
『或るスペイン岬の謎』は心臓移植を受けた名探偵・南美希風が、恩人の娘であるエリザベス・キッドリッジとに日本各地を旅するで遭遇する可能犯罪を描いたシリーズ最終作である。奈良の芸術大学の密室殺人や、紀伊半島のスペイン岬での未解決事件など、現実と過去が交錯する奇妙な事件が展開される。すべてが反転した「あべこべ」の密室、雨中に全裸で庭に放置された被害者、悠久の森に佇む異質な殺人現場といった難解な謎に挑む南美希風。シリーズ史上最高の論理的推理が繰り広げられ、鮮やかな解決が読者を圧する。柄刀一による「国名シリーズ」の完結編であり、緻密なロジックと独創的なストーリーが光る一冊である
6位:化石少女と七つの冒険 / 麻耶 雄嵩
学園の裏手には、大きな大きなクスノキがある。縁結びの木と親しまれるその傍に、生徒の遺体が三つ……。良家の子女が集う京都の名門高校で再び相次ぐ怪事件に、名探偵まりあの血がまた騒ぐ。神舞まりあは、自分以外の部員わずか一人という零細古生物部を率いる化石オタクのお嬢様。そして、誰にも認めてもらえない女子高生探偵だ。これまた誰にも見向きもされない古生物部に、なぜか加入してきた怪しい一年生。無理矢理お嬢様のワトソン役にされ続けた男子部員が抱え込んだ黒い秘密。その上、いかがわしい新入生探偵まで登場。怪しさ倍増の果てに、予測不能の結末が!
麻耶雄嵩の『化石少女と七つの冒険』は、京都の名門高校を舞台にした学園ミステリーである。本作は「化石少女シリーズ」の第二作目であり、化石オタクのお嬢様・神舞まりあと、彼女の従僕である桑島彰が主人公だ。古生物部の部長を務めるまりあは、部員不足による廃部の危機に直面し、新入部員の勧誘に奔走する。しかし、学園内では次々と殺人事件が発生し、まりあは探偵として事件解決に挑む。物語は全7編の短編で構成され、それぞれ独立した事件を扱いながらも、全体として緻密に絡み合った構造を持つ。新キャラクターの高萩が登場し、推理合戦が繰り広げられる中、彰の視点を通じて描かれる複雑な人間関係や秘密が物語をさらに深めている。予測不能な結末とどんでん返しが読者を魅了する一冊である
7位:十戒 / 夕木 春央
浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。
夕木春央の『十戒』は、緊迫したミステリーが展開される作品である。物語は、浪人中の主人公・大室里英が、父と共に伯父が所有していた無人島・枝内島を訪れるところから始まる。リゾート開発の視察に集まった9人の関係者たちの中で、初日の夜に不動産会社の社員が殺される。犯人は参加者の中におり、彼らは「この島にいる間、殺人犯を見つけてはならない」という戒律を強いられる。守られなかった場合、島内に仕掛けられた爆弾が作動し、全員の命が危険にさらされる。緊張感あふれる心理戦と、巧妙なプロットが特徴で、前作『方舟』に続く期待の新作として注目を集めている。読者は、最後まで目が離せない展開に引き込まれることだろう。
8位:鵼の碑 / 京極 夏彦
百鬼夜行シリーズ新作長編!殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。消えた三つの他殺体を追う刑事。妖光に翻弄される学僧。失踪者を追い求める探偵。死者の声を聞くために訪れた女。そして見え隠れする公安の影。発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。
「2024年本格ミステリ・ベスト10」8位に輝いた京極夏彦の『鵼の碑』は、17年ぶりに発表された百鬼夜行シリーズの最新作である。物語は、日光を舞台に、殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家、消えた三つの他殺体を追う刑事、妖光に翻弄される学僧、失踪者を追う探偵など、複数の視点から展開される。タイトルの「鵼」は、虎、猿、狸、蛇の合成とされる妖怪であり、物語全体に神秘的な雰囲気を与えている。作品は、民俗学や古文書の要素を取り入れ、知的興奮と謎解きの快感を提供する。全832ページの大ボリュームで、京極ファンにはたまらない一冊となっている。
9位:アミュレットホテル / 方丈 貴恵
〈アミュレット・ホテル〉は犯罪者の楽園。2つのルールさえ遵守すれば、警察の介入が一切なく、銃でも偽造パスポートでもルームサービス可能な犯罪者御用達ホテルだった。①ホテルに損害を与えない②ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない。そんな絶対的ルールが破られる時、ホテル探偵が独自の捜査で犯人を追い詰め、相応の対価を支払わせる。ホテル探偵VS犯罪者の頭脳戦、濃密なロジックで犯人を炙りだす本格ミステリー。
犯罪者専用の会員制ホテル「アミュレット・ホテル」を舞台にした方丈貴恵の『アミュレット・ホテル』は、独自のルールと緊張感あふれる心理戦が魅力の本格ミステリーである。このホテルでは警察の介入が一切なく、偽造パスポートや武器さえもルームサービスで提供されるという異質な設定が特徴だ。ホテルには「損害を与えない」「敷地内で障害・殺人事件を起こさない」という二つの絶対的なルールが存在するが、それが破られたとき、ホテル探偵が犯人を追い詰める。探偵と犯罪者たちの頭脳戦が繰り広げられる中、巧妙なトリックと緻密なロジックが読者を引き込む。優雅なホテルの雰囲気が一転して殺人事件の舞台となり、緊張感と爽快感が交錯する展開が見どころである
10位:ちぎれた鎖と光の切れ端 / 荒木 あかね
2020年8月4日。島原湾に浮かぶ孤島、徒島(あだしま)にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤清嗣(ひとうきよつぐ)は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすため--。しかし、計画を実行する間際になってその殺意は鈍り始める。「本当にこいつらは殺されるほどひどいやつらなのか?」樋藤が逡巡していると滞在初日の夜、参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見された。樋藤が衝撃を受けていると、たてつづけに第二第三の殺人が起きてしまう。しかも、殺されるのは決まって、「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られ」ていた。
10位の荒木あかね『ちぎれた鎖と光の切れ端』は、江戸川乱歩賞を受賞した期待の若手作家によるミステリ作品である。物語は2020年8月4日、熊本県の孤島・徒島に集まった8人の男女が主人公である。樋藤清嗣は、先輩の無念を晴らすために全員を殺す計画を立てるが、実行直前にその殺意が揺らぐ。すると、参加者の一人が舌を切り取られた死体として発見され、続いて「第一発見者」が次々と殺されていく。物語は二部構成で、第一部は孤島での連続殺人、第二部は大阪に舞台を移し、さらなる謎が展開される。古典ミステリーへのオマージュを捧げつつ、社会的なテーマにも鋭く切り込んだ作品である。
まとめ
2024年版本格ミステリ・ベスト10には、個性豊かな作品が揃ったなと思う。
このランキングを参考にミステリを読んでみるのはどうだろう。
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